2006年5月18日
OverとAbove を使いわける
日本語の場合、助詞を名詞にくっつけることで、「社長が会長を非難した」と言っても、「会長を社長が非難した」と言っても通じます。助詞があるおかげで名詞の位置が入れ替わっても、意味が通じているわけです。英語の場合、同じようなことを前置詞がしてくれます。例えば、「当社は1990年に創業いたしました」と言いたいとすれば、Our company was founded in 1990. ですが、前置詞 in が付いている in 1990 というフレーズは、in がくっついているおかげで、副詞用法の前置詞句であることがすぐわかるので、In 1990, our company was founded. と言い換えても問題がありません。
こういった前置詞を使いこなす上で、学習者が苦労するのが個々の前置詞のニュアンスの違いです。「Menuの「うしろに」はbehind the menuか?」という記事でも書いた通り、 在米何十年という人でも、「ワインリストはメニューのうしろにあります」と言っているつもりで、The wine list is behind the menu. とやらかし、失笑を買ったりするのです(普通は、is in/at the back of the menuです)。
結局は問題意識と観察力の問題ですが、こういった微妙な違いのあるものとして、over と above の違いも重要です。特に、この二つの前置詞は、in addition to (それに加えて)という意味になる over and above という慣用句もあり、要注意です。つまり、「自分は基本給に加えて管理職手当ももらっている」ということなら、
I receive an allowance for supervisory and administrative duties over and above the basic salary.
というふうに over and above を並べて(但し順番は必ずことのとおりで)使うわけですが、だからと言って、入れ替えて使えるとは限らないのです。
なるほど、売上の数量よりは製品の品質の方が位置づけとしては高いということで、「量よりは質を重く見ている」と言いたいなら、
We rank quality over quantity.
と言えますし、
We rank quality above quantity.
とも言えます。いずれも、higher than という点で共通しているということです。
ところが、位置関係の話に絞られますが、もっぱら above が使われるケースというのがあります。
第一に、経済指標などのように、縦軸と横軸で囲まれたチャートを前提に、「データが何々より上だったら」と言いたい場合は、over ではなく、above を使います。例えば、頻繁に出て来る経済指標に、アメリカ企業の購買責任者が景気をどう見ているかをアンケート調査し、結果が50より上なら、上向き、50より下なら下向きと解釈される ISM 指数というものがあります。こういったときは、
A reading above 50 indicates that the manufacturing sector is expanding.(50を超える数値は、製造業が拡大していることを意味する)
と言い、A reading over...とは言いません。
第二に、X が Y の真上にあるというのでなく、相対的にYよりは上という位置関係にあるときは、X is over Y. とは言わずに、X is above Y. と言います。イメージで図示するとこんな感じでしょうか。
X
Y
ですから、知り合いが自分の住んでいるマンションの上の方の階に住んでいると人に言う場合は、
They live above us.
とは言っても、They live over us. とはまず言いません。というのは、over という言葉には、「ぴったりくっついている」という意味合いがどこかしら入っているので、こういった場合に使うと響きがおかしくなるからです。その別の階に住んでいる家族が「われわれにおおいかぶさるようにして暮らしている」というふうに聞こえるのです。
逆に言うと、above の特徴は、above の基準点、つまり、above us での us のような目的語との関係で、最低限ある程度の空間のあることが、そして、普通は相当大きな隔たりがある感じが伴っています。
言い換えると、above とその反対語の below というセットでの中核的意味合いは「離れていること」であり、over とその反対語の under というセットでそれが「くっついていること」なのだという感覚で捉えていると、かなり「見えて」くるものです。
このことは、縦軸に目盛りを取っているかような言い方だと鮮明になってきます。気温がマイナスでないという意味の above zero 、水準以上という意味の above average などがそうで、後述する over と異なり、基準値から「離れている」ことにポイントが置かれています。一方、over 20 (20歳を超えている)、over 100kg(100キロを超えている)といった言い方は、基準値から数えてという意味あいが強く、その意味で、基準値と「くっつけて」と捉えられている感じが強いと言えます。
このあたりの感覚を示すおもしろい例文を挙げておきます。これは、前置詞に特化しており、実にユニークで、勉強になる Seth Lindstromberg 著 English Prepositions Explained に出ている例です。
(a) The tramp lay with the newspaper over his face.
(b) The magician lay with the newspaper above his face.
文例の (a) では新聞紙が顔にくっついているのに対して、(b) での新聞紙はマジックで空中に漂っている訳で、マジシャンの顔からは離れた状態にあります。
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Comments
こんにちは。いつも楽しく読んでいます。
私は学生の頃からずっと「TOEICやTOEFLで高得点を取れるが、
それは私が四択問題などの方式のテストが得意なだけで、
自分の英語力はほかから言われるほど高くない、
でもそのことはなかなか理解されないし、
こういう自分に必要な良いトレーニング方法がわからない」
と思っていたので、
日向先生のお話はいちいち参考になり、ありがたく思っています。
ところで、本文と関係のない質問で恐縮ですが、
ブログがこちらに移っていらしたら、
私の大好きなトット&コブくんの写真アルバムがないようですが、
いずれ以前のブログが見られなくなって、
彼らの写真も見られなくなってしまうのでしょうか?
それはとても残念です。
彼らのファンとしては、今後もどこかで見られるといいなぁ、
ときどき写真が追加されるとうれしいなぁ、と思っています。
ご検討くだされば幸いです。
くどくどと失礼しました。
[返信]
TOEICスコアと英語の力の隔たりについては、慶應義塾外国語学校の講座(特別講座 Business English 208)を受講される方がみなさん同じことをおっしゃっているので、よくわかります。ご期待にそうよう、実用英語の力が底上げされるような記事を目指すつもりです。トットとコブを見てくださっているとのこと、親としてはうれしい限りです。アルクの担当者の方に相談してみましょう。ただココログの方は、予備として当面残しておきますので、おりおり写真を追加していきます。
- 匿名
- 2006年5月19日 20:47

いつも大変勉強になる記事をありがとうございます。今回は、overについて、質問です。
先日、日経新聞のNIKKEIプラスワンの中の記事で、”under”は「~才未満」の年齢を表すという記述と一緒に、"over"は「~才以上」を表すという記述がありました。私自身は、overはmore thanであり、「以上」というのは違うのではないか?と思ったのでLongman Dontemporary Englishを引いてみたのですが、逆に疑問が深まってしまいました。
というのは、辞書には"more than a particular number, amount, or level"[≠ under]とあったのですが、"a social club for the over-60s"という例があり、これは「60才以上」でしょうか?
日経の記事では、"children of over ten"を「10歳以上の子供」"The swimming competition was for over seventies."「その水泳競技は70歳以上の人が対象だった。」という例文を挙げています。
[返信]
おっしゃるとおり over は少なくとも実務上は more than あるいは in excess of と同じく、基準値を含まない言い方ですので、over 60 だったら、60歳ちょうどは含まれません。