2006年10月13日
(下)言うとやったことになる performative verbs の世界
★ ケースバイケースの performative verb
一方、上で紹介したような例に当たるからと言って、常に performative verb とされるわけでもありません。例えば、apologize という動詞について言えば、第一に、上で「一人称の現在形、しかも能動態で使うときのみ」 perform できるのですから、They apologized for their mistake.(彼らは自分たちのミスにつき詫びを入れた)という例では、performative verb として使われているとは言えません。第二に、コンテクストが違う場合も、その動詞を口にしたからと言って、perform することにはなりません。例えば、「締め切りに間に合わなかったときはどうしているの」という質問に対して、I apologize.(いつも謝っています)と答えるような場合は、なるほど apologize という動詞は使っていますが、自分はいつも謝ることにしているんだという客観的行為の描写として言っているわけですから、これは明らかに話が違います。
では、逆に、performative verb に属するとされているものにつき、明らかにその本来の用法にしたがって、その動詞を口にすることで、do し、perform しているのだと認められるのはどういう場合でしょうか。これは hereby (ここに)を付けてみて意味が通れば、performative だとされます。例えば、上の、謝る例で言えば、自分の失敗につき詫びを入れているケースでは、
I apologize for the mishap. → I hereby apologize for the mishap. → OK
ということで、performative verb だと認められます。
ところが、「締め切りに間に合わなかったときはどうしているの?」という質問に対して、I apologize.(いつも謝っています)と答える場合を考えると、
I hereby apologize.(私はここに謝罪の意を表します) → ???
ということになりますから、ここでは hereby がなじまず、これは performative verb としての用法ではないという結論になります。
考えてみれば、動詞 sentence (刑を宣告する)も同じです。
I sentence you to death by hanging.(絞首刑に処する)
では、I hereby sentence you to death by hanging. と言えますから、performative verb です。これに対して、
The Court sentenced her to death by a firing squad.(裁判所は彼女を銃殺刑に処した)
では、「裁判所がここに彼女を銃殺刑に処した」という言い方は通らないという意味で、The Court hereby sentenced... と言えませんから、この場合は、同じ sentence なのに、performative ではありません。加えて、改めて3人称やら過去形では perform できないことを印象づけられます。
実際、前項で紹介した performative verb の例はどれについても hereby を入れることができます。例えば、I christen this ship Shirokane Maru.(この船を白金丸と名づけます) は、I hereby christen this ship Shirokane Maru.とすることができ、その場合は、「私はここに本船を白金丸と命名する」といった重々しい感じになります。
もう一つ、コンテクストで違う例を挙げておきます。動詞の swear (汚い言葉を吐くという意味と誓うという意味がある動詞)です。「汚い言葉を吐く」という意味の swear は performative verb ではありません。インバイだのバイタだのアバズレだのとひどいことを言う奴に対して Why do you swear at me like that?(どうしてそんな、ひどいことを言うの)という言い方はできても、逆に自分の方から、"I swear at you!" と相手に向かって言ったところで、それはまさに「私はおまえに向かって口汚くののしっているのだ」と言っているに等しく、大笑いです。ところが、同じ動詞 swear を「誓う」という意味で使うときは、こんなふうに perform することができます。
I swear to God I have never ever cheated on you.(神かけて一度たりとも浮気をしたことがないことを誓います)
おわかりのとおり、そこで swear という動詞を口に出して言うことが「誓う」という行為の実行になっているわけで、さきほどの I swear at you. とはまるで話が違います。
★ まとめ
英語の動詞の一部には、その動詞を口にすることが即ちその動詞の表す行為を実行することになるという、言霊(ことだま)の世界を思わせる動詞があり、そういった動詞が用いられる場面では、相手に面と向かって「呪ってやるう〜」と言うような気迫が感じられることにもなります。
