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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2006年4月 5日

公私混同と Conflicts of Interest

朝日新聞(4月4日付)は、「日本スケート連盟が主催するショートトラックの合宿が、連盟の亀岡寛治理事が経営するスケートリンクでほぼ独占的に行われ、使用料が通常の3割増」と報じ、連盟内部からも「自社への利益誘導だ」という声があがっているぐらいで、フィギュア部門に続いて、スピードスケート部門の幹部まで「公私混同」だと批判しています。

これを読んで、まず思ったのは、英語の世界なら conflicts of interest (「利益相反」が定訳になっています)があるという話だなということです。同時に、公私混同と利益相反とは必ずしも同じではないよなとの思いもしました。あとで説明するとおり、conflicts of interest というのは、自分が他との関係で引き受けている責任と自分個人の利益とが相容れないことを指すわけで、他方、公私混同は、公務に関することと私的なこととの、けじめがない」(三省堂国語辞典)ことですから、公私混同ではあっても利益相反とまでは言えないケースがありうるからです。

例えば、時おり新聞沙汰になる、議員が海外視察などに愛人を同伴したという例などは、費用を自分が負担している限り、公私混同ではあっても、conflicts of interest ではありません。愛人同伴で人生を楽しもうという個人的欲求と、公費を公務のためにだけ使わねばならないという責任とが並び立たないという場面ではないからです。He mixed business with pleasure. という程度の批判で済む問題です。

何であれ、このフレーズは英語の世界では何かとよく出て来るので、今回は、これが元々どういうもので、どういった場面で問題になるのかを見ておきます。

★ Conflict of interest とは何か

もともと conflict of interest は、法的概念ですから、Black's Law Dictionary (abridged 6th edition)を引いてみますと、語義の1として、こう言っています。

A real or seeming incompatibility between one's private and one's public or fiduciary duties. (自分個人としての責任と自分が引き受けている公的責任または受託責任とが両立しないことを言い、それが現実のものであるか、見かけ上のものかは問わない。)

ここで言う、public duties は、典型的には、公務員や公益法人の役職員などが担っている公的な職責ですが、fiduciary dutiesというのは、受託者責任とか忠実義務と訳されますが、株主対取締役(または執行役員)、相続財団対遺言執行人、年金基金対理事の例に見られるとおり、人から信頼されて委託を受けた者は、自分の利益より委託者の利益を優先させなければならないという法的義務のことです。後述するとおり、2002年の米企業改革法を制定させるきっかけとなった大事件で再々登場していた conflicts of interest の背後にある重要な概念と言えます。

ところで、個人の私的責任と公的責任との対立とは要するに、個人的な金銭的利益の追求と公益の見地からの非金銭的利益の追求とが相容れるはずがないということです。

このことは、同じ Black's Law Dictionary の簡約版 (abridged sixth edition) に次のようにはっきりと書いてあります。

...when used to suggest disqualification of a public official from his sworn duty, term "conflict of interest" refers to a clash between public interest and the private pecuniary interest of the individual concerned.(公職にある者について本来の職責を遂行する資格がないのではないかという文脈で用いられるときは、そこで言う conflict of interest は、公共の利益と個人としての金銭的利益とが衝突することを指す)

くだんの理事殿は、自分が経営するスケートリンクを通じて一個人として金銭的利益を追求する一方で、税金も投入されている公益法人の理事として費用を抑えつつ公平の見地から合宿先を選定しなければならない立場にあるわけですから、まさに、ここでの conflicts of interest が生ずる典型例です。

ちなみに、アメリカで大学を経営している法人などの慣行を見ていますと、こういった場合に備えて、どの法人も、自分が私的利害関係を有する事項に関する意思決定に関与する際は、どのような利害関係があるのかを事前に開示せよと内規で定めているものです。したがって、大学が不動産を取得しようという場合に、その物件が理事の所有だとしても、理事が予め事情を説明していればかまわないのです。このことから、conflict of interest があるのに、それを許しては、不公平になる、正義に反するという考え方を見て取れます。

こういった、私的利益と自分が他との関係で負っている責任とがぶつかる場合につき、わが国の民法は、「利益相反行為」と称しており、例えば、法人の理事が自分が借金するに当たり法人を連帯保証人にするようなことは認められないとしています。結構、基本的なことなのです。ところが朝日新聞の記事によると、例のスケート連盟の理事は「(スピード委員長と社長が)重なっているところがいけないのならどちらかを辞める必要があるかもしれない」と話したそうで、この程度のご仁が理事をやっているのかと呆れます。

