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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2005年11月30日

黄金株における黄金伝説:一株一議決権の原則

「黄金株」迷走--投資家保護か企業防衛か、という見出しの記事が11月27日付の朝日新聞に載っていました。経済面の上の方の1/4を占めるような大型記事です。この黄金株というのは、たった1株持っているだけでも株主総会の場で多数派の議案(例えば他社との合併案)を葬り去ることのできる特別な株式を指します。普通なら株主総会は保有株数に基づいての多数決の場ですから、過半数の株式を持っていれば、その保有者の勝ちです。しかし、この黄金株が会社側にあると、発行済株式の過半数を取得した上で、合併案の可決を期して株主総会に相手が乗り込んで来ても、あっさり返り討ちにあってしまうという、超強力な株式です。記事によると、拒否権をもつのと同じことになる黄金株の保有につき、東京証券取引所が実質禁止の方針を打ち出したのに対して、金融庁や経済産業省は基本的に認めてやるべきだとしており、もめているのだそうです。

企業統治(コーポレートガバナンス)の根本にも関わる問題ですので、今回は、黄金株を英語では何と言うのかという点から初めて、なぜもめているのかを見て、最後にことの背景にある株主平等の原則ないしは「一株一議決権の原則」をご説明します。

★ 黄金株を英語で言うと

黄金株というのは、golden shareの直訳ですが、アメリカ人にgolden shareと言っても、普通は通じません。イギリスが国営企業の民営化を進めていた1980年代に、民営化はいいけれど、重要な産業を外国人に乗っ取られるのも困るということで、政府に拒否権を認める特別な株式として表舞台に登場したものだからです。ですから、証券用語辞典のたぐいを見ても、golden shareを見出し語として載せているのは、The Economist Booksの一冊、Pocket FinanceとLongmanが出している、Business English Dictionaryぐらいです。

手元には、The Investor's Dictionary (Wiley), Wall Street Dictionary (Career Press), Wall Street Words (Houghton Mifflin), The Complete Words of Wall Street (Business One Irwin), Barron's Dictionary of Finance and Investment Termsといったものがあるのですが、どれにも golden shareは載っていません。実質的な効果が同様のものとしては、あとで触れる複数議決権株がありますが、golden shareなるものは、アメリカでは無名の存在なのです。

それでは、アメリカ人に何と説明するかですが、一番簡単なのは、a special class of shares with veto power(拒否権が認められる特別な種類の株式)という言い方でしょう。和文英訳なら、a "golden" share with veto powerといった書き方でさらっとやれます。

★ なぜもめているのか

ことの発端は、11月22日に東証が発表した上場規則 (listing rules)の改正案です。それによると、特定の株主に対して黄金株を付与しているような企業は、半年から1年で上場禁止にするとしています。東証の言い分は、黄金株の力で敵対的買収を撃退するのはいいとして、これを認めてしまうと、敵対的買収とは関係のない一般投資家の議決権まで否定する結果を招くというものです。

背景には、ニューヨーク証券取引所が上場ルールで、上場企業が黄金株に準ずる複数議決権株式 (super voting shares)を新たに導入することを禁じていることや、イギリスやフランスが国内法上、黄金株の制度を認めているのに、欧州連合としての統一ルールではこれを禁止しようという方向で動いているという事実があります。つまり東証にしてみれば、世界的に否定的評価が定着しつつある黄金株が日本の上場企業では認められているとなると、日本の資本市場のクレディビリティーが損なわれ、最悪の場合、国際投資の世界で東証や日本が敬遠されてしまう、と心配しているのです。

一方、経済界にバックアップされている経産省、それと金融庁は、2006年5月から施行される会社法では、企業防衛の手段を含め、経営の選択肢を広げようという趣旨で黄金株を含めて特殊な株式の発行を積極的に認めていこうとしている。そうとすれば、上場後に黄金株を導入するようなケースは既存株主の利益を損ねるから駄目だと言えても、既に黄金株制度を導入している会社が新規上場するのは認めてやってもいいんじゃないかという見地から東証の方針を批判しています。最初から黄金株が一部株主に与えられているような企業が上場した場合、投資家はそういった事情を承知の上で株を買うのだから問題はないはずだという論法です。

