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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2006年7月 3日

内部統制とは何ぞや:新会社法でにわかに脚光浴びるニッチな世界

先日、地下鉄の神谷町駅に近い本屋さんに入ったら、レジ近くの台に「内部統制」がタイトルに入っている本が何冊も平積みになっていて、びっくりしました。内部統制というのは、会社の方針に反して想定外のリスクを負う取引をするといったこともカバーしますが、基本的には使い込みなどの不正を組織的に防ぐためのプロセスであり、したがって、内部統制がきちんとしていれば、報じられているような大学の先生による研究費の詐取と言うのか、流用なども起こりにくいわけですが、それにしても、どうしてこんな地味な分野の本が一斉に出ているんだという思いがしました。

以前にも内部管理とも称される内部統制に触れた記事(「内部管理、ガバナンス、コンプライアンスの三つはどういう関係にあるのか」)を書いたことがありますが、ちょうどいい機会なので、今回は、正面から取りあげ、内部統制とはどういうものであり、なぜ問題なのかを考えてみます。

この内部統制(または内部管理)という言葉や考え方はアメリカからの輸入品で、internal control の訳です。ここで、internal というのは言うまでもなく組織「内部」を指し、control というのは、会社としての取り組みを示す基本方針と、それを具体化させるための手続のことを指します。何のためにやるのかと言えば、会社のビジネスがきちんと行われるようにするためですが、会社にとっての血液であるカネが使い込まれて知らずに減ったり、あるいは血圧その他の基本データに相当するものがいい加減では命取りになりますから、結局はカネの動きにいい加減なことがないようにするためのプロセス作りというのが私の理解です。

ところで、なぜ内部統制と内部管理と訳が二通りあるのかが気になります。金融庁は「内部統制(インターナル・コントロール)」といった言い方をしているかと思うと、他では同じことを指して「内部管理」という言葉を使っています。日銀は「内部管理体制」という言葉を使っています。思うに、コントロールしようというのですから、基本的には「統制」がぴったりなのでしょうが、内部管理のシステムを指して言うときの「内部管理体制」となると、語呂の問題として、「内部統制体制」はどうも今イチで、そこから、みなさん、自在に管理と統制を使い分けているような気がします。

★ 内部統制とは何ぞや

私の理解では、内部統制というのは、NHKのプロデューサーによる使い込み、あるいは集金人によるネコババのような不正を組織的に防ぐため、会社の中で、制度として、(1)個々の業務の責任者を明確にし、もって、必要な場合、しかるべき権限の委譲が行われるようにする一方、不正の温床となる1人二役を防ぐこと、(2)手続にしたがって必ず発注伝票と納品書を、あるいは、帳簿と実地検査の結果を比較し、照合すること、そして(3)業務上、所定の文書が使われ、その文書上、所定の責任者による承認印あるいはサインが付されていることを指します。

この点、内部統制の仕組みを考え出した COSO (www.coso.org) は、内部統制を以下のように定義しています。

Internal control is a process, effected by an entity's board of directors, management and other personnel, designed to provide reasonable assurance regarding the achievement of objectives in the following categories:

Effectiveness and efficiency of operations
Reliability of financial reporting
Compliance with applicable laws and regulations

内部統制は、一つのプロセスであり、その実行を担うのは、会社の取締役会、経営管理職その他の要員で、そのねらいは、業務の効果的・効率的遂行、財務報告の信頼性、適用法令の遵守の各領域において、会社としての目標達成を合理的範囲内で保障することにある。

これに続けて、COSO は、(1)内部統制は飽くまでプロセスであり、目的のための手段でしかないんだよ、(2)マニュアルその他の書面をそろえて満足しちゃ駄目だよ、ヒトの問題なんだからね、と注意を促し、さらに(3)内部統制のしくみを完成させても「合理的範囲内」で目標達成を保障するだけで、これで絶対大丈夫ということはないんだからねとクギをさし、最後に、(4)上の「業務の効果的・効率的遂行、財務報告の信頼性、適用法令の遵守」という三つの領域は、互いに重なりあう部分はあっても基本的には固有の業務である以上、それぞれ独自の目標が設定されるものであり、内部統制もそれに合わせる必要があると念を押しています。

