2006年5月31日
チーズを語る英語
故ドゴール大統領は、「200以上もチーズがあるんですよ。フランスには。そんな国での政治がいかに大変かおわかりでしょう」といったことを言いましたが、レストランで出されるチーズとなると、それほどの数はなく、おのずと限られています。そこで、今回は、この種の高級フランスチーズに話をしぼり、にわかチーズ通になれる程度の知識と、そういったチーズの味を英語で言うときはどんな表現を使うのかを見ていきたいと思います。
フレンチのコースが一段落したところで、チーズを頼むと何種類かのものが cheese wagon で登場し、その中から好みのものを選ぶといったことになりますが、ある程度以上のレストランになれば、出て来るものはだいたい決まっています。違うとすれば、ちゃんとしたお店だと管理が行き届いており、食べごろのものを出してくれることです。例えば、Camembert や Brie の場合、流れ出す寸前で、それでいてアンモニア臭があるところまでは行っていない、チーズ好きが a point (満を持しているという意味のフランス語から来ているのでアクセント記号が付きますが、ア・ポワンと読みます)と呼ぶ状態がベストなわけですが、チーズがわかっていないか、管理に手がまわらない店だと、状態の悪いものを平気で出します。
それはともかく、どういったものが並ぶかと言うと、大体が白カビ・タイプのもの、ウォッシュ・タイプのもの、それとブルーチーズでしょうか。
★ 白かびタイプのチーズ
わが国では「白かびタイプ」と呼ばれているCamembert や Brie は、英語では、bloomy rinds か、cheeses with bloomy rinds です。
ところで、みなさんは、カマンベールを皮ごと召し上がっていますか。缶詰に入っているようなきれいな皮のものはそのまま食べても問題ないでしょうが、普通は中身とは違う、ちょっと苦い味がしますし、皮で保護されている中身と比べたら、職人が手で触ったり、床に積み上げたりと不衛生に決まっていますから、私の知る限り、ヨーロッパの人は皮の部分をナイフで削り取ってから中身だけを口に運んでいます。この点、自分自身はレストランで人がチーズを食べる様子を観察したことがないので、何とも言えないのですが、ヨーロッパ育ちの知り合いは、いい身なりをしたカップルが皮ごと Brie を食べていたと仰天していました。いずれにしろ、熟成の進んでいるチーズの皮を食べたりすると消化不良となり、お腹がゴロゴロしたりしますから、やめておいた方が賢明です。
Camembert
Camembert は、日本語では後半の「ベール」の部分にアクセントが置かれますが、英語では、最初の音節にストレス(強勢)を置き、CAM'm-behr と発音します。最初だけ英語風で、後半の "bert" はフランス語風に t を発音しないという、ややこしい言葉です。
あまりに有名なチーズであるため、どうしてこれがカマンベールなのという代物まで出回っている上、知名度に便乗した不思議な食べ物まで見かけます。この前はどこかのスーパーで、メロンパン風のものをカマンベール何とかと称して売っているのを見かけ、世も末だと思ったぐらいです。
ところでカマンベールは、Brie などが8世紀から有名であることからすると、比較的新種と言えます。そんなカマンベールが一気に支持層を広げたのは、19世紀後半にナポレオン三世がこれはうまいとおおいに気に入ったことと、19世紀に薄い木の皮で作った正方形の入れ物が考案されたおかげで大々的に輸出されるようになったことの二つが大きいようです。
カマンベールの身上はほんのりとした塩味で、これを英語で言うなら、
It has a delicate salty taste.
