2006年3月 2日
(続)早期外国語教育の落とし穴 -- 過去の失敗例が教える9つの落とし穴
「早期外国語教育の落とし穴 -- 過去の失敗例が教える9つの落とし穴」の後半部分、落とし穴の5から9までをお届けします。
落とし穴の5: 遅れてプログラムに参加する者への手当を考えておかない
外国語教育を受けている学年に編入などで特別な教育を受けていない生徒が途中参加した場合、補助教材や補習などを考えておかないと中途からの参加者がいつまでも遅れを取り戻せなかったり、その言葉の勉強が嫌になってしまう危険があるということです。他面、無理に中途参加者に合わせてしまうと、今度は、せっかく先行組が獲得してきたものが活かされず、無駄になるおそれもあります。そこで、Curtainらは、中途参加者をサポートするプログラムを予め用意しておく必要があるとしています。
落とし穴の6: 小学校から中学校への橋渡しを十分、考えておかない
既に外国語教育、例えば、英語教育を何年か受けてきた児童を対象とする中学校英語の授業においては、まるで英語が初めての相手であるかのような授業はすべきでなく、授業内容自体、既に児童が身につけているものを前提として、それを活かせる形に構成せよということです。この点、Curtainらは、小学校からの外国語教育を企画・立案する段階から、教育行政の担当者を含め、中学校の教諭等関係者の協力を得ながら進めた方が最終的に効果を上げられるはずだと説いています。
ところで、わが国でも一部小学校では英語教育を部分的ながら導入しているわけで、そういった小学校の出身者が中学校で、他の小学校出身者と合流する時点で、こうした問題が生じることになります。この点、簡単なものながら、岐阜大学の松川先生という方がご自分の経験を報告されています。
舞台は、早期英語教育を導入していた岐阜県の生津(なまづ)小学校からの卒業生を受入れた中学校で、そこでの様子が描かれています(1997年の話です)。この進学先の中学校で追跡調査をしてみたところ、既に英語を勉強している先発組と後発組との間では、授業での印象や成績を見る限り、大差がなかったのだそうです。となると、「じゃあ、小学校で英語をやった意味がないじゃないか」と言えそうですが、松川先生はこう分析されています。
以下引用文です …
意識調査の結果では、小学校で英語を学んだ子どもたちは、そうでなかった子どもたちと比べ、外国語に対する高い興味・関心を持ち、英語でのコミュニケーションには積極的な態度で臨んでいることがわかりました。また英語力の面では、知識量が違うことは当然ですが、スピーキング・テストでも、反応の速さ、発話量、未知の単語や文に出合ったときの反応の仕方などについても優れた結果を示しました。しかし驚いたのは、両者の差より、むしろこの中学校と、岐阜市やその周辺の中学校数校の子どもとの差の方が大きかったことです。この中学校の英語の授業は、小学校から英語を学んだ子どもを迎えることにより変わらざるを得なくなりました。教科書だけに頼らず、1年生でもスピーチなどを取り入れて、オーラル・ワークを中心に授業が構成されるようになりました。その結果、生津小学校以外の小学校出身者も、1年後には生津小学校出身者と遜色ないほどの学習効果を得ることができたのです。小学校英語は確かに中学校での英語教育のあり方を変える可能性を持っています。
落とし穴の7: 語学のスキルと教授のスキルの両方を身につけた教員を採用しない
Curtainらは、語学担当の教員を採用するに当たっては、二点の誤解が見受けられるとしています。一つは、その外国語を第二言語として習得した教員よりネイティブの方が好ましいとされている点。もう一つは、初級レベルを担当する者の語学力は上級レベル担当者ほどでなくてもいいという発想です。いずれも間違った考え方で、実際には、教員は自分が担当する外国語に十分通じている必要があると言います。しかも、単にネイティブ並みにその言葉を使いこなせればいいというのでなく、子どもの第二言語獲得における理論面を把握しており、かつ、第二言語教育を進める上で必要な手順や実際例にも通じていることが要求されます。
なぜ担当教員が自信をもってその言葉を使いこなせるレベルにないと拙いかと言うと、早期外国語教育の要素である、学習者をどっぷりと対象言語に漬からせることができないからだと説明されています。
これはイマージョンを実現できないということなのでしょうが、私自身が見たDVD教材(スクリーンにアニメを投影して、種々の英語の遊びをする教材)などは、スイッチをいったん入れれば、「さあ、歌って」とか「右手を挙げて」といった指示まで英語で全部入っていましたから、別に担当者は英語が特別よくできなくても十分イマージョンを実現できるしくみになっています。したがって、わが国の場合は、ちょっと事情が違うのだと思います。
しかも、IT時代ですから、探せばいくらでも安こういったものを低コストで利用できます。例えば、私が知っている会社はオーストラリアの塾と提携して、小学校、中学校の教科を英語にどっぷり漬かりながら勉強できるプログラムを提供しているぐらいで、もう、そういう時代なのです。
加えて、専任の教員の準備が間に合わないなら、最初からイマージョンを目指さず、まずは日本語の並び順と英語の並び順を対比し、日本語の場合、名詞に助詞という名のラベルが付いているので、「猫が犬をかんだ」と言っても「犬を猫がかんだ」と言っても通じるのに英語だと駄目で、並び順が命なのだといったことから始め、英語の名詞の特性である可算・不可算の別などへと話を進めるといったアプローチもありうるのではないでしょうか。
一方、Curtainらが理論面での訓練を資格要件として強調しているのは、ある言葉が話せるからと言って、言語獲得理論や子どもの発達に対する理解、教授法といった教室運営に不可欠のスキルを身につけているわけではないといった当たり前の感覚からですが、この点は、アメリカの場合、教師がいわば個人事業主で孤独だという事情を割り引いて考える必要があります。というのは、わが国の場合、世界的に有名な「研修」という制度があり、そういった場を通じて、個々の教員の資質の向上あるいは相互扶助を図るしくみが調っていますから、アメリカの事情を元にした話がそのまま通じるというものではありません。
