2005年9月 9日
(c)という著作権の表示にはどういう意味があるのか
(c)でおなじみの、著作権を表示するマーク(以下「マルシー」と呼びます)。本の奥付やウェブサイトの下の方に入っているので、よく目にします、著作物として法的な保護が保障されていますという合図です。著作権が成立していますよ、正当な方法での引用ならともかく、自分の著作かのように振る舞ったり、そのまま転載したりすると著作権侵害 (copyright infringement) になりますよ、という著作権者による権利主張ということでもあります。
それでは、このマークを付けないと著作物としての保護が受けられず、著作権侵害があっても文句が言えないのかと言えば、そんなことはありません。その意味ではマルシーはただの惰性というか、慣行で人々が何も考えずに付けているだけという代物です。一般に著作権は登録したり、こうした表示をしなくても、原稿が確定した段階で自動的に発生し、法的保護を受けられるものとなるのです。
そうだというのに、自分で会社を経営しているような人と話をしていても、マルシー記号が付いていないと著作権が認められないと誤解している人が多く、書面にしないと契約は成立しないという誤解と並んで、二大迷信のように思えるぐらいです。
ところで、このマルシー表示は何かと言えば、Copyrightという単語の代用品として使われるもので、著作権の表示の部分をよくご覧になればわかるとおり、正式には、Copyright+発行年+著作者名という三点セットの形で使うべき表示の一要素です。
細かなことですが、一般にCopyrightの部分はCopr.または (c) でもよいとされていますので、Copr. 2005 Kiyoto Hinataでもいいし、(c) 2005 Kiyoto Hinataでもかまわないということになります。このように (c) はCopyrightと表示することに代わるものですから、Copyright (c) 2005 Kiyoto Hinataはだぶっており、変だということになりますが、世間ではまかりとおっています。もともとあまり意味のない表示なのですから、こだわる必要もないでしょう。(実は自分が関わっているサイトの下の方にもダブリがあるのですが、IT関係の人は、こういう話をしてもわかってくれませんから、放ってあります)
★ (c) のありがたみは何か
(c) のありがたみは何かと言われた場合、格別ない、というのが私の理解です。強いて言えば、こういった記号を付けることで、権利の上に眠っていたと非難されることを免れ、あるいは、権利者だとの推定が働くことぐらいではないでしょうか。意味もわからないまま決まりごとして付されているマークが世の中にあるもので、その代表格が著作権の表示として使われている、マルシーでしょう。
それでは、なぜこういったものが使われるようになったかと言うと、どういったものを著作物として保護するかという点をめぐる無方式主義と方式主義という二大流派の争いの名残りなのです。無方式主義というのは、いちいち登録やら著作物の官公署への提出といった手順を踏まなくても、著作物が成立した段階で自動的に保護を与えましょうというアプローチです。方式主義はこれの反対で、登録、提出といった面倒な手続をした権利者だけを保護しましょうというアプローチです。
[注記 ここで言う無方式主義だとか方式主義を英語でどう言うのか気になりますが、私自身はいまだに、これが対応する英語を見たことがありません。訳せと言われたら、ことの実態に即して、無方式主義は、the principle that copyright protection is granted automatically 、方式主義はthe principle that requires registration for copyright protectionとして、再度出てくるときは、どうせその場限りのものですから、適宜、automatic principle vs registration principleで通すことでしょう]
著作権保護の元祖的条約は1886年に成立したベルヌ条約 (Berne Convention) です。正式名称はBerne Convention for the Protection of Literary and Artistic Worksで、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」と訳されています。わが国も不平等条約撤廃のための国内法制整備の一環として大急ぎで著作権法を制定した上、1899年にこの条約に加入しています。
ところが、この条約はヨーロッパ大陸諸国を中心とする無方式派の考え方にしたがったもので、あとで説明するブエノスアイレス条約が求めるような権利主張のための記載はおろか、何らの著作権表示も必要でなく、強力な著作権保護を認めています。そこで方式主義を取るアメリカや中南米諸国は加入せず、パンアメリカン条約を中心に、登録、著作物の届出、そして一定方式による著作権表示を要求する自分たちだけの世界を作ってしまいます。
しかし、これでは、ベルヌ条約加盟国の著作物はいちいち面倒な手続を経ないとアメリカや中南米諸国では保護が受けられず、不便です。そこでユネスコの肝いりで、1952年、ベルヌ条約の強力な著作権保護を若干薄めた万国著作権条約 (Universal Copyright Convention)が取りまとめられ、ベルヌ条約加盟国も、マルシー表示+著作権者名+最初の発行年という三点セットを「一体的表示として」(つまりバラバラにするなということ)を本の題号ページか次のページといった適当な場所に表示さえしていれば、アメリカなどの方式主義の国でも保護が受けられるとしました。