です。室温で食べるのがいいとされていますから、冷蔵庫に入っていたものは食べる30-40分ぐらい前に冷蔵庫から出しておく必要があります。自分では、特別上等でないカマンベールなら、10秒ほどレンジに入れて「前倒し」にして食べています。何であれ、冷蔵庫から出してすぐの状態で食べるのはもったいないことです。
一緒に飲むワインはたいていボルドーかボジョレーで、あまりブルゴーニュのワインと飲むということはないような印象を持っています。あっさりしているチーズである分、ブルゴーニュのように軽いながらも複雑というタイプより、わかりやすい味のワインの方が合うということなのでしょう。
なお、Camembert は、ポピュラーな分、そこそこのものを入手しやすいのも確かですから、これからチーズをいろいろ試そうという方は、まずは入門編としてここからスタートして、淡白な塩味が基本であるカマンベールの味との対比で自分のチーズの世界を広げて行くというアプローチもありそうです。
Brie de Meaux
発音は、単純に、Breeh となります。生産地を含めて言うなら、Breeh d' MOW (モウのような音)です。
カマンベールと同じぐらいよく見るチーズですが、こちらは歴史がずっと古く、シャルルマーニュ大帝が 774 年に Brie でこのチーズを食したという記録があるそうです。また、フランス革命で処刑されたルイ16世は、ギロチンにかけられる前、最後にもうひとくち Brie を食べたいと言ったそうですから、食卓での雑談で、
I'm told that Louis XVI's last wish was for a final taste of Brie.
と言ったりできます。
雑学ついでに言うと、ウィーン会議のおり、タレイランが主催したチーズのコンテストで、この Brie が優勝したという話をどこかで読んだおぼえがあります。
このチーズの特色は、カマンベールに比べて、味が一段とクリーミーと言うのか、まろやかで、しかも、かすかにナッツの香りがすることです。食べながら、これを言うなら、
Hmm, it has a delicate nutty flavor.
ですし、delicate より、やや「高級」な形容詞を使うなら subtle にして、
It has a subtle nutty flavor.
と形容できます。
[話は違いますが、私は nutty flavor というのは French restaurant と同様定型化した形容詞プラス名詞の組み合わせと感じるので、その前に delicate といった別の形容詞をつけるときは、同格ではなく、したがって、nice and French restaurant と言えないのと同じで、delicate and nutty flavor というのは変だと感じます。この場合は、同格の形容詞が二つ並んでいるときに打つカンマは使えないと判断します。ですから、a delicate, nutty flavor というふうにカンマを入れず、a delicate nutty flavor と書いているわけです]
Brie はシャンパンと一緒がいいという人が多いようですが、やはり個人的には、ボルドーです。あの濃厚な味わいはボルドーぐらいしっかりしていないと洗い流せない気がします。
Coulommiers
発音は、KOO-lomyay という感じで、最初の音節にストレス(強勢)を置きます。日本語では、みなさん、クー「ロ」ミエ、と、まんなかの「ロ」のところが一段と強いのではないでしょうか。
このチーズは Brie の親戚筋に当たるものながら、ナッツの香りが一段と強調されている感じです。しかも、人によってはバターっぽいと感じるぐらい、クリーミーな食感が強調されています。そこで、「Brie に比べてナッツの香りが強いんですね」ということで、
It has a nuttier flavor than Brie, doesn't it?
などと言えますし、あるいは「濃厚で、クリーミーな味わいがありますね」ということで
It has a rich, creamy flavor.
と言えます。「いやあ、バターのような味が強いですね」と言いたいなら、
It does have a buttery taste.
となります。
一緒に飲むワインは、赤なら、ボルドーか、コートドローヌでしょうが、濃厚さとのつりあいを取るためなのか、サンセールやピュイイフュメーといったソヴィニョンブラン種の白ワインと一緒に食べる人が結構います。
★ ウォッシュタイプのチーズ
よくお店の人が「ウォッシュタイプ」のチーズという言い方をしますが、ここから想像される英語は、washed type です。しかし、英語では実際はそうは言わず、この手のチーズは、washed-rinds か、cheeses with washed rinds と呼ばれています。このタイプのチーズの皮はにおいもきついことですし、まず食べる人はいません。そもそも皮の部分まで一緒に食べたら本体部分の微妙な味が台無しになってしまいます。ですから、食通と称される人が白かびタイプであれ、ウォッシュタイプであれ、皮まで食べていたら、信用しないことです。
なお、なぜ「ウォッシュ」するのかの説明として、どこかのチーズ屋さんのサイトで、菌を繁殖させるためとしていましたが、これは違っています。放っておくと菌がむやみに繁殖し、いわば暴走するので、それをコントロールし、適正量がほどよく分布するように定期的に「ウォッシュ」するという理屈です。普通は濃い塩水 (brine) ですが、ワインやマールを使う場合もあり、それが皮を経由して中にまで浸透する頃には、そのチーズ独特の風味となって現れてくるわけです。
Reblochon
発音は、reh-bluh-SHONN と最後の音節にストレス(強勢)を置きます。
Brie よりも一段と味わいが濃厚で、また、ナッツの香りもさることながら、ハーブの香りが強いのが、このチーズ。それでいて、口に入れると、 Brie よりずっと柔らかい、とろける感じの食感です。
したがって、このチーズを形容すべく、「ハーブの香りがしますね」と言いたいなら
It has a herbal aroma.
