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西森マリーのUSA通信:スペースアルク
 
『恋するベーカリー』とアメリカのショウビズ界の体質
恋するベーカリー
(C)2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
恋するベーカリー
原題:IT'S COMPLICATED
監督:ナンシー・マイヤーズ
製作総指揮:イロナ・ハーツバーグ、スザンヌ・ファーウェル
脚本:ナンシー・マイヤーズ
出演:メリル・ストリープ、スティーブ・マーティン、アレック・ボールドウィン ほか
配給:東宝東和
2010年2月19日TOHOシネマズ日劇ほか 全国ロードショー
http://koibake.com/

10年前に離婚した後、3人の子どもを立派に育て上げ、経営するベーカリーも新聞で取り上げられるほどの成功を収めたジェーン。しかし、すべて順調なはずの生活も、何か物足りなく感じていた。そんな時、はるかに年下の相手と再婚した元夫の弁護士ジェイクと再会し、図らずもいいムードに。バツイチの建築家アダムも交え、前向きに生きるジェーンの新たな幸せ探しが始まった。

『恋するベーカリー』は、アメリカでは去年のクリスマスに公開され、ヒットしました。ヒットの要因は、実は大人の女性が見る映画がほかになかったこと。同時期に公開されていたのは、『アバター』、『シャーロック・ホームズ』 など、比較的若者向けの大作でした。そのため、クリスマス休暇の間、大型シネコン映画館では、ティーンの子ども連れの女性たちが、子どもには『アバター』や『シャーロック・ホームズ』のチケットを買い、自分は『恋するベーカリー』を見る、という光景をよく見掛けました。

そもそもアメリカでは、映画業界に限らず音楽業界もテレビも、ショウビズ業界全体が若者にこびる傾向にあります。例えば、テレビのプライムタイムの番組編成。同じ視聴率の番組でも、ティーンや20代の視聴者の割合が多い番組の方が、CM料金が高く設定されているのです。そのためテレビ局の編成局員は若者を取り込める番組作りに躍起になっていて、大人、特に大人の女性が見たいような番組はないがしろにされがちです。これは、若者を今のうちに自社の商品の味方につけておけば、彼らが大人、中年になった後も他社より自社を選んでくれるはず、というスポンサーの意向を反映したもの。

映画業界でも、ティーンや20代の観客は、映画を見た後にDVDやブルーレイディスクも買ってくれる確率が高いという数字があります。制作側にとってはおいしいターゲットですから、若者向けの映画作りにこびるのも、ある意味、仕方ないんですよね。

恋するベーカリーまた、以前も何度か書ましたが、男優は年を取っても主役を張れるけれども、女優はなかなかそうはいかない、という現状も見逃せません。そもそも女優として成功を収める人の多くが、演技力よりも美しさ、かわいさ、セクシーさで評価されていることが多いため、中年になってこの3点で評価されなくなった後も、主役としてやっていける女優が非常に少ないのです。そのため、アメリカでは大人の女性が楽しめる映画や番組が常に少ないので、たまに中年女性に受ける作品が出てくると、ほぼ確実にヒットするのです。

ちなみに、この『恋するベーカリー』は、一部の社会心理学者から「中年の女性が標準以上の男性から引っ張りだこになる、という非現実的な希望を抱かせる映画は、中年女性の精神衛生上、好ましくない」と批判されました。でも、「夢を売る」はずの映画に対して、こうした大まじめな批判が出たこともかえって話題を呼び、この作品の知名度を高める手助けとなったのです。

どんな映画作品であれ「多くの観客に見てもらう」ことは、基本的な命題です。その観点からすればありがたいことに、日本では、この映画はターゲット・オーディエンスの年齢や性別を特定せずに、しっとりめのラブコメディーという枠で宣伝されているようです。実際に『恋するベーカリー』は男性にも若い女性にも楽しめる作品なので、皆さん、ぜひご覧になってくださいね!

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