このように、万国著作権条約の要件を満たす表示法としては、CopyrightでもCopr.でもなく、(c)であることが求められている点は雑学として知っておく価値があるかも知れません。このくだりは、条文上は、こうなっています。いわく the symbol of a lower case "c" inside of a circle accompanied by the name of the copyright proprietor and the year of first publication placed in such manner and location as to give reasonable notice of claim of copyright(円の中に小文字のcが入っており、かつ、著作権所有者と最初に発行された年が付記されている記号にして、著作権者である旨の通知として妥当と言える態様および場所により配してあるもの)。
してみると、よく見かける、(c) 2002-2004 XYZ Inc.のようなる表示は、発行年がいくつもあるように読めるし、あるいは複数年にまたがっているようにも思え、この条文の文言に照らして言えば、要件を満たしていないということになるでしょう。そもそも意味不明です。でも、よく見ますよね。きっと書いた本人もたいして意識していないことでしょう。
いずれにしろ、マルシーは、無方式主義の国の著作物が方式主義の国での保護を受けるための条件という、一時しのぎ的というか便法でしかなかったのです。ですから、その後、方式主義のアメリカが転向して無方式主義のベルヌ条約に加入し、中南米諸国もほとんどがならうに至るや、その存在意義が失われてしまいました。1989年のことです。
今でもマルシーが意味を有するケースがあるとすれば、万国著作権条約には加盟しているが、ベルヌ条約に加盟していないような国だけの話となります。しかし、これに該当する国など、わざわざ調べなければならないほど数も少ないわけで、おぼえている限りでは、サウジアラビアを初め世界でもわずか数カ国のはずです。
しかし、おかしなもので、本来は無用の長物であるはずのマルシーなのに、今でも、人々はせっせと著作物に付し続けています。
★ All rights reserved.
無用の長物と言えば、著作権表示の部分に、(C) 2005 Kiyoto Hinata All rights reserved.と書いてあったりしますが、このAll rights reservedも、意味を失っているのになぜか使われ続けている不思議なフレーズです。幸い、今まで一回も訳す羽目になったことはありません。ただ、訳せと言われたら、「不許複製無断転載」か、記号なんだからということで、そのままAll rights reserved. にすることでしょう。
この言葉が使われるようになった背景はこうです。米大陸諸国が1910年に締結したブエノスアイレス条約が著作権の保護を受けるためには、There shall appear in the work a statement that indicates the reservation of the property right.(所有権を留保する旨の記載が著作物上表示されていること)としたので、締約国内で発行される物にAll rights reserved.またはスペイン語でこれに相当するTodos derechos reservados.のいずれかの表示が付されるようになったのです。
ということは、この条約の締約国内で初めて発行された著作物との関係においてだけ、この表示が付される意味があるということです。条約は国家間の合意ですから、当事者でない国の人間がその合意に基づく利益を得たり、不利益を科されたりするはずがありません。イギリスでの刊行物にこうした記載があるのはどうかしています。日本も、もともと、この条約の加盟国ではありませんから、わが国で制作されたものに、こうした表示を付するのは無意味でしかなく、何らの効用も期待できません。
一方、このブエノスアイレス条約の締約国は最終的に上で説明したベルヌ条約か万国著作権条約のいずれかに加盟するに至っていますから、後法は前法を廃する (A later law prevails over an earlier law.)というルールにより著作権保護の条件として特別な表記を要求するブエノスアイレス条約は効力を失っています。
してみると、実際上、ブエノスアイレス条約の締約国にとっても、今なおAll rights reserved.という記載にこだわる理由も必要も一切ないということになります。例外的に中米のニカラグアとホンジュラスに関しては一定限度ブエノスアイレス条約が生きるケースがあり、その限りでは、この表記が意味があるのだという話を聞いたことがありますが、あまり実益のある話ではありません。
★ まとめ
結局、われわれがよく目にするマルシー表示は別段意味がないのに、惰性で使われており、その意味ではAll rights reserved.という記載も同じだということです。著作権保護を目的とする条約の移り変わりのプロセスでの残りかすであり、ゴミのようなものが、今なお書物やウェブサイトのトップページの一角に鎮座ましましているのです。変な話です。