という言い方ができ、また、「Brie より柔らかいんですね」と感想を述べるなら、
It has a softer texture than Brie.
と形容できます。
以前、ソムリエにこのチーズの場合、みなさん、何を飲んでいるんですかと尋ねたら、あっさりした白か、ボージョレーですねという答えでした。
Epoisse
発音は、EH-pwa's という感じで、第一音節を強く発音します。
ナポレオンの好物で、 Chambertin を飲みながらこれを食べていたそうですが、かなり香りが強いチーズです。真偽のほどは知りませんが、フランスでは、バスや電車などへの公共輸送機関への持ち込みが禁止とのこと。たしかに、熟したものはそのぐらいきつい香りがしています。
普通、箱から出さず、直接中身をスプーンですくい出してお皿に盛りつけてくれます。そのぐらいにトロトロの状態で出されるということです。クリーミーで、ああ、極上のチーズというのはこれのことかと感じる、そういうチーズです。
工場で大量生産されるタイプはその色を出すために着色料で済ませていますが、手作りのものは、えも言われぬ複雑な赤っぽい皮でおおわれています。また、熟成段階で何度も洗う際に、マール(ぶどうを原料とする焼酎)で洗うため、その味が染み込んでいて、形容しがたい強い香りの一つの要因となっています。
したがって、チーズが特別好きでない人は
It has a strong smell.
というふうに、ややネガティブな響きのある言い方をし、他面、チーズ好きの人は、同じ香りなのに、
It has a pungent aroma.
とおおいにプラス評価を盛り込みます。
このチーズは、味の方もかなりクセがありますが、聞いていると味の形容も同じようなもので、特別感心しないような人は、「(何か舌を刺すような)クセのある味ですね」ということで
IIt has a sharp taste to it.
と冷ややかに言うのに対して、好意的に言う人は、「クセになりそうな、独特の味ですね」ということで、
It has a pleasant tang to it.
あるいは、
It's strong and savory.
と言ったりするものです。
おもしろいもので、おいしい物が好きな人は、この分野のボキャブラリーも他より豊かで、「気にはならないけれど、結構クセがありますよね」ということで
It has a mildly piquant flavor, doesn't it?
などと、piquant という書き言葉でしか使わないような単語を使ったりするので、びっくりさせられます。
ちなみに問題意識を持って読んでいれば、チーズの解説本などは単語の微妙な使い分けを学ぶのに役立ちます。例えば、チーズを形容する上で、しばしば、sharp と tangy が出てきますが、前者はマイナス評価が入っているのに、後者はそうではありません。したがって、It's tangy, but shouldn't be sharp.(クセはあるけれど、舌を突き刺すような域に達していたら避けるべきだ)といったコメントを見ることがあります。
なお手作りの Epoisse は素朴さを演出するため、木の皮の箱に入っており、底に紙で作った葉っぱのようなものが敷かれていますが、こうした手作り Epoisse の中でも王様クラスなのが、L'Ami du Chambertin というブランドです。名前のとおり、ブルゴーニュのジブリーシャンベルタン村で作られているものですが、チーズに合わせるのは産地のワインが一番いいに決まっているという先人の知恵に改めてなるほどなと思わされます。ただ、自宅でやるにしても、Epoisse と Givrey Chambertin をそろえるとなると、1万円は出ますから、つらいところです。
長くなってきたので、今回はここで終わりにします。次回は、ロックフォールを初めとするブルーチーズに加え、必ずしもレストランでは出さないけれど、知っておいて損のない、ショーム、ポンレベック、ポールサリュ、マンステール(英語では、ミュンヘンと同じような発音の MUHN-ster)などの、おいしいチーズを取りあげます。
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Comments
せっかく基本を示して頂いてるのに、未だ未消化ですので質問させてください。
> [話は違いますが、私は nutty flavor というのは French restaurant と同様定型化した形容詞プラス名詞の組み合わせと感じるので、(中略)、a delicate, nutty flavor というふうにカンマを入れず、a delicate nutty flavor と書いているわけです]
これに倣えば、'a nice big cardboard box' をいちいち 'a nice, big and cardboard box' としないのは、'big cardboard box'が定型化した形容詞プラス名詞の組み合わせだからなのでしょうか?
