2005年4月30日
アメリカ英語の発音は何が違うのか
Longman, Oxford, Macmillanと、最近は学習者向けの英英辞典に付属しているCDに発音機能が付いており、クリックすればその見出し語の発音が聴けるようになっています。しかもご丁寧にアメリカ英語とイギリス英語それぞれを別に聴けるようになっていたりもします。しかし、こういった単語単位の発音だけでは、なかなかアメリカ英語、イギリス英語の発音の違いがわかりません。
そもそも、アメリカ英語を毛嫌いしていた母親の影響がなかったら、自分自身、こうした違いに関心は向けなかっただろうと思っているぐらいで、微妙と言えば微妙な区別です。母は、数年前に死にましたが、パリ生まれのパリ育ちである上(当然、母語はフランス語で、日本語もフランス風のリズムと抑揚に乗った早口でした)、祖父の再婚相手だったフランス人がどこかにシャトーを持っている一族の出とあって、貴族意識を植えつけられてしまったという、不思議な感覚の日本人でした。ヨーロッパの上流階級にありがちなアメリカ嫌いもしっかり受け継いでいたので、アメリカ人のような文化的に劣っている人々の英語などは問題外ということだったのでしょう。
一方、おかしなもので、アメリカ人、特に、教育のある人々は、フィッツジェラルドの小説などでも描かれているように、フランスを中心としたヨーロッパに対するあこがれがありますから、母語がフランス語である私の母親みたいな人間に会うと、Oh, you speak French!とか言って下手に出ます。それで喜ぶような連中なら米仏対立なども、そうは起こらないだろうに、一筋縄で行かないのがフランス人気質です。「ふん、野蛮なメリケンめ、おまえごときにフランス語の何がわかる」で終わってしまいます。
こういった背景から、こちらまできちんとした人間はアメリカ英語など話すものではないという固定観念を植え込まれます。現地に他にちゃんとした学校がない場合、アメリカンスクールに行かざるを得なかったりするのですが、そういった場合は、週末に、歌うような節回しで英語を話す、ご上流の英語を専門とする家庭教師が来て「汚染の除去」が行われます。日本に帰ってからも、外国人シスター(キリスト教の修道女)たちが運営している英語塾に行かされました。アイルランド人の修道女が多かったのですが、そこでも Oh, no. That's American English.とか言って怒られ、矯正されます。今になって考えてみると、アイリッシュのなまりとアメリカ英語とでは、どちらが上ということはないと思うのですが、発音は文化的優越感のよりどころとして重要な要素ですから、本人たちは大まじめです。
おとなになってからは当然、この種のシバリが解け、こだわりもありません。しかし、やはりアメリカ英語は違うなとは感じます。どこが違うかと言えば、一つにはイギリス英語の世界では、音声学が盛んなこともあり、イントネーションも何が基本で、何が例外かがはっきりしていることでしょう。これに対して、アメリカ英語の場合は、いい学校を出ている人々でも、dictionないしarticulationについては、いろいろ言うくせに、イントネーションにまでは気を回さない感じがあります。
そのいい例が初対面の人が交わすHow do you do?です。ヒチコック映画によく出てくるイギリスの上流階級の英語では、How do you do?と切り出す方も、相手方つまりHow do you do?と返して、応答する方も(How do you do?と言われたら、How do you do?で返すのがルールです)、falling toneないしGlide Downと呼ばれる下降調のイントネーションを使って言います。基本どおりです。ところが、アメリカ人はだいたいが、返す方は、最後のdoが尻上がりの例外形です。アルクさんのサイトで、私がまとめた実用英語の速習プログラム、be208の発音を聴けるようになっていますが(http://www.alc.co.jp/eng/newsbiz/expression/)最初の項目「空港で出迎える」の中の一番最初のやり取りで出てくるHow do you do?の所をクリックしてみてください。この例では、言う方も言われる方も、例外形のGlide Up を使っています。