なお、混同するとまずいのは、(R)つまりマルアールと呼ばれる登録商標であることの表示です。これは本誌7月28日号の(R)とTMの意味の違い:商品名の右肩にある権利主張の世界で説明したとおり、あるとないとでは大違いです。
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日向清人のビジネス英語雑記帳:(c)という著作権の表示にはどういう意味があるのか
Comments
上でMS-DOSについて言及されていますが、同じくマイクロソフトが開発したNEC PC-8001のBASICが起動時に、
NEC PC-8001 BASIC Version 1.0
Copyright 1979 (C) by Microsoft
というメッセージを表示するのがCopyrightと(C)を両方とも表記する走りかと思われます。
[返信]
なるほど。貴重な情報、ありがとうございます。ちょっと気づかない話ですね。
- 年寄
- 2010年8月 7日 02:06
はじめまして。
いつも何気なく目にしている、使っている表記でも、その背景を知っているのと知らないのとでは随分自分自身の意識が変わってきます。
とても勉強になります。ありがとうございます。
ところで、1点お伺いしたいのですが、本文中に
>正式には、Copyright+発行年+著作者名という三点セットの形で使うべき表示の一要素です。
例として
>(c) 2005 Kiyoto Hinata
とありますが、
前の方のコメントへの回答で、
>何となく何か書いておきたいなら、「マルシー表示+著作権者名+最初の発行年という三点セットを」ということですから、
>Copyright ではなく、(c) を使って、
>(c) ABC Inc. 2008
とあります。
そもそも意味がないとはいえ、「何となく何か書いておきたい」場合は、「著作権者名」と「最初の発行年」の順番はどちらでもいいのでしょうか。
[返信]
うかつでした。[返信]のほうの書き方が間違っています。たしか、条約上書き方が決まっていて、マークのあとはまずは発行年、最後に著作者名です。丁寧に読んでくださり、ありがとうございます。
- 一般社員
- 2010年7月 8日 16:12
Co., Ltd.からこちらに飛んできましたが、
興味深く読ませて頂きました。
当初深い意味はなくても、慣用化してしまうとそこから
逃れられない、というのは面白くもあり、恐ろしくもあり。
私が(c)を意識したのは、たしか80年代にMicrosoftの
Operating Systemに記載されていて、一斉にProgrammerが真似したという印象があるのですが、それ以前から書籍などに
(c)はあったんでしょうかね。
書籍などならともかく、プログラムは簡単にコピーできたりしたので記載するようになったのではないか、というのは私の推測ですが。
[返信]
コメント、ありがとうございます。
手許に1964年刊のA Handbook of English Usageがありますが、それには、(c) John Tennant 1964 と入っていますから、こと書籍に関しては80年代より前から慣行として定着していたようですね。
たしかにソフトは簡単に同一物を作り出せますから、特別権利を主張したいという思いは強かったのかも知れません。
- catenin
- 2009年7月29日 06:25
お答えいただき有難う御座いました
とても勉強になりました
[返信]
どういたしまして。
- (?o?)
- 2008年9月16日 00:04
ということは、Copyright (C) 2000-2008 ABC Inc. All Rights Reserved.の場合
Copyright ABC Inc.だけでも良いということでしょうか?
それともABC Inc.だけでよいのでしょうか?
[返信]
「このマークを付けないと著作物としての保護が受けられず、著作権侵害があっても文句が言えないのかと言えば、そんなことはありません」とありますから、そもそも何も書く必要がありません。
ただ、何となく何か書いておきたいなら、「マルシー表示+著作権者名+最初の発行年という三点セットを」ということですから、Copyright ではなく、(c) を使って、
(c) ABC Inc. 2008
という格好になります。
- (?o?)
- 2008年9月14日 21:40
ちょっとこのエントリとは離れてしまうかもしれませんが,日頃疑問に思っていることについて,ぜひご見解をいただきたく,コメントを入れさせていただきました.
何とぞご容赦ください.
以下,本題です.
英語社名に Co., Ltd. を使っている企業の著作権表示は(日向さんが別稿で指摘されているコンマの有無はとりあえず置いておいて..),
(c) 2008 XXXX Co., Ltd. All rights reserved.
となっていることが多いです.
一方で,Corporation を使っている企業の場合は,
(c) 2008 YYYY Corporation. All rights reserved.
となっていることが多いです.
ご見解をお伺いしたいのは,Corpration のあとにピリオドが入るなら,Co., Ltd. のあとにもう1つピリオドが入るべきなのではないか,ということです.
Ltd. のピリオドは,Limited の省略形であることを表すピリオドですので,句点ではありません.
