2007年3月15日
(上)ボキャブラリー習得の常識
常識テストと言っても、常識として知っておくべき語彙が身に付いているかをテストしようというのではありません。語彙研究の現時点での到達水準を前提に、研究者の世界での常識とされていることがわかっているかをテストするものです。実際、このテストは、a test of teachers' knowledge と銘打っているぐらいで、本来予定している対象者はわれわれ学習者ではなく、英語の教師です。英語の教師あるいは教師を志望している者である以上、このぐらいは知っていて当然でしょうという内容です。ただ、自分の語彙力ないし単語力を強化しようという方々にとってもきわめて有用な内容を含んでいます。
独力でこのような水準の高いものを創り出せるはずもなく、実はボキャブラリー関連の調べものをしていたら偶然見つけたウェブサイトです。サイトの管理者は、大学生が必要とする語彙をまとめたAcademic Word List の「版元」として知られる、ニュージーランドの School of Linguistics and Applied Language Studies at Victoria University of Wellington。 「語学の原点は単語カード」で引き合いに出した語彙研究の大御所 Paul Nation のいる大学です。これは「ビジネス英語雑記帳」の読者に喜んでもらえると思い、早速、翻訳と転載の許可を取りましたので、以下のとおり、お届けします。
ところで、許可を求めるため、
I am writing to ask your permission to produce a Japanese translation of the following webpage and post it on my blog. Naturally, should the permission be granted, a credit would be included, together with a link to this webpage.
と書いたら、なんと驚いたことに、Paul Nation 先生から、じきじきに、
That is fine. It would be good if you acknowledged that it is based on my 2001 book.
という返事が返ってきました。
ここで言う 2001 book というのは、 Learning Vocabulary in Another Languageのことで、「英語教師のためのボキャブラリー・ラーニング」という名の和訳も出ています。

全部で30問あるので、3回に分けます。解答はすぐ見た方が記憶に残るので、個々の問題のすぐあとに答えを示します。下を見たいという誘惑に負けないよう、まずはボックスの中の問題だけを見ながら解いてみてください。
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The following has been reproduced (translation is K. Hinata's) from the website of the School of Linguistics and Applied Language Studies at Victoria University of Wellington. I am grateful to Professor Paul Nation for his permission to use this material.
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1 How many word families does an average adult native speaker of English know? (平均的な成人ネイティブスピーカーはワードファミリーで数えて、どのぐらい知っているのか)注記: ワードファミリーというのは、動詞 speak なら、その派生語である spoke, spoken などをひとまとめにして数えたものを指します。A 150,000
B 100,000
C 50,000
D 20,000
E don't know
答えはDです。一般にワードファミリー数をわれわれが言う普通の単語の数に直すには 1.6 掛ければいいとされていますので、単語数に置き換えたら 32,000 となります。
2 If learners know the most frequent 2000 words of English, what percentage of running words in an academic text will be known to them? (学習者が英語の最頻出上位2,000単語を知っている場合、大学の教科書に出て来る単純語数[重複があってもかまわず機械的に数えた場合の単語数]のうちどのぐらいが既知の単語と認識されるのか)A 60%
B 80%
C 90%
D 98%
E don't know
答えはBです。この 2,000 単語は独り歩きしており、基本 2,000 単語といった言い方がされますが、2,000語なら何でもいいというわけでなく、最頻出単語の上位 2,000であることがポイントです。この場合、その母体となっているデータベースが問題ですが、近頃は、大体が1億語から成るイギリスの British National Corpus を元にしています。ただ、後述する Academic Word List (AWL) は、General Service List (GSL) という独特の手法で最頻出単語を抽出したものを前提に、GSL + AWL で、大学生は教科書上の語数中わかっている単語が占める割合、いわば「解読率」を 95% まで持っていけるとしています。何であれ、まずは最頻出単語 2,000 をマスターしてからでないと話にならないと言えます。
3 What is the most important factor in formal measures of readability? (読みこなしているかを技術的に測定し、判定する場合、そこでの一番重要な要因は何か)A background knowledge (前提とされている背景知識)
B vocabulary knowledge (単語力)
C reading skill in L1 (自国語での読解力)
D grammatical knowledge (文法の知識)
E don't know
答えはBで、一般の人だとたいてい間違える問題だと思います。
1−3の復習
4 The most effective way of beginning to learn the meaning of a word is by (単語の意味を覚えようとするにあたり、一番効果的なのは)A the use of a picture (絵が使ってある)
B translation into the first language (自国語での訳語が示される)
C a dictionary definition (辞書的に定義する)
D seeing a word in context (例文でどのように使うのかが示されている)
E don't know
