2007年5月31日
(続)なぜ文法は重要なのか
続編をお届けします。今回は、コミュニケーションにとって文法がどう大事なのか、また、文法がいい加減だと本人の評価はもとより、悪くすると会社の評判まで落としてしまいかねないということを取りあげます。
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(2)コミュニケーションにとっての文法の重要性
名詞の頭についてそのニュアンスを変えるツールを指して限定詞と言いますが、複数の限定詞を並べるときは優先順が決まっています。ですから、「日本の三大化粧品会社の一つ」と言いたい場合、文法上は、one of Japan’s three largest cosmetics companies と言うべきであり、one of three Japan’s largest cosmetics companies という言い方をすると、「三つある日本の・・・」となり、意味をなさなくなります。コミュニケーションが妨げられてしまうのです。
このように決まっているルールを守らないと第一に相手に言おうとしていることがきちんと伝わりません。
また、If we bought 300 units, would you give us a discount? (300個買ったとして、値引きしてくださいますか)と言った場合と、If we buy 300 units, would you give us a discount? と言った場合とでは、相手の受け止め方が違ってきます。というのも、If節の中の動詞を過去形で使うということは、そのシナリオの実現可能性が低いことを物語りますから、相手には「300個買う可能性は五分五分だけれど、仮に買うとしたら」と聞こえます。これに対して、If we buy...という言い方は同じIf節を使っていても、相手にはもっと可能性の高い話に聞こえるものです。
ここからわかるとおり、第二に、文法をわかった上できちんと使わないと誤解の素ともなり、コミュニケーションがうまく行きません。
どれほどこれが企業にとり重大な問題かは、アメリカの大手優良企業が、自社の従業員中およそ1/3がまともなセンテンスを書けないことを深刻に受け止め、年々30億ドル規模をつぎ込んでその是正に取り組んでいる事実に表れています。社内メモであれ、対外的な連絡であれ、相手に言おうとしていることがきちんと伝わらなかったり、最初から誤解をまねく要因を含んでいるようでは話になりません。文法にのっとった、きちんとした英語を書けるというのは、英語でビジネスに携わる人の基本的なたしなみなのです。
(3)人の評価や勤務する会社の信用にも関わる文法の隠れた影響力
商社勤めの友人から聞いた話ですが、彼女のまわりの英語ぺらぺらとされている人の英語をよく聞いていると、すべてにtheをつけている人かいっさい冠詞を使わない剛の者が多数派を占めているのだそうです。いまさら冠詞の使い分けなど勉強するのも面倒だし、ひとまず通じるからそれでよしとしてしまうのでしょう。実際にも、話すときは、冠詞はほとんど聞こえない感じで話しますから、ますますこれでいいやという気持ちになってしまいます。
しかし、あるべきところに冠詞がなかったり、theを入れるべき場面で a を入れるのは「てにをは」のおかしい日本語と同じで妙にひっかかるものです。
特に the は that と同じですから、We are a manufacturer of X. でいいものを、We are the manufacturer of X. とすると、We are that manufacturer of X. つまり「あのXのメーカーなんだけど、知らないの?」とも聞こえることになり、状況によっては、何をエラソーなという印象を与えるおそれがあります。
また、自分たちの会社の社長を指して、He is a president of this company.という言い方をすると、文法上は、可算名詞につき不定冠詞を使うとカテゴリーを指すということになっていますから、相手には何人も社長がいるはずものないのにとすぐ間違っていることがわかってしまいます。
逆に社長秘書が何人もいるというのに、その一人を指して、She is the secretary of the president. と言ったりすると、「社長秘書がたった一人なのか」と思われてしまいます。さらに「あれっ、secretary to 誰々というのが普通なのに、変わった言い方をするな」と恥の上塗りをする結果になります。
みなさんが外国に行って通訳を頼んだ場合に、その人の「てにをは」がおかしかったら不安になることでしょう。また、非英語圏の人が頑張って英語でメールをくれるような場合でも、その英語がセンテンスの最初の文字を大文字にし、末尾にピリオドを打つ等の文法を無視していたら読みにくい上、不安をおぼえるはずです。
これでメールの最後に、通常、I look forward to hearing from you. が来るべきところで、i lok fowad to listening you などとあったら、ますます不安になります。取引をするのに躊躇することでしょうし、やりとりの相手についてもどういった教育を受けているんだと感じ、さらには、こういう人に仕事を任せている会社も問題と思うのが普通ではないでしょうか。
