2006年1月26日
時価総額をめぐる英語の表現
ライブドアの時価総額が連日低下を続け、しばしばニュースとして報じられていますが、この時価総額、つまりその会社の発行株数に株価をかけたものは、はかないものながら、結構、何か実体があるかのように扱われる不思議な数字です。そこで、きょうは、こうした時価総額なるものがどういうもので、どういうゴリヤクがあるのかなどをからませながら、関連する英語の表現を見て行きます。
★ 時価総額とはなんぞや
時価総額は、上で述べたように、発行済株式総数かける株価で求まる数字ですが、それが何を意味するのかと言えば、端的には、企業価値を表すものとされています。つまり、その会社がどの程度の価値があるのか、いくらで買えるのかがわかるということです。
ある会社の時価総額に相当する資金を用意すれば、その会社を買収できるということです。特に、ライブドアなどの場合、時価総額が同社の資産総額を下回りましたから、単純な理屈で言えば、買収してから個別の事業部門を切り売りすれば、もうかるぐらいで、お得です(英語では、このように解体して売ることを asset stripping と言います)。しかも、株式交換という方法を使えば、現金を用意しなくても自社株と引き換えに相手を買収できますから、相手が同意してくれる限り、楽にもうかります。
また、新聞などでは、よく日本の製薬会社の時価総額を示して、トップ企業といえども世界ランキングで見るとかなり下であり、買収の対象となりやすいといったことが出ています。例えば、トップメーカーの武田薬品工業でさえ、時価総額で見ると、米ファイザーや英グラクソ・スミスクラインなど欧米のライバル企業と比べて、3分の1程度でしかなく、海外勢からの買収攻勢を受けやすいといったことが言われているのです。
しかし、何であれ、時価総額は、基本的にはその会社が提供するモノ・サービスに対する投資家の、あるいは市場の評価であるはずです。先にモノ・サービスがあって、時価総額はあとから付いてくるものです。ですから、テレビでこのところよく見る、ホリエモンが自社の忘年会で時価総額世界一を目指すぞとわめている姿はただただ、不思議です。英語で言えば、It's putting the cart before the horse.(本末転倒)です。
★ 時価総額の決まり方
まず時価総額の英語ですが、普通は、market capitalization で、market capという略した言い方もよく聞きます。他に、outstanding market valueという、もっと硬い感じの言い方もあります。
この時価総額は発行株数と株価で決まりますが、発行株数はしょっちゅう変わるものではなく、したがって、決め手は株価です。そして、その株価がどう決まるかについては、著名な経済学者のケインズがずばり、「美人コンテンストみたいなものさ」と喝破したことで知られています。
ケインズは1930年代に出た著作の中で、この株式相場=美人コンテスト論を打ち出していますが、当時のイギリスで流行っていた新聞社主催の紙上美人コンテストを念頭においてのことです。このコンテストというのが振るっていて、まず紙面に女性の顔写真を100枚掲載し、読者にそのうちに気に入った6名を選んで郵便で投票してくれと呼びかけます。こうして応募してきた人のうち、一番人気のあった人を選んだ人全員が別の懸賞に参加する資格を得るというしくみです。
これにつき、ケインズは、こう指摘したのです。
It is not a case of choosing those which, to the best of one's judgment, are really the prettiest, nor even those which average opinion genuinely thinks the prettiest. We have reached the third degree where we devote our intelligences to anticipating what average opinion expects the average opinion to be. And there are some, I believe, who practise the fourth, fifth and higher degrees. 個々の参加者が慎重に判断した上、一番の美人を選ぶという話ではない。参加者の平均的判断において、一番の美人とされた者が選ばれるというのでもない。平均的判断において、いったい何が平均的判断とされるかを見いだすという三段構えの作業に知恵を絞るのである。思うに、人によっては、四段、五段と、さらなる推測を重ねていくことにもなろう)
要するに株価などというものは客観的に決まるものではなく、参加者の主観次第というわけで、会社の資産総額のような客観的価値と無関係に株価が下がり続けているライブドアのケースを見ていると、なるほどケインズ先生ってのはすごい人だったのだとの思いにかられます。
ちなみにケインズはこうしたアプローチで毎朝ベッドで30分程度考えをめぐらしてから相場を張り、最終的に自分自身、当時のカネで数百万ポンド稼ぎ、また、母校、キングズカレッジの基金を10倍にしたと伝えられています。
★ 大型株、中小型株