答えはB。「語学の原点は単語カード」でも触れたとおり、文脈がわかる例文単位で単語を勉強した方がよさそうな感じはしますが、むしろ単語だけに絞って意味を一つ一つおさえていった方がいいということです。
5 How many words does an average learner of English as a foreign language know after five or six years of four 50 minute English classes per week? (50分授業を週4回受けながら外国語としての英語を教わっている平均的学習者が5年または6年を経たところで知っている単語数はどのぐらいになるのか)A 1,000
B 3,000
C 5,000
D 10,000
E don't know
答えはBです。大学のように年26週で計算すると、200分×26週かける5年で、およそ433時間。高校はどんなものかと私立高の先生にうかがったら、一つの例として、37週前後ということでしたので、単純に計算して、200分×37週×3年で、616時間という数字になります。ヨーロッパ各国での外国語教育の到達目標を提示している欧州共通参照枠の前身に当たる Threshold level (ひとまず外国人と最小限のコミュニケーションをこなせるレベルで、必要単語数としては1,500)の場合、習得に大体380時間と言っていますから、まあ、そんなところかなと感じる数字です。乱暴に言えば、1,000単語おぼえるのに、150から200時間ということです。
6 Initially opposites like hot and cold should be learned (学習の初期段階で、熱いに対して寒いといった反対語のセットを覚えて行く上で好ましいアプローチは)A at the same time (二つを一緒に覚えるようにする)
B in quick succession (一方を覚えてから時間を置かずに他方を覚える)
C as part of a bigger lexical set (両方を、より大きな言葉のグループの一部として覚える)
D at widely separated times (時間を十分置いてから別々に覚えて行く)
E don't know
答えは D。コメントを寄せてくださった中田先生によると、「一般的にはaccelerateやdecelerateといった反意語は同時に教えた方が効率がいいと考えられているようですが、実証研究では「同時に教えない方が保持率が高い」という結果が出ています」とのことです。
7 Complex words like "inventiveness" and "uncontrollably" are usually stored in the brain as (接辞が付属している invent/ive/ness や un/control/lably といった複合的な単語が脳内の記憶領域に収納されるに当たっては、A stems and affixes that are combined when needed (語幹や接辞に分けて収納され、必要に応じて組み合わされる)
B both as whole units and word parts (全一体としての単語と別々に分けたものがそれぞれの格好で収納される)
C complete analyzed words (一度分析を経た単語がそのままの形で収納される)
D complete unanalyzed words (分析を経ないまま単語がそのままの形で収納される)
E don't know
答えはAです。認識までのスピードを測る実験などから、governmentなら、単体として収納されているものが呼び出されるのではなく、governとmentが必要に応じて、セットとして組み合わされるのだと推定されています。ただ、どうなんでしょうね。こういうのって、合理的にそう説明できるという程度の話に聴こえます。
8 Learners most often have problems in guessing the meaning of a word in helpful contexts because they(助けとなる文脈がわかっているにも拘らず、ある単語の意味を推理するのに苦労する理由は)A give too much attention to the form of the word (その言葉の形式的側面に気を取られすぎるから)
B do not use their background knowledge of the topic (そこでのトピックにつき持っている知識を活かさないから)
C do not draw on clues from neighboring sentences or paragraphs (隣接するセンテンスやパラグラフから得られるヒントに目を向けないから)
D do not give attention to the immediate context of the word (その単語に直接関わっている文脈に注意を払わないから)
E don't know
答えはA。見てくれに目が行ってしまい、表面的な観察で流されてしまうことを指します。野中辰也「日本人大学生の英語語彙サイズ」(新潟青陵大学短期大学部研究報告 第34号 2004年)という資料を読んでいたら、誤答する人たちには、選択肢として知らない単語が並んでいる場合、意味は覚えていなくても、見た記憶のある単語を選ぶ傾向があるということでした。「しきりに勧める」に対応する英単語を選ばせる問題で、本当は、urge を選ぶべきであるのに、内容より形式が優先されるのか、celebrate や construct が選ばれがちだったと言います。
(余計なことですが、語彙サイズをテストするのに、和文英訳形式で選択肢から選ばせるというテストはどうなんだろうと感じました。当て推量ができるからで、しかも正解である単語が選択肢の中に並んでいれば、なおのこと中途半端な知識の人でも救われてしまい、結果として語彙サイズが過大評価されるのではないでしょうか。この点、定評のある Nation のテストは、He has a successful car_____ as a lawyer. を完成させるというもので、その単語をちゃんと書けるのかを試すシビアさがあります)
9 In order to have a good chance of guessing the meaning of an unknown word from context clues, what percentage of the running words in the text does the learner need to know? (文脈から得られるヒントを手がかりに未知の単語の意味を大体推理できる所まで行くには、文章の語数のうちどのぐらいが既知の単語でなければならないのか)A 78%
B 80%
C 90%
D 98%
E don't know
答えはD。稿を改めて取りあげる予定ですが、そこに出て来る単語のうち 98% 以上わかっていないと、初出の単語つまり未知の単語に出会ったときに、見当もつかないということですから、一部の英語の先生たちが熱心に説く多読の効用に疑問を投げかける数字です。
