2007年7月17日
濫用的買収者という汚名を着せられて
ブルドッグソースに株式公開買い付け (tender offer) をしかけていた投資ファンドのスティールパートナーズ(以下、「スティール」)がブルドッグソースに買収防御策を打ち出されてしまい、しかもそれを裁判所が支持したのがニュースになっています。
印象的だったのが、裁判所がスティールを「濫用的買収者」と断じたことです(新聞は制限があるのか「乱用」という表記です)。スティールは、ブルドッグの返り討ちにあった上、濫用的買収者という汚名まで着せられた格好で、まさに踏んだり蹴ったりです。
この問題は、目に涙を浮かべてのブルドッグ社の女性社長の記者会見もあって、ことは強引な米系ファンドと会社擁護に回った多数の善良な株主という構図で捉えられている感じがあります。しかし、これはメディアによる演出がきいている結果だというのが私の見方です。
涙目の社長やら、いかにも善良そうな株主たちの映像を流す一方で、スティール側については、これが「資本の論理」だと言わんばかりの「裁判所がこのような判断をするようでは外国からの投資を呼び込もうとしている日本の投資環境にとりマイナスだ」という趣旨のコメントを流し、判官びいきをあおっているからです。
そこで、この「濫用的買収者」はいったい英語で何と言うのかを一緒に見てから、今いちど、この問題の底流にある「モノを言う株主」たちの問題意識をふりかえっておこうと思います。
10年前までは外国人投資家による上場企業全体の持ち株比率は5%も行ってなかったのに、今では、30%に近づこうとしているわけですから、日本企業の株式を大量に取得しては、経営陣に対して貯め込んでいるキャッシュを株主に配当などで還元せよと迫るスティール流のやり方は、これからますます前面に出てくることでしょう。力づくで決めようとする外国人株主対ひ弱な日本企業を一致結束して守ろうとするけなげな日本人株主たちという図式的な見方では、ことの本質を見落とす危険があります。
★ 東京高裁が言う「濫用的買収者」
さて、「濫用的買収者」の話ですが、The Wall Street Journal や AP, AFP, Reuters などの外国通信社は、"abusive acquirer" と訳していました。日本語から受ける語感と同じで、acquire すること自体は権利の行使かも知れないけれど、行使にもおのずと妥当な範囲というものがあり、それを逸脱すると "abuse" していると認定され、その種の権利行使に対しては法的な保護など認めてやれないということです。
裁判所に持ち込まれた争点は、ブルドックソースがスティール対策として打ち出した買収防衛策の是非です。それが発動されると、スティールの持ち株比が10%から3%未満に薄まってしまう (dilute される) ような、新株予約権 (equity warrant) を既存株主に一律に付与するという防衛策で、いわゆるポイズン・ピル(毒薬)です。ミソは、既存株主である以上、スティールにも新株予約権は付与されるものの、悪玉スティールだけはその行使が認められず、その代わりに23億円のつかみ金をくれてやるという点にあります。これをスティール側としては承服できないとして、この防衛策の発動を差し止めるべく提訴したものの、東京地裁で敗訴したので、今度は高裁に上訴したわけです。
その東京高裁、スティールによるこれまでの株式公開買い付けの例を調べた上(スティールはこれまで日本企業30社前後に投資し、株主となっています)、「さまざまな策を弄して専ら短中期的に対象会社の株式を転売し、ひたすら自らの利益のみを追求しようとしている」ことを理由に「濫用的買収者」だとばっさり切り捨ててしまいました。結論として、スティールがしかけている買収自体が不当だ、つまり法的に買収を阻止する正当な理由があるとした上で、ブルドッグの防衛策自体も相当性があるとしました。
スティールは、ブルドッグの防衛策は、株主はすべて平等に扱わねばならないとする原則に反するではないかと主張していたわけですが、裁判所は、すべての株主は持ち株数に応じて平等に扱うべしという原則はそのとおりだが、合理的理由があるなら、個別株主につき差別的取扱いがあってもこの原則に触れないとし、この件では、スティールは会社経営に参加する気などないまま、買った株の価格が上昇するよう画策し、高値で売り抜けようとしているだけの濫用的買収者なんだから差別されて当然だという論法で臨んでいます。
