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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2006年7月 2日

三越 vs 伊勢丹、高島屋の話に学ぶ経営指標

7月1日付け朝日新聞の朝刊に「百貨店の王者」三越を伊勢丹や高島屋と比べた、おもしろい話が載っていました。前例主義といった大企業病を克服しつつあるものの、復活を果たしている伊勢丹などと比べたらまだ10周遅れだそうですが、なるほどねと感心したのが、三越とライバルたちを比較した5角形のレーダーチャート。比較の項目は上から時計まわりに売上高、営業利益、株主資本比率、有利子負債、売上高販管率です。

          売上 
       /       \
   
 売上高販管費率        営業利益

       \       / 
    
     有利子負債  _  株主資本比率

上の項目を、時計回りで説明しておきますと、まず売上ないし売上高 (sales) は、販売価格に販売数量を乗じて求めた金額から、返品や値引きを引いた金額です(返品や値引分を調整してあるので、"net" sales という言い方も見られます)。ビジネスの原動力です。

営業利益 (operating profit) は、売上高から売上原価 (cost of goods sold=CGS または cost of sales ) から引いて求まる売上総利益(gross margin または gross profit)から更に販管費(販売費及び 一般管理費を縮めた言い方で、英語では、selling, general & administrative expenses=SG&A) を引いて得る金額です。本業のもうけがどうであるかを端的に示す数字です。

株主資本比率 (equity to total assets) は、自己資本比率とも言いますが、使っている元手のうち(返さなければならない負債との比較で)自前のものがどの程度かを示し、財務の安定性ないし長期的な経営の安定性を見るために使われる指標です。

有利子負債 (interest-bearing debts) は、収益を圧迫する金利負担がどの程度かを表します。

最後に売上高販管費率 (percentage of SG&A to sales という言い方もしますが、percentage of operating expenses to sales の方が一般的です) は、売上に占める営業経費の割合を示す指標で、経営効率がわかります。

こうした指標をもとに三越の場合をきれいな5角形とすると、掲載されているチャートでは、伊勢丹と高島屋は営業利益と株主資本比率の点で三越のそれを上回っているので、右側に大きくふくらんだ格好の5角形になっています。つまり伊勢丹や高島屋は、売上のレベルでは三越とそうは変わらないのに、そこから得られる営業利益の水準がずっと高く、したがって効率的にもうけているということであり、また、元手に占める自前の部分が大きいので、稼ぎを借入金の返済で持って行かれる心配が少ないということです。

この記事に出てくる経営指標は、記者が自分の視点で三越の業績を同業他社と比較するに当たりわかりやすいものをピックアップしたものであり、どんなビジネスでも、この5つの指標をもとに語られるというものでもありません。そこで、今回は、一般に投資家等、企業を評価する立場の人がどういった問題意識に立って、どういった数字をものさしにするものかを見て行きます。
  
★ 会社が自社の事業でちゃんともうけているかを見る指標

商品は売れているだろうかという見地からは、在庫回転率を見ます。英語では、inventory turnover です。どうやって求めるかと言うと、売上原価を棚卸資産(=在庫)の平均で割ります。こういうことです。

在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫

Inventory Turnover = Cost of Sales/Average Inventory

ということです。どの程度のペースで在庫がはけていくのかを見て、モノが売れているのかをチェックしようというのです。

次に、もうかっているかを見るためには粗利率(あらりりつ)を見ます。粗利は、正式には売上総利益と言いますが、売上から売上原価を引いた金額です。大きければ大きいほどいいに決まっていますが、欲張りすぎて、もうけを上乗せしすぎ、その結果、数が出ないというのでは、元も子もありません。そこで、その兼ね合いに経営者は頭を悩ませます。計算式は以下のとおりです。

粗利率 = 粗利 ÷ 売上高

Gross Profit Margin = Gross Profit/Sales


★ 経営手腕を見る指標

株主から預かっている経営資源を効率的に使っているかをチェックする指標としては、ROA (Return on Assets) と ROE (Return on Equity) が有名です。ここでの return は要するに資本を投下した見返り、つまり利益のことです。この最終利益(=純利益)は、net earnings と言うほか、net profit, net profits さらには net income とも言いますが、ここでは、とりあえず、net income にします。

ROAは、こう計算します。

総資産利益率 = 純利益 ÷ 総資産

ROA = Net Income/Total Assets

ROE の計算はこうです。

株主資本利益率 = 純利益 ÷ 株主資本

ROE = Net Income/Shareholders Equity

ご覧のとおり、ROAもROEも分子は最終利益ですが、ROAの方の分母は借入金などの負債と株主資本を合わせた総資産で、これに対して、ROEは、株主資本だけを分母とします。したがって、無借金経営の会社なら、ROAとROEは同じ数字になります。(この ROA と ROE との比較ないし読み方はけっこうおもしろいので、後日、記事にしようかなと思っています)

★ 会社の信用力(貸倒にならないか)を見る指標

支払能力を簡単にチェックする指標として良く出て来るのは、流動比率 (current ratio) と呼ばれるもので、要するに返済期限がすぐ来る短期負債がどれだけ現金に近い資産でカバーされているかを見る指標です。こう計算します。一般に2倍なら安心とされますが、この2倍というのは、100万円の借金に対して、返済原資が200万円以上あるという意味です。

