2005年7月 9日
BE動詞の生い立ちの秘密:最重要動詞の知られざる過去を訪ねる
英語の動詞の中でもbe動詞は本当に不思議な存在です。8つも活用形のある不規則動詞で、しかもその過去形のwasは基本形ないし原形であるbeとは似ても似つかぬものです。
発音されるときは、she'sという具合に省略されますし、What is important is that...のようなthat節に先行するbe動詞の場合、続くthatの方に吸収されてしまい、ほとんど聞こえなくなります。何だかどうでもいい動詞であるかのような扱いです。
それでいて、あとで説明するとおり、be動詞は英語の動詞を使用頻度でランクづけするとトップに来る動詞なのです。主な英単語8万あまりについてその出現頻度を調べることのできるwww.wordcount.orgで見ても、何とisは9番目に多く使われる単語で、その次の10番目もbe動詞の仲間であるwasです。
このようにbe動詞は、英語を習い、使っていく上で必要となる動詞のなかでも最重要動詞です。だからこそ、アメリカへの移民用の教科書その他普通の英語学習者向け教材ではまっさきに取りあげられ、不規則な活用で、おぼえにくいかも知れないけれど、ともかく暗記しなさいということになります。
しかし、その歴史的背景には滅びた三つの動詞の物語があり、そういったことを考えると、無味乾燥に思えるBE動詞も何だか違ったおもむきが感じられます。中世に何かが起きて、beon、esan、wesanという三つの動詞族が絶滅してしまったのですが、わずかに、beonがBE動詞の原形であるbeに姿を残し、esanは、isとamにその名残りをとどめ、wesanは、wasとwereに片鱗を残しています。今回は、こんな生い立ちの秘密を持つbe動詞の研究です。
★ be動詞の役どころ
おさらいしておきますと、be動詞はShe is a teacher.に見られるとおり、イコール記号と同じ役割を果たします。学校文法では、こういった形式につき、teacherは主格補語だといった言い方をしますが、要するにShe = teacher.と言っているだけです。
このような連結動詞 (copulative verbまたはlinking verb)+補語という使い方だけでなく、be動詞はただの自動詞としても使われます。とは言え、The door opened.でのopenのような普通の自動詞と異なり、必ず副詞が一緒です。例えば、The show is at 8 o’clock tonight.(そのショーは今晩の8時からだ)というふうにです。しかし、この場合も、The show = 8 o'clock.と捉えることができます。どこまでもbe動詞はイコール記号ということになります。
何であれ、be動詞はWho + Whatという英語の基本構文において、be動詞以外の動詞(いわゆる一般動詞)ともどもWhatの部分を担う述語動詞の双璧です。
これが本業とすれば、副業が二つあります。第1に、She was born in 1952.といった受動態を作る際の部品として使われますし、第2に、She is studying hard for her finals.(彼女は期末テストに向け一生懸命勉強している)というふうに助動詞として進行形などを作るのにも必要です。
英語圏への移民のための教科書は、My name is...、あるいはHow was the flight?という形で最初からbe動詞をおぼえるようになっていますが、それだけ大事な動詞ということです。子供の教科書も同じことです。
不規則動詞中の不規則動詞とも言える複雑な活用があるにもかかわらず、大事な動詞なので、否応なくおぼえさせられるのです。
★ 不思議な変化形
実際、be動詞の活用は上で述べたとおり、不規則動詞中の不規則動詞と言えるほど、複雑です。
英語での不規則動詞は200前後とされていますが、昔から何とか整理しようと、原形、過去形、分詞形と並べた上で、hit, hit, hitとすべてが同じパターン、drink, drank, drunkのように全部違うパターン、それと、have, had, hadなどのように、三つのうち二つだけ似ているパターンに分けるようなことが行われています。
しかし、こういった場合分けでも間に合わないものの一つがbe動詞です。
ここで、使用頻度で見た動詞のベストテンを見てください。
1 be
2 have
3 do
4 say
5 make
6 go
7 take
8 come
9 see
10 get
Steven PinkerというMITの認知科学の研究者が Words and Rules (Phoenix) で言うには、このうちのトップ4である be, have, do, say だけが他と違い、現在形までもが不規則変化する動詞である点、ユニークです。たしかに、be動詞ではis/areという形が現れ、haveではhasが登場し、同様に、doではdoesが、sayではsaysが各々出てきます。また、第1位の be 動詞と第6位の go に至っては、be動詞の場合は、is/areに対して、was/were、goの場合は、go/goesに対してwentと、過去形がまるで別の言葉になります。
