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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2005年10月 7日

進んで倒産する米大企業の不思議:Chapter 11というお手軽な倒産手続

アメリカの大企業が日本の民事再生法に当たる手続の適用を申請すると、ニュースでは、「チャプター11適用申請」とか、「破産法11条の適用を申請」といった見出しになりますが、アメリカ企業の場合、経営上の選択肢として気軽にこの手続を利用する感じがあり、メディアも比較的冷静に受け止めるのが普通です。

例えば、先月のノースウェウスト航空とデルタ航空のチャプターイレブン適用申請で、アメリカの航空会社大手7社の大半が「倒産」という事態を迎えているのにたいしたニュースにはなっていません。そのせいか、「どこそこがチャプターイレブンだよ」といった話をする人も、せいぜいがリストラやってるんだねという程度の認識で、おしまいです。そこで、今回は、この「有名な」倒産処理ないし会社再建手続のあらましをざっと見ておくことにします。

(注記 ここで言う、Chapter 11は、米連邦法典 (U.S. Code)の第11章が再建型の倒産処理手続法 (bankruptcy code)を定めていることからそう呼ばれているわけで、正確に言えば、「破産法」の11条と呼ぶのは不正確なのではないかと思っています。しかし、一般には、特に経済報道では、破産法第11条という呼び方がすっかり定着しています。)

ところで日本の場合もそうですが、一口に倒産と言っても、本当に「つぶれて」しまい、あとは会社の債権を回収する一方で、できるだけ債務を弁済して清算を済ませ、会社を解散するというルートをたどる場合と、債務者に我慢してもらいながら事業を立て直すという二つのルートがあります。アメリカの場合、前者の消滅型の倒産手続は、米連邦法典の第7章が手続を定めていることからチャプターセブンと呼ばれ、後者がチャプターイレブンとして知られています。

★ チャプターイレブンの適用を申請するとどうなるのか

おおざっぱに流れを説明すると、まずは債権者たちは、オートマチックステイと呼ばれる制度により、取り立てなどを封じられるので、申請した会社はほっとひと息つけます。次に会社は自分たちの経営内容を債権者たちに明らかにしてから再建計画案をまとめ、債権者たちに承認してもらいます。こうした再建計画案にそって第一回の弁済をきちんと行えば、チャプターイレブンによる手続も終了し、晴れて、普通の会社に戻れます。

このように第1ステップは取り立てなどの中止です。いくらいくら払えといった判決があっても、その効力が停止されますし、債権者は取り立てができなくなりますから、担保物件の処分 (foreclosure) ならびに所有権留保付きの売買で相手にいったん引き渡されていたものに対する占有の回収 (repossession)が封じられます。これで債務者である申し立て企業 (filing business) は大助かりですが、このように手続開始と同時に債権回収行為が自動的にストップされることを指して、automatic stayという言い方をしています。ともかく、債務者はこれで安心して経営再建策を考えることができますから、手続が適用されるか否かで大違いです。

第2ステップは、債権者をまじえての再建計画の策定です。債権者をまじえてとは言っても基本的に経営陣主導で、手続開始が決定されてから120日内に再建計画案を裁判所に提出するのはもっぱら会社側の権利とされています。ですから、この期間を指してもっぱら会社側が自分たちの裁量だけで、すなわち排他的に決められるということで、exclusive period と言ったりもします。

債権者たちの方は、申し立て企業が作成と公表を義務づけられている開示報告書 (disclosure statement) を通じて、会社の財務や経営の内容を知ることができる他、経営者に宣誓させた上で質問できる程度にとどまります。ただし、所定の期間内に計画案提出がなければ、自分たちの再建案を裁判所に提出きます。

第3ステップは、担保があるか否かといった債権の種別に応じた債権者の組み分け(categorization) を行った上で、各債権者グループが概ね了承していることを確認した上で行う裁判所による再建計画案の認可です。

第4ステップは、認可を経た再建計画に基づいた弁済です。これが行われたところで、手続自体完了し、裁判所の関与もなくなります。

以上をわが国の会社更生法の手続と比べた場合、特徴があるのは原則として更生管財人が選ばれないことです。倒産時の経営陣がそのまま経営を続けるということで、債務者である企業が引き続き会社財産の管理処分権を有することから、これを指して、debtor in possessionという言い方をします。訳は「占有債務者」だったり、頭文字をとってDIPだったりします(たとえば更生会社による新規借入をDIPファイナンスと言ったりしています)。ですから、チャプターイレブンに相当するわが国の制度は何かと言えば、会社更生法による手続ではなく、民事再生法による手続だと言えます。

わが国の場合、会社更生法が適用されるとなれば、経営責任がないからそのまま任せた方がいいといった例外的な場合を除き、原則として現経営陣は辞めさせられます。これを嫌って往生際の悪い経営者が一層事態を深刻化するといったケースが相次いだわけで、だからこそ、経営陣がそのままいられるようにした民事再生法が生まれたのです。

いずれにしろ、チャプターイレブンの場合、更生管財人は選ばれず、お上の関与は、せいぜいが司法省の役人である倒産手続監督官 (U.S. trustee) が初回の債権者集会を取り仕切る程度の関与にとどまります。

