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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2006年4月29日

原油価格のニュースに出て来る単語を解読する:WTI、北海ブレント、そして先物価格など

昨年の秋頃は1バーレル(約160リッターですからビールの大ビン約250本分)50ドル台だった原油価格が70ドル台になり、とうとう2002年当時と比べて三倍のレベルになったとあって、関連するニュースが多くなっています。

原油高騰とは言っても、1970年代の石油ショック当時と比べて、実質で見るとそのインパクトはそれほどではないのかも知れません。しかし、やはりこれだけエネルギーのコストが上がれば、ガソリンや灯油代にはねかえり、一般の生活に影響しますし、金融当局もインフレを警戒して利上げに傾くことでしょう。大きな経済問題であるのは確かですから、今後、ますます原油の値動きを伝えるニュースは増えると見込まれます。

そこで、きょうは、この分野の用語をちょっと見ておこうと思います。TVや新聞でよく見かける WTI だとか、北海ブレント、それに原油の先物がどういうものか、見当がつくようになるはずです。

まず「ビジネス・ジャパニーズ」の問題として、crude oil (=petroleum) は、なぜか、「石油」ではなく、「原油」と言うのが普通です。実は、以前、ビジネス英語の本を出したおり、ビジネスものだということで出版社が経済英語の専門家に校正を外注したところ、そのお方が crude oil は「石油」と訳すのだと言い張って困ったことがあるのですが、ビジネス・ジャパニーズの標準語に当たる日本経済新聞での言い方は間違いなく「原油」です。これは www.nikkei.co.jp の記事検索で「原油価格」と入力する400いくつヒットするのに、「石油価格」と入れると20いくつしかないことによく表れています。

本題のニュースの読み方ですが、例えば、前日の原油の値動きを報じている、4月20日付のFinancial Times はこんな感じで相場を伝えています。

IPE Brent for June delivery traded 21 cents higher at $73.94 while May delivery Nymex West Texas Intermediate rose 9 cents to $72.26, having hit a high of $72.49.

日本の新聞の用語に即して訳せば、こうなります。

「ロンドン国際石油取引所の北海ブレント原油先物価格(6月受け渡し分)は21セント高の73.94ドルとなり、ニューヨーク商業取引所の原油市場では、国際指標となる米国産WTI原油の先物価格(5月受け渡し分)が、取引時間中72.49ドルという高値をつけた後、9セント高の72.26ドルで引けた」

これが何を言っているかを理解するため、主要単語を拾って行きます。

★ ロンドン国際石油取引所とニューヨーク商業取引所

まず、ロンドン国際石油取引所は、 International Petroleum Exchange のことで、記事にあるとおり、IPEという略称で通っており、また、記事からもわかるとおり、北海ブレントという代表的油種の相場が形成されるマーケットになっています。

このIPEは、アメリカのアトランタを本拠とする Intercontinental Exchange (ICE) に先般買収され、正式には、ICEと呼ぶべきですが、興味をひくのは、この ICE の株主構成です。おおざっぱに言うと、米投資銀行の最大手モルガンスタンレーとゴールドマンサックスが仲良く15%ずつ持ち、あとは、フランスの石油会社 Total S.A.やら銀行のソシエテジェネラル、それにロイヤルダッチ・シェルが10%弱を持っているといった感じです。ちなみに Total は日本では知られていませんが、年間の取引量がちょっとした産油国の年間産油量に匹敵するような大手エネルギー企業です。

次に、ニューヨーク商業取引所またニューヨーク・マーカンタイル取引所と訳される、New York Mercantile Exchange は、金融関係の実務文書や専門誌の記事などでは、Nymex という略称で通っています。こちらは、(他の商品も扱っていますが)アメリカで取引される原油の指標である WTI 原油の相場を形成するマーケットです。

あとで見るとおり、取引所での原油を売買する最低単位は 1,000 バレルであり、この単位を指して、英語では contract 、日本語では「枚」と言いますが、2005年の取引規模で見ると、IPEが年当たり3,000万枚の規模であるのに対して、Nymex は、5,000万枚以上となっています。

おもしろいことに、今、Nymex は、成功すれば自分たちの原油取引が3割は増えると目論んでIPEでのブレント原油のマーケットを分捕ろうとしていますが、形勢はあまり思わしくありません。というのは、IPEが従来の「場立ち」つまり生身のトレーダーが集まって、大声で売った、買ったとやる原始的な取引からオンライン取引の世界に移行し、機関投資家その他の大口客の支持を受けているからです。対する Nymex は、open-outcry trading の世界に未練があるのか、もたもたしています。

価格と数量を手振りで伝え合う場立ち方式の元祖格であるシカゴ商品取引所 (Chicago Board of Trade ) でさえも取引の 2/3 はオンラインで処理されていると言いますから、時代の流れには逆らえないということでしょう。

なお、こういった取引所では、ヘッジファンドなどからの巨額の投機資金が入っているため、金融商品として取引されている原油 (paper barrels と呼ばれています)が、実際に存在する原油 (wet barrels) を大幅に上回るという状態が続いています 。つまり実需をまかなっているのではなく、原油が金融商品として値上がり益追求の道具として取引されていることがよくわかります。

