2006年8月24日
Tipping Point をわが身で経験して
Tipping point という言葉、耳にされたことありますか?実は先週末にかけて、このブログのアクセス数にちょっとした異変があり、言ってみれば、 tipping point のセオリーどおりの展開を見ることが出来たので、今回は、この話をさせてください。
ぱっとしなかった商品がなぜか急に売れ出すとか、犯罪率がある時点を境に激減するというように、ものごとが、何かのきっかけでいわばブレイクし、大きく動き出すことがあります。そういった場合の before and after の境目となるのが、この tipping point です。平面上に何か物を置いてから徐々に傾けていったとして、びくともしなかったものが、あるところまで傾斜が深まると、動き出し、止まらなくなります。このように、こらえきれなくなったかのように動き出し、しかも動き出したが最後、堰を切ったかのような奔流となる瞬間ないし起点が tipping point だという言い方もできます。
ところで下のチャートはこの「ビジネス英語雑記帳」の過去一週間のアクセス数を示したものです。このところ平日がだいたい2000前後で、土、日になると1000-1300といった感じで推移しているのですが、驚いたのが土曜日の数字。2132 と、いつもの倍近くです。もっと驚いたのが日曜日の8776(訪問者数では約6000)。何ごとだろうと思ってアクセス解析で「人気記事」の一覧を見ると、 「Co.Ltd とInc. の意味の違い」にアクセスが集中しています。今度はリンク元はどこが多いのだろうと見ると、hatena がらみのばかり。その後も、月曜が8872、そして火曜の12571を境にようやく反落して、水曜が4319という経過をたどっています。

この一連の動きを見ていて感心したのは、以前、読んだと言うか、CDで聴いて済ませた、The Tipping Point--How Little Things Can Make a Big Difference という本に書いてあるとおりだったことです。著者は Malcolm Gladwell (ワシントンポストのビジネス・科学欄担当記者を経て New Yorker 誌に転じたジャーナリスト)で、大きな変化が起きる原因は大きな力が働いたからというものでもなく、一定のパターンをたどりながら小さな変化が積み重なって行くと、ある時点を境にものごとが劇的に動くという現象に着眼し、なにゆえに、それまで何でもなかったものが、ある時期を境に大きく変化するのだろうかと調べたのです。この境目を指して、tipping point と称しているわけで、言ってみれば、「臨界点」といったところでしょうか。(この本はアメリカでは2000年のベストセラーの一つでした。わが国では、飛鳥新社から「ティッピング・ポイント—いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか」というタイトルで邦訳が出ています)
今回は、この「ビジネス英語雑記帳」を舞台に繰り広げられた(私にとっては)大きなアクセス数の増加を素材に、もう一度、Tipping Point がどういうものであるかを振り返ってみます。
★ 一大変化をもたらす三大要因
Gladwell は、急激かつ大規模な変化をもたらす要因として以下の三つのものを挙げています。
• The Law of the Few
• The Stickiness Factor
• The Power of Context
The Law of the Few というのは、変化の起爆剤となるのはほんの一握りの人々だということです。Gladwell は、この種のオピニオンリーダーを、情報や知識を手元に集めるのが好きで、しかも、進んでそれを他の人々と分かち合おうとする mavens 、ネットワーキングの中心となって動く connectors、そして、積極的に相手を納得させて人を動かそうとする salesmen などに区分していますが、要は変化を引き起こすプロセスに関与する人々は等しく関わるのではなく、影響力の大小があるということです。
今回のアクセス数急増の直接の原因は、www.hatena.ne.jp で注目エントリーないし人気エントリーとして取りあげられたことですが、それよりもっと大きかったのは、「はてなで今、これが話題になっているね」と、そういった情報を集め、仕分けし、他の人々に伝える役どころを担っているサイトでした。どういったサイトなのだろうと見に行くと、ほとんどが英語とは無縁で、ビジネスとも関係がなく、好事家のために見出しが並んでいるといった感じの所ばかりでした。なかでもアニメ関連のサイトが多かったような気がします。こちらはそのおかげでヒット数が増え、うれしかったものの、不思議な世界です。
第二の要因である The Stickiness Factor は、そのメッセージないし情報が気になって仕方がないという「引きつける力」のことです。今回、アクセスを集めたのは、「Co. Ltd. と Inc. の意味の違い」という記事ですが、これも、タイトルが「Co. Ltd.とInc.について」という素っ気ないものだったら、あまりみなさんの注意を引かなかったことでしょう。「Co. Ltd. と Inc. の意味の違い」というタイトルだったからこそ、「前から気になっていたんだよな」という読者の方々に "stick" したと言えそうです。事実、tipping point をマーケティングに活かそうという人々は、プレゼンを見直し、どうしたら消費者の耳に、あるいは心に stick するだろうかを研究するものです。
このあたりの stickiness (記事として気になる度合い)については、この記事を ブックマークしてくださった方のコメントを見ると、われながら、そうだったのか、そう読んでくれたのかと、楽しめました。