英語のイントネーションの基本原則から言えば、How do you do?を含め、How、Whatといった疑問詞で始まる疑問文は、下降調によるべきものとされています。そこで、How do you do?でのdoの部分がちょこっと音程を上げる格好で発音されると、あれっと思います。このような、あれっと思うようなところでのGlide Upにつき、大御所 J. D. O'Connor のBetter English Pronunciation は、Use the Glide Up if you want to show as much interest in the other person as in the subject.と言っていますから、相手に対する親しみの現れであることがわかります。いかにもアメリカ人らしいじゃないですか。実はかわいいんです。アメリカ人というのは。
何であれ、英語の発音の基本は、WhoやWhatで始まる疑問文を初め、相手に依頼したり情報を提供するためのメッセージを発する場合は、下降調を用いるということです。その中で、先般、説明したとおり、意味上のまとまりごとに、きゅっと引き締めて一息で発音し、次のまとまりの前で、音程を下げて、という具合にいわば階段を降りて行くかのように発音します。
例外は、Yes/Noでの答えを期待する普通の疑問文つまり疑問詞で始まらない疑問文です。この種の疑問文の場合は、最後の部分で音程を上げて、着地します。
こういったルールを知っていると、語学物CD、特にイギリス物を聴く際に、「切れ目」がわかってきますから、上達も速くなってくるでしょう。実際上も、その切れ目を意識して、ちょっと息を止める感じで音程を下げて行くと、相手にとって聴き取りやすい英語になってくるものです。「通じる」ということです。

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はじめまして。Financial Timesのログで書かれていた「どうせわけわかんないオランダ人だか・・・」と言ったジャーナリストの義姉でございます。いつも妹が大変お世話になっております。
日向さんのブログ、毎回「そうそうそう!!」と膝をたたかんばかりに喜んで読んでいます。また、今まで感覚的にわかっていたものがスッキリと解説されることも多く、とても勉強になります。
私のブログは他愛無い話ばかりなのですが、英語に関心のある方も多く来て下さっているのでリンクさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか?
Favourite様
英語には一家言おありと承知しているだけに、どぎまぎしますが、わざわざお越しくださり、ありがとうございます。これからもご期待に背かぬ記事を書くよう努めます。
ご自分のブログにリンクをつけてくださるとのこと、大歓迎です。私の方からも、やり方がわかり次第、リンクさせてください。
日向清人
- favourite
- 2005年4月30日 11:33

日向様、興味深く、また、有益な記事が盛りだくさんで大変感謝しています。
小生、海外派遣の適齢期をとうに過ぎ、サラリーマン人生も終期に入りかけ身の振り方を思案し始めたところに唐突に海外勤務辞令を受け、オハイオに出向して1年半の不勉強サラリーマンです。地元の人の普通の会話は聞き取れず、準備した会話以外は、単語の羅列程度にしかならず情けない限りです。最近、貴雑記帳を知り、少しずつ読み始めたところです。ありがとうございます。
今回の記事でGlide downということを知り、少し心がけてみようと思っています。(Dictationの効用はちょっと驚きました。30数年前のど田舎(今でも村のまま)の中学校での授業と大学入試試験を思い出しました。正統派の訓練法なのですね。実践します)
さて、ひとつ質問させてください。本文中に、
大御所J. D. O'ConnorのBetter English Pronunciationは、Use the Glide Down if you want to show as much interest in the other person as in the subject.
と、書かれています。
これは、前後の文脈(及び経験から来る小生の直観的理解)からClide Upではないかと思料するのですが、いかがでしょうか?
また、どこか別のページで質問させていただくかもしれませんがよろしくお願いします。
[返信]
ご指摘のとおり、Glide Up ですね。ありがとうございます。
ところで英語でのglide downは言い切り、断定調になるのに、glide up 、特に上げて、下げて、また上げるパターンは、「そうじゃないでしょうか」という一種の慎みを伝えるツールと言えます。ですから、You're Chinese, aren't you? という付加疑問文も、aren't you の部分をglide downで言うのと、glide upで言うのとでは感じが大きく違います。こういう感覚で人の話し振りを観察するとけっこう楽しめるかと思います。