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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2005年11月25日

英語は右脳で処理されるという大ウソ

右脳で英語を学べといった話をよく見聞きします。そのココロは何かと言えば、日本語は左脳で処理され、英語は右脳で処理される言語だから、そういった特性を踏まえて、右脳で学ぶよう努めないと英語学習はうまく行かないというものです。

しかし、ちょっとでも右脳・左脳の話をかじった人なら、脳に損傷を受けた人の研究を通じて、左脳が言語活動や論理の組み立てを司り、右脳が空間の把握、人の顔の識別を含めてのイメージの処理、そして音楽鑑賞といったことを司っていることは知っているでしょうから、英語も日本語と同じく言語である以上、左脳で処理されるはずであり、どうしてまた右脳を持ち出すのだろうと思うはずです。

そこで、専門家たちがこの問題をどう見ているかをご紹介してから、脳科学の世界で言語と脳の関係が一般にどう説かれているかを確かめておこうと思い立ちました。

★ 英語は右脳で処理されるという説は根拠なし

この点、胸が空くような書きっぷりで、右脳説を一蹴しているのが、白畑知彦編著、若林茂則/須田孝司著『英語習得の「常識」「非常識」 第二言語習得研究からの検証』(大修館書店)です。後述する、ことばの左脳優位性を確認した上で、「日本語は左脳で処理され、英語は右脳で処理される」という説の論拠となっている実験を検証して、実験手法に疑問を呈する一方で、別の実験結果を紹介し、「ことばに関しては、日本語話者も西欧語話者も左脳が優位なのです」と明言しています。

さらに「ゆっくりとその意味を味わえる」日本語の場合は、論理的にゆっくりと対処する左脳が使われるが、テンポやイントネーションを一括して処理しなければならない英語についてはイメージ処理できる右脳が使われるとする説に対しては、「ことばをイメージに置き換えるには、まず、ことばそのものが処理される必要があり、そのことばの処理は左脳で行われます。ことばを処理せずに、イメージに置き換えることはできません」とばっさりです。最後にことばの理解と産出のメカニズムをざっと説明してから、「『日本語は左脳で処理され、英語は右脳で処理される』という提案は全く根拠のないものだと言わざるを得ません」と結んでいます。

この項目の執筆者は、脳科学を持ち出して、もっともらしいことを言う連中に相当頭に来ている様子で、文中、「脳の話を言語学習に持ち出す人には、脳のことを少しは知ってほしいことは言うまでもありませんが、常識的に考えてもおかしく思えるような議論の展開はやめてほしいものです」とまで言っています。

また、返す刀で、速聴による英語学習も斬り捨てています。被験者が理解できない言葉を聴いているときは、非言語音を聴いているときに活動する聴覚野が活動することを示す実験結果などを引き合いに、理解不能な音の連続を聴いたところで学習効果は期待できないとし、また、英語を理解できる人が早回しの英語を聴いた結果、リスニング能力の飛躍的伸長があったとするデータはないとしています。

★ 言語活動はともかく左脳が基本

英語、中国語と、言語の種類は違っていても、結局、基本的に言語である以上は左脳で処理されるという点について、こんな研究報告があります。幼少時から中国と英語のバイリンガルである人が年をとってから脳に損傷を受けたケースをいくつか調べたもので、右利きの人が左脳に損傷を受けたケースでは、中国語も英語も話せなくなりました。左脳が会話能力を司っていることの証拠です。ただ、書き言葉に関しては、英語は書けなくなったのに、不十分ながらも中国語でなら書く能力が残りました。

一方、右脳に損傷を受けたケースでは、会話能力に関しては中国語、英語とも大丈夫でした。右脳が直接会話能力を左右してはいないことの証拠と言えます。ところが書く段になると英語ではうまく行くけれど、中国語となると苦労したと言います。アルファベットによる書きことばの場合、個別には意味のない記号の羅列を単語単位で認識していきながら、順を追って意味を確かめつつ、論理を使って総合していくのに対して、漢字は、イメージでぱっとその意味を把握するものだという両者の違いを再認識させられる話です。