こうした問題がなぜ急に取りざたされるようになったかと言うと、一因として、改正商法で黄金株の譲渡性を制限できるようになることを挙げられそうです。敵対的買収をかけられた際に、先方の提案を退けるために拒否権を行使できるという、この黄金株が敵の手にわたってしまっては意味がありません。そこで、当然、こうしたものを発行する企業としては、黄金株については譲渡を制限しようとしますが、あいにく現行商法では、黄金株のような特別な株式だけについて譲渡制限をつけられないのです(あたりまえですが、全部の株式について譲渡制限をつけては、もはや上場企業ではありません)。ところが、改正商法では、譲渡制限をつけて黄金株だけを門外不出とすることができるので、それなら、と企業も黄金株を企業防衛の手段として取り入れようと動き出しているのです。

★ 一株一議決権の原則

そもそも黄金株のようなものが例外的なものとして物議をかもすのは、企業統治においては、株主平等の原則が強調されるからです。株主は会社との法律関係において、持株数に応じて平等に扱われるべきだという考え方です。具体的には、一株一議決権の原則 (one share-one vote principle) ということですが、株主民主主義という言葉があるぐらいで、何だか自明の真理であるかのような響きがあります。現に会社法の教科書などを読むと、人間社会における基本的人権のような扱いです。確かに、自分の持っている一株の議決権が一票なのに、他の人の持っている株式が同じく一株なのに四票分の議決権というのは不公平という感じがします。

しかし、株主平等の原則ないし一株一議決権の原則は時代によって、あるいは国によって捉え方が違うものです。例えば、一株一議決権の原則ではなく、一株主一議決権の原則の方が民主的だという、ごもっともな議論だってあるのです。また、アメリカの証券取引所では、一株一議決権が原則だと言いますが、明文の規則というほどのものでもなく、事実上それが大勢だという程度の話です。現に、grandfather(新規ルール制定時に、これと異なる例があるときは、それを否定せず既得権として容認する) という言い方をしますが、一株一議決権の原則を導入した際に、その時点で既に複数議決権株式がある企業に対しては例外扱いしたりしています。メディア関連の企業に例が多く、クラスAの株式は一株につき4議決権で、クラスBの株式は一株につき1議決権といった二重構造が追認されています。(ただ、ここに来て、こういった二重構造を廃止し、一株一議決権を強調する企業が増えています。)

それが黄金株の本家筋に当たるヨーロッパだともっと大々的に行われており、大手企業の間では、こうした二重構造はごく普通です。特別扱いされる株式の種類も豊富で、長期の株主に対しては、きのうきょう取得した株主より多数の議決権を付与する time-based votingがあるかと思えば、議決権を全体の10%までという具合に上限が定められている caps on voting rightsといった仕組みも見られます。ちなみに、議決権に上限を付する形式は外資による乗っ取りをおそれる途上国の企業でよく見かけます。

なお海外の大手企業と言うと、何か不特定手数の株主が多数、平等に参加しているイメージを持っている人が多いようですが、例えば、カナダの例を聞くと、そういったイメージに合致する会社は2割程度で、残り、8割は、一部の有力株主が特別な株式を通じて牛耳っていると言います。また、ヨーロッパの著名企業でも、大株主が謎の一族というケースが結構あるものです。わが国では、株主と企業の話になると何か単純明快なモデルがあるかのように論じられますが、世の実際は複雑だったりしますから、教科書的な説明は。

ところで、一株一議決権の問題につき見方が分かれるのは、結局はヒトを中心にものごとを考えるか、カネを中心に考えるかの違いだと思います。ヒトが大事となれば、挙手による採決を考えればわかりますが、株主一人一人を独立の人格と扱い、平等に取り扱うということになるはずです。一方、カネを中心に考えれば、たくさん出資して、より多くのリスクを負っている者がより大きな発言力を持つのは当然と言えます。