流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債

Current Ratio = Current Assets/Current Liabilities

ひとくちに流動資産と言っても、在庫品(会計用語では「棚卸し資産」)などはすぐ現金化できるものではありませんから、そういった頼りにならない資産を除いて、すぐ債務の弁済に使える資産だけにしぼって、この割合を厳しく見ようというのが、「当座比率」(quick ratio) です。換金性の高い流動資産を指して、当座資産と言うことから、この名前があります。

当座比率 = (現金+短期有価証券+売掛金) ÷ 流動負債

Quick Ratio = Cash + Marketable Securities + Receivables/Current Liabilities

要するに「すぐ払え」と言われた場合、それに応じられるだけの現金その他換金性の高い資産がそろっているかを見ようというのです。

以上の指標が経営資源を言わば静止画像で捉えてチェックするものであるのに対して、以下のとおり、動画で捉えてチェックしようというものもあります。

まずモノやサービスを取引先に納品しても、なかなか払ってもらえないというのでは、その間、資金不足に陥る危険も高くなります。そこで、支払能力の確保という見地から、売掛金(専門家は売上債権と言っています)の回収効率もチェックの対象となります。売上債権回転率 (receivables turnover) と言います。計算式はこうです。

売上債権回転率 = 売上高 ÷ 平均売上債権

Receivables Turnover = Sales/ Average Accounts Receivable

たくさん売上があっても、そのほとんどが売掛金として滞留しているというのでは、債権者としては心配になってくるというものでしょう。また、本来、回収して他で「稼がせる」ことのできる現金がそこに釘付けになっているというのは経営効率の問題としても困ります。そんなことなら、商売をせず、定期預金にした方がましということになってしまいます。

支払能力をもっと直接的にチェックする指標としては、「利息カバレッジ」という指標が使われます。計算式は以下のとおりです。EBITというのは、earnings before interest and tax の略称です。

利息カバレッジ = 税引利払前利益 (EBIT) ÷ 支払利息

Times Interest Earned Ratio = EBIT/ interest.

税金や利息を払う前の段階の利益でどのぐらい余裕をもって利息を払っているかを見るための指標で、これが1だったら、借金を返すためだけにビジネスをしているということになってしまいます。

一方、財務体質という見地から、借りすぎて無理がないかということを長期的に見るために、以下の指標がよく出てきます。

まずは負債比 (debt to equity) です。使っている元手のうち、他に返す必要のあるものがどのぐらいかということであり、一般的には低い方が安全なのものの、借入金を上手に使えば経営資源の投資効率を改善するのに役立つので、そのあたりの兼ね合いがやはり経営者の腕の見せ所となります。

負債比率 = 負債の合計 ÷ 資本の合計

Total Debt to Total Assets = Total Debt/ Total Assets

★ さいごに

ざっと主立った経営指標を挙げてみましたが、とりあえずこの程度の知識があれば、企業関連の記事を含め、英文の経済記事を読むのには十分だと思います。ただ、せっかくの機会なので、後日、機会を見て、もう少し、補充しておきます。




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Comments

ご丁寧なお返事有り難うございます。
「慣行としてそれぞれ別の名前で通っている」というご指摘、理解しやすく、頭の中でうまく整理できそうです。
「無利子負債とは」とGoogleで検索しても、「これは」という回答が得られずイライラしておりましたが、これですっきり。梅雨空に一時の晴れ間を見た気分です。

[返信]

私も「「無利子負債とは」でヒットがゼロと出てあわてましたが、「と」を抜いた「無利子負債は」で11件出て安心しました。あと、ただ「無利子負債」だと無茶苦茶な数になりましたが、"無利子負債"という具合に引用府でくくってフレーズ検索に直したら、200何十だかのヒットが出ました。

毎日楽しくて有益な情報を有り難うございます。先生の授業が受けられる学生が羨ましいです。これからの時代、ビジネスに関する経済、金融、会計、法律などの基礎知識が不可欠な上、英語でダイレクトに情報収集し理解する能力が今まで以上に求められていると思います。そんなことを考えると、学生諸君からのコメントあるいは質問が少ないのは不思議です。

今日は学生の視点で素朴な質問をさせていただきます。

「有利子負債」という用語があるなら、「無利子負債」と言う用語もきっとあるはず。借金をすれば利子を払うのは当然だが、利子を払わなくて済む負債の正体とは一体何ですか。

「税効果会計」とか「繰延税金負債」とか、そんな用語を使うとかえって難しくなってしまいます。学部の学生に分かりやすく説明するのに、先生ならどんな工夫をされますか。お時間がありましたら、ブログのお題に取り上げてみてください。お願いします。

[返信]

Googleで検索すると、日本語でも英語でも、つまり、無利子負債、non-interesting bearing debts のいずれもヒットします。このように 言葉としてはあるようですが、自分では実際に使われている例を目にしたことがありません。利息が発生しない金銭債務であり、実質上「無利子負債」に相当するものは、慣行としてそれぞれ別の名前で通っているからだと思います。取引先に支払を猶予してもらっている債務は「買掛金」ですし、前払してもらった代金は「未収収益」、また、おっしゃっている「繰延税金負債」つまり帳簿上の未払法人税中、まだ納税せずに済んでいる分なども同じことです。

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