してみると、同じ不規則動詞の中でも be 動詞がいろいろな意味で特別なのであり、したがって、一定の規則に照らして活用形を理屈で導けないからにはすべて暗記するほかないのです。だから、どんな教科書も最初からしつこく繰り返さざるを得ないのです。
★ 変化形の由来
ところで、このように複雑な活用をするbe動詞、もう一度活用形を見ておきましょう。
現在形
I am
You are
She/He/It is
We are
You are
They are
過去形
I was
You were
She/He/It was
We were
You were
They were
完了形
I have been
You have been
She/He/It has been
We have been
You have been
They have been
未来形
I will be
You will be
She/He/It will be
We will be
You will be
They will be
共通しているものをくくれば、
✓ be とその変形の been
✓ 母音で始まっている am, is, are、そして
✓ w が入っている was, were
の三つに区分できますが、これが偶然ではないのです。
Pinkerによると、古代英語の世界ではbe動詞に相当するものとして、beon, esanそしてwesanというものがあったのだそうです。その続きを私なりにそしゃくしますと、こういうことになります。12世紀から15世紀にかけて、be動詞がつかさどる分野が業界の再編成期にはいり、合併の嵐が吹き、統廃合が進みました。
そして、現在形、過去形、分詞形といった各スロット内ではいくつも違うものを並べるわけに行かないということで、各スロットには一種類だけ入れるという自然淘汰があったと言います。Pinkerは、現在形、過去形、完了形のスロットを一つの業種に見立てて、自然淘汰の過程では、ひとつの業種をどの企業(動詞)が「指定業者」として引き受けるのが争われたが、最終的には一業種一企業という形で決着したのだという趣旨の説明をしています。
この結果、最終的に、beon族が基本形のbe、その変形のbeenとして残ることができました。つまり基本形と完了形のスロットを確保できたのです。また、活用形がいずれもam, is, areと母音で始まるのが特徴のesan族は、現在形を獲得しました。最後に、活用形がwで始まるwesan族がwasとwereという形で、過去形のスロットに収まりました。
そこで、その出身母体を明らかにしながら上のリストをもう一度振り返ると、こうなります。
現在形
I am ← esan族出身
You are ← esan族出身
She/He/It is ← esan族出身
We are ← esan族出身
You are ← esan族出身
They are ← esan族出身
過去形
I was ← wesan族出身
You were ← wesan族出身
She/He/It was ← wesan族出身
We were ← wesan族出身
You were ← wesan族出身
They were ← wesan族出身
完了形
I have been ← beon族出身
You have been ← beon族出身
She/He/It has been ← beon族出身
We have been ← beon族出身
You have been ← beon族出身
They have been ← beon族出身
未来形
I will be ← beon族出身
You will be ← beon族出身
She/He/It will be ← beon族出身
We will be ← beon族出身
You will be ← beon族出身
They will be ← beon族出身
こう並べてみますと、見事に各スロットが「有力部族」間で棲み分けられている様子がよくわかります。
★ さいごに
何だかこうして見てくると動詞beの話は大河ドラマにも似た歴史のうねりを感じさせます。その一方で、歴史の気まぐれも感じます。
実は、新書か何かでbe動詞につき、人称別に分析しているものに出会ったことがあるのですが、be動詞の人称による形の違いが、こういった歴史上の偶然の産物であることを知っていれば、もっと違うことにエネルギーを注げただろうにと惜しまれます。
何であれ、私がそうであったように、みなさんもきょうからbe動詞の見方が一変することでしょう。それがbe動詞をはじめとする英文法と読者のみなさんとの距離を縮めるきっかけとなればうれしいことです。
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