2006年10月12日
(上)言うとやったことになる performative verbs の世界
このところビギナー向けの記事が続いているので、趣きをちょっと変えたいと思います。中・上級レベルのかたにも楽しんでいただける話です(←この一節は、コメントしてくださった yumi さんという方に「あのー、これってビギナー用なのですか?」と怒られてしまったので、後からあわてて付け加えました)。
北朝鮮政府による核実験を実施したという発表を受け、ブッシュ大頭領は、10月9日に声明を発表し、それが事実かの確認作業を進めているとした上で、核実験をしたと言っていること自体が国際平和と安全保障への脅威だと指摘し、The United States condemns this provocative act. と続けました。(声明のテキストと、大頭領が声明を発表しているビデオは ホワイトハウスのウェブサイトで見られます)
この The United States condemns this provocative act. というくだりは、訳せば、「アメリカ合衆国はこの挑発的行為を非難する」となり、主語が3人称であることも手伝って、日本語として聞くと客観的と言うのか、醒めた感じでものを言っているようにも聞こえます。しかし、英語として聞くと、一種独特のきつさがあります。
一つには、元々 condemn 自体が、strongly disapprove of something (何かに対してそれはイカンのだという気持ちを強く持つ)という意味であることに加え、それが morally wrong (道理に反しているがゆえに間違っている)という感覚に根ざしていることがあります。他は、ここで使われている condemn という動詞が、performative verbs (「遂行動詞」と訳されるようです)と称されるものであることに由来するというのが私の理解です。
この performative verb というのは、名前からわかるとおり、perform する動詞であり、その動詞がXという行為を表しているなら、その動詞を口にすること自体がXをすることになるという独特のもので、みずから perform する動詞であるがため、他の動詞と比べ、何かパワフルなイメージがあるのです。
きょうはそんな performative verbs という、マイナーながらなかなか味わい深い動詞の仲間をご紹介したいと思います。
★ それを言うと perform することになる動詞
わかりにくいでしょうから、実例をいくつか見てください。
神父さんが結婚式で神に代わって「ここに汝らを夫婦とする」という趣旨の宣言をしますが、あれは、英語では
I now pronounce you husband and wife.
と言います。ここで使われている pronounce という動詞を口にすること自体が教会法上の夫婦としての認証になります。The priest married the couple. (神父は2人の婚姻の儀を行った)での動詞 marry のように、何が行われたかを描写しているのではなく、この動詞 pronounce は、それを口にすること自体が認証の実行行為であり、pronounce という言葉を発した途端に教会法上、夫婦が誕生するという効力が生じます。
このように、performative verbs と称されるものを使うと、そのこと自体があることを do する、perform することになるのであり、この点、I read two books a day. と言ったところで、それにより読書が行われてしまうことにはならない他の動詞と対照的です。
ところで、この performative と称される動詞には、いわば使用上の制限があり、一人称の現在形、しかも能動態で使うときのみ、perform でき、At noon, they were pronounced man and wife.(正午に婚姻の儀が済んだ)という受動態では make it happen という独特の作用が働きません。不思議な動詞です。この点、冒頭の例はどうなのかと言えば、改まった言い方のときは、普通は1人称を使うケースでも3人称を使うという形式上のことで、実質的には We と言っているに等しいので、The United States condemns と述べているようなケースも、やはり performative verb なのだと見て問題はないというのが私の理解です。
ここでざっと、この performative verb に当たるとされている例を挙げてみましょう。いずれもその言葉を口にした途端にその動詞が表す作用・行為があったとみなされるものばかりです。しかも、(ちょっと情緒的になってしまいますが)それを言うこと即ちやることというのが本質であることから、いったん言ってしまったらすべて振り切られるかのごとき潔さと、何か有無を言わさぬ迫力を兼ね備えています。
I advise you not to do business with them.(彼らとは取引なさらないことをお勧めします)
I agree to your proposal.(ご提案に同意します)
I apologize for the mishap.(このたびの手違いにつきお詫び申しあげます)
I must ask you to leave now.(ただちに退去されたい)
I bid you farewell.(私は別れのことばを君に送る=古めかしい言い方での、さようなら)
I challenge the assumptions on which his arguments are based.(彼の議論の前提が妥当であるかを問いたい)
I claim this land in the name of the Emperor of Japan.(日本国天皇陛下の名において、この地が日本国に帰属することを宣言する)
I christen this ship Shirokane Maru.(この船を白金丸と名づけます)
I congratulate you on your fine work.(すばらしいお仕事を讃えたいと存じます)
I declare this meeting closed.(本会議の終了を宣します)
I defy you to prove otherwise.(そうでないと証明できるものならやってみろ)
You're fired!(クビだ!)
I guarantee the accuracy of this information.(この情報が正確であることを請け合おう)
I offer my gratitude to you all who made my stay here in Geneva as pleasant as possible.(ジュネーブでの滞在を快適なものにしてくださったみなさん全員に私の感謝の気持ちをお伝えします)
We promise to meet your requirements with due care.(しかるべき注意を払いながら御社の求める条件をみたすことを約束します)
Effective four weeks from the date of this letter, I resign my position as Vice President for Marketing.(この書面の日付より4週間後にマーケティング担当ヴァイスプレジデントの職を辞させていただきます)
I request your permission to use the material specified below in my forthcoming book.(出版予定の本の中で以下記載の資料を利用するご許可を頂戴したく、お願い申し上げます)
I thank you for your kind attention.(ご清聴ありがとうございます)
I vow my everlasting love to you.(君に変わらぬ愛を誓うよ)
I'm warning you, don't ever doze off in class.(これは警告だぞ=よく聞いとけ、二度と授業中に居眠りするなよ)
[つづく]
田
田
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Comments
いつも楽しく拝読しています。英語を使った仕事をしておりますが、先日コメントされた方もいらしたように、ビギナー向けの読み物にも学ぶことが多く、しかも失敗を防ぐ方法まで具体的に教えていただけて、とても勉強になっています。
今日取り上げられたような動詞のことは、なんとなく感覚としてあったものの、恥ずかしながらきちんと知らなかったので、いつもに増して大変勉強になりました。確かに「味わい深い」ですね!
続きを拝読して、自分でも勉強してみようと思います。次回が楽しみです!
[返信]
コメントありがとうございます。英語を使った仕事をしてらっしゃる方に「味わって」いただけて何よりです。英語の知識が深まるほどに仕事の内容自体が退屈なときでも何かしら救いを見いだせるようになりますから、ベテラン組のためにもこの手の記事も心がけるようにいたします。どうぞよろしくお願いします。
- Pepper & Saffron
- 2006年10月13日 03:08

どうもありがとうございました。本日の(下)もまた大変勉強になりました。
実は昨日、コメントしそびれたのですが、今日、la-barmaidさんがコメントされていたように、ブログランキングの「どじょうすくい」、大ウケでした! まじめな内容だからこそ、最後に力が抜けて、思わずにやりとしてしまいました。
いつもコメントしたかったものの、ちょっと気後れしていた私の背中をぐぐっと押してくれました!これからも楽しみにしています。
[返信]
「どじょうすくい」は、一票いれてくださいというお願い路線でもないし、ありがとうございますというお礼路線でもなく、純然たるエンターテイメントなので心配でしたが、これで自信がつきました。読者の方々が喜んでくださればけっこう。新たに仕入れたものを投入して行きます。