また、赤ちゃんを対象にしたおもしろい実験から、言語に関しては左脳が優位であることが確認されています。5ヶ月から12ヶ月の赤ちゃんを英語圏とフランス語圏から5人ずつ選び、ニコニコ顔のときと、バーバーといった赤ちゃんことばを発するときの唇の動きをビデオに撮って分析したもので、この結果、ニコニコ顔のときは、唇の左側の筋肉が動き、右脳が優位であることを示したのに対して、赤ちゃんことばを発しているときは、唇の右側の筋肉が大きく動き、左脳が優越的に働いていることが示されたのです。

ディスレクシア(読書障害)の患者を調べても、CTスキャンなどを通じて、本来活動が活発になるべき左脳の一部位がうまく働かないからだということがわかっています。アルファベットに基づく44の音素(音素というのは、billやfillを区別するbやfのように他との識別が可能な音の最小単位です)をこなす部位である left temporal-parietal regionと言われる部分がうまく働かないのです。要するに、ここでもやはり左脳です。これは英語圏のみならず、フランス語やイタリー語を話す患者についても同じであることがわかっています。ただ、中国語の場合は同じ左脳内での機能不全でも、その部位が英語などとはちょっと違う場所 (left middle frontal gyrus) にあるのだそうです。

もう一つ、ついでに、やや生々しい例を挙げると、開頭手術において、左半球だけに麻酔が効いていると患者は話をすることができないのに、右半球だけだと会話が可能であることが知られています。

以上を要するに、英語、中国語、さらにはフランス語やイタリー語などを含めて、言語を司っているのは、基本的に左脳であり、したがって、英語は右脳で処理されるという説は脳科学における常識に反している説だと言えます。ただ、右利きの人の場合、9割かた左脳で言語が処理されているものの、一部の人は左右両方にまたがっていたり、右が優勢というケースもあるようです。また、左脳で処理されるからと言って、右脳がまるで関係ないわけではなく、右脳の働きによる助けがあればこそ円滑に言語をあやつれるのだということもわかっています。

★ まとめ

英語は右脳で処理される言語だから、右脳で学べといった話に多くの人が惑わされるのは、体でおぼえるべきスキルの習得についてまで理屈による裏づけを求める「勉強好き」が裏目に出ている結果だと思います。黙々と英語を体でおぼえようとする努力を怠り、代りに、理屈というか、イメージ先行で論じる人が多すぎるのです。

日本のコマーシャルは、英語圏でのそれと比べて、何の商品、サービスかわからないものが多いと言いますが、同じことなのか、英語学習の世界でも、特に出版物を見ていると、英語耳、TOEIC、多読、音読、シャドーイングといった「サウンドバイト」での訴求が多く、また、悪いことに、わが国の場合、英語が生活言語ではなく、切迫感がないため、英語力の評価が実際に英語を使えるかを試すIELTSのようなものによってではなく、択一や空欄補充問題でのスコアでなされています。統計上の空虚な数字が英語力そのものと同視されており、そこにイメージ先行の学習理論的なものが入り込みやすい素地があるようです。

しかし、実際に仕事で英語を使っている人々の世界を見た場合、きちんとした英語を話し、読み書きできる人に勉強法を聞くと、ワークブックを何冊もやり、そのワークブックに付属するCDやカセットを繰り返し聞いたという点が共通しています。結局は、何度も申しあげているとおり、千本ノックの世界なのです。英語学習は。

最後に付け加えておきたいのは、書店で平積みされる著作のある巨頭クラスを含め、英語は右脳で学べと言う人々にからんで出てくる「ニューポート大学」「社会文化功労賞」「世界学術文化審議会」「国際学士院」がいずれもすべて正体不明のものだということです。こういったものを目にした時点で直感的に「何か変だ、おかしい、うそでしょう」と感じることなく、「そうか、英語は右脳で学習するのか」と思い込むようでは、そのこと自体、経験知に基づいて直感で真偽を見分けるという右脳が未発達であることを物語っていますから、右脳ものには手を出さない方が賢明というものでしょう。



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»英語学習日記?英語を完全にものにするまで?: リスニングを上達させる画期的な方法を見つけた-Eureka!- - 2005年11月27日 17:50

リスニングを良くするために右脳の活性化を自分なりの解釈で書いています。


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