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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2007年3月12日

単語を覚えるとはどういうことなのか:単語とは?覚えるとは?

ボキャブラリーの強化が語学において大事だというのは教える方も教わる方も等しく認識しているものの、考えてみると、そもそもボキャブラリーを構成する単語とはどういうものであり、それを覚えるためにはどういう方法が一番いいのかはあまり取りあげられないような気がしますので、今回は、そのあたりのことを自分自身の外国語学習のためにも考えてみます。

話の進め方としては、そもそも単語を覚えるというのはどういうこと、文字としてわかっていればいいのか、あるいは音をも確かめておく必要があるのかを見てから、その学習のあり方を見て行こうと思います。


★ 単語を覚えるとはどういうことなのか

英語を教える人々にとっては、学習者がどこまで単語を「覚えた」かは気になる訳ですが、問題は、どの程度の習得レベルをもって、ある単語を「覚えている」と言えるのかです。英語で、company って何のことと尋ねられた人が、「そりゃ英語で『会社』って意味だよ」と答えたとして、傍目には、その人はその company って単語がわかっており、したがって、その単語を「覚えている」と言えそうです。しかし、その人に対して、さらに、company ってどんな風に使うの?何か短文で例を挙げてよと頼んだとして、ぱっと答えられないケースはどうなのでしょう。

こうしたことを念頭に置いて、Paribakht と Wesche という研究者が答を出しており、ボキャブラリー学習のあり方、あるいはボキャブラリー学習の効果測定を論じているものでよく引用されています。[Paribakht と Wescheの論文は、T. Huckin, M. Haynes, & J. Coady (Eds.), Second Language Reading and Vocabulary Learning. Norwood, NJ: Ablex Publishing, 1997. に Vocabulary enhancement activities and reading for meaning in second language vocabulary acquisition として収められています]

この人たちの研究によると、ある単語を知っているか否かについては、更に以下のとおり細かく区分できると言います。

1. The word is not familiar at all.(およそ見聞きしたことがない)
2. The word is familiar but its meaning is not known.(見聞きした感じはするが意味がわからない)
3. The meanings is known--the student can supply a correct synonym.(意味がわかるーー学習者自身、同義語を正確に挙げることができる)
4. The word is used with semantic appropriateness in a sentence.(その単語の意味に即した使い方にしたがってセンテンスに組み込める)
5. The word is used with semantic appropriateness plus grammatical accuracy in a sentence.(上のレベルから進んで文法的にも正しく使える)


何だかもっともらしく出来ていますが、よくよく見るとわれわれが経験則で知っている程度のことでしかありません。要するに、その単語を突きつけられたときに「 company って、corporation と言っても同じだよ」と言えたら、ひとまずその単語を「知っている」「覚えている」と認められるわけで、レベルの4から先は、書いたり、話したりという productive skills という場面でも使いこなせるということです。

ですから、学習者であるわれわれとしては、ある単語を見たときに、「何とかって、○○のことでしょう」と、学習している外国語の同義語あるいは自国語での相当する単語に言い換えられたらひとまず合格と言えそうです。

しかし、この程度ではその単語の一面しかおさえていないということになります。上のスケールの4ないし5で示されるとおり、まさに上には上があるもので、その単語の意味に即した短文、例えば、We put up company in Hong Kong last year. という程度のことを言え、さらに文法的にも正しい、We set up a company in Hong Kong last year. というセンテンスを作れる所まで行って始めて、その単語をきちんと「覚えた」と言えるのです。

のみならず、ここで考えておくべきは、上のスケールでは問題にされていないかのようですが、メールなどで、We set up a company in Hong Kong last year. と書くことができ、company を使いこなしていても、company という単語を正確に発音できない例をどう考えるべきかという問題です。

このように書けることは書けるけれど、話し言葉として使えないというレベルでも、いちおう「覚えた」と言えるのでしょうか。私は違うと思います。やはり、4技能に即して、ある単語を文字として見たときにそれが何であるかがわかるのはもとより、それを書くことができるという、「受信」時のみならず、聴いたときにもわかり、かつ、自分の口からも言える、つまり、「発信」できなければ本当ではありません。

単語の意味が中身なら、文字や音で表現されるのはその言葉の外形ないし存在形式と言えます。そうとするなら、形式の一部でしかない文字でだけその単語を認識し、あるいは外部に発表できるというのもおかしな話です。文字と音の両方の姿を知っていてこそ、形式・内容ともそろった、完全な単語を覚えたことになるのではないでしょうか。

