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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2005年10月11日

日本版LLCとLLP:来年から登場する合同会社と有限責任組合という新顔の事業組織

来年から実質は組合なのに組織そのものに法人格が付与され、会社のように扱われる「合同会社」と、やはり実質は組合なのに、普通の組合と異なり、組合である以上、組合債務を各自が全額弁済しすべきところ、それが組合員の出資額に限定される「有限責任組合」というものが登場します。いずれも欧米で広く使われている共同事業組織で、前者はlimited liability companyを縮めたLLC、後者はlimited liability partnershipを縮めたLLPで通っています。わが国でも、英訳としては、これがそのまま使われることでしょう。

起業、特に仲間意識が強いベンチャーに向いている、使い勝手のいい共同事業組織として、これからよく名前を耳にすることになると思われますが、いずれも会社の性質と組合の性質をあわせ持つ、ヌエ的存在でわかりにくい感じもあります。そこで、まずアメリカでのLLCとLLPがどういうものであるかをざっと見てから、日本の場合につき、それぞれ普通の会社あるいは普通の組合とどう違うのかをざっと見ていこうと思います。

なお、アメリカでも日本でも同じですが、構成員について株主=shareholder/stockholderという言い方をするのは株式会社=corporationのときだけで、LLCのような組合的色彩の強いものについては、その構成員は社員=memberとか、持分権者=interest holderと称されています。パートナーシップつまり組合の構成員は一般にpartnerと呼ばれます。

★ 元祖アメリカのLLCとLLP

アメリカでは(日本でもそうですが)会社の株主だと、課税された法人所得つまり税引後利益から払われる配当金なのに、自分の所得として受け取る段階でまた課税されます。こういった二重課税を避けるためにはSコーポレーションという法人形態を選ぶ手もありましたが、これだと株主数が最大35名に限定されるという不便があります。そういった所にlimited liability corporationという会社形式については、パートナーシップ(組合)と同じように、組合の所得については、会社をいわば素通りして構成員個人の所得としてだけ課税する (Income will be taxed at the partner level.) という見解をアメリカの税務当局が明らかにしたものですから、各州もよそで認めている会社形態を自分の所で認めないというのでは、誰も州内で事業を起こしてくれなくなりますから、競争で正式に認める法律を作り、こんにちに至っています。今では、数ではLLCの方がLLPを上回っていると言います。

LLCやLLPの場合は、オーナーが自分たちで決めることができ、法人企業のようにオーナーが経営を他に委ねる形式を取らないことから、主として医師、弁護士、会計士といった専門家集団による共同事業組織として使われることが多いわけですが、州によっては、LLPによって責任が限定されうるのは、業務上の懈怠行為 (malpractice)から生ずる責任についてだけであり、契約上の支払については責任が限定されないとするところがあります。そういった場合は、有限責任を享受できる範囲が狭いLLPよりは、それが広いLLCの方が選ばれることになります。

そうかと思うと、テキサス州のように、LLCに対しては事業所単位のフランチャイズタックスがかかるけれど、LLPだとそれがないというケースがありますから、他の条件が同じならLLPを選ぶことでしょう。また、免許を受けている専門家が設立するLLPだと賠償責任保険への加入が義務づけられている州では、この種の専門家によるLLCの設立を放任すると実効があがらなくなりますから、LLCの設立が規制されたりもします。そういった所では、当然、専門家集団は、LLCに対する規制を嫌って、LLPを選ぶことになります。

★ 普通の会社対合同会社 (LLC)

合同会社は、仲間内でものごとを自由に決められ共同事業であり、その限りでは、本質的に組合です。となれば、本来、対外的には各人が全責任を負うべしとするのが筋です。しかし、合同会社という新たな制度は、そのところを政策的配慮から例外扱いし、会社と同様、出資額による責任の限定を認めようというのです。要するに会社という衣をまとった組合です。

会社の本質は有限責任であり、出資者(株主)は事業が破綻しても自分の出資額さえあきらめれば済み、それを超えて会社債務を弁済しろと強制されることはありません。しかし、それは会社ということで法人格を認められている場合の話で、法人格のない組合のメンバーにはこうした法的な保護はないのが原則です。そこに例外を設けて、組合であるものに法人格を付与しているわけです。

ところで共同事業体そのものが、所在地および名称ならびに事業目的を決め、つまり住所・氏名・職業を持ち、その事業目的の下に集まったメンバーたちが無機質かつ定型的な規則によって運営されるからこそ、メンバーが死んだり、交代しても事業の継続性が保障され、取引先も安心してつきあえるというものです。そこで、法律もここまで体制が整っている、換言すれば、「没個性的な組織」となっているものなら法人格を認め、取引社会の正会員として活動することを応援しようという姿勢で臨んでいます。

そして没個性的存在である以上、既存メンバーの持分が誰に譲渡されようと問題ではないはずであり、また、これを認めないと投下資本を回収する途が断たれてしまいます。そこで株式会社においては持分つまり株式は自由譲渡が原則となります。

他面、メンバーが入れ替わっては困るから、小規模でもいいから仲間内で株式会社形態でやらせてくれというニーズもあったので、これに応えて、有限会社というものができました。有限会社は社員が50名を超えてはならないとか、資本金が300万円あればいいとか、社員を公募できない、あるいは、持分(株式会社の場合の株式を有限会社ではこう呼んでいます)を有価証券にできないといった違いはあります。しかし、本質的には株式会社であり、その簡略版だというだけのことです。ですから、英文名称も株式会社と同様"何とかCo. Ltd."あるいはLtd.あるいはInc.で何ら問題はないのです。

