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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2005年10月 8日

「その他のX」と「その他X」を訳しわける

「その他のX」と「その他X」とは法令用語としてはきちんとした使いわけがありますから、これを心得ておくと、翻訳のプロ、特に法律翻訳を手がけてらっしゃる方は、依頼者にいい印象を持ってもらえることでしょう。逆に、このあたりの訳し方がいい加減だと、「大丈夫かな、この人。わかっているのかな」と心配になります。

その使い分けですが、「A、B、C、その他のX」という言い方は、A、B、Cがいずれも、より広い概念であるXの例示である場合に使います。英語で言えば、A, B, and C, including Xといった感じです。これに対して、「A、B、C、その他X」というときのXは、A、B、Cと並列・対等の関係にあることを示しています。英語で言えば、A, B, C and Xあるいは、X1, X2, X3 and any other Xs similar theretoといったところでしょうか。

ということは、英文和訳でも、法令はもとより契約書や社内規定といった法律翻訳的分野では、英語をよく見る必要があり、A, B, C and Dとあっても、内容に照らし、ここでのDがA, B, Cを包摂する関係にあるということで「その他のD」とした方がいいケースもあれば、「A, B, C その他D」とした方がいいケースもありうるということです。つまり、何でもかでも「A, B, C およびD」で済ませていればいいというものではありません(別の回に譲りますが、ここで「A, B, C ならびにD」と訳すようでは、安心してむずかしい仕事を頼めるプロとは言えません)。

★ 憲法に見る「その他の」と「その他」の使いわけ

以上で述べたことをわが国の憲法の条文とその英訳文を比較しながら確認してみます。

まず「その他の」でぱっと思い出すのはやはり、あの有名な第9条の第2項です。第2項は、In order to accomplish the aim of the preceding paragraphで始まって、land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained.と続きますが、問題は、as well as other war potentialをどう訳すかです。

これを「陸海空軍その他戦力」と訳してしまうと、陸軍、海軍、空軍と「他種の戦力」というものが対等の関係に置かれてしまい、何だかおかしなことになってしまうのです。この種の違和感は、「陸海空軍及び他の戦力」と訳したときにも避けられません。テレパシーやまじないで相手を倒せる部隊でも登場すれば別ですが、現状では陸海空と言えば、あらゆる戦力を指すのが普通だからです。やはり現行条文どおり、「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」とするのが一番すっきりしています。

この場合、No war potential, including land, sea, and air forces, shall ever be maintained.と書き換えても、意味に変わりはありませんから、この点からもwar potentialが陸海空軍といった要素をすべて含むより上位の概念であることがわかります。

次に「その他」の例としては、憲法上数は少ないものの、国の宗教活動の禁止を定める第20条の第3項を挙げることができます。英文は、The State and its organs shall refrain from religious education or any other religious activity.であり、ここでは、religious educationとreligious activityとが同列に論じられていることがわかりますから、「その他の」ではなく「その他」を使うべきケースであることがわかります。現に現行第3項の文言は「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」です。

ちょっと考えると、宗教的活動には宗教教育も含まれそうであり、そうとなれば、「その他の宗教的活動」としてもよさそうなものです。しかし、最高裁によると、第3項で言う宗教的活動とは「当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉等になるような行為」を指しますから、この見解に従う限り、宗教教育をこうした宗教活動の例示と捉えるわけにもいかず、したがって、結論として、現行憲法に見られる「和訳」でよろしいということになります。

★ INCLUDINGを訳しわける

実際、自分の経験から言うと、including何々といった語句を含む部分を和訳するときに、この「その他の」と「その他」の使い分けを意識しながら考えると、すっきりした訳になります。例えば、

Any copy made by you hereunder must retain all copyright and trademark notices, including any other proprietary notices, contained in the Materials.

ここでのproprietary noticesは「財産権として保護される標章等であることの表示」であり、これには、著作権が成立している旨の表示(典型的にはいわゆる (c) 表示)や登録商標である旨の表示が含まれますから、私だったら、「すべて本契約に基づき御社が作成する複製については、本件制作物上の著作権が成立している旨の表示、登録商標である旨の表示その他の財産権として保護される標章等であることの表示をそのまま使用することを要するものとする」と訳します。

これに対して、内容に照らし、「その他」を使ったほうが座りがいいケースもあります。

Seller shall not disclose Confidential Information to third parties, including other employees of Seller who are not manufacturing or processing material for Buyer, without Buyer's express, written permission.

これは秘密保持義務を定めた条項の一部ですが、機密情報を伝えてはならない相手として第三者と並んで売主側の従業員中、買主がらみの業務に関与していない者が挙げられています。この種の売主側従業員は第三者一般を包括する、より上位の概念というのでなく、第三者と同列に論じられているものですから、「その他」の出番と言えます。

そこで、私だったら、こう訳します。

本件売主は、本件買主が書面をもって明確に承認している場合を除き、本件機密情報を第三者その他本件売主の従業員中本件買主のための製造または加工に携わっていない者に対して開示してはならない。

なお、契約書などでよくみる、including but not limitedのくだりは、私は、いつも( )に入れて(例示すれば…)で処理していました。


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»CTO日記: 陸海空軍その他の戦力 - 2005年10月11日 23:14

憲法第9条の有名な一文、"land, sea, and air forces, as well as other war potential"は「陸海空軍その他戦力」と訳すのではなく「陸海空軍その他の戦力」とすべき、とある。 仕事で英語を使うこともあり、日ごろお世話になっているblogなのだが、いきなり日本語でつまづいた。 『「その他のX」と「その他X」とは法令用語としてはきちんとした使いわけがあり』→??? 『「A、B、C、その他のX」と...


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