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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2005年9月 5日

タックスヘイブンは税金天国なのか

経済記事などで折々目にするタックスヘイブン、英語がそのまま使われています。しかし、英語に関心がある方でも、タックスヘイブンの意味がわかっている方は少数派でしょうし、どの国あるいは地域がタックスヘイブンとして有名かまで言える人となると、もっと少ないことでしょう。そこで、きょうはそのあたりをざっと解説します。

★ タックスヘイブンとは何であって、なぜ問題なのか

タックスヘイブンは、訳す場合は「租税回避地」とされますが、所得税がゼロまたは税金はかかるけれど、税率が先進国に比べてひどく低い国または地域を指します。

音が似ているため、レベルの低い勘違いとしてはタックスヘイブン=tax heaven=税金天国というものも見聞きしますが、英語ではtax havenです。このhavenは、sanctuaryと同じで「難を逃れるために身を寄せる場所」ということであり、先進国の高い税率を逃れて、およそ税金がかからないか、かかっても極端に低い税率の国へと避難する動きを表すべく、tax havenと称されています。

わが国でも有名な例としては、ウィンブルドン5連覇で知られるテニス選手のボルグが世界でも指折りの高税率で知られる自国スェーデンでの納税を嫌がって、モナコに移住したケースがあります(後日談ですが、実はストックホルムの高級マンションに一家で住んでいることが発覚し、税務当局に居住している (have residency)と認定されたことから、裁判で争っていましたが、結局、訴えを取り下げました)

また、2001年に倒産したエネルギー企業のEnronも、巨額の利益があったというのに、何年も連邦法人税を納めずに済ませており、それとのからみでタックスヘイブンを利用した企業の節税策の是非が改めてクローズアップされています。エンロンの場合、ややこしい経理操作の舞台となった関係会社のうち相当数があとで説明するオフショア法人で、その大部分がケイマン諸島法人でしたから、また、あのタックスヘイブンで有名なケイマンかということで、マスコミも大きく報じていました。

こうした個人や企業レベルの不正にタックスヘイブンが利用されることに加え、今や国際正義に反する問題にもなっています。貧困撲滅を目指す国際人道団体として知られるOxfamがまとめた報告によるとタックスヘイブンに流れ、したがった先進諸国の税務当局がとりっぱぐれた金額は少なく見積もっても500億ドルであり、これは、開発途上国向けの援助の額に引き直すと一年分だと言います。http://www.oxfam.org.uk/what_we_do/issues/debt_aid/tax_havens.htm たしか、サブサハラ諸国が先進国からの借款(貸付金)への利子として払う額が年間およそ100億ドルですから、これの5年分です。とんでもない金額です。

結局、構図としては、大企業が税負担を免れ、そのあおりで一般の人の実質的負担が増え、あるいは本来受けられた利益を受け損なっているということで、メディアで大きく取りあげられることの多い問題なのです。もちろん、大企業側は、タックスヘイブンを利用しているおかげで、コストを節減し、いいモノを安くお届けすることが可能になっていると反論しています。

★ オフショア法人とタックスヘイブンの関係

オフショア法人というのは、軒先を貸す感じで、自国内(自治領や州であればその領域内)で営業をしない限りは法人所得に課税しませんという国(または領域)で設立された法人を言います。そういったことでは税収が得られないのに、なぜそんなことをと思われるでしょうが、何も産業のない貧乏国にしてみれば、海外企業による自国内での法人設立に際して登記の料金が入りますし、設立後も毎年、登記の更新費用が入りますし、安定収入を確保できるといううまみがあります。

当然、海外の企業が「来やすい」ように、現地での法人設立手続もひどく簡単です。昔、バハマでの法人設立を手伝ったことがあるのですが、設立手続を代行するエージェントに連絡するだけで、すぐに会社を作れます。設立手続を済ませており、既に会社として存在しているものの中から選べる「既製品コーナー」もあり、すぐに会社が欲しい場合や、社歴のある会社が欲しい場合に便利です。

