2006年3月31日
(続)お国ぶりが出てしまうパラグラフライティング
前回、英文ライティングにおけるパラグラフ構成法との対比で、起承転結方式によっている日本語の作文がどういうものかを取りあげましたが、Jack Kimballという研究者は、こんなふうにまとめています(Writing on Academic Topics: Externalizing Rhetorical Processes in an Intercultural Context)
Of immediate interest as points of comparison are (a) the formatting of multiple "topics" in ki-sho-ten-ketsu in contrast with the privileging of a single topic in a well-formed English-language essay; (b) the emergence of ki-sho-ten-ketsu's "argument" in the concluding section while customarily academic English prose argues from beginning to end.(比較対照のポイントとしてひとまず挙げておきたいのは以下の2点だ。(a) 起承転結方式では複数のトピックが枠組みの柱を提供するが、これに対して、きちんと構成された英文エッセーでは単一のトピックに特別な地位が与えられる 。(b) 起承転結形式の論述における主張ないし言説はしめくくりの部分で出て来るのに対して、慣行として、アカデミック・イングリッシュでの論述は頭から始まる)
よく言われることですが、日本語の作文がピラミッド型であるのに対して、英語のそれは逆ピラミッド型ということです。
このことを Elaine Campbellは、ESL Resource Book for Engineers and Scientists (Wiley) の中で、図で描くとすれば、東洋の人々は、論述の展開が外から中へと渦を巻きながら話がしぼられていくパターン、つまり渦巻き状だと説明しています。じゃあ、英語式はどうかと言うと、これは、どんと話の焦点を最初に絞りきってから、あとはまっすぐ上から下へと直線を伸ばすがごとき展開だと言います。なるほど味わいを出すために複数のトピックに触れたりしませんから、最短距離を行くことになります。うまい例えじゃないですか。
これとの対比でおもしろいのが、同書が取りあげている、アラビア文化の香りのする英作文とフランス人のようなロマンス語系の人が書く英文です。
★ アラビア風英作文
Campbell が、「これがアラビア風英作文」だとしてとりあげている例を見てください。便宜上、番号を振っておきますが、注目点と言うか、英文ライティングとの最大の違いは、(1) の部分にあります。
(1) Originators of the third monotheistic religion, beneficiaries of the other two, co-sharers with the west of Greco-Roman cultural tradition, holders aloft of the torch of enlightenment throughout medieval times, generous contributors to European Renaissance, the Arabic speaking peoples have taken their place among the awakened, forward marching independent nations of the modern world. (2) With their rich heritage and unmatched natural resources, they should be able to make a significant contribution to the material and spiritual progress of mankind.訳:(1) 唯一神を奉ずる三大宗教の一つを担う人々にして、他の二大宗教の恩寵にもあずかっている者たち。西洋社会ともどもギリシア・ローマ時代以来の伝統を分かち合い、かつ、中世を通じて啓蒙思想の灯を高々とあげながら、ヨーロッパでのルネッサンスに惜しみなく貢献してきた者たち…こうしたアラブの人々が、旧弊に気づき、近代化を進めようとしている現代の独立国家の列に加わっている。 (2) その豊かな伝統と群を抜く自然資源をもとに、アラブ世界の人々は、物心両面から人類の進歩に大きく貢献できる立場にある。
アラビア語というのは、非常に凝った作りの構文を好む言語だそうで、それを反映して、普通の英文ではまず見ない、重々しく、華麗な作りになっています。冒頭に5個も the Arabic speaking peoples を表す同格の名詞句が並び、音吐朗々というおもむきがあります。音楽で言えば、クレッシェンドという感じで、さしずめgenerous contributors to European Renaissance あたりで、ガーンとシンバルが鳴り響くのでしょう。
こうした展開法を Campbell は、徐々に右へと伸びる線から成るジズザグ状の構図にたとえています。日本語風英作文が内側に向かって行くうずまきで、アラビア風英文が少しずつ右にせり出すジグザグ、と形こそ違うものの、一番言いたいことを最後に持ってくる点では共通しているかのようです。
★ フランス風英作文
次の一文は、ヨーロッパ人のエンジニアが書いた英文です。便宜上、番号を振りますが、普通の英文ライティングとの違いが表れているのは (3) の部分です。
