2005年8月20日
英文契約書の読み方(2):Whereas条項
前回、契約書の当事者の表示のところを説明しましたが、今回は、その次に出てくるWITNESSETHという言葉の意味、それとWHEREASで始まる部分(前回の「契約書の姿」での第2ブロック)の役割を見ていきます。
★ WITNESSETH
契約が誰と誰とを当事者としているかを示したあとで出てくるのがこのWITNESSETH。だいたいはセンタリングしてあって、まんなかにドンと置いてある感じです。しかも当事者の表示の頭と同様、すべて大文字で。ときには、WITNESSETH: という具合にコロンがくっついていたり、THATが入って、WITNESSETH THATという形だったりもします。
意味は、古い英語で、witnessつまりprove(証する)ということであり、最後がthになっているのは古い英語では三人称単数を示すsがthだったからだそうですが、この動詞の役どころは、THIS AGREEMENT PROVES THAT...(この契約書は以下の事項を証する)という一句の述語動詞の部分を担うということにあります。そして、続くTHAT節の中身が、「第1条、何々」という格好で並ぶ契約書の本文です。
こういったwitnesseth、そして、これに続くwhereas条項と称されるものがない、あっさりした契約書の場合は、こういったものに代えて、「上記当事者は以下のとおり合意した」という趣旨の一句が入っているのが普通です。
よく見るのは、次のようなものです。
IT IS MUTUALLY AGREED AS FOLLOW:
THE PARTIES HERETO MUTUALLY AGREE AS FOLLOWS:
すべて大文字です。契約書の場合、重々しさを出すためなのでしょうが、要所要所をすべて大文字の文字列で固めるという習わしがあるようです。
なお、上の1文は、whereas条項を入れにくい、和文の契約書を英訳するときに便利なので、自分ではよく使っていました。何だかそれっぽくしあがりますし。
★ WHEREAS 条項 (第2ブロック)
WHEREASは、法律文書においては、taking into consideration the fact that...(that以下の事実に鑑み)という意味で使われる言葉ですから、この部分には契約締結に至った理由が書かれています。イギリスの契約書では、recitalsと言っています。
サンプルがないとわかりにくいので、http://www.iijnet.or.jp/NORI/index.html(乗杉弁護士は国際取引の専門家である一方、現在、NHKを相手に「武蔵」は黒沢作品の盗用だとする訴訟を進めている黒沢プロダクションの代理人として有名な方です。このサイト、法律英語関係の役立ち情報、満載です)の契約書フォーム集にある機密保持契約をのぞいてみますと、こんな感じです。
WHEREAS, Client wishes to engage the services of X in ___________________ activities (hereinafter referred to as "the Purpose");
WHEREAS, X and Client are willing to disclose their proprietary data or other information to each other for the Purpose; and
WHEREAS, X and Client desire to enter into a confidentiality agreement which provides for the confidentiality of such information disclosed by each party hereto to the other party.
訳すと、こうなります(なお普通、こういったWHEREASの部分はWhereasという言葉を強いて訳さないか、あるいは、単に見出しとして「Whereas条項」と書いてから、中身を訳出するというのが一般的パターンのようです)。
本件クライエントは、何々(以下「本件契約目的」と称する)につきXに業務の提供を依頼したいと欲している。
Xおよび本件クラインエントは、本件契約目的のため、各自が有する財産的価値のあるデータその他の情報を相互に開示する用意がある。
Xおよび本件クラインエントは、機密保持契約にして、本契約当事者が相手に開示する上記情報の機密保持につき定めるものを締結したいと欲している。
Whereas条項は決して飾りではなく、条項の解釈上、当事者の意思がどういうものであっったかを考えるときのよりどころとなる上、のちにWhereas条項の記載事項と矛盾する行動があれば、損害賠償の問題ともなりうると説明されています。
おもしろいことに、日本人弁護士が英語で作成するWhereas条項の中には、ときに、「Xはすばらしい特許技術を有している、Yはそのすばらしい特許技術を利用して売上げを飛躍的に拡大したいと欲している」といった感じの、芝居がかったというか、おおぎょうなものがあり、楽しめたりもします。
ところで、考えてみると、契約書本文の前に締結の趣旨を長々と書くスタイルはいかにも英米法の契約書という感じがするもので(その意味では日本国憲法のスタイルも個人的には抵抗をおぼえます)、このスタイルは元々、国内での契約の書式を流用している国際条約でも踏襲されており、preambleという形で入っています。
国連憲章を見ても同じですが、例えばEUの基本文書であるマーストリヒト条約の場合は、こうなっています。http://www.europa.eu.int/eur-lex/en/treaties/dat/EU_treaty.html#0001000001
RESOLVED to mark a new stage in the process of European integration undertaken with the establishment of the European Communities (欧州共同体の設置により進められてきた欧州統合において新たな局面を切り開くとの決意のもと)
から始まって、以下、RECALLING, CONFIRMING, DESIRING, DESIRING, RESOLVED , DETERMINED , RESOLVED , RESOLVED, REAFFIRMING, RESOLVED, IN VIEW などで始まる同じようなセンテンスが並んだあと、ようやく、次のセンテンスでしめくくっています。
HAVE DECIDED to establish a European Union and to this end have designated as their plenipotentiaries: (欧州連合を設置することを決め、これに向け、以下の者を全権代表に指名した)
このくだりは加盟各国の元首つまり王様や大統領たちの名前がずらずらと並んでおり、壮観です。
(続く)
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技術翻訳しか経験のない私が、いきなり契約書を…と依頼されて、藁にもすがる思いで熟読しています。世界が違うっていうか、理路整然としながらも独特のワールドですね。今後とも宜しくお願いします。
[返信]
こんにちは。だいぶ前に書いたものですが、役立っていると知り、うれしいことです。ちなみに、新刊の「ビギナーのための法律英語」(慶應義塾大学出版会)の方が丈夫なワラですので、お試しください。
- 岡ちゃん
- 2007年11月28日 14:48
助かりました。普通の辞書には出ていない用語ばかりですので。
また、お世話になるかもしれません。ありがとうございました。
[返信]
近々、この分野の本を慶応大学出版会から出させてもらう予定です。渉外弁護士に協力してもらった、たしかなものですので、ご期待ください。
- 匿名
- 2007年9月10日 20:33

はじめまして。技術翻訳者のたまごです。
トライアルでwhereasばっかりの文章が送られてきたので
訳し方が分からず、検索したらここに行き当たりました。
契約書だったんですね。(私のレベルはその程度です。)
大変参考になりました。ありがとうございます。
[返信]
コメントありがとうございます。それにしても、whereasをいきなりとは、何だか不人情も甚だしい感じで、お察しします。技術翻訳者として成功するといいですね。