2005年7月10日
格言・名言は控えめに:英語でのallusionについて
英語学習者でも上級者レベルになると、proverb(ことわざ), cliche(陳腐な決まり文句), truism(金言), hackneyed phrase(聞き飽きた言い回し)に目が行くようになります。たしかに、英語の世界では、あとで説明するallusionという形で、こういったものが書き言葉を中心によく出てくるので、知らないと不自由します。ですから、一定の基本的なことわざをひととおり見ておく程度の勉強は不可欠ではあります。しかし、この手のものは、自分の知識として蓄えておくにとどめるべきで、少なくとも英語の世界では、自分からは使わないのが普通です。
実際、教育のある人はたいていのことわざを知っていますし、いわゆるcliche(表記上は、eの上にアクセント記号があります)も大体は心得てはいます。しかし、自分の方から使うということはあまりありませんし、また、使うとしても、その場の雰囲気に合わせて、ちょっとおどけた感じを出すために使う程度におさえるものです。加えて、敢えて全部を言わず、肝心の部分だけをちらっと出す程度にとどめようという傾向も見られます。教育があればあるほど、こういったものを口にすることへの恥じらいないし気恥ずかしさが強くなるため、おのずとこういった消極姿勢が普通とされるのでしょう。
英語の使い手は自分の方からは格言などを口にしないという感覚を伝えるものとして、1974年発行のOxford Advanced Learner's Dictionary of Current English第三版の序文にあるProverbsの項は痛烈です。格言、名言などは、表現こそツボをつく気のきいたものだが、内容としては人の営みについてのありきたりと言うか、言わずもがなのことなので、They are thought of as the sort of remark that would be made by someone who is rather dull, someone who cannot express in his own words what he thinks or feels, but who has to borrow a proverb from the language to do this.(一般に、頭の回転があまりよろしくない人や自分の言いたいこと、感じていることを自分の言葉で表現できず、ことわざの力を借りなければならない人が使うたぐいのものとみなされている)。
しかし、だからと言って、ことわざなどが話し言葉や書き言葉の中で引き合いに出されないというものではなく、上記の恥じらいないし気恥ずかしさが手伝って、もっぱら、allusionつまり、知っている人にだけ通じる間接的な言及という形でよく出てきます。
一つのやりかたは、元の言い回しをそのまま、自分の表現の一部として取り込む手法です。たとえば、悪い前兆という意味の、writing on the wallという言葉があります。これはバビロンの頭領、ベルシャザールがエルサレムからの分捕り品で大宴会を開いていたところ、壁に謎の文字が現れたので、悪い予感がしてダニエルを呼んで解読させたところ、滅亡の日は近いと聞かされる話から来ていますが、They failed to see the writing on the wall.(彼らは悪い前兆を見逃した)という格好でよく使います。
おもしろいのは、こういった場合、やはり格言的なものをそのまま使うのは気が引けるという心理が働くのか、申し訳のようにproverbialを頭につけて、They failed to see the proverbial writing on the wall.という格好で使ったりすることです。ニュアンスとしては、「ことわざで何々って言うじゃないですか、あれと同じですよ」という感じですから、強いてこの感覚を出すように訳すとすれば、「彼らは、古来、人の言う『壁に現れし凶事の前兆』を見逃した」といったところでしょう。
同様にこの種の言い回しを引き合いに出す際に使う小道具としてveritableという言葉もよくみます。フォーマルな単語とも言えますが、「正真正銘の」とか「これこそ例の」という意味あいになりますが、The problem was a veritable Catch-22.というふうに使います。
Catch 22というのは、何とかヘラーという人の小説の題名から来ています。ちっともおもしろくない本でしたが、なぜか、Catch 22はジレンマの代名詞として広く使われるようになっています(今では辞書にも載っています)。したがって、この一文の意味は、「この問題は、正真正銘のジレンマだ」になります。Catch 22での22は軍隊の規則の一節で、主人公(たしか爆撃機の乗組員でした)が発狂したふりをして軍務を逃れようとすると、軍の方は、この規則を持ち出して、狂人なら進んで戦争に参加しようとするはずなのに、戦争に行きたくないというのだから、狂人であるはずがないとして、堂々巡りに陥るという話です。
一番むずかしいのは、She's another Helen.といったタイプのallusionでしょう。ここでのHelenは美人として名高く、例のトロイ戦争のモトでもあるトロイのヘレンのことを指していますから、傾国の美女クラスであるトロイのことを知らないと、相手にはさっぱりという結果で終わりです。
小説の登場人物などはよくこの形で使われます。例えば、ディケンズの「クリスマスキャロル」に出てくるケチで嫌な奴、あのScroogeなどは、He's turned into a veritable scrooge.のような形で今や一般名詞化しているぐらいです。
ちょっとむずかしいけれど、意外と多いのがキリスト教関係のallusionです。例えば、ビジネス関係の記事で、earnings confessionalがどうのというものをよく見ます。このconfessionalというのは、クリスチャンが教会で神父にうそをつきました、浮気をしましたといった罪を告白し、それを償うための罰(何々の祈りを何回唱えなさいといったもの)が言い渡される小部屋のことですから、これが出てくるということは、業績見通しの下方修正などネガティブな要素があるに決まっています。教会の中の、あの怪しい小部屋を見たことがないとイメージはつかめないのではないでしょうか。
こういったallusionとして、どのようなものがあるかを知っておくには、ウェブスターやオックスフォードからDictionary of Allusionsが出ています。Amazon.co.jpで検索すると、Allusions in the Pressという本もあり、おもしろそうではあるのですが、何しろ1万5000いくらという値段なので、ちょっと手が出ません。

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