ということは、みなさんの英語が文法を無視した変なものだったら、向こうだって同じような不安を感じ、悪くすると会社の信用まで落とすことになりかねません。
一方、不思議なことに、われわれは相手が自分と教育程度が同じで、きちんとしていると安心できるもので、また、そうでない相手とのやりとりよりは好ましいと感じるのが一般です。互いに一定水準以上の英語でやりとりできるからこそ安心して取引する気になれるものです。その意味で、日頃から文法にまで気を配ってきちんとした英語をつかうようにすることは長期的ないい関係を保つ上でも不可欠の要請と言えます。
★ さいごに
文法、文法とばかり騒ぐとただのうるさい文法オタクに終わるおそれはあります。しかし、文法に目を配るよう心がけることは言葉に対する問題意識と観察力を高めることに通ずるわけで、最終的には言葉の持つ力を理解し、効果的に言葉を使えるようになるものです。日頃から問題意識を持っていると、言葉に対するセンスとでも言うべきものが培われるからだと考えられます。しかも、こうした言葉に対するセンスは、使われる言葉が日本語だろうと英語だろうと変わらないという点です。自分の日本語の使い方に神経をつかうような人は英語をはじめとする外国語においても、その注意深さが発揮され、報われ、逆もしかりと言えます。
このことをよく示しているのが、英文法の知識が正確で、きちんとした英語を話したり、書いたりすることのできる人は、たいていの場合、日本語もきちんとしており、話をしていても心地よいという事実です。逆に英文法を気にしない人は、日本語も「下手」です。社会生活上は格別不便がないかも知れませんが、言葉を通じて自分の言いたいことを的確に伝え、相手の言葉から気持ちまでも汲み取りながらそれに見合った言葉を返すというコミョニケーションを知らずに終わります。もったいないことです。他面、文法をはじめとする言葉の本質を理解しようと努める人は、こういったコミュニケーションに参加し、人間にだけ認められている privilege (特権)を享受できるのです。
簡単に言ってしまえば、教育を受けた、きちんとした人どうしのやりとりとしてのコミュニケーションの場で英語を使おうとする以上は、文法の理解を避けて通れないということです。こうした見地に立って、せめて要求される最低ラインがどのあたりかを確認しておこうという方のために要点だけをまとめたのが本書です。このラインをクリアしていれば、次のステップとして、単語力を増強しつつ、状況に見合った言い方、さらにはインフォーマル、フォーマルのつかいわけを習得する段階へと進むことになります。
以上
これでだいたい6,000字前後ですが、やはり長過ぎます。だいたいこんなに長い「はしがき」なんて見たことがありません。しかし、これが日の目を見ることなく終わることもありうるわけですから、長いだの短いだのと言ったところで始まりません。とりあえずは読者の方におもしろがってもらえれば十分です。
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Comments
私は英文和訳の際に、英文法の壁にぶつかりました。
技術文書を厳密に、正確に理解し、訳そうとすると、文法を理解していないと手も足も出ないのですね。これは法律や判例、特許明細書、契約書などでも同じだと思います。
[返信]
ありがとうございます。おっしゃるとおりで、英文和訳はもとより、和文英訳のときにも文法の知識は不可欠ですね。いいアドバイス、助かります。読み直して、どこかに盛り込んでおきたいと思います。
- 匿名
- 2007年6月 1日 01:39

私は、英文法は、単なる中学・高校でよく見られがちな読解のための詰め込み・暗記ではなく、理屈やニュアンスを知り、正確に英語を発信できるようになるために、コミュニケーション上必要不可欠な要素と捉えています。学校で教わる英文法は、実際のニュアンスやコンテクストを殆ど無視しているケースがかなり多いです。例えば、助動詞で、日本語の「~した方がいい」は、学校では、You had better go to the doctorのようにhad better+原型動詞と教わります。しかし、実際には「医者に行った方がいいよ」というような軽い意味ではなく、「医者に行かないと病状が悪化するぞ。だから、早く診てもらった方がいいぞ!」というように、相手に危機感を暗示させ、行動を促す機能を果たす場合が多いです。日本語の「~したほうがいいよ」というニュアンスは、shouldのほうがより近いと思います。さらにYou had better brace yourself for the worst.」(覚悟しとけよ)やYou had better run while I get going. (足元が明るいうちに出て行け)のように脅しや命令にもきくので、非常にスパイスのある言葉です。
[返信]
助動詞の使い分けはたしかに重要ですね。しかも取り上げられた例がうなずけるものばかりなので、うまく「はしがき」に取り込みたくなります。ありがとうございます。IF 節を引き合いに出してますが、ああいう微妙なのより、こちらの方がストレートですしね。
何であれ、海外留学者さんはコンスタントに読んでくださっているようで、うれしく思います。しかもこのブログの読者の中でも屈指の有識者という雰囲気ですし、ありがたいことです。