こうして見ると、割と常識的なことをさっぱりと述べていますが、会計の専門家の手にかかるとひどくむずかしいことのように聞こえるから不思議です。(どうでもいいことですが、この監査法人さん、COSO が考えたんだよと元祖を明示しなくていいのだろうか、自分が考え出したみたいな書き方だよなと心配になります)

内部統制とは何かという問題は、その生い立ちを考えるとよくわかります。内部統制の仕組みを考え出した COSO ですが、この略称は、正式名称である、The Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission から来ています。1980年代に連続した不正経理に業を煮やした全米会計士協会等の専門家団体がスポンサーになって、不正経理問題研究委員会を設置し、その委員長に元SEC委員長の Treadway 氏を据えたことからこの名前があるわけで、この生い立ちからわかるよう、内部統制は、当然、企業のリスク管理の1分野と捉えられるものの、本質は飽くまで不正経理の制度的な予防です。

COSOフレームワークと呼ばれるこのしくみは、さすがにプロ集団がまとめたものだけに、原因分析と対策が徹底しています。実際、実効性もあると認められ、会計事務所による監査の際のものさしとしても使われ、アメリカの企業社会では一般に受入れられていたわけですが、わが国で一般に COSO というものが知られるようになったのは、NHKプロデューサーによる使い込みを受けての改革案のおかげだというのが私の認識です。

NHKが2005年2月17日に発表した「コンプライアンス(法令遵守)の取り組みについてを見ると、「NHKでは、今後ともコンプライアンス活動やCOSOフレームワークの考え方を取り入れた管理体制の徹底的な検証と改革を推進する」という記述に続き、「IV COSOフレームワークを参考にした内部統制システムの導入」という見出しの下、「具体的な手法として、現在、国内外において最も有効性が高いといわれている米国基準の「COSOフレームワーク」(※)という内部統制のルールの考え方を参考にし、監査法人の協力を得ながら検証していきます」とうたっているのです。

ちなみに米印のついている注記事項は、上記の説明とだぶってしまいますが、こういう内容です。

※)「COSOフレームワーク」とは

1980年代に粉飾決算が多発したアメリカにおいて、こうした流れに対処するため1985年にアメリカ公認会計士協会等を母体に「トレッドウェイ委員会組織委員会」(“Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission”略称“COSO”)が設立された。委員長J.C.Treadway,Jr.の名前を付してトレッドウェイ委員会と呼ばれている。同委員会が不正な財務報告の原因となる要因を分析し、有効な内部統制システムのフレームワークとして構築したものが、「COSOフレームワーク」。公表されて以来各国の企業で取り入れられている。日本でも今年10月の経営統合になる「三菱UFJ」が「COSO」のルールを取り入れることを表明している。

ところで、この発表文を読んだとき、ああ、これで関係者も反省し、その節はご迷惑をおかけしました、と会長が菓子折りの一つでも持って、頭を下げに来るのかなと感じたものです。業務を総点検して悪かったところを改めると言うのですから、「2004年前期のラジオビジネス英会話の講師を依頼したおりには、契約条件を明示しないまま仕事を引き受けさせてしまい、公共放送でありながら発注者としての優越的地位を濫用し、下請法の趣旨に反する結果となりました。お許しください。また、契約書を交付せず、契約当事者が誰であり(つまり NHKなのか、別法人である NHK出版なのか)、発注業務と対価が何であるかを明示しなかったのは、公共放送を担う組織としてあるまじき前近代的体質の表れで、恥ずかしい限りです。申し訳ありません」と詫びを入れるのが筋というものでしょう。

そこで、使者を迎えてのシミュレーションをせねばと、厳粛な面持ちで「格別の恩情をもって今度だけはユルシテヤルゾ」と言うべきか、はたまた、にこやかに「ああ、こんなことまでしてくださる必要はありませんよ。ハハハ」で片づけるべきかと「妄想」にふけったものです。

ところが、です。音沙汰がないじゃないですか。発表文には「業務の流れそのものに不正を生み出す危険性はないのかという視点に基づき、金銭の流れと管理体制のあり方を徹底的に検証し」というくだりがあるのですが、ちっとも「徹底的に検証」していないわけで、どこぞに集まってこういった立派な文書を書き上げる人たちと、エライ人たちの心配をよそに「何かあったの」程度の問題意識で前と変わりなく仕事を続ける現場の人たちとの、いわゆる温度差がよくわかります。

[つづく]




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