2006年2月24日
クルクルパーを英語で言うと
メール問題で自滅してしまった民主党の永田議員というのはどういう人なのだろうとネットを見てまわっていたら、この代議士が、何と委員会の席で、人差し指を頭にあてて「くるくるぱー」を繰り返している動画が各所で公開されているではありませんか。何かと思ったら、先の選挙で当選して話題を呼んだ佐藤ゆかり議員が初めて質問に立っているのに対して、何が気に入らないのか、ともかく佐藤議員を馬鹿にして悦に入っているというだけの、チンピラの振る舞い。おまけに議場で折り紙をしている映像まであります。
こんな人に年間2000万円以上の議員歳費がわれわれの税金から払われているのかと思うと嫌になりますが、それより個人的に気になったのは、この「くるくるぱー」の画像を外国人に説明するとしたらどう言えばいいのかという問題です。ちょうど、先日、favouriteさんのブログで、「いきごみ」は英語では何ていえばいいのだろうという話がとりあげられ、私もちょっと考えさせてもらっただけに、何か共通するものがあるなと感じました。
まず結論から申しあげると、ことの実態を英語で説明し、それがどういうものかをわかってもらうことは可能だけれど、「くるくるぱー」をひとことで置き換えられるような英語はないというのが私の判断です。
この手の問題を考える場合、つまり、「くるくるぱー」にしろ「いきごみ」にしろ、日本語の言い回しを訳すにはどうしたらいいのかという問題を考える場合、ポイントはどうも一対一の対応関係にある訳語を求めるメンタリティーにとらわれないことにありそうです。
そもそも一対一の対応関係を追求して日本語を英語に置き換えようとするアプローチを改めないと、なかなか英語特有のセンスが身につかず、英語として抵抗のない響きの言い回しを使えるようになりません。
池上嘉彦著『英文法を考える』(ちくまライブラリー)に載っている例を引き合いに言えば、「辞書を引く」をdraw a dictionaryと訳し、あるいは、「海水浴客」をswimming customersと訳すがごときは、この種の勘違いの典型例です。この点、同書は、自国語と外国語との間に本当に一対一の対応関係があるなら、あとは文法さえやればいいということになるわけで、このことが、外国語教育における文法偏重に結びつきがちだとしています。本来、語や表現の意味が違う言語どうしなのに、そこに一対一の対応関係があるとの思い込みがあると、妙な所で落とし穴に陥ってしまうというのです。(この本はあとの部分が偉くむずかしく、何が書いてあるのかよくわからなかったのですが、この部分だけはよくわかり、そりゃそうだと共感をおぼえました。それだけでも収穫です)
このように、そもそも日本語と英語の間には一対一の対応関係がないということに加え、「くるくるぱー」は指を回すしぐさを形容する「くるくる」と手のひらを開いた状態を形容する「ぱー」の組み合わせであり、擬音語・擬態語 (onomatopoeia) のひとつであることも、そのまま英語にはならない理由です。森本博之著『日本語が見えると英語も見える』(中公新書)によると、この種の擬音語・擬態語は、自分のまわりの世界をファジーに、感覚的に、あいまいなまま対象として切り取り、考察の対象とするアプローチであるので、これをそのまま、何でも分析的、論理的に切り取って処理しようとする英語の世界に移植しようとすること自体、無理があるのです。
それでは、「くるくるぱー」は英語にできないかとなると、そういうものでもなく、ことの実態に即して訳せばいいという話になるだけです。例えば、冒頭のビデオクリップに外国人向けのキャプションを付けるとすれば、Japanese member of parliament making an insulting gesture to ridicule an opposition member asking questions.(質問をしている反対党議員を馬鹿にするために侮辱的しぐさをとっている日本の国会議員)という言い方をすることができます。
また、「くるくるぱー」って何ですか、と聞かれて答える場合は、It's an insulting gesture made by circling the index finger around one's ear a couple of times to be followed by the opening of the hand with the palm facing outward. It's the equivalent of saying that someone is nuts. (人差し指を耳のあたりで二、三回まわしてから、手を開いて掌を外側に向けるという、侮辱的しぐさです。人を指して、狂っていると言うのと同じことになります)といった説明をできます。
ふと思い出したのですが、南米のエクアドルに住んでいた頃、ボーイ長がすごい剣幕で玄関先から誰かを追い払っていたので、どうしたのと聞くと、Una loquita.(スペイン語で狂女)と言いながら、耳のあたりを指して指をぐるぐるやったので、「ああ、日本と同じくるくる」なんだと思ったのですが、なぜか、そのあとの「ぱー」がなかったので、「おやっ」と何かもの足らない感じがしたのがいまだに記憶にあります。
ここで、何かあったよなと、人間観察マニュアルとして定評のある、Desmond Morrisの People Watchingを本棚から抜き出し、insultsの項を見たら、やはりありました。いわく
There are also many 'crazy' gestures, indicating that the insulted person is so foolish as to be mad. These usually take the form of 'bad brain' or 'dizzy brain' symbols, such as tapping the temple or screwing a forefinger against it.(「気が変だ」と合図するジェスチャーも多く、侮辱の対象である人があまりに馬鹿げており、狂っていることが示されます。たいていは、「頭の中が傷んでいる」とか「頭が中でぐるぐる回っている」ことを表すしぐさで、例えば、自分の額を軽くたたいたり、あるいは頭に向けて、人差し指を回転させたりします)
(このようにある程度、万国共通のようですが、ネットの映像での永田代議士のくるくるぱーの指先を見ていると、人差し指で円を描く「純日本式」と言うよりは、人差し指そのものを回転させており、アメリカかぶれなのかな、大学院留学でこんなことばかり練習していたのかなと、また別の興味がわいてきます)
ところで、この問題の永田議員の経歴は、本人のHPによると、慶応から東大に進んで大蔵省に入り、国費留学でUCLAに留学後、千葉から出馬して当選となっています。気品の泉源をモットーとしている慶応出身である点、同窓の人間としてがっかりします(それとも慶応時代はまともで、東大に行ってからおかしくなったのでしょうか。まさかね…)。それもさることながら、かりにもアメリカの大学院に公費で留学させてもらったような人間が、公人という立場で、公の席において、あのような品性下劣なジェスチャーをするというのは一体どういうことなのでしょう。
英語で非難するとしたら、a behavior to be condemned with the strongest words possible(最大限の非難に値する行為)とか、 absolutely reprehensible behaviour (唾棄するほかない行為)といったフレーズが並ぶような、ありうべからざる行為です。
公の場で侮辱された本人の不愉快さや国民の代表である同僚議員を侮辱したこと、議会の権威を傷つけたこと、再発防止のための見せしめといったことを総合して考え、さらに、こんな粗暴犯みたいな話、みずから議員特権を放棄したも同然とも言える点をも加味した場合、わたしが専制君主なら、おでこに「くるくるぱー」と入れ墨をいれた上で、どこかとんでもない流刑地に追放してやるところです。考えてみれば、ああいう馬鹿な行為を不問に付したがために、増長を許し、あのメール事件に至ったとも言えますから、民主党の執行部も連座させねばなりますまい。
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