★ 単語とは何ぞや

この点、ある単語を覚えて、使うことができるというのはどういうことかに正面から答えているのが、Jean Aitchison の Words in the mind: An introduction to the mental lexicon (Blackwell Publishing) です。いわく、

At the very least, humans must know three things about a word in order to be able to use it: its meaning, its role in a sentence (whether it is a verb or a noun, for example) and what it sounds like.(われわれ人間がある言葉を使えるようになるためには少なくとも三つのことを知る必要がある。その単語の意味、センテンスの中でのその単語の役回りーー動詞なのか名詞なのかということ、そして、どういう発音なのか、である)

うーん、そりゃそうだと思ったのは、その単語が「音的にどんなものか」までおさえておかないと使えないとしている点です。世にボキャブラリーものはいくらでもありますが、端的に音も、つまり発音されたときの「姿」も単語の本質的要素だよと強調しているものは少ないのではないでしょうか。


この点、気をつける必要があるのは、ネイティブ向けに書かれているボキャビルもの、例えば、私自身、以前お勧めしたことのある Word Power Made Easy あるいは TOEFL対策、GRE対策として出ている Verbal ものです。こういったものは、いずれもCDなどが付いているわけではなく、そこから、音など聴かなくてもいい、二の次だと錯覚してしまうことです。

中には工夫を凝らした発音記号的なものが入っているケースがありますが、この手の本に出て来るような単語は通常の会話では使わず、書き言葉の中に出て来たとき、あるいはテストに出て来たときにわかればいいものばかりなので、どういう音ががするのかまで気を回していないだけの話です。また、ネイティブスピーカーの場合は、目で見ただけでも、何と言うのか、その単語が実際には「どういう音がするのか」ぐらいの見当がつくわけで、感覚的にわかるのです。

これに対して、ネイティブでない学習者はきちんとCDなどで個々の単語がどう発音されるものなのかを実地に経験しておく必要があります。いくら発音記号などがあっても、飽くまでも補助的な便法でしかありません。実際に何度も聴いて、自分でも口に出して言ってみるのが学習のあり方として一番効率がよく、また、それ以外にはその姿を確かめようもないのです。こと学習者が習得すべき基本単語に限って言えば、すべて音と一緒に覚えて行くのが正しい学習法だと確信します。


★ 単語カード

上で引用した Aitchison に言わせれば、完全な姿における単語というのはコインのようなもので、表面が「意味と文法上の属性(名詞、動詞等)」、裏面が「音」で構成されているのです。

ですから、このようなものを「覚え」ようとする以上は、初めて出会った単語につき、(1)その意味・内容は何か、(2)文法上の役どころは何か、そして(3)どんな音がするのか、自分で発音するにはどうしたいいのかを確認しながら、頭の中に取り込んでいく必要があります。

この場合、道具としては、 「語学の原点は単語カード」で論じたとおり、単語カードが最適です。

持ち歩きながら勉強するなら、上の記事でもご紹介したコクヨの 「メモリボ」がイチオシです。実際、すっかり惚れ込んでしまい、コクヨさんと「おつきあい」を始めてしまったぐらいです。

PCで勉強するなら、Audio Flashcards です。下のサンプルはドイツ語を勉強するためのものですが、単語が表示されるのと同時に、発音が聴けます(設定を変えて、クリックすることで順次、発音や意味を確かめることもできます)。


audioflashcard.jpg


これは www.declan-software. com が販売しているもので、32ドルです。英語族用で、ヨーロッパの主要言語としては、ロシア語、イタリア語、スペイン語、フランス語、ドイツ語のカードがそろっています。

何がいいかと言うと、まずは、単語の意味と音を同時に勉強できることです。しかもクリックすれば、何十回でも繰り返してくれます。以前、オーディオビジュアルを併用してのボキャビルはそうでない場合と比べて 50% 効率が上がり、また、聴きながらの復唱は70%上がるという話を聞かされたことがあるのですが、やってみると、そのとおりで、この単語カードをめくりながら復唱していくとたしかに着実に覚えて行くことができます。わが身で実験したところ、今のところ、一時間当たり20-30単語のペースでドイツ語単語を覚えられます(ということは、毎日3時間ずつやれば夏頃には最頻出基本単語が全部頭に入るはずで、ひどく楽しみです)。

