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西森マリーのUSA通信:スペースアルク
 
9・11の傷がまだ癒えていないことを証明した映画
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(C)2006 Universal Pictures International
ユナイテッド93
原題:UNITED 93
監督:ポール・グリーングラス
出演:コーリイ・ジョンソン、デニー・ディロンほか
公開:8月12日(土)、みゆき座ほか全国一斉ロードショー
http://www.united93.jp/

2001 年9月11日、米国同時多発テロでハイジャックされた4機のうち、ユナイテッド93便だけは目標に達することなく郊外に墜落、乗客乗員全員が死亡した。墜落の前、乗客たちは自分たちが乗る飛行機がハイジャックされたこと、そしてどこかのターゲットに向かっていることを確信。彼らは武器を手に立ち上がることを決意し、それぞれが地上にいる家族に電話で最後のメッセージを残した……。関係者への膨大なインタビューを基に制作された作品。

今回は4月30日に全米で公開された『ユナイテッド93』に対する賛否両論をお届けしましょう。

本題に入る前にお断りしておかなくてはならないのですが、実は私はこの映画を見ていません。見たくない理由の多くはこれからお伝えする反対派の意見と同じです。見てもいない映画に関して記事を書くのはちょっと気が引けますが、この連載の主旨は、作品そのものの紹介ではなく、映画にまつわるアメリカの社会・文化背景の話題、ということなので、大きな話題を提供してくれたこの作品をあえて扱うことにしました。

『ユナイテッド93』は、公開の数週間前から「9・11の傷がまだ癒えていないのに映画化するは早過ぎるのでは?」「悲劇をネタに金もうけをするのは悪趣味では?」と、大きな話題になっていた作品です。

「早過ぎない」「悪趣味ではない」という人たちは、「9・11の傷は一生癒えるものではないから、映画化に関して時間的制限を設けるのは無意味」「これは事実に即したものであり、悲劇をネタにした娯楽映画ではない」とこの作品を弁護し、映画評論家の9割以上が信ぴょう性のあるこの作品を絶賛していました。

逆に「早過ぎる」「悪趣味」という人々は、「自分が生きている間は絶対に9・11の映画化などしてほしくない」「機内で何が起きたか真相が分かっていないのだから、事実に即しているなんてウソ。俳優に演技をさせるなんて再現フィルムみたいで安っぽくて、犠牲者や遺族に対して失礼」と、この作品を声高に非難。

しかも、ハイジャッカーたちがイスラム教の聖典コーランを朗唱したり、神アッラーに祈ったりする姿が印象的に使われているシーンが多いことに、イスラム教徒たちが懸念を表明したり、ユナイテッド93便の一部の乗客のみがヒーローっぽく描かれることに対して、世界貿易センタービルやペンタゴン(国防総省庁舎)に激突した3機の乗客の遺族が不快感を表すなど、さまざまな方面から不満が出ていました。

さらに、制作側が収益の一部をユナイテッド93が墜落した場所に建てられた追悼施設に寄付するという、本来なら美談となるはずだったトリビア情報も裏目に出てしまったんですよね。

“収益の一部”が公開初日の売り上げのわずか1割(約115万ドル)だったと発表されるや、作品自体は褒めていた業界人の中からも「無名の俳優しか使ってない低予算(1500万ドル)映画で、監督は『ボーン・スプレマシー』(04)で大もうけしたんだから、収益を全部寄付してもいいのに、115万ドルしか寄付しないんじゃ、悪趣味な金もうけと言われてもしょうがない」という意見が聞かれるようになりました。

映画評論家の9割以上に絶賛されたにもかかわらず、この作品が大ヒットにならなかった(6月下旬の時点での興行収入は3200万ドル)のは、アメリカではまだ、9・11の傷が癒えていない証拠と言えるでしょう。

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