2006年5月20日
(1) 定款の英訳で会社のしくみを学ぶ
定款[ていかん]とは何かということで、有斐閣の法律学小辞典を引くと「株式会社などの社団法人の組織活動の根本規則」とあります。英語での定款は articles of incorporation ですから、今度はこれを West から出ている A Handbook of Business Law Terms で引くと、The document that sets forth the basic terms of a corporation's existence, including the number and classes of shares and the purposes and duration of the corporation.(株式の総数および種別ならびに会社の目的および存続期間を初めとする会社存立の基本条件を記載した書面)とあります。言ってみれば、会社のすべてが定款に盛り込まれているとも言えるわけで、したがって、日本の会社の定款を英訳するという作業を通じて会社のしくみを学べることにもなります。
そこでこういった視点に立って、ごく素朴な定款のひな形を使って、英訳していこうと思います。ここで使うものは、法律事務所などが外国企業に頼まれて株式会社を設立する際に使うような、必要最小限のものが入っている定型的なものですが、以前、法律関係の翻訳に携わっていたときは、けっこうこれで用が足りたものです。会社のしくみを理解するためにはこの程度で十分だと思います。ただ、今回、会社法が改正されたので、それとの兼ね合いでのアップデートも兼ねながら、数回に分けて見ていくつもりです。
ところで、アメリカで会社を設立する際の三要素は、people, paper, act と説明されたりします。人間が必要だというのは、設立企画者としての発起人 (promoter または incorporator) の存在が不可欠だということであり、 書類が要るというのは、国で言えば憲法に当たる定款を作成しなければならないことを指します。そして、最後の「行為」は、発起人が州政府の総務長官 (secretary of state) に定款を届出て初めて設立手続が完了することを指しています。わが国での会社設立もほぼ同じで、違うのはやたらと必要な書類が多いことと、登録税が高いことぐらいです(アメリカなら全部で2万円前後で済むのに、日本では、少なくとも30-40万円はかかります)。
定款は、アメリカの場合、「(続)アメリカで会社を作った話」でざっと説明したとおり、名称、所在地、事業目的、そして発行できる株式数の上限つまり授権資本など基本的事項だけを記載した articles of incorporation と組織運営の細則を定めた bylaws との二本立てになっています。これは、イギリスも同じで、基本部分は、memorandum of association に、そして細則は articles of association に入っています。
(アメリカの場合、基本定款がそのまま設立証書 certificate of incorporation として通用する州があります。そういった州では、articles of incorporation と certificate of incorporation は同じものです。ところが州によっては、届出た定款が受理され、不備がないことを確認してから設立証書を発行するところがあり、そういった州では、別物ということになります)
さて、英訳ですが、まずは表題部、総則、次いで、株式の章へと進んで行きます。体裁としては、和文の条項とその英訳。そして必要に応じてコメントしていきます。
★ 表題部
XYZ株式会社 定款
第1章 総則
XYZ Inc.
ARTICLES OF INCORPORATION
CHAPTER ONE: GENERAL PROVISIONS
[コメント]
ただのスタイルの問題ですが、見出しにはよくこういった大文字だけというものを見ます。
★ 名称
(商号)
第1条 当会社は、XYZ株式会社と称し、英語では、 XYZ Inc.と称する。
ARTICLE 1. COMPANY NAME
The name of the Company shall be "XYZ Kabushiki Gaisha" and in English, "XYZ Inc."
[コメント]
1)法律文書などで特定している名詞を使う際に「当何々」とするのと同じ流儀で、英語の場合は、 Company というふうに、最初の一字を大文字にします。
2)事実を述べるだけですから、shall を使う必要はないわけで、実際、The name of the Company is...とする例もありますが、わが国での英訳を見ていると大勢は、shall 派です。
3)自社を指しての company は最初の一文字を大文字にして表記するのが慣行です。英文名称に Ltd.を使うか、Inc. を使うか、はたまた Corporation を使うかは任意です。要は破綻の場合、構成員の責任が出資額に限定されている法人企業であることが示されていればいいということです。なお、Kabushiki Kaisha とする例もありますが、日本の事情を知らない人には何のことだかわからないというデメリットがあります。
★ 事業目的
(目的)
第2条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。
1 XXX
2 XXX
3 前各号に附帯する一切の事業
ARTICLE 2. PURPOSE
This Company is organized for the purpose of engaging in the following business activities:
1. XXX
2. XXX
3. Any and all other activities ancillary to the above.
[コメント]
1)書き方としては、上の例のようにXXXの所にManufacture of...と名詞句を連ねる流儀もありますが、自分でやるときは、動詞で行く方が楽だと感じました。つまり、出だしを、The purpose for which the Company is organized is: と書いてから、改行し、以下で、to do...といった動詞句を並べていき、最後を、To engage in any other activity ancillary to the foregoing. としめくくるスタイルです。
2)「目的」の訳としては、object も見ます。例えば、イギリスの会社の定款では、GENERAL OBJECTS AND POWERS という見出しに続いて、The objects for which the company is established are: と書き、以下to 不定詞を連ねて、to engage in ... to borrow or raise money...to do all such other things as are incidental to...と事業の内容を列挙しています。
3)この手の文書の英訳に慣れていない人は、最後の「前各号に付帯する一切の事業」につき自己流の訳文をひねり出すものですが、上の例を初め、ほぼ定訳とでも言うべきものがあるので、それにならうのが無難です。ポイントは、「付帯する」の言い方で、ancillary to とか、relating to がよく使われます。また「前各号」は the foregoing items という言い方もできますから、Any other activity ancillary to or relating to any of the foregoing items. という書き方もありえます。
★ 所在地
(本店の所在地)
第3条 当社は、本店を東京都港区に置く。
ARTICLE 3. LOCATION OF HEAD OFFICE
The head office of the Company shall be located in Minato-ku, Tokyo.
[コメント]
1)わが国の場合、区の名前または都市名で足ります。細かい番地まで書く必要はないということです。一方、英米の定款上、住所の項は、Registered Office になっていますが、これは登記上の本店という意味です。いずれにしろ、言葉としては、head office を使うのが普通で、headquarters は見ません。
2)書き方としては、他に以下のようなバリエーションがあります。
The address of the head office is...
The head office will be situated at...
★ 公告
(公告の方法)
第4条 当社の公告は、官報に掲載して行う。
Public notices of the Company shall be given in the Official Gazette published by the Japanese Government.
[コメント]
債権者などの利害関係人が不特定であるとか、広い範囲にちらばっているといった事情がある場合に備えて、法律は、こういった関係者が権利行使や異議申し出のための機会を失うことのないよう、会社が一定の方法で知らせることを求めているので、それに対応して置かれる定めです。官報の訳は、この Official Gazette が定着しています。
★ 株式
第2章 株 式
CHAPTER TWO: SHARES OF STOCK
[コメント]
1)株式というのは、会社の構成員(法律の専門家は「社員」と言っています)としての地位を指します。破綻の場合は、出資額をあきらめる他、利益配当を受け、株主総会で議決権を行使できるといった権利の大本である地位ということです。
2)英語では share とか stock とか呼ばれますが、これは、capital stock (資本金=出資金総額)がパイだとすれば、そのパイの一切れが share に当たるということです。なお stockholder と shareholder で違うのかについては、「Shareholderはイギリス英語で、stockholder はアメリカ英語なのか」というこちらの記事をご覧ください。
(発行する株式の総数)
第5条 当会社の発行可能株式総数は、800株とする。
ARTICLE 5. AUTHORIZED CAPITAL
The total number of shares of stock to be issued by the Company shall be eight hundred (800) shares.
[コメント]
1)会社が発行できる株式数の上限ないし発行可能枠(=授権資本)を定める条項で、英語では、authorized shares という言い方もします。しかし、意味合いは、授権資本ですから、英文和訳の場合にこれを「授権株式」とすると、「ああ、この人、会社というものがわかってないな」と否定的評価を受けてしまいます。
2)新会社法は、株式会社を一般の上場企業のように株式を自由に譲渡できる、いわば普通の会社と、会社側の同意がないと譲渡できない、同族企業などに向いている閉鎖的な「株式譲渡制限会社」に分けた上、前者については、設立時に授権資本つまり会社が発行できる株式数のうち 1/4 を発行しておけという規制をしています。そこで、設例のように発行可能枠が800株ということなら、設立時に少なくとも 200 株は発行しておかねばならないということになります。
改正前は最初から定款に発行できる株式数を書いておけということでしたが、現行法は、規制が緩められて、あとからでもいいとされています。「あとから」というのは、定款作成時点で確定しておけとまでは言わないが、設立手続が完了するまでには定款に入れておけという意味です。例えば、発起人が200株でスタートするといったんは決めたものの、のちのちの資金調達の見通しなどから、最初から 400 株引き受けておきたいというふうに気が変わることもあるので(したがって、400株の4倍、1600株が授権資本になるという事態になりうるので)、そのあたりを機動的に対処できるようにしてやろうという趣旨です。
3)英語の法律文書では、正確を期するため、数字はまずアルファベットで書き出してから念のためカッコ書きでアラビア数字を入れるといったことが行われています。もちろん、特殊な書き方ですから、日常的な実務文書でこのやり方にならうと何かもったいをつけた、妙な感じがします。
★ 株券
(株券の種類)
第6条 当社の発行する株券は、1株券、5株券、10株券、50株券及び100株券の5種とする。ただし、必要あるときは、取締役会の決議により上記以外の種類の株券を発行することができる。
Share certificates of the Company shall be issued in five (5) denominations: a certificate representing one (1), five (5), ten (10), fifty (50) or one hundred (100) shares each; provided , however, that certificates in denominations other than the above may be issued by a resolution of the Board of Directors.
