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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2006年12月 8日

石原都知事は悪代官なのか:4男の問題は nepotism の問題

新聞やテレビで都の文化振興事業に石原都知事の4男が関与し、公費で海外渡航したといったことが盛んに取りあげられています。これに対して石原都知事もむきになって、「違法性があるなら指摘してみろ」などと反論しています。

まず言えるのは、そもそも知事のような重要な公職にある者は後ろ指を指されるようなことを避け、身辺は清潔でなければならないということで、英語で言うなら、あとで見る integrity の問題ですから、これを違法か否かの問題にすり替えてはいけません。

また、国会議員やら大臣やらを経験した方なのですから、「法律は道徳の最低限を示すものでしかない」ぐらいのことは心得ているはずです。そうであるのに違法でさえなければ、何をやってもいいかのように言うのは、違法ではなくても道義上不当 (not illegal but unethical) な行為に対するやましさをうかがわせるわけで、これでは小ずるい悪代官と変わりません。しかも、都知事のような要職にある者は、他の場合よりもいっそう厳しい行動規準が課されるのですから、その意味では、より非難可能性が高いケースとすら言えそうです。

それはともかく、こういった公職にある者が身内に業務を発注するようなケースは当然諸外国でもあるわけで、一般に nepotism、それと conflict of interest という角度から論じられています。

今回は、こうした視点に立って、長年にわたって、この種の問題と取り組んで来たOECD加盟国等先進国の感覚からするとどう言えるのかを考えてみます。

★ nepotism とは何か

英語で言う nepotism は公職にある者が親族を他の公職につけ、あるいは、親族を相手にお役所の仕事を発注することです。実務家のバイブルである Black's Law Dictionary は、Bestowal of patronage by public officers in appointing others to positions by reason of blood or marital relationship to appointing authority. (公務員が、任用権者との血縁または姻戚関係に基づき任用を行い、自分の庇護者的な力を発揮すること)としていますから、今回のように東京都が、最終的な任用権者である知事の4男が請け負う仕事であることを知りながら発注しているのは外形的にこの定義に即した nepotism の例に該当します。この場合、任用権者(ここでは東京都知事)がそう意図したかはたいした問題ではありません(知事は4男の作品が使われる外国での行事に一緒に行っていますから、意図したかは別として、自分の子どもの仕事に公費が使われているとの認識に欠けるところはありません)。そういう事実さえあれば、公務の適正な執行に対する一般市民の信頼が揺らぐからです。

こういった身びいきの相手がいわゆる親族というのでなく、取り巻きを含め広い意味の身内とか仲間であれば、cronyism と形容され、より広くは、つまり「えこひいき」一般は、favoritism と形容されます。

一方、conflict of interest (利益相反)とは、公職にある者が最優先すべきその役職に関わる公的な利益と自分個人の私的利益とがぶつかることを言います。以前、取りあげた、日銀総裁が、自分が責任者である金融政策によりその業績が左右されうるファンドに出資するがごときは、この利益相反に当たる例です。( 日銀総裁による個人的資産運用は利益相反行為ではないのか」

してみると、nepotism は、conflict of interest が働き口ないしは仕事の提供という形で表れるケースと言えます。

開発途上国の場合、これが日常的に見られ、公務の適正な執行、ひいては、経済の発展にとり一大阻害要因なので、OECDや国連の場で積極的に対策が話し合われているテーマでもあります。

★ なぜ nepotism はいけないのか

なぜ nepotism がいけないのかと言えば、公務が適正に執行されることを期待するためには、前提として、その公務員に integrity が備わっていなければいけないのに、nepotism がまかり通っているということは、その integrity の欠如を物語るからです。

となると、今度は integrity とは何ぞやということになりますが、例えば、Pocket Oxford Dictionary は "moral excellence" だと言っています。つまり、「人として守るべきルールの順守において非の打ち所がないこと」です。つまり「廉潔性」です。

