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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2007年7月10日

Jack of all trades はホメ言葉か?

きのう電車内の液晶パネルに映し出される英会話ワンポイント・レッスン的なものを何気なくながめていたら、登場したフレーズが Jack of all trades 。ああ、あれねとぼんやり見続けていると、大きく表示された訳が出てきます。「何でもできる人」という訳です。「みなさん、『何でもできる人』は、英語では、Jack of all trades って言うんですよ、おぼえましたか? 」という乗りだったわけですが、ここで「ええーっ、そんな馬鹿な」と驚きました。

なぜ驚いたかと言うと、自分が知っている Jack of all trades は、「何でもできる人」といった優秀さをうかがわせる言い回しではなく、ネガティブな意味合いで使われるものだからです。実際、 この言い回しを知っている人は、たいていは、 「ああ、Jack of all trades, master of none. の『上の句』か」、という感覚で受け止めますから、Jack of all trades というフレーズについては、「いろいろ出来るかも知れないけれど、どれ一つものの役に立つレベルではない」というふうに解釈するのではないでしょうか。

日本語で Jack of all trades に相当するものをあれこれ考えてみると、「器用貧乏人宝」「多芸は無芸」「知る者は博からず、博き者は知らず」といったものが頭に浮かびます。「何でも来いに名人なし」なんてのもありましたっけ。いずれにしろ、何でも小器用にこなすやつは大したことがないという点では通しているわけで、ほめ言葉ではありません。「何でも屋」という言い方で、卑下あるいは謙遜して自分の方から言うならともかく、人に言われたら気分が悪い、そういったたぐいの言い回しだとも言えます。

実際、イディオムの本での扱いもそうで、Jack of all trades を NTC's Thematic Dictionary of American Idioms で引くと、語義こそ someone who can do several different jobs instead of specializing in one とニュートラルですが、用例を見ると、John can do plumbing, carpentry...—a real jack-of-all-trades. He isn't good at any of them. / Take your car to a trained mechanic, not a jack-of-all-trades. というふうに、ネガティブな意味合いで使われていることがわかります。知る人ぞ知る「ミニ教養百科全書」である The New Dictionary of Cultural Literarcy の Idioms の章では、Jack of all trades, master of none という形で見出しを立てた上、Someone who is good at many things but excellent at none. と、ずばり核心をついています。

一方、辞書の扱いは、おもしろいことに区々で、けっこうニュートラルな語義しか載せておらず、例の「下の句」を知らなければ、ああそんなものかで終わってしまうような説明で終わっていたりします。そうかと思うと、Merriam Webster's Collegiate Dictionary のように、a person who can do passable work at various tasks(そこそこという程度でしかないが様々な仕事をこなせる人)という具合に、あまりいい意味合いではないことをはっきりさせているものもあります。

この点、学習者向けの英英辞典、つまり、Longman, Oxford、COBUILD の辞典は、いずれも「何でも出来る人」という語義に続けて、but who perhaps does not do them very well (Oxford) といったネガティブな意味合いを打ち出していますから、これがやはり主流を占める解釈なのかなと感じます。

なるほど、この言い回しには続きがあって、Jack of all trades, master of none, "though ofttimes better than master of one." が、いわば「フルバージョン」という見方もできますから、こうした見地からすれば「一つしか芸のない人よりは、よほどうまかったりするものだ」という後段を重視する限り、ポジティブな意味あいも引き出せるのかも知れません。しかし、後段を知っている人の方が少ないわけですから、やはり一般的にはネガティブな意味合いで通っているように感じられます。

ちなみに、逆に「多芸多才」という感じでほめて言う場合、例えば「いやあ、あの人は多才な方ですよ」と誰かが言ったのを訳すとすれば、He/She is a versatile person. というふうに、versatile を使うのが一番ニュートラルだと思います。この他の形容としては、a person of many abilities. あるいは a person of many skills あたりでしょうか。

トーマス・ジェファーソンやレオナルド・ダ・ヴィンチのような超人クラスとなれば polymath という言葉も使えるでしょうが、フォーマルすぎて、普通の会話の中では使う機会がありません。そもそもこの言葉は博覧強記的な知識の豊かさを協調する言葉なので、おのずと守備範囲も限定されます。