★ Conflict of interest が問題となる場面

こういった conflicts of interest が問題になる場面は昔からいくらでもあり、例えば、アメリカの第1回連邦議会で既に財務省長官は国債の売買をしてはならないといった規則が設けられたりしています。国の財政の責任者ともあろう者が自分の買った国債で儲けようと、財政を左右したのではたまりません。

このように昔から、ありがちな話として扱われていますから、関連する不祥事も多く、それがきっかけで法律が制定されたりもします。例えば、アメリカの2002年サーベインズ・オックスリー法(企業改革法)などがそうです。法律自体に conflicts of interest が直接表れているのは、証券アナリストに関する規定です。アナリストが調査レポートを出したり、講演などをする際は、そこで取りあげる企業と自社との間で投資銀行業務を通じての関係がある場合は、それを事前に明らかにしなければならないという下りがあります。

こうした立法に至った背景としては、二つの要因があります。証券アナリスト達が客観的分析を装いながら自社の投資銀行部門の利益のみを考え、それがついにはITバブルの破綻となって多くの投資家に迷惑をかけたのではないかという批判が一つ。もう一つは依頼先の財務諸表につき客観的に審査した上で、お墨付きを与えるはずの監査法人が、同じ会社からコンサルティング業務をも請け負っており、その仕事を失いたくないがために、手心を加えたのではないかという疑惑がもう一つの要因です。

(a) 証券アナリストたちの conflicts of interest

自社の投資銀行部門が企業の新株発行を引き受けているような場合、当然、株価が下がっては予定していた資金を調達できなくなってしまいますから、世話役である証券会社(幹事証券)に所属しているアナリストとしては、株価が下がってしまうような悪材料を取りあげないだろうし、むしろ、積極的に好材料を前面に出すことにもなります。しかし、これでは、何も知らない投資家を騙すことになります。

ただ、証券アナリストも好き好んで、いわゆる提灯記事を書いているわでけはなく、こういった人たちが板挟みにならざるを得ないような業界事情があったこともたしかです。

ことは1975年の固定手数料廃止にまでさかのぼります。証券の売買手数料が自由化されるとなると、調査レポートなどの情報を提供せず、売買の取り次ぎのみに徹することで、格安の手数料を提示するところがどんどん既存証券会社の客をさらっていきます。有名なチャールズ・シュワブなどがそのいい例です。近頃では、Eトレードを初めとするオンライン証券も加わり、ますます値下げ競争が厳しくなっています。

こうした状況のなか、既存の大手証券会社のブローカー部門つまり顧客の売買注文を取り次ぐ部門はメシの食い上げと行かなくとも、経営基盤が打撃を受けます。当然、その部門の売上でまかなわれていたアナリストたちの高給も根底から揺らぎます。で、証券会社がどうしたかと言うと、以前にも増して株式や債券を発行しようという企業の世話にウェイトを置くようになります。

気取って言えばインベストメント・バンキングですが、本質は、1回当たりの取引金額と回数が命の口銭かせぎであり、採算に乗せるためには有名企業から大口の取引をいくつも取り付け、成功させなければなりませんから、アナリストも動員されます。

今度、弊社は主幹事としてどこそこ会社の新規公開を引き受けていますが、この会社の株は上場後、いくらいくらまで行くのは必至の形勢ですと著名アナリストが書けば、投資家も安心して新株を購入します。そして、好循環と言うのか、上場を考えている企業の方も、あのアナリストのいる会社ならという感覚で幹事証券を選ぶに当たってどういうアナリストを抱えているかが決め手となります。案件が成功すれば、この前のどこそこの幹事はどこそこ証券だったよなとまた依頼が来ます。こうして、アナリストの手取りには投資銀行部門の売上が反映され、年収1億円など珍しくないという世界になります。

アナリストの年収で有名な例を言えば、新興ネット企業のIPO(新規株式公開)案件を次々と手がけていた当時のモルガンスタンレーのトップスター、メアリー・ミーカーは15億円クラス、破綻したWorldComをおおいに持ち上げ、ここはいいよと推奨していたソロモン・スミスバーニーのジャック・グラブマンは20億円クラスでした。このグラブマンに至っては、自分が業績を評価している会社が同時に自分のお客さんだというのは conflict ではないのかと問われた折、What used to be a conflict is now a synergy.(昔は利益相反と言われていたけれど、今じゃ相乗効果って言うんだよ)と言ってのけていますから、恐れいります。

(b) 監査法人の conflict of interest

一番有名な例は、エンロン事件での共犯に等しいということで、「おとりつぶし」にあった、巨大会計事務所 Arthur Andersen でしょう。

この監査法人は、2000年の例で言えば、監査の報酬としてエンロンから2500万ドル受け取っていますが、同時に、コンサルティングの報酬として2700万ドルも受け取っています。こういった場合、会社側から直接的ではなくても、会計基準に照らしてスレスレといった事案を持ち込まれた場合、「ま、いいんじゃない」としてしまうのは想像に難くありません。こんな大口のお客さんに逆らえるものではないでしょう。

