2007年1月17日
(1) インフォーマル、フォーマルを使いわけるには
どの言葉でも同じですが、英語でもインフォーマルな言い方とフォーマルな言い方があります。ひとまず話し言葉で使うけれど、書き言葉では使わないのがインフォーマルとは言えます。逆も真なりで、普通の会話に moreover や nevertheless を使うのはいかにも文章用語が混入している感じで、妙な感じがするものです。
しかし、突き詰めて何がインフォーマルなのかと考え出すと、けっこう微妙で、一言でこうだとは言えません。実際、同一表現につき、辞書によって、扱いが違ったりします。例えば、聴き取れなかったので、聞き返す場合の Come again. などは、ある辞書は話し言葉というくくりにしてある程度なのに、別の辞書だとわざわざ Informal というラベルを付して、注意を促していたりします。
★ なぜインフォーマル/フォーマルを意識しなければならないのか
そもそもインフォーマルか否かは学習者としてなぜ問題かと言うと、われわれノンネイティブとしては、インフォーマルなものは、見たり聞いたりしたときにわからないのでは困るので、それを知っておく必要はあるものの、自分の方からは使わないほうが無難なものが多いからです。このように微妙な節度が要求されるので、何がインフォーマルかを知っておく意味があります。このあたりの問題意識が希薄だと、アメリカ留学帰りの御仁がよくやるように、面接の場で Yeah などを使って顰蹙をかったりするものです。
反面、何がフォーマルかを知っておかないと、およそそういう場面ではないのに、妙にかしこまった言い方をする結果となり、しらけます。いや、相手が気味悪く思う危険すらあります。
ということは、インフォーマルか否かの「眼力」がないとコミュニケーションの妨げになるということであり、この点にこそ最大のポイントがあります。
そこで、今回は、インフォーマルな言い方を選ぶべきか、フォーマルで行くべきなのか、あるいは、どちらでもないニュートラルな言い方なのかをどう使いわけるかを考えていきます。実は、インフォーマルか、フォーマルかという問題は、どういう場合にインフォーマルで行くのか、あるいはフォーマルな言い方をするのかという「適用場面」の判別の問題と、そもそもどういうものを指してインフォーマルと言い、あるいはフォーマルと言うのかという「その言い方がどの区分に属するのか」という二つに分けて考えるべきものですが、今回は、前者に話を絞り、後者は機会を改めて続編で取りあげたいと思います。
★ 運用能力の一角を占めるインフォーマル/フォーマルの使いわけ
一般に、英語その他の外国語の運用能力は、(1)その言葉を使ってどういうことができるのかという機能 (function)、(3)どういった話題・素材をこなせるのかというコンテンツ (content)、そして(3)然るべき単語を文法に従って組み合わせることができるのかという正確さ (accuracy) の三つの要因で規定されると言えます。もっとまとめて言ってしまえば、What can you communicate? という問いに答えるのが、(1)と(2)であるのに対して、How well can you communicate that? に答えるのが(3)の要素です。
これを典型的学習者像に引き直して言えば、初心者レベルでは(3)の要素つまりボキャブラリーと文法がほどんどを占める格好になり、まずは基本1,000単語、次いで、3,000単語レベルを目安としながら、平行して、文法を勉強して言葉の「操作法」を会得するのに手一杯という状態です。ところが前回のシリーズでご紹介した自力でコミュニケーションができるレベルに行くと、(1)や(2)の要素の方がより大きなウェイトを占めるようになります。
いずれにしろ、インフォーマルかフォーマルかに応じて言い方を使いわける力というのは、この枠組みに即して言えば、(1)の function に関わる問題です。現にアメリカ政府が使っている指標である ILR (Interagency Language Roundtable) の指標で言う、"Professional Working Proficiency" は、そのレベルの者は、 function として、"Can converse in formal and informal situations" ができなければならないとしています。
例えば、友達に「ドアを開けてくれ」と頼む場面だとして、
と言ったとしましょう。これは、文法上は何ら問題がなく、形式的には、一応合格です。また、
という言い方も滑稽ではありますが、やはり英語であることに間違いはありません。しかし、functionという条件をクリアしていないので、上の二つの言い方は、最終的に「不可」です。この程度の英語では運用能力ありと認められません。
これが「通りのいい英語」でなく、適切な運用能力を備えた人の英語でないとされるのは、上の(2)(3)が求める条件はクリアしているかも知れないけれど、通常、ドアを開けてもらうという依頼をするときの言い方を無視しており、円滑なコミュニケーションができないという意味で、(1)の条件を満たしていないからです。
(a) 状況を考えた言い方をする
しかし、だからと言って、状況別のフレーズをまとめて暗記するのも問題です。単語力と文法力に加えて状況に合った言い方をする力がそろえば、それで十分とは行かないのです。ちょっと説明させてください。
以下のフレーズを見てください。
Please open door.
