2006年1月10日
EnoughとSufficientとAdequateを使いわける:十分じゃないけど、ま、いいか、が adequate
辞書で見ると、この三つの形容詞は同義語と扱われ、それぞれの語義を読み比べても違いがわからないのが普通です。しかし、実務文書では明らかに違いを意識した上での使いわけを見ることがあります。特に adequate が微妙なニュアンスを持っているので、きょうはこの adequate にスポットライトを当てながら、使いわけを考えてみます。予告編ということでひとこと言いますと、adequate には "barely enough" つまりぎりぎりの所で求められている水準をクリアしているというニュアンスがある点をおさえるのがポイントです。
まずデフォルトで使えるのが enoughです。これが基本です。ですから、「提案されているプロジェクトの資金手当は十分だ」と言いたい場合、
We have enough funding for the proposed project.
となります。ここで sufficientを使って、
We have sufficient funding for the proposed project.
とすると、ちょっと改まった感じになります。その意味で sufficient は、フォーマルな装いの enough と言えます。次に 、こういったコンテクストで、つまり、正面から sufficientとの対比が露になっているような状況で、敢えて adequate を使って、
We have adequate funding for the proposed project.
という言い方をすると、ちょっと心細い感じがします。Enoughと、そのフォーマル版のsufficientと対比した場合、adequateだと、"is just enough for a particular purpose" (特定の目的に照らしぎりぎりの線で十分な??Longman Language Activator)という意味あいがあるからです。
ここでのポイントは、adequate には「十分な」という第1の語義に加えて、「かろうじて要求基準を満たしている」「相当なレベルでの」という、いささか消極的な第2の語義が伝える感覚を会得することです。英英辞典の中には、adequateの項を見ても、「enoughと同じ」「sufficientと同義」といった程度でお茶を濁しているものもありますが、かなりの数の辞典が「もう一つの adequate」を意識しているもので、現に、Cambridge Learner's Dictionaryは、語義の1がenoughで、語義の2は、good enough, but not very good だとし、その上で、The sound quality isn't exceptional but it's adequate for everyday use.(音質は格別いいわけではないが、普段使う分にはまずまずだ)という例文を挙げています。
例えば、Clayton UTZ というオーストラリアの法律事務所が出しているFSR Newsflash という顧客向けニューズレター(2001年4月6日号)にこういう一節がありました。話は同国での金融制度改革に関してのもので、文中出てくる APRAは、金融業界の自主規制団体 (self-regulating body) である、Australian Prudential Regulation Authorityを指しています。また、FSは financial services=金融サービス、FSRは financial services reform=金融サービス業務の改革を指している略称です。
Bodies regulated by APRA who are also FS Licensees no longer need to maintain “sufficient resources” to provide the financial services under the FSR regime. Non-APRA regulated bodies now have to have available “adequate” (as opposed to “sufficient”) resources to provide the financial services (as opposed to properly providing them). This represents a significant lowering of these obligations. 訳:APRAに加盟している金融サービス業者は、改革後の制度下で金融サービスを提供するに当たり、もはや「十分な経営資源」を維持していることまでは求められなくなる。APRAの規制対象外である業者は、今般の改正により金融サービスを提供する上で(「十分な」というのでなく)「相当な」経営資源を有していなければならないとされる。(金融サービスの適正な提供をというのではなくなる。)こうした変更は義務内容が大幅に軽減されることを意味している。
このように adequate が真っ正面から sufficient とぶつかるような場面では、「負けて」しまう存在です。この点、Bryan A. Garner は A Dictionary of Modern Legal Usage, 2nd ed. (Oxford)で、 両者とも従前は quantity という視点からことを取りあげていたが、現在の傾向としては、質的な問題を取りあげるときに adequate を使い、量的な問題を取りあげるときに sufficient を使う感じになっているとしています。言葉を変えて言えば、adequateの場合は、主観的判断の余地が大きくなるということです。そのせいか、日経文庫の『ビジネス法律英語辞典』では adequate の訳語を「相当な」としています。
例えば、先頃、構成銘柄の入れ替えが行われ、話題となっていたS&P総合株価指数の場合で考えると、構成銘柄としての資格要件として、米企業であること、4四半期連続で黒字を計上していること (post positive earnings for four consecutive quarters)、時価総額(株価×発行株数)が少なくとも40億ドル以上あること (have a market capitalization of at least $4 billion)に加え、trade with adequate liquidity ということも条件として挙がっています。
この liquidity というのは、売りたい時に買い手がおり、買いたい時に売り手がいること、すなわち「流動性」を指すことばですが、浮動株すなわち特定の大株主に握られておらず、一般に流通している株式数が一定割合あること(float または floating supply と呼ばれます)や売買高で、この liquidity が左右されることを考えると、S&P社がこういった要因を勘案しながら「相当な流動性」を伴う売買が行われているかを(主観的に)判断するという姿勢を読み取れます。
ちょっとおもしろいところでは、以下のURLにある記事を見ると、adequate compensation(相当な補償)と引き換えに私人の財産を政府や国家が召し上げるのが expropriation(公用収用)であり、sufficient compensation(十分な補償)なしで召し上げるのが confiscation(没収)だとしているくだりがあります。つまり、こうです。
a. Expropriation occurs when a government seizes a privately owned business or privately owned goods for a public purpose and awards "adequate" compensation.
b. A confiscation occurs when there is a taking without a proper public purpose or without an award of sufficient compensation.
http://www.outlawslegal.com/refer/int-bus.htm
以上をまとめますと、基本的にenoughとsufficientとadequateは同義だけれど、enoughをデフォルトないし基準とした場合、sufficientがフォーマル版で、adequateが "barely enough" という意味あいがあることから、やや弱いバージョンだということになります。
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