(1) The purpose of this paper is to give the technical reader who is not a systems engineer a good working understanding of the Systems Approach. (2) Key concepts of the Systems Approach are developed, and systems-type activities are traced historically since before engineering discipline up to the recently emerged concept of systems architecture. (3) If the importance of the Systems Approach in our future is not better understood, it stands in danger of possible demise unless we figure out a better way of handling conflict resolution than the way we are handling it today. (4) It is also important to address both civil and military systems at some length because in combination they illustrate many essential points about the Systems Approach.訳:(1) 本稿の目的は、システムエンジニアではない技術系の方々に、システムアプローチがどういうものかにつき必要にして十分な知識を得てもらうことにある。(2) これに向け、システムアプローチの基本概念を順次説明していくと共に、システムが関わってくる場面につき、エンジニアリングが一つの領域として確立される以前の時代から、システム・アーキテクチュアという概念が台頭しつつあるこんにちに至るまでを時系列に即して整理してみたい。(3) 将来、システムアプローチがどれほど重要なものになってくるかをよりよく理解しようとする姿勢を欠くようでは、(既存の紛争処理法に勝るものを案出できるなら話も違って来るだろうが)システムアプローチ自体が顧みられなくなってしまうことにもなろう。(4) また、非軍事部門でのシステムと軍事部門のシステムを一体化して眺めることでシステムアプローチの本質が浮き彫りになるので、ある程度は非軍事システムと軍事システムについても触れていく必要がある。
英語式のパラグラフを見慣れている人の目には、(3) の部分は、一種の余談と映るのです。なるほど、システム・エンジニアリングの将来を語り始める前に過去と現在に触れている限度では論理的な展開から逸脱しているものとは言えませんが、ここからテーマが紛争解決に移ってもおかしくないほどの質的違いがあります。
この点、Campbell は、仏文ライティングでは、テクニカル・ライティングの分野においてさえこういった余談が入り込むことを許す文化が the inclusion of the digression which is disturbing in English (英文としては目障りな余談の挿入)の背景にあるのだろうと指摘しています。
ただ、こういった余談で、横道にそれたりはしますが、また元の「軌道」に復帰するので、基本的には英文ライティングの流儀にしたがっての上から下にまっすぐ伸びる論理展開は守られてることになります。この点においては、日本風またはアラビア風とは一線を画している感じがあります。
★ まとめ
本当なら Campbell の本にある図をスキャンして入れたいところですが、ともかく、英文ライティングでの論理展開は、一番言いたいことを冒頭で言ってから、あとはまっすぐ下に伸びる直線のような構図を持っているということです。これに対して、同じ直線でも、フランス語やスペイン語といったロマンス語系の人々はしばしば横にはみ出ることが多いとされます。
一方、アラビア語文化圏の人々は直線ではなく、いわば横方向の階段状に、しかもあとになるほどインパクトが高まって来るような書き方をするため、どうかするとそれが英文ライティングにも表れてしまうようです。
また、日本式を含め、東洋式は、ぐるぐると渦をまきながら、言わば特殊から一般へというinductive な書き方をするので、こういったパターンがそのまま英語に持ち込まれたりするとされます。
結局、英文ライティングの典型的な構図は、最初に大事なこと、言いたいことを置いて、あとは一直線に、つまり linear という感じで流し、しかも、一般から特殊へと論を進める deductive な展開だということです。
なお、同じ英文ライティングでも、イギリス人やイギリス英語の影響を受けている文化圏の人々は、inductiveな展開が好きだという印象があります。例えば、The Economistの記事など、deductiveというよりは、inductive なスタイルが主流なのではないでしょうか。
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いかがでしたか?昔、Elaine Campbell の本を読んだときは、独り感心したり、うずまきの絵を見て笑っていたのですが、このおもしろさを読者のみなさんと分かち合えればと思い、取りあげてみました。ところでこのリンクをクリックしてくださると、執筆意欲のモトになっている人気ブログランキングに一票入ります。どうぞよろしくお願いします。人気blogランキングへ
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- »ウェブログ図書館 業務日誌: 「文体模写」が収められる区分について - 2006年4月 6日 08:48
絵文録ことのはの松永英明氏による文体模写が面白い。 2006/4/5 ブログ文章術:一つのネタをむやみやたらにふくらます http://kotonoha.main.jp/2006/04/05dazai.html ...

日向先生、おはようございます。
こうやって言語別の構成を見るとおもしろいですねぇ。言語の特徴が、書き方にも表れている気がします。
同じ方が書かれた本か自信はありませんが、私も渦巻き型とジグザグ型で示された図を見た覚えがあります。私は、ロマンス語系の横にはみだすに一人笑っていました。
[返信]
こんにちは。 Meggyさんのようにいろいろな出身のお友達が多いと、いろいろな英語に触れることができ、楽しめるのでしょうね。うらやましいことです。でも、言葉って、だから勉強のしがいがあるってものですよね。