これを公職にある者にとっての integrity はどうあるかを追究した OECD のレポート(2000年4月に発表された Ethics Report )は、

Integrity has become the fundamental condition for governments to provide a trustworthy and effective framework for the economic and social life of their citizens. (いまや廉潔性というものは、一般市民の経済・社会生活にとっての枠組みとして信頼でき、かつ、効果的なものを政府が提供するに当たり、根本的な条件になってきている)

という問題意識に立って、

Integrity is about forging strong links between expected ideals and formal behaviour.(機関としての組織的行動が理想の実現に直接結びついているという構図を強固にすること)だとしています。

その上で、こうした integrity を確保するためには、以下の要件が満たされることを要するとしています。

1. Public servants’ behaviour is in line with the public purposes of the organisation in which they work.(公務員の行動が所属する組織の公共目的に即したものであること)
2. Daily public service operations for businesses are reliable.(日々の公共サービスが信頼できるものであること)
3. Citizens receive impartial treatment on the basis of legality and justice.(一般市民が適法性ならびに正義という規準に照らして公平な扱いを受けていること)
4. Public resources are effectively, efficiently and properly used.(公共の資源が効率的、効果的に、かつ、適正に用いられていること)
5. Decision-making procedures are transparent to the public, and measures are in place to permit public scrutiny and redress.(意思決定手続が一般の人々に向け公開されており、一般の人々が詳しく点検し、是正を求められるような制度が用意されていること)

この枠組みに照らして石原問題を考えた場合、都知事のおぼっちゃまが絡んでいるので都の担当者も腰が引けて、どの程度の「芸術家」かを調べることもなく、結果として都のお金が効果的に使われなかったとしたら困るよなと言えます。4の「公共の資源が効率的、効果的に、かつ、適正に用いられている」かという点で疑義があります。

また、公費で都知事の親族が潤う結果となることがわかっていたのに、5の「意思決定手続が一般の人々に向け公開され」、最初から堂々と審査されてという事情がなさそうなのも問題です。要するに公費のスポンサーである都民に「おかしいんじゃない」と思われてもしかたがなく、廉潔性ありとはとうてい言えません。

★ 石原問題はどこがいけないなのか

報道による限り、都が発注した相手である会社が問題の4男殿に仕事を頼んだということなので、直接、都が知事の親族に発注し、公費を使ったという話ではありません。

しかし、問題は、そういった形式的なことではなく、東京都の公的事業、したがって公費が支出される事業に都知事の親族が関与し、経済的利益を受けているという外形のあることです。誰しも都知事がパパだからだと思うに決まっているわけで、そう思われること自体が 既に integrity を台無しにしているのであり、だからこそ問題なのです。

先進国の例を見ると、どこでも基本的にこういった外形が最初から生じないように工夫しています。そういう外形があるだけでも公務への信頼を損ねるからです。実際、ネットで "anti nepotism law" を検索すると、persons related within the second degree by affinity (marriage) or within the third degree of consanguinity (blood) (婚姻関係による二親等内の親族または血縁関係による三親等内の親族)は公職に就く者の選任に関われないとしたり、あるいは、一定範囲の親族については、競争入札によらない限り、業務を発注できないとしているものです。形式的にばっさりという構図です。

かと言って、親族だというだけで有能な人を排してしまうのも困ります。もしこんな杓子定規なことがまかり通っていたら、ケネディ兄弟のような例など最初からありえなかったことになります。そこで、一般には、透明性を確保しながら、身びいきだとの非難を受けることなく人材を登用できるよう、親族だといった情報の事前の開示を求め、あるいは競争入札などを通じて発注先としての能力判定が客観的に行われるようになっているものです。

