監督・脚本:ビリー・レイ
出演:クリス・クーパー、ライアン・フィリップ、ローラ・リニー ほか
配給:プレシディオ
3月8日(土)シャンテシネほか全国ロードショー
http://www.breach-movie.jp/
『アメリカを売った男』は、冷戦の時代から20年以上にわたってアメリカの機密をソ連に売っていたスパイのFBI捜査官、ロバート・フィリップ・ハンセンについての実話です。
実物のハンセンが逮捕されたのは2001年2月18日。このときは「アメリカ史上最悪のスパイ事件の容疑者が、ついに捕まった!」と大きなニュースになりました。この事件を記念するかのように、『アメリカを売った男』は、ハンセン逮捕の6年後、2007年2月16日にリリースされて、大きな話題になりました。
主演はクリス・クーパーで、ハンセンのアシスタント、エリック・オニールをライアン・フィリップが演じています。ライアン・フィリップは、一時はアイドル的な人気を誇っていましたが、この映画が公開された時期には、すでにAクラスのスターではなくなっていました。クリス・クーパーは『アダプテーション』でアカデミー助演男優賞を獲得している、「いぶし銀のような演技」という言葉がピッタリの渋い名優。とはいえ、アメリカでは(そして、おそらく日本でも)よほどコアな映画ファンでもないかぎり、名前と顔が一致しないであろう地味なキャラですよね。
映画自体も、スパイ映画のカテゴリーには入っているものの、「007」シリーズのようなアクションものではなく、心理描写や展開の面白さで魅せる地味な作りです。にもかかわらず、アメリカでこの映画が話題になったのは、リリースのタイミングが抜群だったから。
この映画が公開された当時、アメリカでは、2003年7月に起きたプレイムゲート(※)のおかげで、スパイに対する関心がいつになく高まっていたのです。2005年10月には、プレイムゲートの主犯とされたルイス・“スクーター”・リビー氏(チェイニー副大統領の腹心の部下)が起訴されて、2007年1月にようやくリビー氏の裁判が始まりました。
映画が公開された時期には、ニュース番組やトーク・ショーで、スパイの仕事やスパイの正体を暴露すること、機密売買がどれほど大きな罪か、などが話題になっており、その際にロバート・ハンセンや BREACH(この映画の原題)というタイトルにも触れられていたのです。また、プレイムゲートの“主役”であるバレリー・プレイム氏が、ボンド映画に出てきてもおかしくないようなまばゆいばかりのブロンド美人だったので、主婦向けの番組でもこの裁判が話題になっていました。
これらの背景があり、この映画は非常に地味な作品であったにもかかわらず、芸能枠のみならず普通のニュースやワイド・ショーでも話題になっていたんです。ライアン・フィリップの抑えた演技も見物なので、皆さんもぜひご覧になってくださいね!
■ プレイムゲート——事件の詳細
2003年7月14日、ブッシュ派のコラムニストであるロバート・ノバク氏が、「元イラク大使のジョー・ウィルソンの妻、バレリー・プレイムはCIAのスパイだ」と報じました。ノバク氏に彼女の正体をもらしたのが誰なのかをめぐり、公聴会や裁判が行われ、チェイニー副大統領の腹心であるリビー氏が犯人だった、ということになりました。
リビー氏は2007年3月6日に30カ月の禁固刑を受けましたが、ブッシュ氏から恩赦を受けて実刑を免れました。ウィルソン氏は湾岸戦争当時のイラク大使で、アメリカきってのイラク通。イラク侵略戦争を始めるために、ブッシュ政権が「イラクは大量破壊兵器を持っている」と主張していた際に、ただ1人「それはありえない」と発言した人物です。そのため「ウィルソン氏の発言をけん制するため、あるいはウィルソン氏個人への仕返しとしてブッシュ政権側の人間が、わざと彼の妻の生命を危険にさらしたのでは?」という陰謀説が後を絶ちません。
リビー氏の裁判でも、本当に重要な証拠はホワイトハウス側が特権を主張してブロックしたため、プレイムゲートの真相はいまだに明らかにされていないのです。
- 2008年2月28日
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