2005年12月23日
絶滅危惧種としてのSHALL
Shall の使いわけに学習者の多くが気を使っているようですが、実は絶滅危惧種の一つであり、したがって、私は、それほど神経を使う必要はないと考えています。だいたいが shall はあまり使われないのだという点は、難解な文法書を読むまでもない話で、学習者向け英英辞典にもはっきり書いてある、ごく基本的なことです。
そこで、今回は、shall を扱う上での基礎知識をおさえてから、この絶滅危惧種の保護区となっている法律英語の世界を見て、その全体像をとらえてみたいと思います。
★ SHALLはどう使うのか
Oxford Advanced Learner's Dictionary(以下 OALD)で SHALL の項を引くと、(1)一人称で将来の話をするための shall、(2)疑問文の形式で「何々しませんか」と同調を求め、または、「どうしましょうか」と相手にアイディアを求める shall、そして、(3)決意や指示を伝える shall という三つの語義が載っています。
三つ載っている語義のうち、第1の一人称によりながら将来の話をするときに使う shall については "becoming old-fashioned"というラベルが、また、もう一つ、第3の語義である、決意のほどや指示を伝えるときの shall についても、"old-fashioned or formal" というラベルが付いており、使える範囲が限定されていることがわかります。このように絶滅危惧種だけあって、ひどく使い勝手が悪い言葉と言えます。
まず第1の語義として解説されている、一人称によりながら将来の話をするときに使う shall というのは、
This time next week I shall be in Scotland.
といったパターンですが、この手の shall などは、イギリス英語を話す人から見ても、becoming old-fashioned なのです。加えて、アメリカ英語を話す人からすれば、いかにもイギリス臭い、くせのある言い方だということになります。アメリカ人なら、単に This time next week, I'll be in Scotland.で済ませるケースです。そして、こういった言い方がイギリス人の間でも一般化しつつあるので、"becoming" old-fashioned と形容されているのでしょう。
OALDが第3の語義として挙げているのは、
He is determined that you shall succeed.
または
Candidates shall remain in their seats until all papers have been collected.
のように、決意のほどを伝えたり、指示を伝えるために使う shall で、これにつき、この辞典は old-fashioned or formal としています。
結局、普通に使えるのは、第2の語義として OALD に載っている、
Let's look at it again, shall we?
のように、疑問文をつかって「こうしましょうか?」と提案し、あるいは、
What shall we do this weekend?
のように、どうしたらいいのか自分では決めかねて、「どうしましょうか?」と相手に何かアイディアを求めるときの、二つのケースぐらいなのです。
Macmillan English Dictionaryから、この種の比較的よく使う shall の使い方を引用しておきますと、こんな感じです。
提案するSHALL...Shall I help you with your luggage?
Where shall we meet?
Shall I open the champagne?
映画で有名になったShall we dance?もこの仲間に入ります。
相手にアイディアを求めるSHALL...What shall we do? We can't stay here all night.
以上を要するに、気楽に shall を使えるのは、このように自分の方から何か提案したり、助言をあおぐ感じで、相手の意向を尋ねるときぐらいしかなく、あとは、すべて will を、しかも、省略形の 'll を使えば用が足りるというのが私の感覚です。
★ 法律英語におけるSHALLはどうなっているのか
前項で見たとおり、shallは基本的に絶滅危惧種ですが、よせばいいのに、will を使えば済む場面でも、何が何でも shallにしてしまう人々がいます。法律家の世界です。絶滅危惧種である shall が安心して棲める世界がここにはあるのです。
Peter M. TiersmaのLegal Language (University of Chicago Press)によると、法律の世界での shall は、助動詞DOともども、普通とは異なる用法で、しかも、多少なりとも時代がかったおもむきを保ちながら使われ続けているのです。
Tiersmaは、まず shall は一人称による単純未来形においてのみ使われ、他では、will が使われるとした上で、アメリカ英語においては、実際上、単純未来は will のみでまかなわれていると指摘し、次いで、法律の世界では、shall は単純未来というのでなく、命令または義務を表すものとして、したがって、mustと同じものとして使われると説明しています。
例えば、カリフォルニア法の下では、
"someone who qualifies as a sex offender shall register with the chief of police or sheriff within a specified time" (性犯罪者に該当する者は所定の期間内に警察署長または保安官に届出を行うべきものとする)
とされている点を取りあげ、こういったコンテクストでの shallは、単純未来を表すものと言うよりは、届け出義務を課しているみるべきだとします。
続いて、Tiersmaは、「本法はカリフォルニア州刑法と称される」という意味での
"This Act shall be known as The Penal Code of California"
