2005年6月16日
ビジネスライティングで嫌われるThere isとThere are
There isやThere areで始まるセンテンスはビジネスライティングの世界では嫌われ者です。L. Sue Baugh他のHow to Write First-Class Business Correspondence--the handbook for business writing (NTC Publishing)の索引には、There is/there are, avoiding(There is/there areを避ける)という項目があるぐらいです。あとで説明するとおり、別の本でもThere is/there areは避けるべしと説いています。また国際機関で働いている私の友人も最初の頃はよくThere isで始まるセンテンスにアカを入れられたものだと言っていました。
もともとdummy subject(形式主語)とか言われ、埋め草的な扱いを受けているのに、さらに「使うな」じゃ、本当に浮かばれません。Thereは、気の毒なはぐれ者です。そこで、今回は、There is/there areの生い立ちというか、そもそもなぜ、こんな構文があるのかということを見てから、どのように嫌われ、それはなぜかという点を取り上げたいと思います。
★ 何のためのThere is/There areなのか
英語では、相手が既に知っている話から始めて、それを前提に新たな話へと展開するスタイルを取っています。逆に言うと、単にカテゴリーを指す名詞や名詞句、つまり不特定の事物を指す言葉を使って話を始めるのは避けたいという感覚があるのです。それで、例えば、「テーブルの上にワイングラスがあります」と相手に伝えたいような場合、A wine glass is on the table.とは言わず、Thereを使って、There is a wine glass on the table.という格好にし、「英語では新情報は主語でテーマを示したあとに出てくる」というルールに無理矢理合わせて、未知の情報であるa wine glassをうしろにまわすように努めます。
学校文法でこういった理屈を教えているのかは承知していませんが、教えていないとしたらひどい話です。誰だって、何のためなのかわからないまま作業をやらされるのは楽しくないに決まっています。
★ Thereを使うと意味の希薄なBE動詞に頼る結果となる
このように、それなりの存在理由のあるThere is/there areなのに、前掲書はIn general, avoid the phrases "there is" and "there are." Rewrite the sentences using more active verbs.(基本的に、there isやthere areといったフレーズは避けよ。この種のセンテンスはより動きのある動詞を使って書き直すべし)と説いています。Poorつまり貧弱な例としてどのようなものが挙がっているかというと、こんなセンテンスです。
There are several flights that make the round trip from Newark to New York.(ニューアークとニューヨーク間を往復するフライトが何便かある)
ライティングではthere is/there areは嫌われるといったことを知らないと、一体これのどこがいけないのと思ってしまいます。ところが、これでは「弱い」のです。次にように書き換えろと言います。
Several flights make the round trip from Newark to New York.
さきほどの例と決定的に違うのは、述語動詞がBE動詞だったものからmakeという、よりアクティブな動詞に変わっていることです。実はこのことに最大のポイントがあるのです。BE動詞だと、This is a pen.に見られる通り、This = penと同じで、いわば静止状態を表すにとどまり、そこには「何かが、どうする」といった動きがありません。しかし、これでは、インパクトに欠けるので、ビジネスライティングにおいては、なるべく動きを伴うアクティブな動詞を使えと強調されるのです。
言い換えるとBE動詞を使うとイコール記号でしかないことから、どうしても名詞主体のセンテンスを書く結果となりますが、これがいけないのです。ものを書くとなると人情の自然として立派な文章であるかのような形を整えたくなるもので、そうなると、いきおい単語数を増やせる名詞に頼る結果となります。例えば、decideと言えば済むものをmake a decisionとし、measureと言えるのに、conduct measurementsにするという具合にです。日本語でも、「測定する」と言えばいいのに、もったいぶって「測定を実施する」と書くのと同じ感覚です。一方、前置詞と名詞のセットである前置詞句の乱用もこういった「立派に見せたい病」の症状の一つです。単にifと言う代わりにin the event ofと言い、「嵐による船の被害状況を調べているところです」と書くに当たって、We are checking the ship for any damage from the storm.と書けばいいのに、We are in the process of checking the ship...とやったりするわけです。