ところで、この現象を見ていて、つい実験がしたくなり、今回、新たに上の記事のうしろの方の部分、「わが国の企業は自社の英文名称における Co. と Ltd.の間に意味のないカンマを入れている」という下りのところで、意味がないのにまかりとおっているという意味では、著作権表示の (c) も同じような話ですよね、というふうに、 「 (c)という著作権の表示にはどういう意味があるのか」という記事もありますよとアピールしてみました。そうしたら、読みどおり、「あの (c) は何なのだろう」と思われていた読者が多く、後半に入って、ついには (c) の記事の方が Co. Ltd. の記事を上回るヒット数を記録するに至りました。また、波及効果で、それまで動きのなかった (R) と TM の意味の違いのヒット数まで急増しました。
最後に The Power of Context は、それが取りあげられるコンテクストが違うと、ものごとに対する人々の反応ぶりも違って来るということです。Gladwell は、アメリカ独立戦争の英雄、Paul Revere を引き合いに、こんな説明をしています。 Paul Revere は、奇襲を計画していたイギリス軍の機先を制して、一晩中馬を走らせて、「イギリス軍が来るぞ」という一報を各地のしかるべき人々に伝えてアメリカ側の迎撃態勢をととのえさせましたが、同じように 何とか Dawes という人も馬を走らせて同じニュースを伝えてまわったというのに、名が残りませんでした。この2人のどこが違うのでしょう?Gladwell に言わせると、power of context がもたらした違いなのです。Revere の場合、要所を固めるにはこの人でなければというキーパースンをしっかりおさえた効果的なネットワークを持っていたからこそ同じ情報がより大きな力を発揮し得たのに対して、 Dawes の方のネットワークはそういった気の利いたものではなかったからだそうです。
この点もなるほどと合点がいったのですが、元々「 Co.Ltd とInc. の意味の違い」は昨年の6月頃に書いた記事で、しかも、今回同様、hatena ブックマークで人気エントリーになったのが原因です。その後もコンスタントにこのブログ内での人気記事の上位を占めてきたものの、今回のような爆発的アクセス増は初めてです。これは同じ hatena でも、新たなコンテクストで捉え直されたのが効いたのだと解釈すると説明がつきます。この点、おもしろいのが次のコメントです。
前は230userどまりだったけど、今度は670user超えてる。同じ内容なのに。はてブ人口の増加をしめしているのかなぁ…。ところで両方あわせるとはてブでも数少ない1000user超えですね。まぁ最近は簡単に1000超えしてる気もしますが。
ブログ界も同じことが言えるのかも知れません。ライフスタイルに関心がある人々は、 ★上流1%が住むニューヨークから★雑誌が書かない裏情報を読んで、こういう人はこういう所に住んで、こういう人たちとつきあい、こういう感覚でものごとを考えるのかと一つの理想型を共有し、あるいは、 コーチングスタッフマネジメント代表取締役ですを読んでは、おしゃれな生活をしながらビジネスもという才媛は、飲むシャンパンはヴーヴクリコで、日頃、こういう所に出入りしているんだと感心します。同じような内容のブログは他にもあることでしょうが、これらのブログは、power of context が違う点で差別化されているがゆえにトレンドセッターとなっており、また、だからこそ他サイトからのリンクが100近くもあるのでしょう。
★ さいごに
一時はトータルアクセスが1万を超え、それにつられる格好で、 人気ブログランキングでの順位も上昇しましたが、結局は、英語に興味はないけれど、話としておもしろい記事を求めている人々の目にたまたま触れただけです。しかし、おかげで、以前、読んだ Tipping Points の世界をわが身で経験することができ、おおいに勉強になりました。
ただ、ブログへのアクセス数が減って来ているのは、当たり前のことではありますが、一度、1万の大台を越えてしまうと、ちょっと寂しい感じもあります。長男の「ビジネス英語辞書」や次男の 「ビジネス英語表現集」(be208) が日々万単位のアクセスでにぎわっているのを見るにつけ、この「ビジネス英語雑記帳」を互角の人気者に育ててやらねばという使命感にかられます。
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Comments
長男・次男の存在を今日初めて知りましたが、長男を非常に気に入りました。
愛用させていただきたいと思います。
度忘れが激しい昨今、助かります。
[返信]
ブログの右サイドバーの上に名札が出てはいるのですが、地味なやつなので目立たなかったのでしょう。いずれにしろ、長男に尋ねてわからないことがあったら、付属のリクエストフォームをご利用ください。親が調べて子供に伝授し、一段とたくましく、たよりがいのある奴になっていくしくみです。みなさんのおかげで、最初の頃と比べ、身長も体重も格段の差です。
- 匿名
- 2006年8月26日 07:45
こんにちは!無料先生です!
8月18日の記事にトラックバックさせて頂きました。
是非、サイトに来ていただけたら、うれしいです。
それでは失礼します。
[返信]
ありがとうございます。トラックバックがあった旨、通知があったので、早速うかがいました。こちらのブログを取りあげてくださり、ありがとうございます。なお、このご連絡は、本文と関わりがないので、何日かしたら削除させていだだきます。
- 無料先生
- 2006年8月25日 13:00
毎日楽しく拝読しています。
三男(または長女?)の「ビジネス英語雑記帳」も大きく育ちますように。応援しています。
[返信]
ありがとうございます。「ビジネス英語雑記帳」はエレガントだとかやさしいという感じに欠けますし、やはり ♂ でしょう。
- Ikegami
- 2006年8月25日 10:21

こんばんは、無料先生です。
Tipping pointのお話とても興味深かったです。
勉強でもそうですが、変化というのはある瞬間を境に
成長し一定になり、またある瞬間を境に成長する。
この繰り返しで、膨大な成長を果たしますよね。
上記のアクセス数の動きを見て、改めて実感しました。
[返信]
おっしゃるとおりで、こつこつと単語力をつけていると、ある時を境に急に視界が開けたような感じになるものです。勉強している言葉が何語であれ、あの爽快感を多くの方に味わってもらいたいものです。