サービスが第一のコンサルティング業務と公正かつ独立の立場からの審査が不可欠な監査業務とを同一企業から引き受けていたのは Andersen だけではありません。それだけに、連邦証券取引委員会 (SEC) も危惧を抱き、監査業務とコンサルティング業務を平行して引き受けることを禁止しようと動き出します。ところが、業界のロビーイングも激しく、当時のLevitt 委員長が New York Times 紙に語ったところでは、何人も議員が電話してきて、あの法律を通そうというなら、SECの予算をカットしてやると脅したそうです。

結局どうなったかと言うと、会計事務所は、監査に当たっている企業との関係でコンサルティングも引き受けている場合は、それぞれの業務の報酬を開示せよという足して二で割ったような決まりができ、最終的には、サーベインズ・オックスリー法の第201条が、監査に当たる会計事務所が依頼先の企業から非監査業務をじゅたくするのはまかりならぬろ定めるに至っています。

ちょっとおもしろいのは、同法の206条で、見出し自体が CONFLICTS OF INTEREST です。何が書いてあるかと言うと、ある会社で監査を実施するとして、その会社の主要役員が監査をやろうとしている会計事務所に過去1年間在籍していたことがあり、しかもその会社の監査に携わっていたという事実があると、そのような会計事務所が監査をやること自体、違法だとしています。ライブドアの監査を担当していた横浜の何とか監査法人の出身者が転職して、ライブドア側の役員に納まっていた件を思い出すと、味わい深い規定です。

いずれにしろサーベインズ・オックスリー法がすごいのは、同法制定で基本法である証券法が補足される形で新種の証券詐欺罪が新たに設けられ、最長25年の懲役刑が待っていることです。40代で突っ走ったりすると、出所時には60代です。余生しかありません。

★ まとめ

Conflict of interest というのは結局、自分の利益と自分が他との関係で引き受けている責任とが、あちら立てればこちら立たずという関係にあるときは、そのことを事前に開示すべきであり、そのことを黙っているとそういった関係を知らない第三者にとっては不公平だということです。

公平という発想に由来するものですから、ビジネスとは関係のない場面でも出てきます。例えば、イギリスやカナダの議会の倫理規定では、議員は質問事項その他討議の対象との関係で private interests (個人的利害関係)があるときはそのことを明らかにしなければならないとしています。

また、こういった関係があると、よくないことになるのが経験則だという点も重要です。単純なところでは、倉庫番と経理係が同一人では在庫品を勝手に持ち出されてもなかなかわかりません。現に大和銀行ニューヨーク支店事件では、売買担当者が同時に帳簿も管理していたので、10年以上にわたって損失が露見せず、結果として10億ドル以上の損失となりました(なお当時のニューヨーク支店長は株主代表訴訟の第一審でこの件につき5億ドルの損害賠償を命じられています)。

ですから、金融機関に対する金融庁検査においても、必ず職掌分離 (segregation of duties) が徹底しているか、つまり妙な1人二役がないかがチェックされるものです。

こうしてみると、日本語の公私混同と conflict of interest とは内容的にかなり違い、重なり合う部分はあっても、同じものではないと言えるようです。



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Comments

偶然ですね。同日に類似した記事をアップしたようです。"conflict of interest"は法曹界にいても背中合わせのものです。裁判などで原告と被告を同時に弁護するという行為も(実際にあったケース)実はこの部類に入るんですよね。この場合だと弁護士としてダブルの利益追求という意味ではなくて顧客同士の求めるものの違いから"conflict of interest"となります。当然倫理面から違反行為とされていますけどね。この言葉、面白いですよね。

[返信]

本当に偶然ですね。臨場感にあふれており、austin_texanさんの記事をこっそりとこちらの記事に取り込みたくなる誘惑にかられます。法律事務所の様子はわかりませんが、外資系証券では、法務関連で「それって、コンフリクトはどうなの?」という言回しをよく耳にしたおぼえがあります。

考えてみるとアメリカ人はフェア・アンフェアが大好きなせいか、あるいは弁護士が多いせいか、メディアが何かとこのフレーズを持ち出す印象があります。ヒラリー・クリントンさんも所属事務所が破綻したS&Lの代理人をやっていたのに、のちのち監督庁側の仕事に彼女が関与したのがコンフリクトだとたたかれていたのを覚えているのですが、どうかすると、この概念のオオモトとされる ambidexterity がどこかに潜んでいるようで、これまたおもしろいと思っています。

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