しかし、スティールのファンドに出資している投資家からすれば、この裁判所の判断は、でたらめなものと映っていることでしょう。かねてから自分たちは長期投資を旨としていると強調しているのに、裁判所はこのファンドのこれまでの投資行動を分析した上、そうではないと判断したわけですが、ファンドの運用成績を上げて、自分たちの手数料収入と出資者に約束したリターンを確保しようと創意工夫をすれば「さまざまな策を弄して」とやられ、同様に新たな、そして、より有利な運用先を見つけたので、その買収資金を捻出するために持ち株を売却すれば、「専ら短中期的に対象会社の株式を転売」すると怒られるのですから、たまりません。ましてや「ひたすら自らの利益のみを追求しようとしている」などと言われたら、「自分たちは慈善事業じゃないんだから当たり前だろが」と憤慨していることでしょう。
スティール側が仮に資産を効率的に活用していないブルドッグを長期的視点から再建し、株価の上昇や、より高い配当金等の形で他の株主ともどもその成果を享受しようとしていたのだとすると、もっとかわいそうです。本当なら株主としての発言を通じて経営の改善、そして事業価値の上昇(つまりは株価の上昇)を通じて、100億、200億のリターンを確保できたかも知れないのに、持ち株比の低下したがって経営に関与できる度合いの低下は我慢しろ、そのかわり手切れ金代わりに23億円持って行けというのですから。(付与された新株予約権の行使ができない見返りとしてスティールに23億円交付される約束になっています)
そもそも株主の権利の内容が経営に関与する権利と利益分配を求める権利から成っていることを思えば、金をもらえばいいというものでもありません。
★ モノ言う株主としてのスティール
スティールは、「はげたかファンド」という見方がされているようです。つまり、経営状態の悪い企業の経営権を取得し、再建を果たした後,再上場などで短期間で売却益を得る目的のファンドということです。今の新生銀行を10億円で買って2,300億円もうけたリップルウッドがいい例です。しかし、Wall Street Journal などを見ていると、スティールは activist fund / activist shareholder に区分されているようです。いわゆるモノを言う株主として経営者に圧力をかけて、配当金アップ、自社株買い、遊休資産の売却などで事業価値を高めることで投下した資金のリターンを上げようとするタイプのファンドで、必ずしも短期売買型ではありません。
例えば、2002年にスティールが取得し、親分のリヒテンシュタイン自らが経営者として乗り込んだ国防関連の上場企業ユナイテッド・インダストリアルなどは、今でも投資先で、運用成績もたしか初期投資に対して500だか600%上がっているはずです。お隣の韓国では、先頃、往年の大相場師と組んで、韓国最大のタバコ会社の経営者にもなっています。
リヒテンシュタインと言えば、かなりアクが強く、よせばいいのに、We need to educate the management of the Japanese companies that we invest in, as well as our fellow shareholders. (投資先の日本企業の株主もそうだが、経営陣を教育する必要がある)などと記者会見でやっています。こんなことを言うから経営側も神経をとがらせるはずです。本人としては投資家サイドのメンタリティーをわかってもらう必要があるという程度のことを言いたかったのでしょうが、これじゃ植民地に乗り込んできた宣教師と同じです。警戒され、嫌われるに決まっています。こういう会社は、高い金を払ってPRのコンサルタントを雇っているはずですが、まるで意味がなかったことになります。
それはともかく、モノを言う株主型のファンドがなぜ日本企業に目をつけるかですが、米企業などと比べてキャッシュを貯め込んでおり、そこを狙われるからです。2007年6月19日付のオンライン版 The Wall Street Journal (WSJ) に掲載された Wake Up Corporate Japan! という記事では、アメリカの場合、上場企業が保有している現金および(すぐ現金化できる)短期有価証券の保有残高はGDP比で言えば10%ぐらいなのに、日本の上場企業だとそれがおよそ16%前後にもなっているとしています。