こういうエージェントが持っている、登記済みの会社の中には、わが国の株式会社を示すK.K.のついたものまであって驚かされました。当然、わが国で登記しようとしても法務局が拒絶するでしょうが、海外で名称を使っている分には、日本の会社の「ふり」ができます。同じことで、フランスの株式会社を表すS.A.、ドイツ版株式会社のA.G.など、よりどり見取りです。お目当ての国のものがなければ、何とかplcとかいう会社を新たに設立してしまえばいいだけです。デタラメな世界です

デタラメついでに言えば、こうしたオフショア法人の誘致で飯を食っている国の中には、中米のベリーゼのように銀行の設立まで認める国まであります。数百万円はかかりますが、設立してしまえば、国際的な銀行の通信網なども利用できますから、マネーロンダリングや違法送金などやり放題です。

もっとひどいデタラメ話として、このベリーゼという国はパスポートまで売っています。5万ドル払うと、「経済市民権」なるものが付与され、日本に住んでいても、この市民権に基づいてベリーゼ国のパスポートが持てるという寸法です。

冒頭で説明したとおり、域外での企業活動からの法人所得は非課税という制度つまりオフショア法人制度を持つ国または領域は、タックスヘイブンとは一応別ものです。アメリカのデラウェア州のように、域外での所得に関しては課税しないけれど、域内での所得に対しては、一般的な税率で課税する領域は、オフショアではあるけれど、タックスヘイブンではありません。

しかし、実際は、タックスヘイブンとされている国はたいてい、安く、簡単に会社を作れるオフショア法人の制度を用意していますから、オフショア=タックスヘイブンと言っても、当たらずとも遠からずといったところでしょう。

なお、金融の世界で言う「オフショア」は「オフショア市場」のように、単に「非居住者向けの」という意味だったり、「オフショア・ファンド」でのオフショアのように、それが売られている国の外に本拠があるという意味であり、例えば、アメリカで売られているミューチュアルファンドのうち、その本籍がケイマン諸島にあるようなファンドは「オフショアファンド」と呼ばれています。

★ タックスヘイブン=節税に非ず

タックスヘイブンを利用して税金を逃れることはまずできないと思っていたほうが賢明です。もともと海外の外貨建て預金の利子は総合課税の対象ですし、タックスヘイブンに会社を設立しても、出資比率が50%を超えていれば国内の所得と合算されるという具合に、税法上、規制の網がはりめぐらされているからです。

国際的事業の必要上、正当な理由でタックスヘイブンに子会社を持っている会社でも、税務当局は、最初から色眼鏡で見ていますから、タックスヘイブン税制の運用上の不利益を被らないよう、「適用除外要件を満たしている、経済実態がある」(注記)と認めてもらうのは至難の技です。実際、知り合いの会計士は、現地のオフィスで、その会社の帳簿とわかるものを机の上に開いて作業している様子を撮影して、補強証拠として提出したと言っていました。そのぐらい、お上の姿勢は厳しいのです。そのへんの専門家で間に合う話ではありません。

(注記:主たる事業を行うために必要な事務所、店舗、あるいは工場といった固定的施設を持っているようなケースでは、そもそも租税回避行為には当たらないということで、タックスヘイブン対策税制の適用を受けなくて済むようになっています)

ところで、なぜわが国を初め、先進諸国、言い換えればOECD加盟国がタックスヘイブンを目の敵にするかと言えば、一つには、普通の国家にとり唯一最大の収入源である税収のモトが自分たちの手の届かない所に流出するからであり、他は犯罪組織がからむケースが多いからです。

このことは、OECDが何をもって「有害税制 harmful tax practice」としているかを見るとよくわかります。先進諸国の税務当局が敵か否かを見分ける基準としているものを、お上のココロを含めて示すとこうなります。

● Little or no income tax(所得税ゼロまたは低い所得税率) ← こっちに入る税金がそっちに流れちゃうじゃないか!納税者が減ったら、その分まじめに納税している人たちにしわ寄せが行くから絶対許せん!

