2005年12月13日
発注ミスあれこれ:F12キーで知らぬ間に1000億円の売り注文を出した話など
みずほ証券の発注ミスは、東証の売買システムに不具合があったために注文をすぐに取り消せなかったことが判明し、新たな局面を迎えています。報道によると、取り消しがうまく行っていれば、その間に売買が成立した株は3000株程度だったので、6億円程度の損害で済んだはずだったと言います。クリック一つで巨額の取引が行われる世界での、foolproof method つまり単純ミスを防ぐ仕組みはどうあるべきかを考えさせられます。
ところで今回の発注ミスは巷では「ありえない」と形容されることが多いようですが、「ありえない」というほどでもなく、結構起きていることです。そこで、今回は、この種の「証券事故」として、これまでどのようなものがあったのかを見てから、証券会社や取引所が普通、どう対応しているのかをざっと見ようと思います。
★ 発注ミスあれこれ
わが国での発注ミスとして有名なのは、2001年のUBSとドイツ証券のヘマでしょう。当時のUBSウォーバーグ証券が誤って、電通株を610,000円で16株売りたいとする注文を誤り、16円で610,000株売りたいという注文にして出し、執行されてしまいました。数十億円規模の損失をかぶったはずです。ドイツ証券もこの頃、大量の売り注文を間違って出したものの、これは事情は忘れましたが、執行されずに済み、命拾いしています。
外国の例では、2002年の話ですが、アメリカの大手証券、ベアスターンズの事務員が、400万ドルの売り注文とすべきものを誤って入力し、40億ドルの売り注文として市場に出してしまった例が知られています。このときは注文が市場で執行される前に、つまり買い手がつく前に、その大部分を取り消すことに成功していますが、それでも6億ドル程度が執行されてしまいました。
しかし、その規模と言い、原因と言い、極めつきは、1998年に、当時のソロモンスミスバーニー(現在の日興コーディアル証券の先祖に当たります)がフランス国債先物市場で「知らないうちに」10億ドル規模の売り注文を出したというケースでしょう。この取引規模は当時の市場での出来高の10%に相当したと言いますから、そのインパクトもわかります。しかも上げ相場の中で突然の大量の売りですから、関係者はさぞや驚いたことでしょう。
ところがソロモン側はそんな注文を出した覚えはないと言ったものですから、フランスの先物取引所 (MATIF)のイニシアティブで、フランスの大手IT企業 Cap Geminiとアメリカの調査会社(要するに探偵)Kroll Associatesによる共同調査が行われ、3ヶ月後に結果が報告されます。
調査団がフランスの国債市場の売買管理システムを調べると、ソロモン側からの売り注文が145回記録されていたので、その発信源をたどっていったところ、ソロモンのロンドン・オフィスのトレーダーの端末に行き着きます。ところが、トレーダー本人は売り注文は入力してしていないと主張するので、さらに調べると、元凶はそのトレーダーのキーボードのファンクション・キーだとわかります。みなさんのキーボードにもあるかも知れませんが、一番上に並んでいるファンクション・キーの一番右にある、F12キーが、ワンタッチで直前に行われた注文をリピートできるように仕組まれていたのに、本人が十分、気をつけず、体をひねって、他のスクリーンをのぞきこんでいる時にそのキーをひじで押してしまっていたのです。しかも145回も。
売り注文ばかりでなく、間違って買い注文を出すケースだってあります。台湾の証券会社のディーラーが、外国人投資からの買い注文につき、台湾ドルで、80 millionとすべき取引額を 8 billionと聞き違えて、そのまま市場に出してしまったという例です。
オンライン版のChina Postの記事によると、Many Chinese-speaking people tend to mix the terms of "million" and "billion." なのだそうです。これなど、日本人も似たようなもので、証券会社の人間でも、特に新人が苦労しているのが、eighthsの聞き取りです。現に、新入社員が横の先輩に、「エースが何とかと言っているんですが、なんすかね」と尋ねている場面に出くわしたことがあります。債券の値刻みの単位が 商慣行で、1/8 (1.25ドル)単位であるため、国際業務を行っている部署では、three eighths (3/8) といった言い方が日常的に飛び交う訳ですが、それを聞き取れなかったり、いまいち不安が残ったりで、けっこう危険と言えば危険な話です。
★ 対応策
実際のところ、証券会社による発注ミスは、日常茶飯事とまでは言えなくても、ありがちなことであり、したがって、会社の内部体制においても、「過誤訂正」と称される手続で誤発注を処理し、日本証券業協会にもきちんと届け出るといった仕組みができています。また、金融庁による検査においても、こういった手続がどうなっているか、どのように運用されているかといった点はチェックされています。
しかし、これは後始末の話であり、誤発注を防ぐ手だてとなると、各社それぞれで、決め手はないようです。現に、2001年とちょっと古い話ですが、12月21日付の共同電によると、上記のUBSやドイツ証券がらみの証券事故を受け、東証が113社にのぼる証券会社を調査したところ、24社が誤発注を防ぐための取り組みをしていなかったと言います。これさえやっておけば絶対大丈夫というものがないので、つい手を抜くような会社があるのでしょう。しかし、だからと言って防止策を取らないわけには行きません。
普通、発注する側の証券会社のシステム上どんな防止策が取られているかと言うと、東証のシステムにつながっている証券会社側の端末の画面には、株式の銘柄名、株数、値段、売り買いの別を入力する欄が並んでいますが、会社側で予め、株数や値段につき一定の線を越えるデータが入力されたら、そのままではシステム側に流れないようにしてあるのが普通です。慎重にやろうと言う会社だと、株数や値段に加えて、個々の取引の合計金額をもチェック項目に加えています。何であれ、証券事故を防ぐ一番いい方法は、誤発注が市場に出る前の段階で食い止めることに決まっており、第一義的な責任は証券会社にあると見るべきですから、相応の注意義務が求められます。
あとネット取引などの場合は、一般に預かり資産を超えるような取引は入力しても受け付けてもらえません。つまり100株しか持っていない人は、その範囲内でしか売れないということです。
注文を受け付けるシステム側でもチェックは行われます。東証のシステムは知りませんが、外国の取引システムでよくあるのは、直近の約定値段(最後に成立した取引での売買価格)から何パーセントを超えるような売買注文が入力されるとシステム側から警告されるといった仕組みです。もっとも微妙なのは、今回のジェイコム株がそうであったように、新規公開株のようなものは、通常の取引とは違う値動きをみせるのが普通ですから、どの取引所でも、こうした銘柄については、特別扱いを認めており、その分、事故の起きるリスクも高くなっています。
してみると、チェックを厳重にしようとすると、利便性が損なわれますし、かと言って、緩めるとリスクが高まるということであり、このトレードオフをどう考えるかが最大の問題と言えそうです。・
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- »ブログ らぷぽ: 東証システムから思う - 2005年12月13日 11:40
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