2006年9月20日
CD本で英語を勉強するというアプローチ
前回、ものの役に立つ英語を身につけるためには、まず2000語レベルの単語力を身につけるのが先決だと書きましたが、具体的な学習法の一つとして、テキストで使われる単語が2000語あるいは3000語と、所定のレベルとなるよう、書き換え、編集し直してある、graded reader と呼ばれる読み物を使う方法があります。
商品としては、Penguin Readers, Cambridge Graded Readers 等大手が出しています。子ども向けの本ばかりでなく、ジュールベルヌなどの古典的なものから About a Boy といった映画の原作本までと様々なものがあり、ネットで見る限りは品がそろっています(単にどんなものがあるのかをアマゾンで見るには、サーチを洋書用にしてから、ELT graded readers というキーワードで検索します)
この場合、単にリーダーならいいやというのでなく、付属ないし別売りのCDのあるものに絞って選ぶのが最大のポイントです。結構、こういったリーダーをこなしているのに、DVDやビデオの英語が聴き取れない方を見るにつけ、もっと音声に目を向けたらいいのにといつも思います。せっかく宝の山の中にいるのに、そのことにすら気付かずじまいという感じがしてなりません。ともかく、コミュニケーションの基本は音声言語ですから、音がないのは片手落ちです。
どのリーダーなら音声も一緒に手に入るかを見るには、やはりアマゾンが便利です。ただ、アマゾンと言っても、なぜかamazon.co.jpの検索は使い勝手が悪いので、 amazon.comの検索ページの方がお勧めです。ここで、subject の項に readers と入れ、format の所で、audiobook (cassette or CD) を選べば、だっーと出てきます。そして、これはと思うものを書き留めた上、再度、アマゾン・ジャパンに戻って在庫を確かめるという手順になります。
なぜ一冊の本をベースに音で英単語を勉強するのが効果的かと言えば、理由は、三つ挙げることができるかと思います。
理由の一は、英語が書き言葉である前に話し言葉であること、第二に、退屈しないで済むこと、それと第三に、単語のニュアンスの違いがわかり、単語の知識を深めることができる、という三点です。
第一に、コミュニケーションにおいては、リスニングが45パーセントを占めているという研究報告があるぐらいで、聴き取れなければ話にならないという事実があります。(ちなみに、このウェブページでは、残りのウェイトにつき、ライティングが9%、リーディングが16%、スピーキングが30%だとしています)
この点、英語学習法に関して積極的に発言されている、野口悠紀雄先生は雑誌『文藝春秋』の2004年10月号に掲載された「本物の英語力」という特集記事の中で、こうおっしゃっています。
質問ができたところで、答えがわからなければ、何の意味もないのだ。繰り返すが、実用会話で重要なのは、「話すこと」ではない。「相手の言っていることを正確に聞き取る」ことである。
英語を使う実際の状況としても、「話す」場合よりは、「聞く」場合の方が圧倒的に多い。
[中略]
[相手に合わせて行く程度のことでも会話は成立するし、上達もするが…]この場合に絶対に必要なのは、相手が言っていることを正確に聞き取ることである。それができなければ会話は成立しないし、それさえできれば会話は成立する。
ところで、「読み書きは何とかなるんですが、話す方が駄目でね」という人がいるものですが、これは大ウソです。機会を改めて取りあげようと思いますが、まともな英語を書くというのは大変なことで、話すことすらできない人がそこそこ書けるということは普通ありえません。それと同じで、「いやあ何とか聞き取れるんですけど、どうも、うまい表現がぱっと出て来なくて…」という人がいますが、これも自分の非力をごまかしているに過ぎません。実際、野口先生はこういった人を以下のように厳しく批判して、いかにリスニングがコミュニケーションにおいて重要かを指摘されています。
英語の実力をごまかすために「いやあ、相手が言っていることは分かってるんだけどね。適切な表現が見つからないもんだから、話しづらくて」などと言い訳をする人がいる。しかし、これは見え透いたウソである。相手の言っていることが理解できれば、必ず話せる。「話せない」というのは、「聞き取れない」という白状に他ならないのだ。
おかしなもので、野口先生のように実社会で英語を使っている専門家のほうが、英語教育を飯の種にしている人々より英語の何たるかがわかっているわけで、英語教育を職業としている方々は耳をかっぽじってよく聞いておくべき至言だと思います。
第二に、単語をおぼえていくプロセスを考えた場合、本のテキストを通じて一定の流れの中で何度も単語に出会い、親しんでいく方が自然で、おぼえやすいはずです。もちろん、このあたりの感覚は、人の学習スタイルによっても違うので一概に言いにくいとは思いますが、音声CDを聴き続けるような学習法については、アマゾンでのボキャブラリーものに対する書評を見ている限り、何百もの脈絡のない例文をただ聞かされるというのは辛いという声もあるわけで、無味乾燥となり、続かないという危険が伴います。やはりストーリーがあった方が勉強しやすいのではないでしょうか。昔、フランス語を勉強していた当時、Vocabulearnのシリーズのように、ただただ、フランス語の単語、次に英語の訳という形式で言葉が羅列されたものを聴いていた時期がありましたが、最終的には、カトリーヌドヌーブが読み上げている「悲しみよこんにちは」の方が楽しく勉強でき、ボキャブラリーも定着したように感じました。(そんなことを言っても、もう忘れてしまいましたが)