一方,Corpration. のピリオドは Corpration が省略形でないことから句点であるはずです.
以上から,Co., Ltd. の場合には,
(c) 2008 XXXX Co., Ltd.. All rights reserved.
となるのが正解なのではないか,というのが私の主張なのですが,いかがでしょうか?
[返信]
こんにちは。
(c) 2008 XXXX Co., Ltd..
という書き方は普通しません。というのも、文末が省略記号としてのピリオドで終わるときは、その省略記号のピリオドが文末を示すピリオドとの一人二役をすることになっているからです。これは以下のような例を考えると簡単におわかりになると思います。
NOT The meeting closed at 10 p.m..
BUT The meeting closed at 10 p.m.
- 内藤 大介
- 2008年4月18日 09:54
まあ、一行に収まる程度の表記なら、意味があってもなくても、つけといて損はないと思います。「気持ち統一」くらいのノリでつけとけば、なんか締まるし。逆に企業のページだとついてないと違和感を感じるくらいの勢いのものに成り上がってますね。
このご時勢、無駄に普及したものを覆すのはほぼ無理だなと、改めて思いました。
本来の情報を知ることが出来てよかったです。もっとみんなが知れば変わるかもしれませんね。Co.,Ltd.しかり。
[返信]
コメントありがとうございます。おっしゃるとおり慣行の力はすごいですね。
- 匿名
- 2007年10月10日 20:58
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- 2006年9月23日 06:00
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- Austin
- 2006年9月23日 06:00
落ち着いたあたりでコメントだー。
コメントの返信で
>意味はないのに、男性諸氏がネクタイという名の奇妙な布切れを首からぶらさげている
とありますが
元々意味は無かったとしても、今では無いと困ります。(大抵のお偉いさんに「失礼な奴」と思われる)
それは意味が出てきたからではないでしょうか。
と変なところにツッコミしておきます。
[返信]
コメントありがとうございます。そういったお偉いさんたちもクールビズで意識改革を迫られているのではないでしょうか。私の見るところ、同じお偉いさんでも、ノーネクタイだと悲しい失業者にしか見えなくなる人、つまりノーネクタイでの着こなしが出来ない人に限ってネクタイにしがみつく感じがあります。また、前者のように硬直したものの見方しかできない人は、社内でも浮いているというのが私の観察です。
- kng
- 2006年8月27日 09:03
仰るとおり著作権の発生は主張とは無関係ですが、それとは別に著作権者の明示はあった方が好ましいです。特にWebのような媒体では、ひとつの著作物につき様々なアクセス方法があるので、意図的にかなりしつこく(全頁の所定の位置に統一した表記をする等)表示しないと、明示の目的が達せられません。
現在の(c)表記は、単に著作権者の明示のスタイルとして普及しているということじゃないでしょうか。そのスタイルの由来となった事柄と無関係でも一向に構わないというか、むしろ歴史的にはよくあることでしょう(それこそネクタイと同様に)。
別にどういうスタイルで明示しても伝わればよいのでしょうが、ビジネス文書の様式みたいなもので、ここに書けば差出人のことであるという暗黙の了解があればこそ、イチイチ「差出人:某」と書かなくて済むという便利さがあります。Webでは文書より自由度が高いので、場所指定で暗黙のお約束が成立するわけでもなく、簡易なスタイルで著作権であることが伝わる記号が必要です。というわけで、私見ですが、(c)はよい解じゃないかな、と思ってます。
登録商標と(R)マルアールなどの関係も同様ですね。
[返信]
コメントありがとうございます。おっしゃること、ごもっともです。自分の書き方がいけないのかも知れませんが、(c) 表記をやめろと言っているつもりはありません。ただ、誰も意味を考えもせずにもっともらしく使っているのが何だかおかしくて、という程度のことです。
- czy00347
- 2006年8月23日 20:47
というわけでこのページ最下段を見てみましょう。
[返信]
コメントありがとうございます。私はアルクさんの軒を貸してもらっているので、とやかく言う立場にありません。ただ、仮に自分のサイトであったとしても意味のないマルシーを入れておくことでしょう。意味はないのに、男性諸氏がネクタイという名の奇妙な布切れを首からぶらさげているのと同じです。
- teja
- 2006年8月21日 11:56

年寄りにはIntelが8086プロセッサに(C)と書いていなかったためにNEC V30との訴訟に負けたってのが結構強く記憶に残ってますね。
[返信]
判決理由にそう書いてあったのでしょうか。(c)は本文で説明したとおり著作権の成立を左右しませんから、ちょっと意外です。