しかし、いくら時価総額がこのように、うつろいやすく、はかないものであろうと、その一方において、投資家の目安になっているのも事実であり、そういった目安として、よく大型株、中型株、小型株といった区分が取りざたされます。
A: What's the market cap of XYZ?(XYZの時価総額って、どんなもの?) B: Hmm, not sure about the exact figure, but it's a midcap, I guess.(うーん、正確なところは知らないけれど、中型株じゃないの)
といった感じで使われるのです。
問題は、何をもって、大型、中型、小型の定義とするかですが、実はこれがけっこう曖昧で、人によって、また、時代によって多少違っています。当然、国によっても、違います。実務家にファンの多い、Barron'sの Dictionary of Finance and Investment Termsを見ると、アメリカの場合は、こうなっています。
LARGE CAP (大型株) 50億ドル以上
MID CAP (中型株) 10億ドルから50億ドル
SMALL CAP (小型株) 5億ドル以下
MICRO CAP (超小型株) 5000万ドル以下
しかし、これも結構、曖昧な区分で、事実、上の辞典においてさえ、large cap, mid capを個別に引いていくと、上のような区分が示されているのに、small capの説明文で、10億ドル以上が大型株、5億から30-50億ドルあたりが中型株などとしており、くいちがいがあるぐらいです。ただ、中型株あるいは小型株専門のファンド(投資信託)は個別に自分たちが何を指して中型株あるいは小型株と言っているのかを資料で明示しているものです。
ところで、こういった区別をする実益がどこにあるか、つまり投資家がなぜ気にするかと言えば、情報収集のしやすさ、売り買いのしやすさ、そして値上がりの期待度(そして、表裏一体をなすリスクの高さ)が違ってくるからです。
大型株は、いわゆる優良株 (blue chips)と概ね重なっているわけで、大手証券会社が専任のアナリストをそろえて資料を出している上、新聞の市況欄だけからでも情報が入ってきますから、売り買いの判断がしやすいと言えます。また、流通している株式の数が多く、売り買いも活発ですから、買いたいと思えば、売り手がいますし、売りたいときにも買い手はつきます(そう言えば、ニューヨーク証券取引所での上場基準においても一定レベル以上の時価総額が求められていますが、その理由は「流動性」と称される、この売買のしやすさにあります)。ただ、こうした大型株は、安定成長型の大企業で占められているため、値動きとしては、おもしろみに欠け、短期での大幅な株価上昇はそうはありません。
反対に小型株は、情報が得にくいうえ、売るに売れない、あるいは買いたいのに誰も売ってくれないといった事態がありうる反面、急成長株が多いため、破綻という危険が常につきまとうものの一攫千金が可能です。しかも、株の流通量が少ないことを反映して、ちょっと人気が出ただけで品薄となり、株価が大きく動くので、スリルを好む投資家にはうってつけです。
★ MVA (市場付加価値)という経営指標
企業価値のものさしという目で見ると時価総額は頼りないものです。しかし、企業が株主価値としてどれだけのものを生み出しているかを測る上での一つの要素としては、それなりの存在意義を持っています。例えば、企業価値の指標の一つとして、MVA(市場付加価値)というものが知られています。
アルクのサイトで公開させていただいている「ビジネス英語辞書」の宣伝を兼ねて、この辞書の検索画面で、 MVA と入力してみますと、こういう説明が出てきます。
MVA (Market Value Added) 市場付加価値
◆ 企業が事業活動を通じて長期的にどれほどの富を株主のために築き上げたかを示す。株式や社債の購入を通じて投資家が企業に払い込んだ元金総額に当たる市場価値を算出した上、そういった株式や債券の時価総額を差し引いて求める。
◆ 日経の試算では我が国のトップは500億ドルの富を創出したトヨタ自動車。しかし、全米トップのコカ・コーラやGEの半分にもならない。
◆ MVAが長期ベースでの富の累積を示すのに対してEVA(別項)は当該年度に新たに生成された富を示す。その意味でMVAは将来にわたって年々生成されるEVAを一括して現在価値に割り引いたものと言える。
このように MVAというのは、過去において投下された資本の総額と、その投下資本に対して市場がどういった評価額をつけているかの差額を求め、差額の大小をもって、経営手腕の良し悪しを見きわめようとするアプローチです。ですから、時価総額が同じという二つの会社がある場合、より少ない投下資本でその時価総額を実現している方が、元手を効率的に使っており、経営手腕が上だという判断になります。3、4年前に読んだ資料ではマイクロソフトと、時価総額において当時肩を並べていた大手通信企業のベリゾンを比較して、そんなことを言っていました。なお、このMVAは、経営分析の世界では評判がいいらしく、日本経済新聞を見ていると、おりおりMVAランキングをやっています。
以上を要するに、時価総額というのは、会社の事業という実像を映す虚像的側面があるけれど、投資家の目安として、また企業分析の際の一要因としてそれなりの存在意義が認められているということです。
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