第三に、本を読み上げているものを通じて単語をおぼえていった方が、関連する単語がまとまって出て来て、それらのニュアンスの違いを意識させられるという点で有意義だと考えます。しかも単語のレベルとしては平易なのですから、ごく普通の会話で自然な英語を話す上で重要なヒントとなるはずです。例えば、ちょっと古くなりますが、エリック・シーガルの超ベストセラー、Love Story がいい例です。この本は、竹蓋幸生著『日本人英語の科学』(研究社出版 1982年)によると、過去形や複数形まで別々にかぞえても1310単語程度しかないという、やさしい本です。ところが、同書によると、以下のような形でニュアンスの点で非常に深いものがあるのです。
[上略]ほんの数行の間に「たたく」という意味の語が flail, lash beat の3語で表現されていたり、日本人ならば「音」と一言でいってしまうであろうことも同じページのなかで、the "click" of my skate blades, the "bark" of the PA system というふうにいったりしている。しかも前者を listen、後者をhear という語で聞き方の違いも示していることなど良い例であろう。また、そのあとには、「見る」またはそれに近い内容の意味の語を30行足らずの文の中で、watching my teammates, my eyes were riveted on..., I stood up to look further, I had a split second to glance up at..., to search for Jenny..., I saw her と6種も使い分けているのである。
このようにやさしい読み物を付属の、あるいは、別売りのCDないしカセットテープなどの音声で聞くことを通じて、第一に、英語でのコミュニケーションにおいて45%と最大のウェイトを占めるリスニングに慣れることができ、第二に、飽きてしまうような学習に陥らずに済み、第三に、やさしい単語のニュアンス、さらには何がごく普通の英語かを感じ取る練習ができるのです。
特にこの第三点は重要な点だと思います。単語力増強を急ぐと、実際上、滅多にお目にかからない単語をおぼえて喜んでしまったりもしますが、それよりは、頻繁に出て来る単語にいろいろな顔があることを知り、どんな場面で出会ってもあわてることなく、また、自分からもぱっと使えるよう、なじんでおく方が賢明だからです。
ご自分の英語学習が何か行き詰まっていると感じてらっしゃる方には一つの打開策としてお勧めします。
なお、中上級者レベルの方は、ちかごろ、大体、よく売れるペーパーバックはCD本も別売りで用意されていますから、そういったものを利用できます。また、ニュースのサイトなどは、テキストに対応した音声も聴けるところが増えているので、やる気にさえなれば、便利なツールがどんどん目に飛び込んでくるはずです。ちょっとしたビジネスの話題もきちんとこなしたい方には、The Wall Street Journal のオンライン版購読者となった上、www.audible.comで、WSJの一面を読みあげたものが収録されている Morning Read を購読する手があります。この Morning Read はたしかポッドキャスト版もあります。
何であれ、テキストを見てわかった気になっているようではただの自己満足で実際には役立ちません。聴き取れるようになってからが本当の意味でのスタートです。
追記: 英語のリスニングは、テープやCDを繰り返し聞いていればいいというものではありません。英語には特有のrhythm, stress, intonation というものがある上、メッセージを伝える名詞、動詞、副詞、形容詞などがきっちり発音される一方、冠詞、前置詞、助動詞、BE動詞などはいちいち発音されないという、話し手が従っているルールを知らないとリスニングは上達しません。そのあたりに関心のあるかたは、 リスニング能力を身につけるための基礎知識をご覧ください。
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Comments
再度コメントさせていただきます。
こちらのページを私のブログに勝手にリンクをさせていただきました。
ご報告ということでよろしくお願いします。
[返信]
どうぞ、どうぞ。なお事務連絡的なものなので、このコメントはしばらくしたら削除させていただきます。
- TOEIC最強の学習法 森泉晃
- 2006年9月20日 18:19
こんにちは、ランキングサイトからやってまいりました。
私はコミュニケーションにおいてのリスニングの割合はもっと高いものだと聞いたことがありますし、自分自身でもそのように感じています。
ただ、残念ながら現在の学校教育ではほとんどリスニングが重要視されていないような気がします。
リスニングをただのテストやTOEIC対策のためのオマケ程度にしか思っていない人も多いと思います。
英語を身につけたければまずはリスニングありきですよね。
[返信]
ごもっともです。アメリカ人の5人に1人が読み書きができないのに英語を使って生活していること自体、リスニングとスピーキングが英語の本体であることをよく物語っていると思います。
- TOEIC最強の学習法 森泉晃
- 2006年9月20日 14:12

いつも興味深い情報をありがとうございます。
「読み書きは何とかなるんですが、話す方が駄目でね」・・・についての特集をぜひぜひお願い致します。