2005年7月23日
英語のコースはどうつくるのか
昨年のNHKラジオ「ビジネス英会話」のテキストで5W1Hを取りあげたことがあります。5月号の第4週、会社側から応募者に質問する際、もう一歩、踏みこんで聞きたいときは、Who do you report to? (上司はどういった立場の人ですか?=指揮命令系統上、どういった人が上司になっていますか?)Why did you decide to make a career change?(転職しようと決めたのはなぜですか?)という具合に、Who, What, Why, When, Where, Howという5W1Hで質問を組み立てていくとやりやすいということで取りあげました。
この5W1Hで思い出すのが、一緒に仕事をしていたアメリカ人がアメリカでは5W1Hとは言わないと断言していたことです。そんなことで頑張って血圧が上がるのもバカバカしいので放っておきましたが、5W1Hはアメリカでも使います。ただ、言い方ないし表記としては5WIHではなく、the five W's and one Hという形の方がポピュラーです。
誰が5W1Hの「元祖」かは知りませんが、「ジャングルブック」で知られる作家のキプリングの"honest serving man"という形でとりあげられるのを見かけます。相当有名な一節と見えて、手元にあるThe International Thesaurus of Quotationsにも入っていました。
これは、キプリングによるJust So Storiesの中の一編で、I keep six honest serving men (They taught me all I knew)=私には忠実なしもべにして、私の知識のすべてを授けてくれた者どもがいる、と切り出し、Their names are What and Why and When. And How and Where and Who.と続けている詩です。
前置きが長くなってしまいましたが、新聞の記事と同じで、5W1Hは何かまとまりのあるものを順序よく作っていく場合に便利なツールで、英語のコースを組み立てるときにも使われます。
勉強されている方々も、一般にコースがどう組み立てられるのかを知ることで、選ぼうとしている英会話学校などのコースがまともかどうかをチェックするのに役立つはずです。
★ 英語のコースを組み立てるときの5W1H
英語のコースを組み立てるときの三大要素は、(a)「どういったニーズを満たすために」(b) 「何を」(c)「どのように」教えるかということです。
(a) 「どういったニーズを満たすために」教えるのかがはっきりしていないと、時事英語を勉強したい人と日常会話を勉強したい人が一緒のクラスに入れられることにもなり、支障をきたしてしまいます。このことからわかるとおり、この要素については、以下のとおり、Who, Why, Where, Whenをチェックすることが求められます。
Who → 英語を使う相手は誰なのか
Why → 英語学のように英語そのものを勉強するのか、それとも英語を仕事に使うためなのか
Where → 使う場所はオフィスなのか、ホテルなど特殊な職場なのか
When → 英語を使う頻度はどの程度なのか、さしせまったニーズがあり、それに応える必要があるのか
(b) 「何を」教えるのかという到達目標が明示されている必要があります。これがはっきりしていないようでは、そこに行くまでの道のりも当然のことながらはっきりしません。
学校教育を含めて、伝統的に英語のコースは、品詞分類から始めて、センテンスの作り方、次いで動詞の時制といった感じで進みますが、最大の難点は、今週、過去完了を教わったからと言って、職場での英語をすべて過去完了で通すわけにも行かないわけで、浮き世離れしていることです。
一方、「使える英語」として近年、強調されているのは、話し手または書き手が置かれている状況にそくした英語です。助言するためにはどういった言い方が普通なのか、同意するときはどうか、あるいは反対するときはどうかといった状況別のフレーズが中心になります。いわゆるコミュニカティブ英語の世界です。
しかし、ここで誤解してならないのは、以前の記事でも触れましたが、コミュニカティブ英語は文法を会得していることを前提に、次のステップの話をしているわけで、「使える英語」に出てくるフレーズをすべて暗記すれば、もう大丈夫ということではありません。