[コメント]
1)株券というのは、株主としての地位を証する券面です。飽くまで証拠ですから、株券を紛失したり、焼いてしまっても、所定の手続で再発行してもらえます。
2)こういった券種をどうするといった言回しは辞書を探しても載っていないので、実際に使われている言回しを借用するのが最善の方法です。ポイントは issued in denominations of という言い方で、こういった場合は、"issued in denominations" というフレーズをGoogleで検索して、実際の例をいろいろ見ておくと勉強になります。
2)但し書きの部分を provided, however, that または、provided that で書くやり方を呑み込んでおくと、この種の文書の英訳のときに、何かと便利です。
★ 譲渡制限
(株式の譲渡制限)
第7条 当会社の株式の譲渡または取得については、株主または取得者は取締役会の承認を受けなければならない。
ARTICLE 7. RESTRICTION ON TRANSFERABILITY
In the event any of the shares of the Company are transferred or assigned, the transferee shareholder or the assignee shall seek approval of the Company's Board of Directors.
1)今年の5月からの新会社法では、既存株主が第三者に持株を譲渡して、あとから見知らぬ人が経営に参加するというのは困るというケースを想定して(同族会社が典型です)、株式会社を上場企業のような普通の株式会社と閉鎖的な「譲渡制限株式会社」なる区分を設けていますが、この譲渡制限株式会社については、上のような規定を置くことになります。会社法がこのような制度を認めているのは、従来の有限会社を廃止して、株式会社に一本化するに当たって、同族会社のようなもののニーズに配慮したためです。
ちなみに「譲渡制限株式会社」はどこが違うかを言えば、知っている範囲では、まず取締役会が設置されませんし、監査役を設置するかどうかは任意です。また、取締役・監査役の任期は2年といった規制がなくなります。また、注目すべきは、定款をもって取締役を株主に限定できることでしょう。
2) ここで言っている株主は既存株主から譲渡された株主を指すわけですが、通常、こういったケースでは、譲渡人である株主を transferor shareholder、譲受人株主を transferee shareholder と言いますから、それを応用できます。また、assign とも称される assignee は譲り受けた人、つまり、ここでの取得者を指します。この場合、 acquisition なのだから、acquiror はどうだろうとも考えたくなりますが、この単語は見たことがありません。
3)「譲渡制限株式会社」を英訳せよと言われた場合、自分だったら、corporation subject to restrictions on transferability と訳します。
★ 名義書換え
(名義書換)
第8条 当会社の株式につき名義書換を請求するには、当会社で定める請求書に記名押印し、これに株券を添えて提出しなければならない。
② 譲渡以外の事由による株式の取得である場合には、当社の請求によりその事由を証する書面及び株券を提出しなければならない。
ARTICLE 8. TRANSFER OF SHARES
1. To transfer ownership of shares in the Company, a Transfer Request Form prescribed by the Company and bearing the name and seal of the person filing the request shall be submitted, together with the relevant stock certificates.
2. If the shares are acquired other than by way of transfers, at the request of the Company, a document attesting to the circumstances under which such shares were acquired shall be submitted, together with the relevant stock certificates.
[コメント]
1)その株式の所有者として届出てある名義を書き換えるということですから、正確に言えば、changes in the name in which the shares are registered と言うべきなのでしょうが、実際上は、名義書換えは、stock transfer で片付けられています。
2)譲渡以外の取得事由というのは相続などの例を指します。
(質権の登録及び信託財産の表示)
第9条 当社の株式につき質権の登録または信託財産の表示を請求するには、当会社所定の書式による請求書に当事者が記名押印し、これに株券を添えて提出しなければならない。その登録又は表示の抹消についても同様とする。
Article 9. PLEDGED SHARES AND SHARES HELD IN TRUST
To make an entry in the stock register to the effect that certain shares are held subject to a pledge agreement or to a trust deed, a Request Form prescribed by the Company and bearing the name and seal of the parties to such pledge agreement or trust deed shall be submitted, together with the relevant stock certificates. The same shall apply in the event such entries are to be removed.
