2006年1月22日
Dangling modifierという古典的文法ミスについて
懸垂分詞って何だと思いますか?「懸垂分詞」と入力して Google で検索するといくつか出てきますが、中身を見ると、英語の "dangling participle" の直訳であることがわかります。誰が考えたのか知りませんが、鉄棒じゃあるまいし、あきれる訳です。そう言えば、明らかにこの dangling participleを指している言葉として、「ぶらさがり分詞」あるいは「ずっこけ分詞」というフレーズを見たこともあります。ここまで来ると、何をか言わんやという気持ちになります。
たしかに、以下で見るとおり、「宙ぶらりん」になってしまっている分詞を指す言葉ではありますが、「懸垂」と言い、「ぶらさがり」と言い、こういう訳語を持ち出す人ーー多くの場合、英語の専門家なのでしょうがーーそういう人の日本語のセンスを疑います。そもそも、こういった訳を当てること自体、英語の言い方と日本語の言い方が一対一で対応しているという勘違いをしているわけで、仮に自分が dangling participle という見出しをどうしても和訳しなければならない必要に迫られたら、実態に即して「分詞構文上の分詞句と主節の主語の不一致」で済ますことでしょう。
本題に戻って、英文法の世界では、分詞句などでセンテンスを始めた場合、その分詞句などがかかっていく先、つまり、主節において、その分詞句を受け止める主語が予定されており、分詞句などで始めたものの、それがかかっていく先がない場合を dangling、つまり「宙ぶらりん」と形容します。そこで、本来、「修飾句と修飾されるべき語句との対応関係があるはずなのに、肝心の修飾されるべき語句が落ちてしまっており、こうした対応関係が崩れている」修飾語を指して、dangling modifier と言います。文法書などでは、一般に、分詞句などの意味上の主語と主節における主語は一致していなければならないと説明しています。
ありがちな文法ミスとあって、英語の文法書では必ずとりあげているたぐいの問題です。わが国の英語教育で、どの程度この問題が教えられているかは知りませんが、学生の英作文を読む限りは、教わっている気配はありません。社会人の書く英語を見ても、やはり知識として、この dangling modifier の問題をおさえている感じはありません。そこで、普通に英語を使う人間が常識的にわきまえているレベルのことをご紹介します。
まずはING形の分詞を使っている例です。例えば、何かの会議で、あるプロジェクトを推進するか否かで、賛否両論が対立し、互いにデータの山を突きつけるような状況があったとしましょう。こういった場合、どうかすると、こんなふうにレポートを書いたりするものです。
駄目な例です → Arguing the pros and cons of pursuing the project, tons of data were presented at the meeting.
こういった英文はネイティブスピーカーの人たちもよくやっています。しかし、よくよく見ると、argueできるのは、人間に決まっているというのに、この Arguing で始まる分詞句に対応している主節の主語は tons of dataで、argueなどしようのないモノですから、対応関係が欠けています。係り結びという言い方をすれば、結べずに終わり、Arguingが孤立し、danglingという状態に陥ってしまうのです。
これを直すには、Arguingの主語が、主節でもきちんと登場するようにすることですから、こうなります。
Arguing the pros and cons of pursuing the project, participants at the meeting presented all sorts of data.
これなら、Arguingを目にし、「ああ、誰かがargueしたんだ」と思った読み手は、そのまま読み進んで、participants at the meetingという argueの主体に出会うことができますので、arguing が dangle してしまうようなことにはなりません。
もう一つ、例を挙げましょう。日本語で言うと、どうということもないのですが、「締め切りに間に合うよう大急ぎでやり、いくつものミスが出た」を英語にした場合、ひとまず、こう書けます。
Rushing to meet the deadlines, many errors were made.
しかし、これも errorsがrushするはずもなく、したがって、Rushing以下の分詞句が修飾すべき対象を欠く、つまり、danglingという状態に陥っています。直すなら、
Rushing to meet the deadlines, we made many errors.
というふうに、rushする主体である we を補って全文を作り直すことになります。
このブログは、ビジネス英語雑記帳と銘打っているので、ちょっと硬い例文を挙げましたが、この手の間違いはだいたいが笑えるものが多いもので、例えば、Minimum Essentials of English (Barron's Educational Series, Inc.) は、
Driving through the park, several chipmunks could be seen.
という例文を挙げています。これなど、違和感なくすっと読めてしまいますが、よくよく読むと、chipmunksが運転していたことになり、文法上、おかしい、つまり dangling という状態になっています。
つぎに、同じことは ED形の分詞でも起こりえます。ED形の分詞で始まるものについては、A Grammar Book for You and I...oops, Me! は、
Shown at the mall, many people saw Titanic.
という例を出しています。これだと many people が上映されていたことになってしまい、何だかおかしな話になってしまいます。上映されて人気を呼んだのはタイタニックですから、
Shown at the mall, Titanic attracted many people.
に直す必要があります。 ING形の分詞句の場合は、「誰が/何が」このING形で表されている動詞の主体なんだという問題意識をもって読み進みますが、ED形の分詞句の場合は、「誰が/何が」このED形で表されている動詞の受け手なんだという問題意識をもって読み進むわけで、「動作の主体 versus 動作の客体」という差はあるものの、分詞句での主題と主節の主題は共通していなければならないという、対応関係が求められるというルールにおいては共通の話です。
この点、本誌の1月17日号の記事「ネット企業エキサイトの英語力 ?? it'sとitsを混同するという初歩的ミス」で取りあげた、エキサイトのコピーにも同種の間違いが含まれています。問題が含まれている部分は次の冒頭の一句です。
Armed with it's originality and swiftness, the mission of Excite is to create value and convey it ahead of the trend.
これを見ると、最初の Armed を見て、誰か armedされているんだと理解するわけですが、続けて誰が armed with...なのだろうと読んで行くと、the mission of Exciteに当たります。ということは、「エキサイト社の使命がオリジナリティーうんぬんを備えている」という話になりますから、これはおかしいと気づきます。直すためには、Armed with its originality and swiftness, という分詞句に続く主節の主語に Excite が来るよう、センテンスを組み立て直す必要があるのです。原文を尊重しながら(注記)、格好だけ整えれば、こんなところでしょう。
Armed with its originality and swiftness, Excite has as its mission to create value and convey it ahead of the trend.
(注記 このコピーが英語として「おもしろい」たぐいのものであることは、好事家が
http://wiki.schubart.net/Japanese_Ad_Poetry?PHPSESSID=92fd6a25176809092ba5621420874d67
でこのコピーをさらしものにしている事実に表れていると思います)
きょうは、とりあえず "dangling もの" の典型ということで、ING形の分詞とED形の分詞を取りあげましたが、こういったdanglingは、動名詞句やTO不定詞句でセンテンスを始めて、主節が続くときにも起こりうるので、次回は、これを取りあげます。
例えば、動名詞句なら、
誤用例です → In redesigning our production systems, the budget was breached.
また、TO不定詞句なら、
誤用例です → To succeed in any business, customer retention is as important as customer acquisition.
といったものが、典型的な誤用例になります。
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