加えて、最初にカネを出して、苦労して企業を育てた出資者が自分たちの発言力を温存するため、あとから参加する出資者の発言権を弱めるために議決権を制限し、見返りとしての配当は払うから口は出してくれるなという姿勢で臨むのも、リスクを取らないとカネは増えないという原理から考えると、カネの論理に徹しており、ごもっともという感じがします。

こうした発想は会社法のみならず契約法でも見ることができ、別段、特別な考えかたではありません。例えば、契約違反つまり債務不履行があった場合、ヒトを中心に考えれば、約束破りはイカン、何が何でも約束どおりのことをやれ、ということになります。実際、契約違反があった場合の二次的救済方法である specific performance (特定履行)という制度はこうした考え方に基づいています。他方、カネを中心に考えれば、約束を破られた方が期待していた利益を金銭に換算してカネで済ませばいいじゃないかということになります。現にこの方面では、人と契約したあとで、もっといい条件で契約できるとわかったら、カネで済むことだから前の契約は無視して、新たな話に乗る方が世の中全体の経済効率を考えると好ましいという見方だってあるぐらいなのです。

どうも金庫株の論議を見ていると、一株一議決権の原則は一大原理である、したがって、例外を認めるにしても厳格に考えないと元も子もなくなるとする立場と、一株一議決権の原則といったところで、もともと大したことではないのだから、柔軟に考えようよという立場がぶつかりあっているように思えてなりません。



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»翻訳者の散歩道: 黄金株(golden share) - 2006年2月12日 18:06

拒否権付き株式のことで種類株のひとつです。 (前提として、「種類株」とは、普通株とは権利内容が異なる特殊な株式です。) 黄金株は、黄金という名のとおり?、1株でも株主総会で合併など重要な決議で拒否権を行使できるもので、 ご存知のとおり、昨今さかんなMAにおいて敵対的買収に対する防衛策として大きな意味を持ちます(←これ一般的表現ですよ、いつも授業で「持つ」はダメよと言っているので…)。 しかし、ヨーロパなどでは黄金株が廃止さ...


Comments

こんにちは。
政府は民営化後の郵便関連会社に黄金株を導入したいのですよね。折りしも、スペインがEUの要請を受けて黄金株を廃止するという新聞記事を読んで、日本の東証と政府との攻防はどうなるのだろうと思っていたところです。

実は、今日「黄金株」について記事をアップしようとしていたのですよ。偶然とはおそろしい・・・(笑)先を越されたました(笑)

ところで、クラスA、Bという表現につき、少し前に新聞が「B級」とか「級」という表現をしていましたね。
昨年の授業で生徒さんが「B級」と訳してきたのを「間違いではないが、クラスBという表現の方が普通」と言ったことを思い出しました(汗)
先生は「B級」という表現もなさいますか?

[返信]

違った視点で書かれていることでしょうし、どうぞ遠慮なく「黄金株」の記事、アップしてくださいね。楽しみにしています。

ところで「B級」はいくら何でもひどすぎます。B級グルメ、B級映画という用法に見られる、A級の一つ下という意味ではないのですから、クラスBを指して、B級と言うのは私に言わせれば、ことを理解していない証拠であり、ユルセマセン!

ジェネラル・モータースが発行しているトラッキングストッックにクラスE株、クラスH株がありますが、クラスEはEDS、クラスHはHughes Electronicsという事業部門名に名の由来があるわけで、こういったものを指して、E級、H級としたのでは意味をなしません。そもそも強引にclassを「級」としなければならない理由もないのに、どうしてこんなこっぱずかしい訳をつけるんでしょう。しかも、新聞に出ていたからと信用して、B級なる訳を使う人も出てくるわけで、罪深いことでもあります。

日向清人

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