HOME英語ニュース・ビジネス英語
 
 


日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2005年4月28日

フィナンシャルタイムズなのかファイナンシャルタイムズなのか

有名なイギリスの経済新聞 Financial Timesは、「ザ タイムズは国を動かしている人々に読まれ、ザ ガーディアン は国を動かしてみたいものだと思っている人々に読まれ、Financial Timesはこの国のオーナー達に読まれている」と言われるぐらいで、イギリス文化のシンボルとも言えます。独特の薄いピンクの紙面で知られ、通はFTと呼ぶ、このFinancial Timesですが、実はほとんどの日本人が間違っていると気づかないまま、つまりそれがアメリカ英語流の発音であると意識することのないまま、「フィナンシャル タイムズ」と呼んでいるのです。本当は「ファイナンシャル タイムズ」なのに。明治の人は、こういった食い違いを「ギョエテとはおれのことかと、ゲーテの言い」とからかいましたが、100年経ってもわれわれは同じ失敗を繰り返しています。

実際、Googleのフレーズ検索を使って、「フィナンシャル タイムズ」で検索すると27000件なのに、「ファイナンシャル タイムズ」で検索すると2250件と極端少数派です(インドのファイナンシャルタイムズなどを指してのものまでカウントされてしまうものの、とりあえず見当をつけるには十分でしょう)。知らない人がこれを見たら、「フィナンシャル」の方がFinancial TimesでのFinancialの読みとして正しいと信じてしまうのではないでしょうか。

あまり「フィナンシャル」族が幅をきかせているので、正式名称に本来ない定冠詞theを入れた「ザ フィナンシャル タイムズ」といったものも検索してみました。まさかないよなと思いつつ検索してみると、どうしてどうして、これがあるのです。わずか8件ですが、なかでも目を引いたのが衆議院議事録。なんでこんな所にと思いながらクリックしてみると、銀行関係者を国会に呼びつけて、銀行の週休二日制を論議していた昭和52年当時の委員会の記録でした。読んで行くと、たしかにあります。「ザ・フィナンシャル・タイムズ」の登場です。「ときどき銀行の週休二日制もいいではないかという議論が出ますと、直ちにザ・フィナンシャル・タイムズのような新聞紙に...」とあるではないですか。驚いたことに発言者は、わが国の諸産業の中でも国際派と言われる銀行業界の元締め、全国銀行協会連合会の会長です。速記録ですから、定冠詞theが入っていることに間違いはありません。後世に残る大恥です。私に言わせれば。

一方、www.amazon.co.jpの「詳細サーチ」で書名のところに「ファイナンシャル」と入れると何もヒットしませんが、「フィナンシャル」と入れると何冊か出てきます。Financial Timesの読み方ガイド的なものばかりです。ガイドさん本人が読みを間違っているのに恬として恥じる様子がないのですから、何をか言わんやです。英語では、こういうのを、The half-blind leading the blind.と言います。ろくなことにならないでしょう。

繰り返し申し上げますが、正しくは「ファイナンシャル」に決まっています。20年ぐらい前にイギリスの投資銀行モルガングレンフェルで働いていたことがありますが、イギリス人が「きょうのフィナンシャルタイムズがどうの」と言っているのを耳にしたことはありません。また、Pocket Oxford Dictionary で finance と financial を引くと、どちらも 「ファイ」の音しか認めていません。「フィ」と発音するのは論外ということなのでしょう。加えて、友人のご亭主がコロンビア大学卒のジャーナリストなので、この件聞いておいてよと奥さんの方にメールしたら、回答は「ファイナンシャル」だということでした。また、その方のコメントがふるっていて、いわく「どうせ訳わかんないオランダ人だかドイツ人だかが発音したのを真似したんじゃない」。デドコがオランダ人かは別として、たしかに英語のできる人でも意外と一回どこかで聞いた程度の話なのに、以後ずっと思い込みで変則的発音によっているという人はいるものです。そういう人が同じようなサークルの中で「仲間」に合えば、もう手がつけられません。