何であれ、こういった名詞主体の書き方は情報量が同じなのに、単語数だけ増えて重苦しくなり、一読了解を妨げますし、見る人が見れば、何を気取っているんだと見透かされてしまい、格好の悪いことになってしまいます。これに対して、動詞主体の書き方は、簡潔な文章作りに役立ちますし、名詞主体が静止画だとすれば、こちらは、動画に当たるわけで、読み手へのインパクトも違ってきます。
こういった立場を徹底すれば、自社の業務内容について書く際も、We are a manufacturer and distributor of X and Y.(弊社はXとYの製造業者であると共に販売業者でもあります)よりも、We manufacture and distribute X and Y.(弊社はXとYを製造し、販売しています)の方が好ましいということになります。実際、プロが書く会社のプロフィールはそうなっています。BE動詞のたぐいはあまり出てきません。
★ Thereを使うと長くなるので嫌われる
もう一つ、There is/there areが嫌われる理由は、こういった構文を使うとセンテンスがどうしても長くなり、「短く、短く」ということが至上命題であるビジネスライティングと相容れないからです。この点、Laura BrillのBusiness Writing Quick & Easy (American Management Association)は、「省いてもいい言葉」という項目の中で、Thereを使った構文は次のように書き換えるべしと強調しています。
There will be three people attending the concert.(コンサートには3名行きます) → BETTER → Three people will be attending the concert.
単語数を比べてください。Thereで始まる方が8単語であるのに対して、省いた方は7単語です。わずか1単語とは言っても、あちこちでこのようにカットしていけば、最終的にはかなりの節約になります。またBrillが挙げているもう一つの例、In the past, there were few politicians who could be trusted.(以前は、信頼できる政治家はあまりいなかった)だと、In the past, few politicians could be trusted.にすることで、11単語から8単語に減らせます。
してみると、ビジネスライティングの場合、A wine glass is on the table.的なとぼけた事物は取り扱わないから、新情報はあとまわしという形式を守るためにThereを使うぐらいなら、センテンスを短くする方が優先されてしかるべきだということなのでしょう。
★ 他にも嫌われ者が
Brillは、Thereで始まるセンテンス以外に、以下でご紹介するように、Itで始まるセンテンスも書き換えて短くできるし、who, which, thatなどで始まるセンテンスも冒頭の関係代名詞を削除することで短くできるとしています。
It is deemed imperative that we arrive on time.(何としてでも時間通り到着することが求められる) → BETTER → We must arrive on time.
It is the opinion of management that profits will rise next quarter.(来四半期は増益というのが経営陣の見方だ) → BETTER → Management believes [that] profits will rise next quarter.
★ まとめ
簡易迅速を尊ぶビジネスライティングでは、行儀よくチマチマしたセンテンスを書くよりは、武骨でもいいから、あっさりと骨太のセンテンスを書けということです。ひとまず今回ご紹介した点、つまりThere is/there areを避ける、It isも使わない、関係代名詞は使わないという三点を心がけるだけでも、ご自分のライティングが見違えるほどの変化を遂げるはずです。また、他の人たちもこういったルールを守っているのかと気づき、この結果、前よりも人の書くものを観察するようにもなり、センスが磨かれます。
このあたりのセンスを手っ取り早く身につけるには、ここでご紹介した本、あるいは、Gary BlakeとRobert W. BlyのThe Elements of Business Writing (Macmillan)といったビジネスライティングの本に目を通して、基本的な約束事を確認してから場数を踏むことをお勧めします。日本人によるビジネスライティング指南は、こと英語となるとスキルを吸収するのでなく、研究してしまう日本人独特の性癖が災いして、みみっちい話ばかりなので、敬して遠ざけるべきです。
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