★ 北海ブレントと WTI

IPEで取引されている北海ブレントは WTI などと並んで指標原油 (reference crude, benchmark oil) と称され、各国で取引されている油種の基準価格を提供する役割を果たしています。Brent blend とも呼ばれることに示されているとおり、ブレント油田からの油だけでなく、周辺の 10 いくつかの油田をブレンドしたものがその中身です。IPE 自身が言っていることなので、多少割り引かねばなりませんが、世界で取引される原油の 2/3 ぐらいが、この北海ブレントを目安にしているとされます。(North Sea Brent と Brent blendがいっしょくたになって、「北海ブレンド」とコーヒーみたいな呼び方をする人がいますが、正しくは「ブレント」です)

目安にしているというのは、端的には、硫黄分が何パーセントの北海ブレントが今いくらなのだから、うちの硫黄分何パーセントの原油はいくらが適正価格だというふうに値決めするということです。例えば、サウジアラビアは自国の石油を売るに当たっては、ヨーロッパ向けについては、自国の石油の品質がブレントに見劣りがするので、割り引いた価格設定をし、逆にアジア向けの場合は、後述するアジア市場での指標原油であるドバイ原油に比べて上等だということで、ドバイより高めの価格設定をしています。

Nymex で取引されている WTI は、West Texas Intermediate の略称で、こちらは、米国内で取引される原油の指標となっています。

ところで、中華料理の「酢豚」は英語では、sweet and sour pork ですが、おもしろいことに、原油は硫黄分の多寡により、それが少なければ sweet 、多いと sour と形容されます。中身が sweet な方がガソリンが取りやすく、その分、価値が高いとされていますが、世界の供給量の1/3を占める OPEC の油は概ね sour であるのに対して、北海ブレントは sweet で、WTI はまた一段と sweet という構図になっています。

なお、世界の原油相場は、WTI や 北海ブレントといった主要な指標原油の価格を互いに参照しながら決まりますが、わが国も一役かっています。アジア市場の原油価格は、東京工業品取引所 (Tokyo Commodity Exchange) の中東産原油の先物価格が基準になっているのです。考えてみると不思議な感じもしますが、ドバイ原油という名前なのに、その値段は現地で決められているのではなく、東京での取引を通じて形成される相場で決められているわけです。

★ 先物価格

「先物価格(6月受け渡し分)がいくらいくら」という下りは、先物市場での売買で、決済が6月に行われる分を見ると、最後に成立した値段がいくらいくらだったという意味です。(新聞では一般読者を意識して「6月受け渡し分」といった言い方をしていますが、金融業界の人たちは、こういった場合、6月限(ろくがつぎり)といった言い方をしますから、金融翻訳の場合は、それにならった方が無難だと思います)

先物 futures というのは、将来の一定期日にいくらいくらで売りしょう、買いましょうという内容の約束ですが、特色は、われわれが普段関わる特定の人や会社相手の売買(相対売買=あいたいばいばい)と異なり、取引所相手の売買であることです。北海ブレントを70ドルで1,000枚(100万バレル)買いたいという注文に対して、取引所が同一量を同一価格で売りたいという注文と突き合わせ、売買を成立させるのですが、このように取引所が間に入ることで、相手の不履行による不測の損害を被らなくて済みしくみになっています。

もちろん、取引所も損失を一方的に抱え込むわけにいきません。そのためのしくみが英語では、marginまたは margin requirement と呼ばれる委託保証金です。原油取引を行う場合、一定額の保証金を差し入れさせ、買った原油の評価額が下がったら、それに見合う分、保証金を積み増させるのです。この積み増しをさせることを英語ではmargin call と言い、日本語では「追証(おいしょう)」と言い、客に積み増しを求めるなら、「追証をかける」といった言い方をしています。やくざな世界です。(わが国の商品取引の場合、ノルマがあるのにこういった追証をかけねばならず、神経がすり減ることから、5年後には8割が転職していると言います)

なお、当日とか翌日けりがつくスポット取引に対して、将来の期日を定めて決済する取引は一般に forward contract (フォワードまたは先渡取引)と呼ばれますが、この forwards のうち、最低売買の単位 (contract size) は 1,000 バレル、取引時間は何時から何時まで、値刻みはいくら、保証金はいくら、決済月は、6月と9月と12月というふうに定型化した上、取引所で集中的に取引されるものを指して futures つまり先物と称しています。

このように同じ将来の期日を定めての forwards であっても、それが取引所で売買される定型的商品であるか、それとも相対で売買される商品であるかによって区別されるわけで、それを明確にするため、前者は futures という言い方以外、listed derivatives (上場先物)とも呼ばれ、これに対応して後者は OTC derivatives (店頭デリバティブ)と呼ばれています。

OTC は、over the counter の省略形で、証券会社の店頭でといった意味合いになりますが、OTC だと、定型的な上場物と異なり、顧客のニーズに合わせて取引条件をいろいろとカスタマイズできる(例えば、上場物ではないような超長期の商品) といった便利さがある反面、相手が履行してくれないリスクがありますし、市場の様子がおかしいからやめよう(「手じまう」という言い方をします)と思っても、買い持ちになっているものを反対売買で終わりにすることができなかったりします(流動性がないと形容されます)。




kurofuku_a

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Comments

アメリカでは石油関係のニュースに関心が高く、最近は映画も多くありますね。華氏911、シリアナ、など。
やはり基本的な用語がわからないと難しいですから、大変勉強になりました。

[返信]

コメントありがとうございます。「シリアナ」というのは知らなかったので、Tsutaya で探してみます。また引き続き読んでくださっているようで、うれしく思います。

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