2005年7月13日
債券の額面 par value とは何ぞや
前回は株式の額面の話をしましたが、今回は、債券の額面の話です。
株式と債券の違いが今ひとつピンと来ない方のために補足すると、株式が会社のオーナーとしての地位つまり持ち分だとすれば、債券は貸金の証文と同じで、相手が国だと国債 (government bond)、企業だと社債 (corporate bond)と称されます。
債券の額面 (par value = nominal value = face value)は一般に二つの場面で重要な意味を持ちます。一つは受け取り利息の額をそこから計算できるということで、他は、債券価格の表示に使われるということです。
受け取り利息の計算上、意味があるというのは、表面利率(券面に、この利率でお支払いしますと書いてあるもの)を表示されている額面にかければ、受け取る額がわかるということです。
★ 債券の相場表
額面が債券価格の表示にどう関係するかは、実際の債券相場表 (bond table) を見た方がわかりやすいので、The Wall Street Journalで日々掲載される債券欄を見てみましょう。
紙面の都合上、縦に表示するとこうなります。ここでは、米財務省証券(アメリカの国債)を例にします。
Rate 8
Maturity Mo/Yr Aug 09
Bid 113:30
Asked 114:00
Chg -3
Asked Yield 4.2
個別に項目を見ていきましょう。
Rate
券面に表示されている利率のことで、8とあれば、アメリカの国債は券面額が1000ドルというのが普通であることから、1000ドルの8%ということで、年間80ドル受け取れるとわかります。実際には、半年ごとの支払なので、40ドルずつ受け取ることになります。
Maturity Mo/Yr
Maturityは満期のことで、Mo/YrはMonthとYearの省略形ですから、Aug 09は、2009年の8月に満期を迎える債券だということです。業界の人は、こうして元本が返ってくることを「償還される」と言っています。
Bid
買い手がオファーしている価格のことであり、したがって、手持ちの債券を売却しようという人にとっては、この値段なら売れるということを意味します。
113:30という表示からおわかりのとおり、債券相場の価格表示は独特で、債券の額面が価格を算出する際の基準になっています。どういうことかと言うと、額面1000ドルのものが1000ドルで売り買いされていれば100と表示されることが柱となっているのです。1100ドルなら110と表示され、900ドルなら、90となります。
もう一つの柱はコロンの右横の数字が1/32単位(つまり1ドルの1/32ということで、31.25セント)であることです。
したがって113:30という表示は、額面1000ドルの債券が1130ドルに9.375ドルを加えた1139.75ドルで取引されているという意味になります。
Asked
売り手が提示している価格であり、これから債券を買おうとする人はこの欄の数字を見て、取得するのに、いくら払わなければならないかがわかります。
114:00とあれば、上で説明した理屈により、1140ドルが買値になるということです。
なお、株式の場合、終値 (closing price)で表示されるのに、債券の場合、このようにビッドとオファーで表示されるのは、取引所での集中取引という方式ではなく、業者間での個別取引(相対売買=あいたいばいばい)によっている関係で、最後に行われた売買での価格に代えて、午後4時現在での、売り手と買い手の提示価格中、もっとも有利なものを基準として用いているからです。
したがって実際に行われた取引での確定的な価格ではありませんから、そのことを表すため、正確に表現する必要がある場合は、bid priceは買値ではなく、「買い呼び値」と言い、asked priceは売値ではなく、「売り呼び値」と言います。
ちなみに、わが国の株式市場では、呼び値と気配値は違うものです。いくらなら買いましょうという買い呼び値だけがあって、売り呼び値のない状態を「買い気配」、と言います。また、反対に、いくらなら売りましょうという売り呼び値だけがあり、買い手が現れていない状態は、「売り気配」(または「ヤリ気配」)と言っています。
Chg
Changeを省略してあるだけで、前日との価格差です。なお、change中の母音部分を抜いて、省略形を作る一つのパターンが示されています。
Asked Yield
満期まで持っていた場合の投資利回りつまりリターンです。普通は、Yield to Maturity (YTM)すなわち満期利回り/最終利回りで通っていますが、ここでは、asked priceをベースに計算していることを明らかにするため、asked yieldという言い方になっています。年二回利払いがあるため、半年複利で計算する必要があり、金融計算機がないと簡単には算出できないような数字です。
最終利回りをおおざっぱに計算するためには、年当たりのリターンを買付コストで割って求めます。上の債券の場合、年当たりのリターンは、毎年の利息収入80ドルから35ドルを引いた金額となります。どこから、この35ドルという数字が出てくるかというと、債券は満期に償還される際は額面金額での償還となりますから(額面で償還されるというのは債券投資のイロハです)、1140ドルで取得していると、償還時に140ドルの差損を被るわけで、これを4年という残存期間の各年に割り振ると35ドルになるという計算です。こうして80ドルから35ドルを引いた45ドルが毎年のリターンです。
一方、買付コストは償還時に戻ってくる1000ドルと、買付時に支払った1140ドルを足して2で割り、1070ドルになります。そこで、最終的に、45ドル割る1070ドルで、4.2%という一応の数字が出ます。
★ 額面と取引価格:プレミアムとディスカウント
上で説明したとおり、価格が110なら額面1000ドルの債券が1100ドルで取引されているということですが、このように債券の額面を上回る価格で売られているときは、 selling at a premiumと形容されます。その時点での金利水準が年4%というときに、年8%の利息を受け取れる債券となれば、当然、人気も集中し、価格も割高になりますから当然と言えば当然です。
逆に現在の金利水準が4%という状況のときに、昔の低金利時代に発行された表面利率が2%といったものは、値下げしないと誰も買ってくれませんから、額面割れの価格となり、selling at a discountと形容されます。
おもしろいことに、プロは、価格が額面を上回っているときは、It'sselling over par in the market.と表現し、額面割れのときには、It's selling under par in the market.と表現することから、債券業務に関係している人たちの間では、日本語でも、オーバーパー、アンダーパーという言い方がされます。
そこで、辞書を引き引き債券関係の英文和訳をした人が辞書どおりに、ご丁寧に、プレミアムだのディスカウントだのといった訳語を使っていると、業界の人には嫌われます。こいつわかっていないなと、低く評価されてしまうのです。
金融翻訳を手がけてお金をもらおうとする以上は、最低限、日経金融新聞の用語用例に慣れ、その他公社債新聞といった業界紙には目をとおして、業界人の特殊な日本語を拾っていき、訳文にいかすようにする必要があります。

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