この点、今回の4男問題は、こういった疑われるような外形を払拭するための努力が最初から見られない点こそが問題なのだと思います。

★ integrity

結局は、石原パパの integrity の問題なのだと感じます。くだんの4男の作品が使われたというスイスの会議へは親子で行っているというのですから、親としては、当然、子どもが自分の役職に関わる仕事をしているという認識があるはずです、そういった場合、自分だったら、「おまえ、ちゃんと情報は開示して、あとからいろいろ言われるようなことがないようにしてあるんだろうな」と確かめるでしょうし、自分からも事務の人たちに指示して、問題がないかを確かめておくことでしょう。

私に言わせれば、その4男殿自身、都の仕事に関わるのはまずいという感覚を持ち、最初から辞退していない点、つまりそういう見識のある人間ではない点、石原パパは自分の子どもの教育に失敗しています。今まであちこちで教育問題について偉そうなことを言ってきた人だけに哀れな感じすらします。

親族が直接の契約相手ではないからいいんだという論法はここでは通用しません。より重要な公職にある者は、他の場合に比べて、いっそう重い責務を課されるというnoblesse oblige (= privilege entails a higher level of responsibility) という理念は、近代の文明国家に共通していますから、疑いを持たれる外形のある以上は、それを否定するに足る努力が求められるのであり、「うちの息子は立派な絵描きですよ」と言い張る程度では不十分に決まっています。こういう話を持ち出すなら、「うちの息子」より腕がいいのに報酬がもっと低い人がいないことを確かめ、公費が効率的に使われたことを証明する必要があります。

考えてみれば、石原君は海外で都の公費出張規定の上限を上回るホテルに泊まっていることなども問題視されていますが、こういったケースも、事務の連中が勝手に決めたでは困ります。上のOECDのルールが言っているように、公職にある以上、「公共の資源が効率的、効果的に、かつ、適正に用いられている」よう心をくだくべきであり、当然、宿泊先を予め聞いて、分不相応だったら変更すべきです。

ご本人は都知事たるもの大臣クラスだぐらいの気持ちなのでしょうが、そうだとすれば、倫理的にも並みの知事よりは厳しい規準が適用されることを理解し、それに従って身を律すべきです。ところが記者会見や議会での答弁からは、そういった謙虚さないし慎みは一切感じられません。やはり作家というのはわれわれ一般市民の常識が通じない人種なのでしょう。

だというのに、石原君は三選を目指すとか言っているわけで、いやになります。やはり悪代官はわが国の伝統美の一つなのでしょうか。








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Comments

先生こんにちは。
昨日の日経文化面で、岩倉具視の欧米使節団について取り上げられていました。近年、当時の具視のメモが発見され、それに基づいて御子孫が著書にまとめられたとの事です。
それによると、不平等条約問題を解決するにはキリスト教の精神を導入する必要を感じていたようです。その精神を基盤に持たないような裁判制度は、欧米諸国から信用を受けられない、国際社会の一員として認められない、そんな危機感を抱いていたようです。
先生のおっしゃる integrity、noblesse oblige を伝統的に身に付けていた結果が、非キリスト教国で最初に工業化に成功した一因でもあります。そして列強からの独立を保つことができました。その後の悲惨な歴史は社会が integrity、noblesse oblige を失ったこととも関係していると思います。
現代も「危機」に取り囲まれています。内輪のつまらない言い訳記者会見はもううんざりです。貴重な時間をもっと大切な議論に回すためにも nepotism とは決別してもらいたいものです。

[返信]

あの当時、唯一、日本とトルコが初めて非欧米圏から「国際社会」に迎え入れられたわけですが、そういった事情があったんですね。何だか納得が行きます。勉強になりました。ありがとうございます。

石原都知事の今回の件にに対する日向先生の見解、大賛成です。もっと日本のマスコミや世論は厳しく対応するべきだと思います。

[返信]

本当ですね。ただ、nepotisim が政治における腐敗の一類型として世界的に問題視されているという感覚自体、マスコミにはないようですから、社会の木鐸を自負するわりには一般教養が欠けています。一方、石原君が諸外国の政治家同様、実質的に nepotism に該当する行為に関与しながら恬として恥じるところがないのは、グルーバルクラスの悪代官だと感心します。

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