Could you open the door.
Would you mind opening the door.
Would you be so terribly kind as to open the door for me.
いずれも、友達にドアを開けてくれと頼むような状況で使うフレーズです。
(b) 人間関係を考え、自分の心的態度(親しくなりたいなあ…とか、けしからん!など)を反映させる
しかし、状況としては同じであっても、その中で相手によって、そして、話し手自身の気の持ちようで使い方が違ってきます。つまり友達どうしという人間関係を考えると、普通は、Could you open the door. でいくことでしょう。Please open the door. は、Open the door. という命令文に please を付けただけですから、相手が使用人ならともかく、友達に対してはこういった命令口調は一般に使いません。
一方、ちょっと遠慮のある相手、たとえば、知り合って間もないと相手である場合、Would you mind opening the door. を選ぶことでしょう。また、こういった場合、相手がすてきな人だったりすると、普段はそんな言葉遣いをしないくせに、やや改まった言い方で気を引こうとする人も出てきます。相手が誰であるかという問題に加えて話し手の心的態度という要素も働いて、丁寧な言い方に傾くものだと言えます。
かと言って、Would you be so terribly kind as to open the door for me. まで行くと、やり過ぎです。友達どうしという関係で使う言い方ではないからです。ここまで行くと、この分野の研究者が言う "frozen" (無機質な常套句という意味合いです)というレベルです。
以上のことから、状況、人間関係に加えて、話し手の心的態度とでも言うべきものが関わってくることがわかります。
(c) そこでの話題に合わせた言い方をする
さらに言うと、実は、インフォーマルかフォーマルか、はたまた中間を取ったニュートラルかを決めるための要素は、状況、人間関係、心的態度に加えて、もう一つあります。そこでの「話題」ないし「話の内容」です。つまり、上の室内でのドアの開け閉めの話ではなく、別の話題、例えば、飲み物はいかがといった話になれば、当然、言い方も違ってくるということです。
以上を要するに、インフォーマルな言い方をするか、フォーマルな言い方をするかは、(1)状況、(2)人間関係、(3)心的態度(話し手の気持ち)、そして(4)話題の4つの要素の兼ね合いで決まるということです。
私自身の勝手なイメージで言うと、総合判断の結果、相手との間にバリアーを設け、いわば塀越しに話した方が互いに安心ならフォーマル、敢えてバリアーを設けない、普通の関係ならニュートラル。そして、自分たちのまわりにバリアーを設けて、バリアーの外の連中とは違うんだよ、自分たちは仲間だよ、という感じを打ち出すならインフォーマルと、こういった使い分けがされているのではないでしょうか。
★ ノンネイティブにとっての基本はニュートラル
状況が旅先のプールサイドで、隣の席に座っている外国人と何気なく雑談をするような場合で、話題が天気といったときというものなら、怒っているといった「異常事態」でない限りは、ニュートラルな言い方をします。「どちらから?」だったら、Where do you come from? 程度でよく、May I ask where you come from? などは互いに半分裸なのですから、不似合いです。また、留学先の学生どうしの集まりで、野球の話などをするようなケースでは、インフォーマルな言い方が幅をきかすに決まっています。一方、会社での取引先との正式な会議なら、話題自体、むずかしい話である上、互いに自分の会社を代表しているわけですから、それなりの敬意の要求される人間関係があり、しかも、心的態度としては、おおいにまじめで、かしこまっていることが求められます。そこで当然、フォーマル路線で通すことになります。
しかし、ノンネイティブの場合は、ニュートラルであろうと心がけることが何より大事だと思います。ネイティブは普通、ノンネイティブとの会話では、相手がニュートラルな話し方をすることを当然の前提としているからです。この点、Council of Europe が出している、Common European Framework of Reference for Languages (Cambridge University Press) は、In early learning (say up to level B1), a relatively neutral register is appropriate, unless there are compelling reasons otherwise. It is this register that native speakers are likey to use towards and expect from foreigners and strangers generally. (学習の初期段階、例えば、B1レベルぐらいまでは、何か格別の事情のない限りは、比較的ニュートラルな言い方を選ぶのが妥当だ。