それにしても、これだけ英語だの、国際化だのが言われている時代に、情けない話です。われわれ日本人も、外国人が朝日新聞をチョーニチ新聞、読売新聞をドクバイ新聞と呼んだら驚くわけで、私がFinancial Timesの人間なら当然、何らかの働きかけをすることでしょう。あのレーガン大統領が、「私の名前はリーガンではなく、レーガンですよ」と報道官を通じて声明を発表したようにです。ところが、当のFinancial Timesは自分たちの名前が誤読されていることに気づかないのか、どうでもいいのか、何の手も打たないままです。それでいておせっかいなことに、折々、日本人の英語力がどうのといった記事を載せていますから、いい勝負です。

そう言えば、同じイギリスの経済専門誌The Economistも、わが国では「エコノミスト」で通っており、誰も、「ジ イコノミスト」などとは呼びません。われわれ日本人は、どうしてこうも英語の音に鈍感なのでしょう。



hand1.gif

人気ブログランキングが励みになっていますので、本日分の一票、どうぞよろしくお願いします。人気blogランキングに一票

Trackbacks

Trackback URL: 

Comments

楽しく拝見しております。
アメリカ式ではフィナンシャルであるのなら、アメリカ式が優勢な日本ではフィナンシャルでいいのではありませんか?アメリカ人もファイナンシャルタイムズというのなら話は別ですが。
アメリカ式は絶対駄目で現地の発音に忠実たるべしであるのなら、
ジュリアス・シーザーは絶対ユリウス・カエサルと言わなければならないということになります。
長崎(ながさき)の「ガ」は鼻濁音ではなく濁音が正式になり混乱を生じさせます。
moneyをマネーというのを嘆ずるというのは共感いたしますが。

[返信]

コメントありがとうございます。

アメリカ育ちで、アメリカの大学を出て英字新聞で働いているジャーナリストは「ファイナンシャル」に決まっていると断言していました。アメリカ人が平均的に「フィナンシャルタイムズ」と言っているとしても、ことは固有名詞ですから、本人たちがファイナンシャルと言っているものを日本ではフィナンシャルが普通だからと言い換えるのはやはり強引かなと感じます。

ジュリアス・シーザーの話は本人自身もいくらなんでもユリウス・カエサルとは言ってなかったでしょうから、引き合いに出すのはどうかと感じます。

お返事ありがとうございます.BBCで確かめるとファイナンシャルでした.http://www.bbc.co.uk/worldservice/learningenglish/news/words/business/newmedia/b010727a.ram

私も、ついつい単語の発音記号ではなしに、第一に単語の綴りが頭の中にあって、それで会話する癖があります。数日前に「この家のルームメイトは綺麗好きだなぁ」と感想を伝えようとしたところ、tidyを「ティディ」と発音。イギリス人が私の言ったことをしばらく理解できずに困っていたので、『どうしてこんな単純な単語なのに伝わらないのかしら』、そう戸惑ったのが妙に記憶にこびり付きました。後で自分の間違いに気付いてからは、もうこれからはティディなんて発音しないぞ!!と誓ったわけです。そんな矢先に、日向さんのFinancial Timesへの嘆きを拝見したものですから、思わず苦笑してしまいました。

[返信]

アサさん

せっかくのコメントを見落としていました。すみません。懲りずにまたいらっしゃってください。

日向清人

financialについて.フィナンシャルとかファナンシャルのように聞こえます.音に忠実に表記するならばファイナンシャルよりはよいのではないでしょうか.http://www.m-w.com/

自己責任様

コメントありがとうございます。

「音に忠実に表記するなら」という点、メリアムウェブスターのサイトを挙げてらっしゃいますから、「アメリカ人の発音に忠実に表記するなら」という意味でおっしゃっているものと理解します。アメリカ英語の発音による限り、それはそのとおりで、現に、Merriam Webster's Collegiate Dictionary, 10th ed.は、fnancial的な発音が優勢で、fai-は従たる地位にあるという表示の仕方です。

しかしFinancial Timesの母国というか、本家本元のイギリス人は実にはっきりとfaiの音を響かせながらfinancialと言っています。なお、イギリス人と一口に言っても、いろいろいますが、私の接したイギリス人はいずれも、いわゆるオックスブリッジの連中です。

なお、CambridgeからCDに入った発音辞典が出ているようなので、それでイギリス音を確かめられたらいかがでしょう。

日向清人

コメントフォーム
Remember personal info?