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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2005年5月 4日

英中流階級が震えあがったnon-Uという烙印

英語使いのfavouriteさんが「発音でお里が知れる?」という記事をご自分のブログ(My Favourite Things ?ある「英語使い」の日常?)で書かれています。 その冒頭で「イギリスの言葉には、地域差と階級差がはっきりと表れるので、暗黙の内に相手の出身を大体知ることができます。Accentという言い方をしますが、もちろん強弱のアクセントではなく、地域方言と階級を示す言葉の癖、と言っていいでしょう」と書かれているのを読んで、「そうそう、階級差が現れるからこそ、背のびして自分を偉く見せようとするやつも出てくるんだよな」と思いました。しかし、そういう虚像をこなごなに破壊し、中流の人々をふるえあがらせる人が出てきたりするのですから、おもしろいものです。

イギリスのような階級差のある国では、下層階級は分をわきまえて背伸びなんかしませんが、中流、なかでも中流の上の部類が「グレードアップ」を期して上流ぶるのに大変です。ところがイギリス人には痛快なほど意地悪なのがいて、中流の人たちが上流気分を出して食卓で使うナプキンのことをservietteと呼んでいたのに、何をばかばかしい、上流社会では普通にnapkinぐらいにしか言わないんだから、servietteなんて呼ぶ方がお里が知れますよと爆弾を落としました。

ただ、この爆弾は実はイギリス人教授 Alan S. C. Rossがフィンランドの言語学専門誌に寄稿する形で落としたものを、あとになって小説家のNancy Mitford がThe English Aristocracyというタイトルの雑誌記事の中で引用して、ようやく爆発するという複雑なプロセスをたどっています。

何であれ、彼女が、教授の論文を引用しながら、今やイギリスの貴族階級は他よりカネがある、教育があるといったことで差を付けられなくなっているので、使う言葉によってのみアイデンティティーを確保せざるを得ないとした上で、こういう言い方はnon-U(non upper classの意)で、これはUと例を挙げたものですから、イギリス人の階級意識あるいはスノバリー如何ということで大きく取り上げられ、The Cambridge Encyclopedia of the English Languageにも記録されているような大騒動になりました。1950年代半ばのことです。(もとの論文とMitfordの記事の両方ともOxford Language ClassicsのNoblesse Obligeという本に入っています。)

このところ英語の発音の話をしているので、彼女が引用したRoss教授の論文がnon-UとUとで発音がどう違うと言っているのかを見ておきましょう。(発音の表記は感じを伝えるための便宜的なものなので悪しからず。)

yesterday: non-Uは、yesとdayのそれぞれにstressを置いて2単語のように発音するが、Uは、YESt'rd'iというふうに、最初の音節にstressを置き、そこしか聞こえないぐらいの勢いで発音する。要するにdayの部分はほとんど聞こえないことになります。

temporarily: non-Uは、tempoRArileeと、第3音節にstressを置くのに対して、Uは、TEMpr'r'liと、第1音節にstressを置きます。このように発音が楽になるせいか、non-Uが、第2音節にstressを移してしまう傾向は、formidableやinterestingでも同じだと言います。実際、わけのわからんアメリカ人に多い感じがします。勝手にstressを移動してしまうというのは。

forehead: non-UはFORE HEADと2単語かのように発音するが、UはFOR'dと第1音節にstressを置き、かすかにdの音が最後に聞こえる程度の1単語的発音。ちなみに手元のThe Pocket Oxford Dictionaryにはnon-U的発音は最初から載っていません。よほど汚らわしいのでしょう。それはそれで見識と言うのか、あっぱれな姿勢ではないですか。

golf: non-Uはlが聞こえるような発音をするのに、Uの発音ではlの音がない。

そう言えば、オックスフォードに留学したのち駐英大使館勤務を二度経験した父から聞いた話では、イギリス上流階級にどもる人が多いことから、上流願望の強い連中は、普通に話せるのにどもるよう心がけたりするそうです。しかし、もともとご上流の英語はポックポクした感じがあるのに、これでどもりと来た日には、どうしようもありません。何かのおりにカンタベリー大司教(オックスフォードはもとがお坊さんの学校ですから、イギリス国教会の人は平の牧師クラスを含めて同大学出身が多いそうです)が話している姿をテレビで見ましたが、たしかにどもっており、「ああこれか、こんなのを子音がしっかりしていない連中が真似してどうするんだ」などと思ったことです。

このように涙ぐましい努力で上流ぶろうとしている人々が、Uとnon-Uという区別があるという現実を突きつけられたときは、さぞやショッキングだったろうにと同情してしまいます。しかし、ことは50年も前の話です。わが国のイギリス英語びいきが得意げに持ち出すRP(イギリス英語の標準語とされるReceived Pronunciationのこと)などは人口で言えば3%だか5%しか行かず、また、BBSはもとよりCNNまで(私に言わせると方言にしか聞こえない)すごいなまりの人をアンカーやらアナウンサーに起用している時代ですから、こんなことにこだわる方がおかしいのかも知れません。

わが国の場合、発音でその人の教育程度(大学を出ているかといったことでなく、きちんと勉強しているかといったこと)がわかるということはまずなさそうです。その代わり、知らないことがらなどを尋ねられたおりに「それは存じません」と言えばいいものを、気取って「それは存じあげません」などと本来、人について言う「存じあげる」を使ったりするのがnon-Uだと言えそうです。ことのついでに言えば、「ご存じ」を「ご存知」と書くのは、私の感覚では典型的non-Uです。

なお、この手の話にご興味のある方は、手近なところでは、中公新書の「階級にとりつかれた人びと」があります。また英語で読む方がいいという方にはPaul FussellのClass--A Guide Through the American Status Systemがイチオシです。タキシードについて、Proles (プロレタリアートをもとにした造語で労働者階級の意)say tux, middles tuxedo but both are considered low by uppers, who say dinner jacket or (higher) black tie.といった記述が随所にあり、おおいに笑えます。 但し、夜の正装であるタキシードをまっ昼間から着ているような方は読んでもピンと来ないでしょうから、お勧めしません。

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Comments

記事内でのご紹介ありがとうございます。
私はイギリスのUな英語が大好きなクチですが、残念ながら英国内でいた環境はさほどUでもなかったので、例として挙げていらっしゃる語の発音で私が使うのはUとnon-Uが半々です。でもタキシードは、大学のballなどでもdinner jacketでしたね。ご紹介の本、おもしろそうですね、探してみます。

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