相手が外国人であるとか、見知らぬ相手だといった場合、ネイティブスピーカーが使うのはたいていの場合、こういったニュートラルな言い方だろうし、相手についてもニュートラルな言葉遣いをすると予想するのが普通だからだ)と明言しています。
けっこう大変ですが、(1)状況、(2)人間関係、(3)心的態度、そして(4)話題の4つの要素を常に意識しながら場数を踏んで行くと、そういったことを意識せずとも、しかるべき言い方ができるようになるものです。
また実際に英語でやりとりする機会のない方は、本の中での会話や雑誌に掲載されるインタビューを注意して読んでいると、なぜその場面でそういう言い方をするのかが段々わかってきて、本を何倍にも楽しめることでしょう。

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Comments
遅くなりましたが、本年度もよろしくお願い致します。
英語を使う比率が日常よりも仕事場(特にライティング)の方へ傾いていると、友人と話していても、つい使い慣れた「We would appreciate」が口から出そうになり、一人笑いをします。逆もしかりで、仕事場で自分の書いた英語の文書がinformalなわけではないけれど、単語の選択や構文が稚拙な気がして改善したいと思っています。TPOに合った英語がさらりと出るように、今年も研鑽を積んでいきます。
[返信]
おひさしぶりです。こちらこそ本年もどうぞよろしくお願いします。
どこらへんが中庸を得た書き方なのか、自分でもけっこう考えてしまいます。日本語でも英語でも。しかし、悩むからこそ、本当のところはどうだろうと気を張って観察するわけで、それはそれで、何も考えないまま終わるよりいいことではないかと思っています。
- meggy
- 2007年1月18日 10:25
英語を4年ほど勉強していますが、少し前からフォーマル・インフォーマルについて意識し始めていましたので、とても興味深い内容でした。
私の英語にも初歩段階があったことを知る人や、そうであったろうことを想像できる人(英会話スクールの講師など)は、私の言葉の真意を汲み取ることを意識してくれますが、私の現在の英語レベルしか知らない人は私から発せられた一言一句をそのまま理解しますので、場面に適した英語を使わないと、場合によっては私は非常識な人や変わった人、はたまたお利口ではない人といった判断をくだされてしまう恐れがあると思います。怖いですね(^^;
映画や小説、雑誌などの全ての会話の場面ごとの使い分けを意識してみると、一段と奥深く面白くなりますね。
[返信]
単語や文法にばかり気を取られている人は、「非常識な人や変わった人、はたまたお利口ではない人」という烙印をおされる危険があるわけで、状況にあったコミュニカティブ英語の必要を改めて認識させられるコメントだと感じました。
- 匿名
- 2007年1月17日 12:21

はじめまして。カナダ在住の者です。なかなか日本にいたころは学びにくかった微妙な英語のニュアンスをわかりやすく説明してくださっているこちらのサイトを、楽しみに読ませていただいています。
人にものごとを頼むときに使われる表現で、どうしても使う気になれないものがあります。先生の例になかったもので、"Do you want to open the door?"というようなフレーズをアメリカやカナダで聞くことがあります。日本的なの感覚からすると「人にものを頼むのに、どうしてDo you want to ... になっちゃうの?」と思ってしまいます。頼んでいる人に悪気はなさそうなのですが。この表現を使う人がどのようなつもりなのか、ご存知でしたら教えてください。よろしくおねがいします。
[返信]
Do you want to to open the door? というのは、初めて接する表現です。一応 Yes/No を聞いている限りでは丁寧な言い方ではあるのでしょうが、変わっていますね。決していいとか悪いとかの話ではありませんが。
普通、speakというところを talk と Can I talk to 誰々と同じように「北米ローカル」なのでしょうか。たしかに自分が言われたら、えっ何だって?という気持ちになります。
でも、こういうものを捕捉される点、language awarenessを備えてらっしゃるわけで、大事なことだと思います。