落とし穴の8: 外国語教育の部分を全体のカリキュラムから切り離して扱ってしまう
外国語を単体として、他から切り離して教えるアプローチに徹すると、小学校に配当されている総授業時間数に食い込む異物かのように扱われてしまいがちになるので、Curtainらは、Gilzow & Branamanを引き合いに、他の教科との連携を意識したコンテンツ・ベースの授業が好ましいと強調しています。
コンテンツ・ベースの教授法と言うのは、要するに数学や理科といった教科の教科の内容と外国語を同時に教えるアプローチですが、効果的に外国語を習得していくためには、一定のテーマの下、一つ一つの関連トピックに即して言葉を学び、それを積み上げて行くことが必要である以上、そういったトピックに既存の履修事項を持って来たらいいという発想です。実際には、語学にウェイトを置くのか、それとも教科内容なのかということで色合いの差はあるようですが、外国語が学習の目的であると同時に、その外国語が別の教科を習得するための手段としても使われる点では共通しています。
落とし穴の9: 教員に過重な負担を強いる計画を立ててしまう
飽くまでアメリカの話ですが、Curtainらは、一般に小学校の教員は、多いケースでは一日当たり14クラスをこなし、一週間当たり接する生徒数が延べ600人にものぼり、さらにクラスが休みなく連続しているのが実情だとした上で、教師自身についても、技能向上のためのプロフェッショナル・サポートや研修を受けたり、あるいは他の外国語担当教員と打ち合わせなどで調整する時間的余裕もないと指摘しています。したがって、こういう要因があるにもかかわらず無理に早期外国語教育を進めたところで、肝心の教員が燃え尽き、脱落してしまうようでは何にもならないということです。
そこでCurtainらは対処策の一例として、ジョージア州の教育当局が定めた、外国語担当教員の受け持ちクラス数は一日8クラスまでとするガイドラインを紹介しています。あとは、他の教師との調整、教材開発、保護者や地域共同体との連絡調整などに当てなさいというわけです。
以上の落とし穴を逆に「こうしろ」という形でまとめると、こうなります。
(1)効果が得られる程度の授業回数、授業時間を確保せよ
(2)外国語も他教科と一体的に扱え
(3)人気のある言語だけでなく、他の言語も教えるよう心がけよ
(4)無理してまで全学年一斉導入といったことをするな
(5)中途参加者にも配慮せよ
(6)中学校との連携を考えよ
(7)言語スキルのみならず教授スキルまで備えた教員を充てよ
(8)外国語を学校全体としてのカリキュラムから切り離すな
(9)担当教員に無理を強いるような計画を立てるな
なお、CurtainとDahlbergが根拠として引用している文献は以下のとおりです。
Abbott, M.G. (1998). Articulation: Challenges and solutions. In M. Met (Ed.), "Critical issues in early second language learning" (pp. 149-152). Glenview, IL: Scott Foresman-Addison Wesley.
Richard D., Brecht, R.D., & Ingold, C.W. (1999). "Tapping a national resource: Heritage languages in the United States. ERIC Digest." Washington, DC: ERIC Clearinghouse on Languages and Linguistics.
Gilzow, D.F., & Branaman, L.E. (2000). "Lessons learned: Model early foreign language programs." McHenry, IL, and Washington, DC: Delta Systems and Center for Applied Linguistics.
Met, M., & Rhodes, N. (1990). Priority: Instruction. Elementary school foreign language instruction: Priorities for the 1990s. "Foreign Language Annals, 25," 433-43.
Rhodes, N., & Branaman, L. (1999). "Foreign language instruction in the United States: A national survey of elementary and secondary schools." McHenry, IL, and Washington, DC: Delta Systems and Center for Applied Linguistics.
Rosenbusch, M. (Ed.). (1992). "Colloquium on foreign languages in the elementary school curriculum--proceedings." Munich, Germany: Goethe Institut.
"Standards for foreign language learning in the 21st century." (1999). Yonkers, NY: National Standards in Foreign Language Education Project.
Swender, E., & Duncan, G. (1998). ACTFL performance guidelines for K-12 learners. "Foreign Language Annals, 31," 479-491.
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- »オシャレなオシャベリなブレイクダンスエンジェル: 小学校で英語教育 - 2006年3月12日 11:45
英語教育を小学校で行うことに賛否があるのですね。今日も朝からテレビで取り上げられ