もう一つ、このカードがいいのは、覚えたものをチェックすることで、単語のリストから外せることです。ラウンド数を重ねるたびにやるべき単語の数が少なくなっていくわけで、反復練習の原動力となる達成感が得られる一方、覚えにくい単語の場合、多いときは10数回つきあわされるので長期記憶にしっかり刻み付けられる感じがよくわかります。みなさんも覚えがあるでしょうが、全問クリアしたときの喜びは格別です。この点、既に知っている単語までも機械的に何度もやらされ、効率の悪い単語帳形式の市販本と対照的です。

驚いたことに、「メモリボ」にも覚えた単語を外す機能が付いていました。表示された単語を見て、「ああ、これは知っている、覚えたからいいや」と思ったら、決定キーを長押しします、すると非表示にしていいですかと聞いてくるのでOKするという手順です。

なお、音声で単語をおぼえていくツールとしては、Vocabulearn のCD が便利です。私自身はこれの German/Englishを使っていますが、「"ha-na" …やや間を置いて… a flower」「the sun …やや間を置いて… "tai-yoh"」というふうに、単語とその訳語というセットを淡々と読み上げて行くスタイルで、歩いているときや電車といった、いわゆるスキマ時間をつかった学習に便利です。

2単語ワンセットというスタイルは何語でも同じですから、英語のボキャブラリーをしっかり強化しておきたい読者の方々には、このシリーズの Vocabulearn Japanese Complete (Vocabulearn) がよろしいのではないでしょうか。収録時間は9時間前後で7,000単語ぐらい入っているはずです。


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この Vocabulearn のパッケージは英語を話す人のための日本語教材なので、本当なら、最初から日本人向けの英語学習教材として作られたものがあるといいのですが … 。日本人学習者が英語を勉強するための音声付き電子単語カードというのもあるでしょうから、あわせて調べておきます。

繰り返しますが、一つ一つの単語につき、その音をも確認する作業はきわめて大事です。また、ボキャブラリーの勉強に際しては、目で見るだけでなく、音ごと取り込んだ方が長期記憶への定着率の高いことが知られていますので、その意味でも単語の発音を確かめ、自分でも口に出して言ってみるという作業はますます重要なのです。[追記; アルクさんにうかがったところ、「キクタン」の付属CDが単語と和訳を読み上げている形式だそうです。ただ、チャンツに乗っているそうで、音楽が邪魔と思う方もいらっしゃるかも知れません。あと、電子単語カードについては、英語教材の売上で楽天のトップという、 「英語伝」さんに問い合わせたところ、そういった商品は扱っていないということでした。]


★ まとめ

コミュニカティブ英語ばやりで単語単位の暗記より、短文単位での言回しを覚えようというのが英語学習でのトレンドになっているようです。例えば、あんなものハンバーガー英語だという批判を受けながらも、中学の英語教科書に、To go or for here?といったハンバーガーショップでのやりとりが載っている時代です。しかし、ハンバーガー英語的な特定の状況でしか使えないものを含め、こういった場面別、状況別に使う単語の「固まり」は、その部品である個々の単語の意味・内容、そして音がわかっていなければ応用がききません。その意味で、単語の意味すらつかんでいないのに、こういった言回しばかり練習し、覚えようとするのは効率が悪いとすら言えます。

やはり基本は単語です。本を読んで知識を得るという作業につき、ある程度以上の単語数がわかっていないと話にならないのではないかという問題意識で研究した Laufer と Simという研究者は、大事なものの順番として、まずは、vocabulary、次に subject matter つまり、その本の内容、最後が syntaxつまりセンテンス作りのルールだと言っているぐらいです。

Jean Aitchison が単語というのは、その意味・内容と音だよ、と言っている点は、結局、単語というのは意味と形式から成っているんだよと言っているわけであり、そこで言う形式には、文字化された音の情報も入っているわけですから、個々の単語の意味・内容に加えて、書かれたときの姿と発音されたときの姿をも確認しながら覚えなさいというのが結論になります。そして、そのためのツールとしては、不純物と言うか、夾雑物と言うか、ともかく余計な要素を省いて単語そのものの習得に直結する単語カード、しかも発音を聴ける機能の付いたものが学習効率と長期記憶への定着率において最善の方法だと言えます。


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