普通、英語では相手に文句があるときでも、礼節の問題として、なるべく you を直接批判の対象にせず、「your 何とか」という具合に相手の行為を対象とする傾向がありますが、それだけに事態がその段階から進んで、攻撃の矛先が you になり、おまけに performative verb が使われる域に達するとむき出しの感情がぶつけられる感じになります。例えば、「深く恨む」という意味の resent で言えば、それを言うこと自体が深く恨むということの実行行為ですから、それはそれはすごい迫力が生じます。仮に、私が希代の女たらしだしとして、女性に、I resent you for ruining my life.(私の人生を滅茶滅茶にしたことにつきあなたを深く恨みます=人の人生台無しにして、絶対許さないからね)などと言われたら寝込んでしまうだろうと思えるぐらいの、それほどの迫力が感じられます。
実は大昔にイギリスの新聞、Financial Times に、どこかの会社とケンカしているらしい人々による We resent...で始まる抗議文が掲載されているのを読み、そのど迫力に圧倒されたという経験があります。いつかあんな文章で人をふるえあがらせてみたいと思いたくなるような、実にあっぱれな一文でした。しかし、あれは何だったのかと今でも気になります。
それはともかく、日本語の場合、こと感情がらみのものでは、こういう performative verb で強いものがあまりないような気がします(しっかり調べたわけではないので、とりあえずの結論です)。「呪ってやるう〜」というのも考えてみれば、神頼みというか他力本願的なセリフで、それを口にすると「呪う」という行為が実行されるとは言えません。帰宅後五寸釘を取り出して、夜中にどこぞの神社へと出かけるといった手順が必要となります。そこで、とりあえず、口にすることが do することであるものを考えると、「うらめしや〜」でしょうか。しかし、こんなことを言われてもこわくはありません。肉を食べる人々と米を食べる人との違いでしょうか、日本語と英語とはやはりどこか根本的なところが違います。
いずれにしろ performative verbs につき、自分なりにまとめてしまうと、condemn と言い、resent と言い、よそゆきと言うのか格好をつけて使うたぐいの動詞の中には、それを口にすると実行したことに等しく、そのゆえに一種独特の迫力が伴うものがあり、特に resent のように話し手の感情を伝える動詞の場合はなおのことそういう傾向があるということです。
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そういえば、と忘れては思い出し、またしばらくして、思い出し、そんなことを繰り返しながら、こちらのブログを拝見させていただいています。気に入ると、プリントアウトしたりしてるので、いっそのこと、本になってくれるとありがたいです。
今回のherebyの法則は、とてもわかりやすく、納得させられました。
次回も楽しみにしています。
[返信]
ありがとうございます。
プリントアウトしてくださるとなると、誤植が急に心配になります。しかし、そんなふうに熱心に読んでくださり、光栄です。
出版の話は現れては消えということが続いています。編集サイドはRINDAさんのように内容を評価してくださるのですが、営業サイドに回った段階で日向程度の知名度じゃ本にしても売れないんじゃないと却下されてしまうようです。
- RINDA
- 2006年10月15日 08:13
あのー、これってビギナー用なのですか?Performative verbなんて学校で習いませんでしたよ。でも、大学で英文科に進めばきっと教わったのでしょうね。
私は英語漬けの海外生活が長くなってきたので、perfomative verbsのニュアンスは自然とつかんでいましたが、改めて日向さんの説明を読んでみて、なるほど、と思いました。あまり衝突することを好まない日本社会では、確かにおどろどろしい動詞は少ないですね。学生運動で良く使われた「粉砕!」「糾弾!」「断罪」などというのはどうでしょうか?ん?これってperformative verbですか?
[返信]
「落とし穴シリーズ」と銘打っているシリーズ並びに敢えて「ビギナー向け」と断っていない記事については、読者のみなさんも当然「フツー」の記事と受け止めてくださると思い込んでいました。しかし、言われてみて気付きましたが、何も断らないと、このところ続いているビギナー向けの一つかと誤解してしまうのも無理もありません。最初のところに断り書きを入れるようにします。うかつでした。申し訳ありません。
- yumi
- 2006年10月13日 17:28
performative verbsを日本語にするときは、時制が難しいと思ってしまいます。
昔、apologize という動詞の訳で、実際謝ってることになっているのか、謝る予告なので、謝っていないのかと、考えこんだ文がありました。
やっぱり「言うとやったことになる」ということだったのですね。
すっとしました。
ちなみに、昨日の「どじょうすくい」は妙ににウケました。
あれはおねーさんより効果があると思います。(笑)
[返信]
これまでのアニメーションはいちおう「お願い」「お礼」の気持ちを表すつもりで入れていたのですが、投票率3倍増をもたらしたおねーさん以来、タガがはずれてしまいました。自分でもなんで「どじょうすくい」なのと思いながらも、何かほのぼのした感じなので、いいかっということです。書いていることは結構まじめなんですけれどねえ。
- la_barmaid
- 2006年10月13日 07:32

いつも勉強させていただいております。
performative verbの話はありがたく読みました。
私、最近ですが、新聞英語の拾い読みの形でブログを書き始めました。
恐縮至極ではありますが、上記URLに相互リンクをいただけますと光栄に存じます。
[返信]
コメントありがとうございます。リンクの件、承知しました。