ちなみに Nation 先生は、5,000 単語は知らないと、そもそも読書の楽しみなど味わえるものではないと喝破してらっしゃいます。そりゃそうですよね。人は本の中身を読むために読書をしているというのに、中身にたどりつく前の形式の段階でいちいち辞書を引かねばならないというのでは読書どころじゃありません。
10 When learners know the most common 2000 words of English, the words that they have most difficulty with in academic texts in their specialist area are (学習者が最頻出上位2,000単語を自分のものにした次のステップで、自分の専門分野の文献を読む際に一番苦労するのは…)
A general purpose academic words like assume , concept , diverse (assume、concept、diverse といった大学レベルの教科書で頻繁に使われる単語)
B function words like because , although , hence (because , although , hence といった機能語)注記:機能語というのは、内容を伴っている content words または lexical words と対比されるもので、よく、content words がレンガなどの構成部材なら、function words はモルタルないし漆喰だと形容されます。
C proper nouns like Darwin , Menlo Park , Edgebaston (Darwin , Menlo Park , Edgebastonといった固有名詞)
D technical words like anode , impedance , galvonometer (anode , impedance , galvonometerといった技術的な専門用語)
E don't know
答えはA。道理で、Academic Word List (AWL) がボキャブラリーの話になると出て来るわけです。以前、 ボキャブラリーのはなし--どういった単語をいくつ覚えるべきなのか、効率よく覚えるにはどうしたらいいのか」で取りあげたとおり、「基本2,000 単語をマスターし、80% はわかるというレベルに達している大学生の場合、頑張って、もう1,000単語覚えようとするよりは、AWL を覚えた方が効率がいいことがわかっている」と説明しました。つまり、次に来る上位1,000 単語をマスターしても、この「解読率」が86%に伸びる程度で終わるのに、AWL 上の 570 ワードファミリー(約 900 単語)を習得することで教科書レベルの単語の「解読率」が 95%にまで上昇するのです。
8−10の復習
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Comments
最近になり、このブログを知り、読ませて勉強させていただいているものです。質問なのですが、Academic Word Listに日本語の訳語がついているもので、一般人でも入手可能なものはあるのでしょうか。
[返信]
どうなのでしょう。残念ながら、知りません。全部紹介して、訳をつけたりすると、正当な引用の範囲を超えた著作権侵害になりますし。
- usagi
- 2007年4月12日 09:27
こんにちは。
4の"B translation into the first language (自国語での訳語が示される)"は、少し意外ですね。これはよく批判されるやり方ではないでしょうか。たとえば、例文をつくってください、とかいわれると、微妙なニュアンスや使い分けを理解していなくて、間違えてしまうことが多いような気もします。初期の受容の段階では、これでもオーケーっていう意味なのでしょうか。もちろん、その言語に長く触れていけば、ニュアンスや使い分けなどは徐々にわかるようになるようになるものでしょう。
[返信]
ともかく覚えるという初期段階では、単語本体に絞って勉強した方が効率がいいというのが Nation流です。既に頻出単語を知っているネイティブならいざ知らず、効率よく頻出単語を吸収すべき学習者の場合は、まずは、各種例文での用法に共通する本質的な語義をワンワードでおさえた方がいいと説かれています。その次のステップとしては、各種の文脈での用法に触れて、より着実な理解を定着させるということなのでしょう。ただ、私自身は、覚える段階でも記憶の手がかりとして、access as in access to data 的な最小限のフレーズは一緒に覚えて行きたい感じです。
- 空
- 2007年3月16日 04:35
ブログ「気ままに英語教育」へのコメントありがとうございます。日向さんの語い、英語に関しての造詣は深いですね。大いに参考になります。Paul Nation先生の話はとくに興味深かったです。今後もぜひ拝見させてください。
語い学習ですが、個人的にはSuffixesを使っても覚えるようにもしています。gen=birth generation / gene / などです。カナダで買った 「Red Hot Root Words」という本には実にうまくRoot Wordsが解説されています。また、ジーニアス大英和が入った電子辞書でRoot Wordsを調べたりしています。どんな覚え方であっても、記憶の引っかかりを作る覚え方が大事ですよね。
[返信]
わざわざお運びをいただきまして、ありがとうございます。MLへの参加など熱心に勉強されているご様子で、頭が下がります。
たしか最頻出単語の半分ぐらいギリシア/ラテン語の「部品」が入っていますから、root words に焦点を合わせての勉強は効率がいいことでしょう。アマゾンでチェックしましたが、この本、よさそうですね。
- 匿名
- 2007年3月15日 23:49
これはすごくいいですね! 続きが楽しみです。
7と8は難しいです。
[返信]
コメントありがとうございます。7と8は、何と言うか直感的に、なるほどねという感じじゃないですよね。ちょっと補充しておきます。
- jiangmin
- 2007年3月15日 16:33

日向先生
ご無沙汰しております。中田です。
質問6の答えが日向先生の解説では"A at the same time"となっているようですが、Paul Nation先生のwebサイトでは"D at widely separated times"が模範解答となっていますね。
一般的にはaccelerateやdecelerateといった反意語は同時に教えた方が効率がいいと考えられているようですが、実証研究では「同時に教えない方が保持率が高い」という結果が出ています。
このことはNation (2001)でも触れられていますし、以下の書籍でも”myth”の1つとして取り上げられています。
Folse, K. S. (2004). Vocabulary myths: Applying second language research to classroom teaching. Michigan: Michigan University Press.
ご参考まで。
[返信]
こちらこそご無沙汰しています。お元気ですか。
質問6の答え、早速訂正しておきます。ありがとうございます。