[コメント]
1)上場企業の定款の英訳文では、この質権の登録と信託財産の表示のくだりを registration of a pledge of shares, indication of shares held in trust といった形で処理していますが、辞書を引き引き、直訳している様子がありありとしており、ちょっと見ではもっともらしいものの幼稚な英語に終わっています。上のように訳した方が通じますし、shares held subject to...という言い方は、株主の権利が他から質だとか信託だとかで制約を受けている場合に一般的に使う言い方ですから安心です。
2)「何々についても同様とする」を訳す場合のツールとして、the same shall apply in the event of というパターンをおさえておくと便利です。
3)実際の取扱としては、株主名簿などの書類に、この株式については質権が登録されているとか、信託財産に帰属しているので、形式上の名義人の自由にはならないことを明らかにするため、付記するわけですから、これに即して、make an entry to the stock register と形容し、また、その表示の抹消についても、remove/delete an entry という言い方を使う方が自然です。
4)なお質権というのは、借金のカタに株式を差し入れるということであり、抵当などと違って、株式上の占有を相手に移転する必要があるため、わざわざ株主名簿に明記するといったことが行われています。信託財産も同じことで、せっかく信託財産にしてあるはずなのに、名義人が勝手に処分できるとあっては話になりませんから、制限があることを明示するというしくみになっています。
★ 株券の再発行
(株券の再発行)
第10条 株券の分割、併合、汚損等の事由により株券の再発行を請求するには、当会社所定の書式による請求書に記名押印し、これに株券を添えて提出しなければならない。
② 株券の喪失によりその再発行を請求するには、当会社所定の書式による請求書に記名押印して申請しなければならない。
Article 10. REISSUANCE OF STOCK CERTIFICATES
1. To request reissuance of stock certificates due to subdivision, combination or defacement of share certificates or any other similar reasons, a Request Form prescribed by the Company and bearing the name and seal of the person filing the request shall be submitted, together with the relevant stock certificates.
2. To request reissuance of stock certificates due to loss of the original, a Request Form prescribed by the Company and bearing the name and seal of the person filing the request shall be submitted.
[コメント]
1)1株を2株とする株式分割があれば、それまで100株券を持っていた人は、(会社が分割に際して券種を変えれば別ですが)、もう1枚100株券がもらえるはずですし、逆に2株を1株にする併合があれば、同様に50株券に換える必要が出てきます。
2)汚損は defacement以外、mutilation という表現も見ます。
3)「等の事由」というくだりは、etc. とする例も見ますが、英文ではこういった場合、例文のように言うのが一般です。そもそも「等」とあっても、何でもいいというものでもなく、列挙された事由に準ずるものに決まっていますから、意味を汲んで、similar を入れるのは原文にないどころか、かえって原文に忠実な訳だと考えてます。
(手数料)
第11条 前三条に定める請求をする場合には、当会社所定の手数料を支払わなければならない。
Article 11. FEE
In the event of filing any requests provided for in Articles 8 through 10 above, a fee determined by the Company shall be payable.
[コメント]
「前三条」は、直訳すれば、in the foregoing three articles になりますが、英語の定款では普通、そういった言い方を見ませんから、in Articles...through... above という、慣行にしたがった書き方のほうが安全だと思います。
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Comments
仕事で契約書の英訳をまかされ、ブルーになっていたところに
このページを見つけました。ものすごく参考になりました。残りの部分もがんばってみます。人気ブログに早速一票入れましたよ!
[返信]
ありがとうございます。
- KIM
- 2009年11月10日 11:13
今日、たまたまこのページを発見しました。素晴らしい博学ぶりですね。こんなに貴重な情報を無料で教えてくださるとは、世の中には本当に多くの善意の方々がいらっしゃるオンですね。またそのような人々を結びつけるインターネットという装置も凄い!!
[返信]
ありがとうございます。博学とほめてくださり、恐縮ですが、大手法律事務所で仕事をしていれば自然とこの程度はおぼえるだけです。なお、この一連の記事、最終的にには『ビギナーのための法律英語』(慶大出版会)という形でまとめてありますので、書店で見かけたら、のぞいてみてください。
- Fuku
- 2009年11月 9日 09:15

NPO法人の定款の翻訳を空き時間にやるように言われたものの、専門用語等どうアプローチしていけばいいのか迷っていたところ、このページを見つけ、本当に助かりました。ありがとうございます。
[返信]
どういたしまして。いろいろありますので、是非、アーカイブをのぞいてみてください。