したがって、経営陣は、手続開始後も、通常の営業行為というタガははめられるものの、以前と同じように経営に当たり、必要に応じて資産を処分することもできます。

★ なぜチャプターイレブンは人気があるのか

冒頭でも書いたように今や大手航空会社のほとんどがチャプターイレブンの保護の下にあります。実際、航空業界はIT業界に次いで破産手続の利用度の高い業界とされているぐらいで、そのせいか、どこそこ航空がチャプターイレブンの適用を申請といったことになってもメディアの扱いも大したことがありません。慣れきっています。いつ閉めてもおかしくなかった零細商店が結局店じまいしたときと同じような扱いです。

米航空業界の場合、1980年代に規制緩和で新興勢力が参入して以来、老舗が負け続けており、サウスウェスト、アメリカウェスト、あるいはジェットブルーといった所が乗客を乗せて1マイル飛ぶごとに何セントか稼ぐのと対照的に、先般、チャプターイレブンの適用を申請した全米3位のデルタや4位のノースウェストは1マイル飛ぶごとに10セント失うという事態になっています。

そもそも大手航空会社だけでのんびり稼いでいた時代なら、ある四半期の業績が悪くてキャッシュが少なくなっても、ひとまず銀行の貸出し枠 (credit line)を利用して急場しのぎのキャッシュを借りて持ち直したところで返すといったことができました。しかし大手が競争激化で軒並み業績悪化となれば銀行だって簡単には貸してくれなくなります。となると、残る手段は、安全運航にまで影響しうる性質の費用を削減し始めるか、チャプターイレブンの適用を認めてもらって借金の利息といった直接業務に影響しない性質の支払を減らすかの二つに一つになります。当然、航空会社は後者を選びます。苦しいときのチャプターイレブン頼みが常態化するにいたります。

こうして時間を稼ぎながら、各社そろって、成功例のサウスウェストのように、過大な借金を避けながら、ぎりぎりの経費で運航できる会社を目指しているわけですが、そうしたなか、チャプターイレブンの実際の運用のあり方を見て、議会筋などから、これでいいのかという声が高まりました。

本来、チャプターイレブンは、傾いた企業をそのままつぶしてしまうよりは、債務者に一時的に我慢してもらって、経営を再建した方が、従業員も路頭に迷わずに済むし、税収源も確保でき、社会経済的にプラスだということで設けられている制度のはずです。ところが、実際には、航空会社の例のように経営者が得する制度に化しています。

例えば、前項で述べたとおり、適用を申請した会社は120日内に再建計画案を提出しなければいけないはずなのに、破産裁判所の判事に大幅な裁量権が認められていることから、これが有名無実化しており、ユナイテッド航空などは2年以上経っているのにいまだに再建計画が提出されていません。この間、債権者は待たされっぱなしですから、不公平だという声が出てくるのは当然でしょう。

こういった動きを受けて、本年の4月にはBankruptcy Abuse Prevention and Consumer Protection Act of 2005 が議会で可決され、本年の10月から施行となっています。新法のねらいは、いつまでも破産手続がだらだら続くことで、法律関係が不確定的なまま推移することを防止しようというものですから、例えば、申請した会社は、不動産賃貸借契約を維持するのか解除するのかを一定期間内に決めなければならず、猶予も一回限りとなりました。債務者企業に対して売掛金を持っている納入業者の立場も強化されています。

そして、何よりも注目すべき点として、適用申請から18ヶ月経ったら、利害関係人は誰でも再建計画案を提出できるようになりました。これで、判事の了解を得ながら、ずるずると計画案の提出を先延ばしにするといったやり方が封じられます。

ただ、「18ヶ月経ったら利害関係人なら誰でも再建計画を提案できるようになる結果、いわゆる「ハゲタカファンド」も当事者として積極的に(そして会社が傾いて安くなっていたときに仕込んだ証券が値上がりするよう)会社再建に口出しできるようにもなるのです。おそらくこの先、ますます distress investment(破綻企業の再建に賭ける投資)と称される、この手の投資手法がはやることでしょう。

その反面、破綻企業ないし再建手続適用会社の株式や債券を売買してもうけようとしているような連中が債権者委員会のメンバーとなって、その証券の価値を左右するインサイダー情報に触れるのを認めていいのか、こういった委員会の委員が他の債権者全員との関係で負う受託責任 (fiduciary duty)に反するのではないかという大問題が表面化してもいます。現にイギリスの大手銀行が訴えを起こされているぐらいで、これからもあざとい投資家とのあつれきが生じることでしょう。

★ まとめ

チャプターイレブンは、債務者に一時的に我慢してもらいながら事業の再建を進める制度として用意されたものなのに、別段、適用を申請したからと言って、経営者の責任問題が追及されるものでもない風土が手伝って、経営上の選択肢ないしは便法として活用されてきたおもむきがあります。その一方で、裁判所が安易に、再建計画案提出の期限を延ばすものですから、いつまでも債権者が待たされるという不公平が問題視されていました。

こうしたなか、各種弊害を考慮しての新法が導入されたので、今後はだいぶ様子が変わってくると思われます。簡単に言えば、気楽に適用を申請しづらくなってきています。他面、ハゲタカファンド的な投資家の発言権が増すような措置が盛り込まれているので、今後、こうした異質の債権者が利己的な動きに走り、これまでは考えられなかったような利害対立が表面化しそうでもあります。

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Comments

DIFではなくDIPだと思います。

〔返信〕

誤植のご指摘ありがとうございます。直しておきました。

日向清人

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