普通の投資家の感覚からすれば、そんな余分なキャッシュがあるなら積極的に事業投資にまわすか、株主に配当などで還元せよという要求するのは当然の理屈です。事実、2007年7月13日付のWSJ は、投資家たちにしてみれば、キャッシュの山の上であぐらをかいていたりするから、100の出資に対していくらの見返りがあるかを示す ROE (= return on equity) がイギリス企業が 20%弱、アメリカ企業が15%弱なのに、日本企業は9%に満たないのだという見方をしていると報じています。
問題は、アメリカの投資家の感覚としては一般に会社が持っているキャッシュは株主のものであると捉えているのに、日本人経側の多くはそうは思っていないことです。13日付のWSJでは、今年は、activist shareholders たちが中心になって増配を求める株主提案が昨年の倍というレベルの30本前後総会に提出されたが、いずれも否決されたと報じていますが、このあたりの感覚の差をよく伝えているのではないでしょうか。
★ まとめ
わが国では、乱暴な外国人投資家が会社をかきまわし、かえって企業価値を損ねるような行動に出ているのに対して、良識ある株主たちが結束して圧倒的多数で買収防衛策を株主総会で認めているという構図が描かれているようです。東京高裁がスティールを「濫用的買収者」と断じたのもこういった背景があったからだというのは想像に難くありません。しかし、見ようによっては、企業に経済合理性の追求を働きかけることで、自分たちが投下した資金の運用効率つまりリターンを少しでも引き上げ、もって出資者への責任を果たそうとしているファンドの行動パターンが日本人投資家の行動パターンとは違うというだけで「濫用的」とされている側面もあるわけで、今後、専門家たちがこうしたむずかしい問題をどう考えてくれるのかが見ものです。
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先生、こんにちは。
久しぶりのコメントですが、毎日楽しく、時には単語検定で頭を抱えながら読んでいます。
個人的にもブルドック買収攻防に関する記事は、日経とThe Japan Timesを中心に追いかけています。先週の朝日新聞には確かに「乱用的」となっており、日経には「濫用的」となっているので「何故?」と、素朴な疑問を持ちました。
さて、現段階ではスティール側が最高裁に判断を仰ぐために特別抗告と許可抗告とを行ったという段階なので、今後どんな展開になるのか予断を許しませんね。
こんな疑問を持っています。スティールが手に入れた23億円を元手に、新たにブルドックの株式を買えば、議決権比率は下がらず、10%超えを確保できます。あらためてスティールがTOBを仕掛けてきたときに同じような対応策を取ることが出来るのでしょうか。今回の買収防衛策の導入により今期の赤字は「致し方ない」と是認した株主たちですが、更なる防衛対策費が必要となった場合に、今回と同様に経営側の議案を支持することになるのでしょうか。
1株に3個の新株予約権を割り当てるというのも、株式の分割と同じことで限度があると思います。限りなく株式が希薄化することを株主が受け入れるとは思えません。
最初新聞で今回の防衛策の「しくみ」を読んだときに、「世の中には頭のいい人がいるのだな」なんて感心しておりましたが、完璧には程遠いようです。どうも「その場しのぎの対策」にしかならないようです。
取り留めのないコメントで申し訳ございません。
[返信]
おひさしぶりです。コメントありがとうございます。今、気づきましたが、商品には Bull dog と書いてあり、会社のURLも www.bulldog.co.jp なのに、社名はブルドッ「ク」なんですね。不思議です。
- kimura88
- 2007年7月17日 15:43

今回の判決について、あるファンドマネジャーが、"It gives the impression that any kind of independent fund is a greenmailer."とコメントしているようです。http://www.bloomberg.co.uk/apps/news?pid=20601080&sid=aNGOe6qgIRPc&refer=asia
確かにそんな気もする判決でした。
[返信]
コメントありがとうございます。法律家には緻密な理屈と映るのでしょうが、それ以前のレベルで、何かおかしいと感じるのが普通の人の感覚ではないでしょうか。