2006年11月28日
三角合併騒動に見るわが国の国際化の度合い
来年の5月から外国企業が日本企業を買収しようという場合に、ねらいを定めた企業の株主に対価として自社株を交付して、自社の日本子会社と合併させるということができるようになります。親会社、その子会社、そして被買収企業の三者が当事者として登場することから「三角合併」(triangular merger) と呼ばれています。
この三角合併、実は今年の5月に施行された新会社法に盛り込まれている制度なのですが、主として経済界からの抵抗が強く、実施が来年の5月に先送りされたといういわくつきの制度です。それが実施時期が近づくにつれ、往生際が悪いというのか、経団連が大反対。ところが、経済同友会は賛成。財界をまっぷたつに割る大騒ぎになっています。こうしたなか、規制論の一つに、外国会社が上場企業でない場合は、買収される会社での合併承認決議は、条件の厳しい「特殊決議」にしろなんてのも登場しているぐらいです。そしてふらつく政府を見て、アメリカや EU が変な規制をするなとおおいに牽制しており、いよいよもって、にぎやかなことになっています。
そこで、今回は、三角合併がどういうものかをざっと見てから、「防衛策」として「特別決議」とか「特殊決議」ということが論じられているので、ついでに、会社が決議をする際の三つのタイプ、つまり「普通決議」「特別決議」そして「特殊決議」を見ておこうと思います。
★ 三角合併のゴリヤク
外国企業が日本国内に設立した子会社を通じて日本企業を買収する「三角合併」では、買収しようという外国企業が被買収企業の株式を取得するに当たり、その対価として自社株式を交付するというのですから、現金を交付しての合併ではなく、株式交換による合併ということになります。
この方式による合併が外国企業にとり都合がいいのは、何と言っても、現金を持ち出す必要がないことです。しかも、自社の時価総額(株価に発行株数をかけた求める企業価値)の大きい会社であればあるほど、自社株の「購買力」も大きくなるので、おのずと割安に日本企業を買えるところに妙味があります。
こういう話のときによく引き合いに出されますが、例えば、国内最大手の武田薬品でさえ時価総額で見ると、世界最大手のファイザーの1/3 ぐらいでしかなく、したがって、わが国の大手企業も時価総額というものさしで見ると、グローバル市場の中では中小企業でしかなく、買いやすかったりするのです。
しかも、わが国の医薬市場は、高齢化が進み、需要が拡大する一途であるなか、塩野義製薬の高脂血症治療薬、エーザイの認知症治療薬という具合に売れるに決まっている商品を持っている優良企業がいくつもあり、こういったビジネスチャンスを外資が放っておくはずがありません。
朝日新聞が黒船来襲かといった社説を出していましたが、三角合併の解禁は財界にとっては、一大脅威と映っているようです。
しかし、よくわからないのは、被買収企業の株主総会での承認決議を厳しくして対抗すべしといった論議が見られ、まるで乗っ取り防止策の話をしているかのような風潮があることです。
被買収企業での承認決議の対象となるのは対価こそ普通と異なり、現金ではなく、株式ですが、合併契約であることに変わりはなく、その合併契約が両当事者の意思の合致により締結されるものであるからには、一方当事者が拒んでいるのに無理矢理合併しようという TOB などによる乗っ取りとはまるで違うはずです。
要するに三角合併はいわゆる会社の乗っ取りとは異なり、被買収企業の同意を前提に進められるのですから、なぜ経済界が反対し、さらには次に触れる防衛策をいろいろと打ち出しているのか、よくわかりません。
それはともかく、こういった「防衛策」の一つに、「特殊決議」というものが挙げられています。被買収企業の株主総会において合併への最終的賛否を決める株主総会における決議につき、要件を場合分けし、買収に乗り出している外国企業が日本国内に上場しているなら「特別決議」でいいけれど、そうでないなら「特殊決議」によるべしというのです。
被買収企業の株主たちが日本国内に上場していないような外国企業の株を渡されても、簡単には換金できないから、その分、決議の条件を厳しくして、株主保護を考えるべきだという論法のようです。
これに対しては当然、海外勢の反発も強く、在日商業会議所などは記者会見で、これまで少数株主保護など言ったことのなかった経団連がどうしてまたここでと批判しています。
★ 決議のいろいろ
日本に子会社を持っているような大手外国企業のうち、日本で上場しているような例はむしろ珍しいぐらいですから、被買収企業での承認決議の要件として、「特殊決議」としての厳格な要件を課されたら三角合併の使い勝手が一気に悪くなります(まあ、それが経団連のねらいなのでしょうが)。
そこで、わが国の株主総会の各種決議を見て行き、この「特殊決議」というものがどういうものかを確かめておこうと思います。
株主たちが株主総会決議を通じて自分たちの意思を表明しようという場合、一般的には「出席株主の」「過半数」で足ります。これが普通決議で呼ばれるもので、英語では ordinary resolution です。