ところがその後、社会的影響の大きい大会社については、監査役制度に上乗せする形での会計監査人による監査とか、委員会等設置会社といった企業統治を強化したシステム(後日取りあげます)が求められる、という具合に、規制の強化が必要だとわかってきます。一方、小規模な会社については、大会社と共通のルールが適用される結果、かえって形骸化が進んでしまいました。取締役を3人要求したり、監査役まで要求されるので、みんな形式上はそれに従ってはいます。しかし、実際は社長と専務の二人で切り盛りし、監査役は商法と民法の区別すらつかないおかみさん程度というのが、ごく普通になっています。

こうした実情に合わせて登場する合同会社ですから、特徴として、第1に没個性とは正反対の身内優先となっています。つまり、株式会社とは異なり、定款変更には社員全員の賛成が必要です(英語で言えば、The articles of incorporation may be amended only by the unanimous consent of members.です)。新たな社員の加入や社員の持分譲渡についても全員の賛成が必要です(Addition of new members or transfer of a member's interest is subject to the consent of all members.ということです)。また、大規模な株式会社の場合、オーナーである株主が事業経営を経営者に任せざるを得ないことから、所有と経営の分離による利害対立といった問題があるぐらいなのに、合同会社では原則として社員つまりオーナーが経営に携わるのが原則とされます(これはEach member is authorized to engage in the business of LLCという言い方になります)。もちろん、それが実際的でなければ、定款で定めるか、社員全員の合意で業務執行社員 (executive member)という、株式会社の代表取締役に当たる者を任命することもできます。そして、特徴の2として、こんな人的関係の濃い、組合的な組織なのに、法人格が付与されます。

なお、冒頭でアメリカ版のLLCは構成員に課税されると説明しましたが、日本の場合、国税庁が、各種ある会社の中で合同会社だけを特別扱いするのは嫌だと言って、結局、普通の法人課税となるようです。しかし、これではおもしろみというか、妙味が半減する訳で、多くの人が嘆いています。

★ 普通の組合対有限責任事業組合 (LLP)

有限責任事業組合というのはその名のとおり、通常の組合の場合、全員が組合債務 (partnership debt)につき無限責任を負う (Members are subject to unlimited liability.と言います) のが原則であるのを修正して、全員が有限責任(limited liability) という、まるで法人企業つまり会社のような組合です。前項の合同会社が組合的会社と言えるなら、こちらは会社的組合に例えることができそうです。

組合 (partnership) は共同事業とは言っても、飽くまでその構成員 (partner) が本体であり、その証拠に組合自体には個性がなく、したがって、わが国の場合、特別な法律で法人格を付与されている (treated as a legal entity) 例外的ケースを除き、法人格もないのが普通です。ですから、マンション管理組合の預金口座なども一般に「何とかマンション管理組合」の名義ではなく、「何とかマンション管理組合理事長何某」または「何とかマンション管理組合事務取扱者何某」という名義によっています。

このように組合自体に法人格がない以上、組合債務といった責任の問題は組合を素通りして個々の組合員の問題となります。したがって組合が多額の債務を負った場合、組合員各自がその全額につき払えと要求されることにもなります。会社ではありませんから、有限責任ではなく、無限責任 なのです。しかし、これでは、おそろしくて組合形式でベンチャー事業などやる気になれません。そこで、組合員の責任を出資額に限定して、それ以上は責任を追及されないようにして、組合の使い勝手をよくしてやろうと登場したのが、今回の有限責任事業組合です。

それなら最初から組合ではなく、株式会社だとか合同会社でやればいいじゃないかと思われることでしょう。しかし、組合には組合のよさがあるのです。まず組合の場合、全員参加での経営が原則ですから、所有者と経営者との利害対立といったことがない上、損益分配を含め自由に内部運営の方式を決められます。そこで大企業が、貧乏な転載技術者を軸にベンチャー事業を起こそうという場合、その技術者に対して、「出資比率は10%で十分です。だからと言って、発言権や利益分配も10%ということではありません。どうでしょう、議決権は対等の50%で、利益分配比率は20%という約束で一緒にやりませんか」と話を持ちかけることもできるようになります。

一方、組合そのものは法人格がなく、取引活動上の主体とはされませんから、課税対象とされるべき組合所得も同じで、組合所得には課税されず、出資者である組合員個々人に対しての課税となります。(日本語では構成員課税とかパススルー課税と称されていますが、英語で言うなら、Taxes are passed through to partners.とするか、An LLP is a pass-through entity for tax purposes.といったところでしょう。)ということは、法人課税による目減りがないということでもあります。株式会社の場合、法人所得に課税されますから、出資者である株主への配当原資自体、いっぺん課税されているというのに、出資者が受け取る配当金についても別途、個人所得税がかかるわけですから、大違いです。

してみると、有限責任組合の特徴は第1に、組合と同様、面倒な組織規定に縛られずに運営を進め、利益分配も出資比率と関係なく決めることができるのに、組合と異なり、責任が出資額に限定されることだと言えます。第2に、会社形態を取る場合と異なり、法人格はありませんが、その代わり、二重課税を避けられます。しかも組合員個人のレベルで課税されるとなれば、出資先の組合が大赤字の場合、別の収入源が黒字で本当だったらたくさん納税しなければならない場合でも、個人としての損益が通算されるので、納税額が減るか、うまくするとゼロになることを期待できるのです。

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»若手会計士の独立への道: LLC・LLPとは - 2005年10月17日 06:09

前回の記事『海外不動産投資「税逃れ」』でLPSやらLCCと言った組織が登場したが、2005年6月29日成立の新会社法により日本でもいわゆる日本版LLCが誕生し、また、LLPも創設された。 日本版LLC(合同会社)は、出資者の責任は出資額を限度額とした有限責任である...


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