複数の形容詞を並べる際、(1)そのまま繋げる、(2)'a delicate, nutty flavor'のようにカンマで繋ぐ、(3)(カンマと)'and'で繋ぐ、の3パターンの使い分けについて、よろしければお願いします。
[返信]
複数の形容詞が名詞に先行している場合、まず(3)のパターンは稚拙な感じがするのかあまり見ません。(1)と(2)は、形容詞が同等の力で同一の名詞を形容している (coordinate) か否かの問題であり、二つの形容詞を and で結んでも通るか、順番を入れ替えてもおかしくならないかでテストし、大丈夫なら coordinateだということで前者のパターンです。後者は、when the first [adjective] modifies the combination of the second adjective plus the word or phrase it modifies (Webster's Compact Writers Guide) という条件を満たすがゆえに、カンマなしということになります。
- conde
- 2006年8月 2日 23:23
チーズは、本当に種類が多いですね。
フランスでは、チーズのオーダーに戸惑い、
ドイツでは、ソーセージのオーダーに困惑、
そんな経験をお思い出しました。
こちらは、バイリンガルヨーキーのブログからです。
[返信]
本当にチーズもソーセージも種類が多いですね。実はヤギ乳のカチカチのやつを含め幅広くチーズを食べてきましたが、結局は、記事で取りあげたものに帰って来る感じです。ただ、ソーセージの世界は別で、あちらは、main stream とでも言うべきものはないような気がします。どうなのでしょうね。個人的には(二流フレンチがよくブータンと書き誤る)ブーダンノワールが好物です。
- ベルのママ
- 2006年6月 1日 05:26
下戸なのと、正式なフランス料理を食べる機会がなく、チーズに関しては全く知らないのですが、お話を伺っていると、色々なアルコールと一緒にチーズを試したい気分になります。
チーズの特徴をあらわす言葉も、形容詞の勉強になりますね。質問があるのですが、aromaを使っているので、pungentを使ってもプラス的な意味合いになるのでしょうか?ということは、pungent smellというとマイナス的な意味合いになると思っていればよろしいでしょうか?
PS: 最近、形容詞に出会うとCOBUILDでニュアンスを確かめるようにしています。面白いです。
[返信]
知り合いに下戸だけれど無類のワイン好きというすごい人がいます。どうしてそんなことが可能かと言うと、サプリメントとして売っているタウリンを予め飲んでからことに及んでいるのです。タウリンは肝臓の悪い人に処方薬として出されますから、体質的にアルコールの分解能力が弱い人を助けるのでしょう。でも、レストランで飲み始める前に白い粉を取り出して飲む姿は何かアブナイ感じもあり、一緒にいてちょっと緊張もします。
ところで、フレーズとして、pungent smell で検索してヒットするものを見ると、必ずしも「くさい」ものばかりではなく、「かぐわしい」たぐいもあるにはありますが、やはり概ねマイナスですね。その意味では、おっしゃるとおり、aroma という強力なプラス要因と組み合わさると紙一重の部分が一気にプラス側に引き寄せられるという感じでしょうか。他面、pungent 単独でもプラスを表せるので微妙です。例えば、COBUILDのWordbankには以前 Starbucks が使っていたと見られるコピーとして、Pungent, smoky, no acidity. というのが挙げられています。これを突きつけられると、pungent 単独だとマイナス方向に流れるとは言いにくくなります。実におもしろいですね。こういうニュアンスの微妙さ加減。
- meggy
- 2006年5月31日 13:28

(↑文頭)『故ドゴール大頭領』、大親分になってます。(・・・大『統』領)
[返信]
ありがとうございます。さっそく直しておきました。