付属定款 (by laws) などでの定め方としては、これが一つの典型です。
An ordinary resolution requires a majority of votes cast at a meeting where a quorum is present.(普通決議は、定足数を満たす会議での過半数による支持を要するものとする) 注:定足数というのは少数派が勝手に多数決だと言うのを防ぐため、まともに会議が開かれたと言えるために必要な最低限の人数を言います。
次に「特別決議」というのは過半数より多い数がないと可決されないとして、要件を重くしたものです。3/4 という例も見ますが、普通は、2/3 以上の多数が必要です。英語では一般に special resolution と呼ばれています。
上の規定を「特別決議」用に修正したら、こうなります。
A special resolution requires a two-third majority of votes cast at a meeting where a quorum is present.(特別決議は、定足数を満たす会議での2/3以上の多数による支持を要するものとする)
以上の「普通決議」「特別決議」の場合、議決権 (voting rights) でことが決まるのに対して、さらに、決議に所定の数を超える株主が出席していなければならないという条件を付け足すのが「特殊決議」です。私の知る限りでは、通常、特別決議と区別するために extraordinary を使って、extraordinary resolution という言い方をしています。
この手の決議につき、新会社法は「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の三分の二以上に当たる多数をもって行わなければならない」という定め方をしていますから、株主の頭数もカウントされます。となると、議決権の数としてはたった一個しか持っていない株主でも議決権で100万票持っている株主と同格です。したがって、株主数が数万人といった会社を考えればわかりますが、こういった会社で承認決議をとりまとめるというのは、気の遠くなるような大仕事です。外資企業が嫌がらせだと息巻くのも無理ありません。
特別決議の規定につき、総株主の過半数の同意を必要とする格好で要件を重くするとしたら、特殊決議を定める条項の英訳としては、こんな書き方ができます。
An extraordinary resolution requires a two-third majority of votes cast at a meeting where a quorum is present, provided that a majority of all shareholders concur therein.(特殊の決議は、定足数を満たす会議での2/3以上の多数による支持を要するものする。この場合、総株主の過半数がこれに同意していることを要するものとする)
★ さいごに
経済界を二分する大騒ぎになっている三角合併騒動、第一に、三角合併自体、先に触れたとおり、被買収企業の同意が前提となっており、敵対的買収の話ではありませんから、どうも経団連の言う「防衛策」というのがピンと来ません。
第二に、安倍政権みずから、現在、1%程度に留まっている外国企業による対内直接投資(日本向け投資額)のGDP比を2011年までに5%に引き上げるとしています。この点、2002年5月20日に産業構造審議会が発表している「対日投資を通じた経済活性化」という資料によりますと、アメリカやイギリスは30%前後、フランスに至っては54%にもなりますから、このような対外公約があるからには、アメリカやEUがこれでおさまるはずがありません。
特に EU は、2006年11月16日の EU News で、国際企業買収の規模は売上高ベースで、EUは日本の170倍、アメリカは日本の42倍と指摘していますから、市場開放を求める圧力は高まることはあっても、減ることはないと見るべきです。
開放されている市場のおかげでモノ・サービスを売ってもうけさせてもらいながら、自国の市場のことになると、相手に来るなというのはおかしな話です。加えて、日頃、グローバル企業だの国際化といった言葉を口にして勇ましい経団連が、今回のような黒船対策に汲々としているのは情けないかぎりです。
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日向先生、こんにちは。
経団連はグローバル化のいいところ取りをしたいのですか...
青く囲まれた箇所2番目は特別決議のことなのにan ordinary resolutionになっています。
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引き続き読んでくださっていることを知り、大喜びです。また、おかしな所を発見してくださり、ありがとうございまうす。直しておきます。