●  Lack of effective exchange of information(実効ある情報交換の不在) ← 会社の実質的所有者 (beneficial owner) が誰であるかを教えてくれないようでは話にならん。登記されている会社の決算書も自由に入手したい。これはマネーロンダリングを規制する上でも重要だ。

● Lack of transparency(透明性の欠如) ← 法的な枠組みだとか、行政機構、特に法人に対する監督行政がどうなっているか外からわからないようでは、話にならないし、資料をもらってもどこまで信頼できるかがわからない。

● Attracting business with no domestic activities(本国において活動の実体がない企業の誘致) ← 暴力団、麻薬組織がまっとうな企業のふりをしてやってくるのを受け入れるな。

この判定基準に照らしてブラックリスト入りすると、先進国側から次のような嫌がらせを受け、ゆさぶりをかけられます: 非協力的な国との取引との関係では普通だったら認められような控除などを認めない。非協力国の居住者向けの支払からは一定割合の源泉徴収を行う。二重課税を防ぐための租税条約が既にある場合は、それを打ち切り、あるいは制限する。

しかし、有害税制ありと烙印をおされた国にしてみれば、現代国際社会が互いに平等な主権国家から成り立っている以上、どんな税制によろうと自分たちの勝手だろうがというもっともな言い分があります。それに先進国に対しては、自分たちのいい生活を支えるための高税率、それに支えられている政治家の既得権益を守るために、弱者をいじめるなという批判があります

歴史的事情もあります。例えば旧英領のバルバドス(地図で見ると、南米のベネズエラの北に位置するカリブ海の小国です)などは、規制のないオフショア金融センターに自活の道を見いだしなさいよと旧宗主国のイギリスに勧められ、既にこの分野が政府の歳入の1/3にのぼっていますから、今さら、タックスヘイブンだからやめろと言うのはなんだという思いがあるのです。

そうかと思えば、オーストラリアは、南太平洋の盟主という気負いがあるためか、南太平洋の島国はオフショアバンキング(非居住者向けに提供される預金、送金などの金融サービス)から入る手数料で細々と生計を立てているんだから、タックスヘイブン対策はこうした国の経済を圧迫すると批判的です。

また、アメリカのような大国がすなおにOECDの後押しをしているわけでもないので、一層面倒です。特に現在の共和党政権は、大きな政府をよしとする民主党と異なり、税金が低いのはいいことじゃないというスタンスを持っていますから、正面切って、OECDを支持できないのでしょう。そもそもアメリカは、独特のスタイルを持っており、折々、課税権は主権の問題だといったことを口にし、タックスヘイブンの味方のような姿勢を取るかと思えば、自分の都合に合わせて、特に相手がカリブ海諸国だと個別に援助を持ちかけては、情報開示の約束を引き出し、ドラッグその他の不正資金の取り締まりに活かしています。

★ どこがタックスヘイブンなのか

前項で説明した有害税制ありと認定され、したがってタックスヘイブンだ、先進諸国の敵だとされた国ないし領域は以下のとおりで、これは財務省のサイトhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/sz140418c.htmで公表されています。OECDは引き続き見直しを進めているので、改心した所は、順次このブラックリストから外されていく段取りになっています。

リストをご覧になっておわかりのとおり、およそ半分が旧イギリス植民地です。人口で言えば、おそらく1%程度のところに、アメリカの多国籍企業の資産や利益の2割から3割がこういった所で管理されているのです。

1. 2005年までに「改心した」国・地域 (6)

バーミューダ諸島(英) ← 有力なタックスヘイブンとして、歴史があります。アメリカ東海岸からすぐなので、かなりの数のアメリカ企業がアメリカの法人課税を避けるべく最初からここで設立しており、米財務省を嘆かせています。
ケイマン諸島(英) ← John GrishamのThe Last Jurorをはじめとするペーパーバックなどにも良く出てくる老舗で、国際金融関係の大手がよく利用しています。一時は脱税や不正な金融操作の温床という感じがありましたが、急速に税制や法制あるいは先進国との情報交換協定を整備し、今ではこの方面の優等生とされています。
サンマリノ
マルタ
キプロス
モーリシャス