あと思いつくままに挙げておくと、スポーツ万能と言うのか、何でもござれタイプのアスリートは、all-round athlete ですし、運動も勉強もよくできる学生なら a well-rounded student という言い方があります。変わったところでは、工場での組み立てラインなどで一種類の作業しかこなせない「単能工」に対して、複数の作業をこなせる作業員は multi-skilled worker です。

こう書いてきて、以前に書いた、「情けは人のためならず」をめぐる誤用のたぐいは英語の世界にも、と同じような話かなと思えてきました。あるいは、そのうち Jack of all trades が「何でも出来る人」という、いい意味合いでまかり通る日が来るのかも知れません。老い先短い身ゆえ、今更どうでもいいことではありますが、自分の感覚からすると八百屋学問と学問をごっちゃにしているような話で、釈然としません。


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Comments

CMの撮影をした時、日本語の説明は全くなっかたので、すみません。また色んな意見をもってBERLITZのCM を見たい方、BERLITZの溝の口校にいらしてください。
CM の JOANNAでした

[返信]

ご本人の Joanna Muraishi さんでしょうか。そうとすれば、コメントを寄せていただき、光栄です。

日本語の説明がまったくなかったということであれば、英語と食い違いがあるのも当然なのでしょう。出演しただけの Joanna さんには責任がないわけで気の毒な話です。

たまにはこういう話題もいいですね。先生のビジネス英語ファンとしては、それに加えて、ブルドックのポイズンピルやベア・スターンズのサブプライム問題なども扱っていただけたらと思うのですが。

[返信]

ありがとうございます。ブルドッグ株を買っているスティールを「濫用的買収者」と断じた東京高裁の判断を取り上げてみようかなと思っています。

リンク先の女性講師の方のMessageですが、
今回の Jack of all trades と同じく日本語訳がおかしい
と思います。(特にBy educating の一文)
せっかく良い事をおっしゃているのに。

[返信]

なるほど、educate yourself and others がどうして「理解を深める」になるのがわかりません。他にも、U.S. のあとのwhere節にカンマがないとか、watch yourself grows というのがあったり・・・。車内広告で教師は全員、採用合格率が 4.5だか4.6パーセントという厳しい選考とトレーニングを経てどうのと宣伝していましたっけ。この学校。

favouriteさんといい、日向先生といいするどいですね!ジョアンナ先生は、ポーランド出身ですが、現在のお名前はJoanna Muraishiといい、名前からしてご主人は日本人だと思います。

http://www.berlitz.co.jp/train/profile.html


[返信]

ありがとうございます。こんな立派なプロフィールを用意してあるというのもすごいですね。

ちょうど私も昨日電車の中でこれを見かけました。「何でもできる人」と訳が出たところで降りなければならなかったので、続きの解説が気になっていたところです。この記事を読んですっきりしました。

上でkonitanblogさんにお返事なさっている日向さんとは反対に、私はあのジョアンナ先生(?)が見た目とっても白人なのに、facial expressionとかbody languageを通して送られるシグナルがとても日本人的なのがいつも気になってます。もちろんそれが悪いとかではなく、外見とのギャップに違和感を覚えてしまうのです。声が聞こえないから、よけいに際立って見えてしまうんでしょうね。

[返信]

ああいう電車内の媒体ってすごいものですね。favouriteさんまでご覧になっているとは。くだんのジョアンナさん、気になります。ましてや「外見とのギャップ」などとおっしゃるので、いよいよどんな人だっけと気になります。Anglophile の方から見て違和感をおぼえるようなしぐさが自然に出るということは、この方は結婚してらっしゃって、ご主人が日本人なのではないでしょうか。別にだからどうだということは何もないのですが。

危ないところでした。お陰で助かりました。
ただ、例文がWho fixed the sink tap? I did. I’m a jack-of-all-trades. なので、謙遜しているのかもしれませんね。いずれにしても、日本語解説はいずれにしても間違っているということですね。
ジョアンナ先生は日本語解説まではチェックしてないのでしょうか。

[返信]

個人的には間違いだと思いますが、客観的には、ポジティブな意味あいで捉えている人があるいは多数派になっているのかも知れません。ジョアンナ先生というのはあの画面に登場している女性のことでしょうか。あっけに取られてしまい、文字以外記憶に残っていません。

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