2006年10月31日
(下)英語は「ウーン・パッ」「ウーン・パッ」で話す
★ 普通の会話での「ウーン・パッ」「ウーン・パッ」
be208の空港でのあいさつに出て来る、次の一文で発音の基本を確認してみましょう。相手に紹介する際に、同僚が製造部門に属している人だとコメントする言い方です。
She's on the production side.
以下のとおり stressed syllable を抜き出すと、「ウーン」「パッ」「ウーン」パッ」と、2拍で言うセンテンスであることがわかります。
She's on the production side.
"She's on the pro" が「ウーン」の谷にあり、"duc"という強音節のところで「パッ」とビートが入り、"tion" が「ウーン」の谷に沈み、さいごに二つ目のビートつまり「パッ」が "side" の "si" のところに来るという格好です。
ところが英語の発音ないしスピーキングに慣れていないと、以下のとおり11音節あるセンテンスと扱われ、しかも、強弱をつけることなく、すべての音節を平等に扱うので、ドンの11連打になります。
シー ズ オン ザ プ ロ ダ ク ション サイ ド
しかし、上のサイトにある音声(3番の所にある英文をクリックすると音が出ます)を聴くとわかるとおり、6単語のうち、はっきりと強く発音されている言葉は、production と side の2単語だけです。しかも、production と side がそれぞれ全体として強く発音されているのではなく、以下のとおりstressed syllable(強音節) の所だけがよく聞こえるような発音です。
She's on the production side.
ビートを刻んでいるのは、こういう stressed syllable であり、他の要素は「ウーン」の谷に落ち、存在感がありませんが、それでいいのです。その種のものがいちいち聞こえるようでは、英語の発音としては失敗です。
「ウーン」「パッ」「ウーン」「パッ」という2拍のビートに乗せながら、duc と si の所だけ相手に聞こえればいいぐらいの気持ちで発音しています。逆に言うと、she's や on や the に力を入れてはいけません。こういったものに気を取られるとビートに乗り遅れてしまうからです。
なお、この例からわかるとおり、出だしの人称代名詞やBE動詞の所にビートが来ることはありません。さらっと流して、そのセンテンスでの最初の「パッ」(ここでは production の duc)の所まで「ためる」感じになります。
★ スピーチでの「ウーン・パッ」
ウィンストン・チャーチルがヒトラーなんかに負けるものかとイギリス国民を鼓舞した有名な演説があります。BBCのサイトにその一節が "We shall fight on the beaches', 4 June 1940として載っていますので、音声を聴いてみてください。
この一節につき、「ウーン・パッ」での「パッ」が来る、つまりビートが来る stressed syllable を下線で示すとこうなります。(下線のない部分を軽くサラサラッと流しつつ、そして、指で机をたたいて一定間隔のビートを刻みながら、下線部の所だけ声を大きくして読むと英語本来のリズムないしビートを「体感」できます)
We shall go on to the end, we shall fight in France, we shall fight on the seas and oceans, we shall fight with growing confidence and growing strength in the air, we shall defend our Island, whatever the cost may be, we shall fight on the beaches, we shall fight on the landing grounds, we shall fight in the fields and in the streets, we shall fight in the hills; we shall never surrender.
われわれは最終段階を迎え、フランスで戦い、海戦と陸上戦に臨むと共に、自信を深めながら、そして戦力も向上させながら空での戦いに臨み、あらゆる犠牲を払って祖国を防衛するつもりだ。海岸で戦い、上陸作戦で戦い、平原や街頭で戦い、山の中でも戦うのであり、決して降伏することはない。
これなど、一定間隔でビートが刻まれる、「ウーン・パッ」「ウーン・パッ」のリズムに乗って言葉が押し寄せ、聞き手の気持ちを高める作りになっているからこそ、名演説として伝わっているわけで、「ウーン・パッ」「ウーン・パッ」あっての英語なのだと感じ取っていただけるかと思います。
★ スピーキングの基本を支える理屈
ところで、以上の説明を理屈の角度から眺め直した場合、英語のスピーキングを身につける上で大事なのは2点です。
第一に、英語のセンテンスは、メッセージの本体を構成する content word (内容語)と structure word (機能語) とに分けられ、ビートを刻むのは content word だけ、しかも、正確には、個々の content word の中の stressed syllable (アクセントないし stress が置かれる音節)の部分ということです。英語は stressed syllable でビートを刻む言葉なのです。
前項の She's on the production side. で言えば、content word は、production と side の二つだけです。このように content word を務め、したがって、stressed syllable を担いうるのは、名詞、動詞(助動詞としての Be, Have, Do や述語動詞としての Be 動詞は入りません)、形容詞、副詞、そして否定の NOT を含む単語(否定のNOTを含むときは Don't などは強く発音するということです)です。
これに対して、structure word に当たるのは、冠詞、前置詞、助動詞、人称代名詞、接続詞などであり、こうしたものは、ビートを刻む 「パッ」に続く「ンの谷」に一括して放り込まれ、軽く流す感じとなります。
この点、ビギナーの方は、普通、強く発音されることのない、人称代名詞や助動詞まで思いっきり強く発音しがちなので気をつける必要があります。例えば、レストランやホテルの予約をする際に使う、I would like to make a reservation. などは、
I would like to make a reservation.
という具合に、赤で示した stressed syllable を「ウーン・パッ」「ウーン・パッ」「ウーン・パッ」という3拍のビートに乗せて言うセンテンスです。したがって、張り切りすぎて、人称代名詞や助動詞のところで声を張り上げて
I WOULD LIKE TO make a reservation.
とすると、英語らしい響きがなくなり、通じにくくなります。大事なところを響かせるのが英語のルールだというのに、従たる部分である、I would が強調される結果、"make a reservation" という肝心の部分の陰がうすくなってしまうからです。
第二に、ビートを刻む stressed syllable どうしのスペースは常に同じでなければなりません。ですから、前回の One, Two, Three, Four を使った練習で示したとおり、間に 'n という音が一つ入ろうと、'nnana と音が二つ入ろうと、ビート自体はそれに影響されることなく、つまりピッチを乱されることなく、「ウーン・パッ」「ウーン・パッ」と続きます。
この「ビートは一定ピッチで刻む」というルールはスピーキングにおいて最優先されるので、ときには、そのピッチに合わない content word がすっ飛ばされることもあるぐらいです。1拍目、2拍目と来て、3拍目に content word が二つあったら、二つを同時に言うわけには行きませんから、話し手はどちらかを選ばなければなりません。
例えば、three key factors という単語が来た場合、どれも content word に当たるわけで、どこにビートを刻む stress を持って来るかは、三つが大事なのか、鍵を握っているという点が大事なのか、それともそれが要因だと言いたいのかで違ってきます。デフォルトは、形容詞+名詞では名詞の方が大事というルールに従って、factors です。
★ まとめ
一個一個の音節を平等に扱い、7音節なら7拍で言う日本語と対照的に、英語は、強く発音する音節(=「パッ」が来る所)とその陰に隠れてしまう音節(=「ウーンの谷」)との区別があり、同じ7音節でも、音節相互間で、どれを強く発音し、どれが陰に隠れてしまうのかという序列がはっきりしています。
われわれが意思疎通のために交わすセンテンスは、メッセージの主要部分であり、それを除いたら意味が通らなくなってしまう単語、つまり content word(内容語)と、裏方に当たる structure word (機能語)とに分けられ、一段と強く発音する stressed syllable は content word のみに置かれます。structure word を声を張り上げて強調するのは普通ではありません。(内容語と機能語は、各々 lexical word と grammatical word とも呼ばれています)
また、ビートを刻む stressed syllable どうしのスペースは常に一定であり、間に単語が、あるいは音がいくつ入ろうと変わることがありません。いや、変えてはいけません。One, Two... One and a Two and a という練習を思い出してください。
各音節を平板に言うのでなく、(1)強弱があり、しかも(2)強音節から次の強音節が一定間隔で刻まれるというパターンはまさに英語らしさを特徴づけるものであり、赤ん坊を使った実験でも、日本人が話すジャパニーズ・イングリッシュだと、英語と認識されないことが知られているぐらいです。
一方、こうした英語らしく発音する練習は、リスニングの向上にも結びつきます。相手は一所懸命、一番伝えたい部分で声を強くしながらメッセージを伝えようとしているのですから、聞き手も当然、そこに注意を向けなければならないわけで、こういった理屈を意識せず、ともかく聞こえて来るものをすべて聴き取ろうということ自体、無理があります。
結局、意味のわからない単語は何度聞いてもわかるはずもありませんから、単語力があることは当然の前提条件ですが、リスニング力の強化という見地からは、個々の単語のどこに stressed syllable が来るのか、また、そういった単語が他の単語とつながったときに、どういう感じで聞こえるのかを繰り返し経験ないし練習する必要があると考えます。具体的には、テキストを目で追いながら音声を聴くに当たり、stressed syllable の上にアクセントを振っていきます。また、上級者は、ナレーターがどこで息を留めているのかをチェックし、▽ を入れていくと、英語らしいスピーキングのコツがわかってくるはずです。
何であれ、日本人の英語能力をめぐる論議を聞いていると、英語がどう話される言葉なのかという基本的な問題をすっ飛ばしての高尚な話が多すぎるような気がします。今回取りあげた、英語がどういう響きの言語なのか、言ってみれば、the music of English がどうなっているかという問題は、まさに英語の本質だと思います。

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Comments
非常に有益なお話ですので、出所と著者名を明らかにして、高校の生徒達にも配布させて頂きます。
[返信]
有意義なご利用は大歓迎です。もっとこういったことをまとめた本があればいいのですが。音楽のわかる学生には、One, two, three, four. One and two and three and four. One E and ah two E and ah three E and ah four. がなぜか受けます。お試しください。
- eichan
- 2006年11月 7日 11:16

貴重な理論をありがとうございます。当方も目からうろこのかんじです。
1. Mcdonaldo'sをミッダーナー
単語の世界でもStressed Syllable があるようでして、こちらではマクドナルドの事がミッ.ダー.ナーと聞こえます。これは子音の発音の問題もありますが、本エントリーの理論で行くと、このStressがアメリカ人にこう発音させるのでしょうね。
当方の名前もアメリカ人からは、いちろうの四音節ではなく、イッチ.ローと二音節で呼ばれています。
当方は長い間、SophisticatedやPuerto Rican(職場にプエルトリコ出身者がいます)の発音が苦手でしたが、本理論にしたがってStressed syllable(因みにこれも、レスツ、シラ.が強調される二音節ですね)をつければ、楽に発音できます。
2. That is all you need.
関係代名詞も、簡単な話言葉の構文でよく使われます。上記のThat is all you need.やThis is what I said you.などです。これもリズム(因みにこれもRhythm=リ.ズムの二音節ですね)がついて、音節が強調しやすくなりますね。これらは日本人英語の音節のくびきを引きずるとギクシャクしてなかなか使えませんが、本理論を適用すると使いやすくなりますね。
3. 日本人英語の特徴
アメリカで観察すると、少し喋れる日本人でも、
①現在形をリズムが合わないからか進行形にする。即ち”I try investigating it.”を多音節になりリズムが合わないからか、”I am trying investigating it.”としがち。
②これもリズムが合わないからか(最近の日本語の特徴からか)、語尾上げ英語になる。
という特徴があります。これも本エントリーのStressed syllableが不足するゆえの陥穽と位置づければ説明がつきます。
[返信]
有益なコメントありがとうございます。
「日本人英語の特徴」は考えさせられましたが、これも、「いちろう」さんの表記法に表れているとおり、思い切り要らない部分を捨てるのが英語の発音の特徴なのに、そこまで行けないためなのではないでしょうか。
ところで「いちろう」さんのブログ拝見しました。英語学習者のセンスアップに直結する話題ばかりで、やはり現地に住んでいるならではのダイナミズムを感じます。