2.今もなお「敵」とされている国・地域(35)

アンドラ
モルディヴ
アンギラ(英) 
マーシャル諸島
アンティグア・バーブーダ 
モナコ  ← ボルグが逃げ込んだ国です。
アルバ(蘭) 
モンセラット(英)
バハマ ← ここもバーミューダー、ケイマンと並び称せられる老舗タックスヘイブンです。設立サービスが安くて速いのがとりえです。John GrishamのThe Brethrenに出てくる秘密口座がバハマの銀行でした。ラスベガスを大発展させた大物ギャング、マイヤー・ランスキーが御用達にして以来、悪い連中が金を隠す先としてバハマは一種のステイタスシンボルとなっている感じすらあります。
ナウル ←  当時の駐ロシア米大使がソ連崩壊の混乱期に1998年の1年だけで700億ドルがここに送金されたと議会で証言しています。送金先はoffshore shell bankと呼ばれる名ばかりの銀行です。ナウルはマーシャル群島の一角を占める小さな(おそらく世界最小の)島国で、人口は1万人ぐらいです。
バハレーン  ← 昔から知られている中東の金融サービスの中心地で、特にレバノンが内戦で使い物にならなくなってからは、これに取って代わっています。
オランダ領アンティル(蘭) ← なぜか日本企業が好きです。
バルバドス ← 金融サービスに力を入れています。
ニウエ(ニュージーランド)
ベリーズ  ← 本文で紹介した何でもありのタックスヘイブンです。
パナマ
英領ヴァージン諸島(英)  ← 日本の個人投資家がなぜか好きな所です。
サモア
ドミニカ 
セイシェル
クック諸島(ニュージーランド) 
セント・ルシア
ジブラルタル(英) 
セント・クリストファー・ネイヴィース
グレナダ 
セント・ビンセント及びグレナディーン諸島
ガーンジー/サーク/オルダニー(英) ← チャネル諸島の一部です。
トンガ
マン島(英) ← オートバイレースで有名ですが、イギリスではチャネル諸島のガーンジーやジャージーと並んで知られるタックスヘイブンです。
タークス諸島・カイコス諸島(英)
ジャージー (英)  ← 英仏海峡にある老舗です。良心的な人々で、いつだったか、独裁者の数百万ドルにのぼる秘密預金を返してくれたお礼にナイジェリアの大統領が訪れたという美談まであります。ちなみにジャージー種nの牛はここが原産です(この牛から採れる乳をもとにした、ジャージーバターという黄色っぽいバターが売られています)。
米領ヴァージン諸島(米) ← なぜかタックスヘイブン/オフショア法人の設立地としては英領の方が知られています。こちらはむしろ観光の方が売りでしょう。
リベリア ← 安定していた時代はパナマと並ぶ便宜置籍船のメッカだったのに、今は内戦でむちゃくちゃです。
ヴァヌアツ ← http://sea.ap.teacup.com/carta/に、このブログの読者の方が訪ねた話が載っています。写真付きです。きれいな所です。
リヒテンシュタイン

(注 )モルディヴ及びトンガは、現時点においては、タックス・ヘイブンに該当しないものとされています。

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Comments

実際、オフショア投資は安全なのでしょうか?
個人の感想を聞かせてください。
私も投資しているのですが、知らないことが沢山あり、
とても参考になりました。

[返信]

リスクを取るからこそ初めてリターンがありうるわけですから、投資である以上、最初から安全ということはありえないかと思います。また、どの程度のリスクを指して安全とするかという問題となると、これは投資家ご本人のリスクの選好の度合い次第です。したがって、残念ながら、オフショア投資は安全かというご質問には答えようがありません。

ありがとうございました。参考になりました

[返信]

どういたしまして。

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