という一節を取りあげ、ここでの shall を指して、義務づけているものと解し、違った名前で呼んだ人を処罰するわけにも行くまい、とからかっています。
また、出版契約のこんな一節もやり玉にあげています。
The Publisher shall pay the Author...an Advance...which shall be a charge against all sums accruing to the Author under this Agreement.(本件出版社は、本件著者に対して、本件前払金を払うものとするが、かかる前払金は、本契約上、本件著者に払うべき金額に充当されるべきものとする)
Tiersmaいわく、最初に出てくる shall は、契約上、相互に約束する文言の一部であり、したがって、promises to か will で置き換えられてしかるべきものであり、また、後段で出てくる shall も、この合意の文言の一部か、あるいは単に取り決めたことの表明であり、命令という筋合いではないのです。
してみると、法律英語の世界での shall は、単に命令を表すだけでなく、法令であれば、何かを「制定し」、また、契約書であれば、互いに何かを「約する」というふうに、その書面によって何かが「遂行される」ことを表すツールとして使われているようだというのが Tiersma の解釈です。
そして、最後に、shall のもう一つの顔として、法的拘束力のあることが予定されているんだよという点をはっきりさせるためのツールであることを指摘してから、Frederick Bowersが言うように、shall は、一般に、 "used as a kind of totem, to conjure up some flavour of the law" (何かしら法律っぽい感じを醸し出すためのおまじないとして使われている)のであり、だからこそ、法律英語の世界で広く使われているのでしょう、としめくくっています。
★ 心ある法律家が忌み嫌うSHALL
前項のTiersmaが醒めた目で現状を分析しているだけなのに対して、shallなど使うのをやめてしまえと声高に主張し、shall族を脅かす、見識のある法律家もいます。
法律英語の世界での一種のバイブルである Black's Law Dictionary の編者である Bryan A. Garner もその1人です。Garnerは、自著の Legal Writing in Plain English (University of Chicago Press)の中でわざわざ Delete every shall という一章を設けてまで shall 族を退治しようとしています。
その章はこう始まっています。
Shall isn't plain English. Chances are it's not part of your everyday vocabulary, except in lighthearted questions that begin, "Shall we...?" But legal drafters use shall incessantly. They learn it by osmosis in law school and the lesson is fortified in law practice.(Shallはわかりやすい、普通の英語ではない。「…したらどうだろう?」という感じで何気なく尋ねるような場合を別として、われわれが普段使わない言葉だとも言えるぐらいだ。ところが、法律文書を起草する人たちは始終これを使っている。ロースクールで自然にこれを身につけ、実務で繰り返し刷り込まれるからだ)
続けて Garnerは、shall は本来、義務を表すものであるのに、Nothing in this Agreement shall be construed ...のようにnothing や neitherが先行するときは、もはや義務を語れなくなるし、全米各地の裁判所で、個別案件において、shallが、実は、may、will あるいは単に is しか意味しない例があると判示しているケースがあるとし、加えて、連邦最高裁においてさえ、shallが問題視されたケースがいくつもあると強調しています。
そして最後に、連邦裁判所控訴審手続やテキサス州控訴審手続の規則集から shall が全面的に追放され(義務を定める条項はすべて must を使うということです)、そのおかげで、内容が一気に明確になったこと、私人間の契約書を起草する法律家の間でも shall 抜きのスタイルが浸透しつつあり、そのおかげで、やはり、わかりやすくなっていることをあげてから、You should do the same. と結んでいます。
・
・
・
![]()
この記事どうでしたか?よろしかったら人気ブログランキングのため一票お願いできますか。クリックするだけです。深夜零時に再計算されますので、リピーターのかたも是非もう一回お願いします。人気blogランキングへ
- [助動詞]
- Comments (1)
- Trackbacks (0)
Trackbacks
Trackback URL:

初めまして。
企業内翻訳者として仕事をして2年になります。
何度か契約書を翻訳いたしましたが
shallの洪水におぼれそうになりつつ
初めのうちは疑問意識をもって
辞書を引きshall文に応戦しておりました。
が、しかし
最近では自動的に、shall→[すべきである]
と訳すようになっておりました。
挙句の果てにはShall we?の使い方さえ
おぼろげになっておりました。
丁寧な表現であるという風に理解していたのですが
shallが絶滅危惧種の1つであり
時代遅れな表現であることは知りませんでしたし、
改めてshallの役割を考えるいい機会になりました。
こちらのブログを活用させていただき
英語の繊細な語感をどんどん習得していきたいと思います。
これからもよろしくお願いいたします。
[返信]
コメントありがとうございます。経験では、shall は「ものとする」も使えるケースが多いような気がします。何であれ、仕事で英語をつかっていらっしゃる方の役に立てるのはうれしいことです。英語の繊細な語感をお伝えできるような記事を心がけますので、今後ともよろしくお願いします。