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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2005年10月10日

and/orという、はた迷惑な接続詞

前回、andとorをいかに訳しわけるかをご紹介しましたが、この二つの接続詞をいっしょくたにしてあるケースがあります。日頃、契約書をはじめとする実務英文に触れていらっしゃる方が、しばしば触れるであろう、and/orという奇妙な接続詞のことです。

例えば、不動産の賃貸借契約書によく、こんな一節が入っています。OWNER shall not be liable for any damage and/or loss sustained by the TENANT.(本件貸主は、本件借主につき生じた損害および/または滅失につき何ら責任を負わないものとする)。貸主は、損害程度の話のみならず火災による滅失についても責任を負わないとも読めますし、一方についてだけ責任を負わないとも読め、まぎらわしいことです。後者だとすると、借主の財産がどろぼうにより一部壊され、他は持って行かれたという場合、貸主はいずれかについては責任を負うべしとも言えるからです。

★ 紛争の種としてのand/or

実際、和訳されたものを見ている限り、and/orは、「および/または」で済まされていますが、英語として考えた場合、このand/orの持ちうる意味は、以下の二つのうちのいずれか一つです。一つは、「andとorの両方」という読み方で、もう一つは、「andかorのいずれかで、両方を意味するものではない」という読み方です。

この点、Legal Writing (West Nutshell Series) によれば、通常、スラッシュはorの代用品なのだから、読み方としては、本来、andかorの「どちらか」ということになるとしています。つまり、「andもorも」と読むには無理があるということです。となると、上の契約書の場合、damage and lossとdamage or lossという二つの選択肢が与えられていることになり、両方のケースをカバーするものではないという結論になります。しかし、そのどちらを指しているかは文面からはわかりません。

このように多義的なことばですから、解釈の違いから紛争も生じ得ます。就職の面接に行って渡された書類にAre you able to work overtime and/or variable shifts?(超過勤務および/またはシフト制勤務で働くことは可能ですか)と書いてあったとします。シフト制勤務のような変則的なものは無理だけれど、残業程度ならいいかと思う人の場合、この設問に対する答えはYESになりますから、次の項目として、If the previous answer was "No," please explain.(前項に対する答えがNOだった方は事情を説明してください)とあっても、この部分は飛ばして次の設問に進むことになります。これで無事に就職したところ、意外にもシフト制勤務に就いてくれと言われたので、断るや解雇されたりすることもあるわけで、行き着く先は、不当解雇を争う訴訟です。

このケースは、Bryan A. GarnerのLegal Writing in Plain English (The University of Chicago Press)がとりあげているものですが、こういった場合、当然、会社側はくだんの設問につき、work overtime and variable shiftsと書いてあるではないかと主張し、解雇されたほうは、work overtime or variable shiftsと書いてあるではないかと争うことになります。

★ 厚顔無恥の代名詞としてのand/or

この奇妙な接続詞を実際に使う書き手の方は、想定されるケースをあれこれ考えながら、緻密に場合分けしながら書くといった作業を省略できますから、つまり、いちいち考えなくて済みますから、楽は楽です。だからこそ、やたら何にでも入っているのでしょう。しかし、一読了解を妨げる曖昧な言葉ですから、読まされる方はたまりません。増してやこういったものを訳さざるを得ないプロの翻訳者はもっと困ります。上で見たとおり、実害もあります。

判例でも、わざわざこのand/orを取りあげて、やめろと明言しているものがいくらでもあるぐらいです。後述するModern Legal Usageが引用しているものなどは、次のように激越な非難を浴びせています。

That befuddling, nameless thing, that Janus-faced verbal monstrosity, neither word nor phrase, the child of a brain of someone too lazy or too dull to express his precise meaning, or too dull to know what he did mean, now commonly used by lawyers in drafting legal documents, through carelessness or ignorance or as a cunning device to conceal rather express meaning.(あの、訳の分からない、名状しがたいものにして、どちらが表でどちらが裏かもわからないような、醜悪きわまる言語上のつくりもの。一語なのか複数の語から成る句なのかすらわからない。正確に言いたいことを伝えるべきところ、怠慢が過ぎるのか、知能程度が低すぎるかして、それが能わない者、または、自分の言いたいことすらわからないほど知能が低い者の産み出すもの。不注意によるのか、無知によるのか、あるいは、意味を表すためではなく、それを隠すための巧妙な道具としてか、それが法律文書を作成する法律家たちにより一般的に使われるようになっている)

こうした心ある人々の意識を反映して、規則などを作る実務担当者向けのガイドラインのたぐいでもand/orは使うなと強調しています。実際、ILOが出している労働法規立案作業のためのガイドラインなどは、二つの要素の両方と言いたいならandを使い、いずれかと言いたいならorを使え、そして、どちらのケースも含めたいなら、要素間をorで結び、かつ、要素を並べ終わったところでor bothを入れよと指示し、次のような例を挙げています。

The subcontracting enterprise or the user enterprise or both shall be liable. (下請け企業もしくは発注企業のいずれか、またはその両方が責任を負うべきものとする)

先に引用したLegal Writingも、fined and/or imprisoned(罰金刑および/または禁固刑に処せられる)といった書き方をするなとした上で、orを使うと両方を含めることができないという点については、両方をカバーするため、fined or imprisoned or bothにしろと共同歩調をとっています。

何であれ、リーガルライティングの教科書を見ると、たいていはこの問題を扱っており、曖昧だから使うのをやめろ、書き換えろと強調しています。ハーバードローレビュー誌がDon't confront your editor without it.(これなしで担当編集者にたてついたりするな)と激賞しているA Dictionary of Modern Legal Usageに至っては、このand/orにつき、19世紀半ばに登場して以来、批判を浴び続けているがそれも当然で、いかなる理由があろうと、絶対使わないことだ、とばっさり切り捨てています。

しかし、それでも、それでも弁護士を含む実務文の書き手たちはせっせとand/orという名の害悪をきょうもばらまき続けています。どうしようもありません。


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Comments

おはようございます。

and/orには頭を悩ませています。私が主に翻訳している技術書類に書かれていることはないのですが、たまに扱う契約書類にはゴロゴロでてきます。ネーティブの人にとっても曖昧なんですねぇ。ただでさえピリピリする契約書の翻訳なのですから、曖昧の原因、後々の問題の素になりそうな表現は避けていただきたいですよね。

[返信]

Meggyさんだけではなく、翻訳に携わっている人の多くが同じ思いをしているのではないでしょうか。昔、翻訳をやっていた頃を思い出すと、こういうのは「向こうが悪い」と思いながら、and/orに出会うつど、名詞なら「および/または」、動詞なら、「かつ/または」で機械的に処理していました。翻訳の場合もやはりGarbage in, garbage out.というルールが当てはまるのだと思います。

日向清人

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