そこで、最新の教材は、特にビジネス英語の教材は、伝統的な文法事項と状況別に必要な英語を組み合わせるように工夫されています。例えば、LongmanのMarket Leaderというシリーズの一冊、Business Grammar and Usageの目次を見ますと、前半は、Present tenses, Past tensesというふうに、オーソドックスですが、後半は、Functionsという項で、Advising, Agreeing and disagreeing, Asking for informationなどを扱い、Focusing on informationという項では、Adding and combining information, Emphasisingなどを取りあげ、最後のBusiness Communication Skillsという項では、Managing a conversation, Negotiating, Presenting figuresなどに焦点を当てています。
(c) 「どのように」教えるかという点は、おそらくは学校および教師というサービスを提供する側の体質ないしレベルを一番よく示す要素だと思います。
This is a pen.に続けて今度はThese are pens.というふうにパターンに即して「代入」を練習するパターンプラクティスあるいは「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ」と説く行動心理学をベースにしたオーディオリンガルと呼ばれるメソッドがはやったあとは、チョムスキーという大物が登場したところで、流れが変わります。それまでの流れ、つまり、パブロフ的条件反射ないし刺激と反応を念頭におきながら、語学は習慣形成で機械的におぼえよというそれまでのスタンスが見直されます。
人は一定のルールを見いだしては、それを初めて出会った状況に適用して学習していくのだから、英語学習法もそれにあわせなければならないという見方が台頭してきたのです。それまで学習者を「学ぶ人」とは見ずに、むりやり「英語回路」を頭の中に突っ込もうとしていた姿勢を変えて、「学ぶ人」なのだから、問題解決型の作業を通じて英語を習得させる方向に転じたと言えます。
この転換は、「英語を学ぶ」という姿勢から「英語で学ぶ」という姿勢への転換でもあり、典型的教材を見ると、何か一般的な理屈、例えば、一パラグラフ程度で第一産業から第三次産業へという経済の変化を説明したあとに、Is cutting down an extractive industry? (森林伐採は採取産業と言えますか?)といった設問に答えさせたりしています。
こういった転換は、たしかに学習者が「学ぶ人」「考えることのできる人」であることを認めるようになった点は前進でしたが、学習者の心理ないし動機づけはまだ考えに入れていません。こういったことへの問題意識がない教師は、「先週、仮定法の使い方を教えたのに、もう忘れているのはどうしたことか」と怒るだけで終わってしまいます。
ここで要求されるのは、学習者がどういう動機で英語を勉強しようとしているのかという点に目を向ける姿勢です。つまり会社から強制されているとか、仕事上必要だという外部的なneedsが大きいのか、あるいは自分の世界が広がる、英語の本が読めて楽しいといった個人的なwantsの方が大きなウェイトを持っているのかということです。
★ 大事なのはコースの到達目標
コースを組み立てていく上では、何を勉強するのかというWhat?が、何のために勉強するのかというWho? Why? Where? When?が、そして、どのように勉強するのかというHow?が具体的な道しるべとしては重要ですが、どういうコースなのかをもっとも良く示すのはWhatの部分でしょう。
例えば、文法中心の学校教育での英語は、英語そのものを勉強の対象にしていますから、そのコースを終えて身につくのは、いわば名詞、動詞あるいは関係節といった部品の名前程度です。文法をきちんとマスターしている限り、次のステップは、状況に合わせて自分なりのメッセージを相手に伝えるスキルの会得ですから、その段階にある人は、英語そのものではなく、英語の運用能力の習得を対象とするコースを選ぶ必要があります。
このことからわかるとおり、英会話学校その他での英語プログラムの中身を吟味する際は、まずは到達目標がどうなっているかを確認することです。それすら明示されていないようなものは論外です。
到達目標が示されている場合も、通じる英語を身につけたいのであれば、コミュニカティブ英語に重点を置いて、英語がどう使われているかを伝えようとするコースなのか、あるいは、コミュニカティブ英語を目安としながら、その種の英語を使いこなすための文法事項にまで目を配っているコースなのかなどをじっくりみきわめる必要があります。
ネット上の私的な英語指南サイトやらまちの語学学校の内容をのぞいて感じるのは、使われている英語の姿を論じる側面と、そのような英語を身につけて運用するためにはどうしたらいいのかという側面を区別しないまま、勉強している人たちに、ああせい、こうせいと講釈をたれているケースが多いことです。
今回の記事がよかったと思われた方、よろしかったら、これをクリックして知らせてくださいませんか。人気blogランキングへ
- [英語]
- Comments (0)
- Trackbacks (0)
Trackbacks
Trackback URL:
