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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2006年11月 9日

JALの中間決算に見る特別利益という日本的なもの

JALが9月中間決算 (results for the half-year ending September) で、なりふりかまわぬ決算対策の末何とか赤字転落を免れ、2年ぶりに黒字転換したことが話題になっています。

11月9日付けの朝日新聞は経済面で大きなスペースを割いてこの件を報じていますが、そこでは大小の見出しがこんな感じで並んでいます。

体面確保へ益出し
JAL、株売却で黒字
「信頼失う」危機感強く

ここで言う「益出し」というのは、実際に今回 JAL がやったように利益をふくらますため、保有株その他の資産を売却することで、要するに損益計算書の最終行に来る最終損益ないし純利益の数字を押し上げるための操作ですから、英語では、asset sale to boost the bottom line と言ったりします。あと、ちょっと似ている言葉ですが、最終利益をかさ上げするようなことは、他に profit padding と言ったりもします。いかにもテキトーに厚みをつける感じが出ていて、気に入っています。この表現。

それはともかく、この記事を読んで思ったのは、わが国を代表する企業であるはずなのに、いまだに日本特有の特別利益にすがって、取り繕っているんだということです。国際会計基準が仮に国内でそのまま通用していたら、株の売却益など特別利益として計上すること自体認められないわけで、いわば日本特有の会計基準のおかげで助かっている格好なのです。

そこで、今回は、損益計算書のおさらいを兼ねて、この問題を取りあげてみようと思います。

まずJAL の中間決算はこうなっています。(中間決算 half-year results というのは、年度末の本決算に先立ち、投資家などに向け中間報告をするために行われるものを言います)

 
売上高 Operating Revenue  1兆1500億円
営業利益 Operating Profit  81億円
経常利益 Pretax Profit  53億円
当期利益 Net Profit  15億円

⇒ 「売上高」というのは事業活動の結果入って来た運賃収入などの数字です。朝日新聞は、一般読者向けにわかりやすくという配慮からか、「売上高」と言っていますが、通常、金融機関その他物販業でない業種は「収益」という言い方をし、現に、日本航空のプレスリリースでは、この部分は「営業収益」となっています。なお損益計算書の最初の行に来るので、英語では、top line という俗語もあります。

⇒ 「営業利益」は航空燃料などの営業費用を営業収益から差し引いて求まる金額です。一般に、企業の本業での儲けを見る時に使うのはここの数字です。

⇒ 「経常利益」は「営業利益」に支払利息や受取利息・配当金などを加減して求める金額です。英訳としては、recurring profit なども見ますが、pretax profit とするのが通りがいいと思います。というのは、「経常利益」に今回のJAL のような特別利益または特別損失を加減したものが税引前当期利益で、さらにこの「税引前当期利益」から税金を引いたものが「当期利益」になるわけですが、一般に特別損益のない限り経常損益イコール税引前利益と言えるからです。

⇒  「当期利益」は「純利益」とも言われ、その期間の結論です。ですから、英語では、最終行にあることから、bottom line という通称があるぐらいです。正式には、net income, net profit/net profits, net earnings の三通りの言い方がありますが、JAL の英文プレスリリースは net income と言っています。

☞  損益計算書に出て来る英語については、以前、こんな記事を書いています。よろしかったら、ご覧ください。 損益計算書を流し読みする


★ 特別利益という日本的なもの

朝日新聞の記事には、日本航空は「中間決算の赤字は免れないとみられていたが、株式売却で90億円、資産売却で13億円など、計127億円の特別利益を計上し、当期黒字を確保した」とあります。

ところで、この「特別利益」、Reuters や The Wall Street Journal は special profit と形容しています。例えば WSJ は、9日付のオンライン版で、

JAL booked a special profit of 12.77 billion yen, partly through sales of stockholdings.

という言い方をしています。ただ、会計の専門家たちはきわめて例外的なものという感覚からか、この種の特別損益項目を extraordinary items と称しています。

いずれにしろ、ここで言う「特別」とは通常の事業活動上生ずるものではないということであり、だからこそ誤解を避けるため、損益計算書上も一つの独立した項目として扱うわけですが、より根本的な問題はそもそも何をもって「特別」とするかです。

この点、わが国の会計基準は甘く、今回の JAL の保有株売却のような固定資産売却益も「特別利益」にカウントします。「甘い」というのは、国際会計基準審議会(IASB)が取りまとめている国際財務報告基準(IFRS=International Financial Reporting Standards)では、事業活動上、まさに例外的なものしか「特別損益」として計上することを認めていないからです。

白鳥栄一著『国際会計基準 なぜ、日本の企業会計はダメなのか』(日経BP、1998年)によると、「国際会計基準では、事業活動のうち、本当に例外的に起こり、しかも異常と思える経済事象しか特別損益(国際会計基準では異常損益と呼ぶ)として扱わない」のです。

これは帰するところ、発想の違いということのようで、この本は、「日本では事業活動を主たるものと従たるものとに分け、前者の取引は経常損益に、後者は特別損益として処理する。国際会計基準では、事業活動を主従に分ける考えはなく、従たる事業活動による損益を特別損益にすることはない」と指摘しています。

つまり国際会計基準というグローバルスタンダードに照らして言えば、今回のJALのように赤字を免れたいがために保有株を売却して、特別利益として計上するがごときはありうべからざることなのです。しかし、幸い、わが国の会計基準がこの種の特別利益を認めているおかげで、JALは何とか黒字決算を達成できました。

ところで、おもしろいのは、経営者の感覚です。投資家の評価が下がるのを、つまり株価が下がるのを恐れて、朝日のような一般紙までもが大々的に取りあげる変な決算をするぐらいですから、投資家を大事にしているようにも見えます。しかし、JAL は先頃、増資のことなどおくびにも出さないまま株主総会を乗り切ったところで、大型増資に踏切り、投資家たちからごうごうたる非難を浴びていたのですから、どうもやることのわからない会社です。






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Comments

現行のIAS1号「財務諸表の表示」パラグラフ85では、次のように規定しています。

85. An entity shall not present any items of income and expense as extraordinary items, either on the face of the income statement or in the notes.

これにより、米国会計基準と一致したものとなっています。

ただし特別損益に類似したものに、重要な事業部等を譲渡した場合は、その事業部の譲渡損益や非継続事業の損益を継続事業とは区分して別途表示する必要があります。

今後「包括利益」の検討もされています。時代とともに会計は進化しますので注目しておく必要があります。

[返信]

ありがとうございます。学習者向けのブログなのに専門家とおぼしき方に投稿していただき、恐縮しております。

株式投資の際、PER(株価収益率)だけで判断するとこのような特別利益損失を含むのでだまされますね。私は、経常利益に60%(実行法人税40%マイナスした値)をかけた値を当期利益とみなして、その額と時価総額の比較で株価を判断しています。そうすれば、あまり大きなブレはありません。

[返信]

なるほど。投資家ならではご苦労があるんですね。しかし、簡便な方法があるものです。

国際会計基準においても、特別利益としては計上されなくても収益(利益)としては当然カウントされるので、結局最終利益としては基本的にイコールではないのですか?

[返信]

私の知る限りでは、国際会計基準を採択しているEU諸国などでは、この種の特別な利益は事業活動上反復継続されるものではない nonrecurring item として常に別枠で処理され、したがって、一株あたり利益の計算からも除外されているはずです。大きな意味では損益収支の一部であり、その意味では最終利益に入るのでしょうが、実際上は最終利益にカウントされていないというのが私の理解です。

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