2007年8月18日
(続)先端金融商品の命名に見る怪しさ、危うさ
CDOの説明を中心にした続編です。
★ CDO = Collateralized Debt Obligations
Collateralized とありますから、何か別の証券からのキャッシュフローがCDO自体の配当そして満期時の償還の原資となっていることがわかります。そして 原資の「出どころ」を示しているが debt obligations つまりは債券です(obligation で債務、debt がつくことで金銭債務となります)。実は、専ら債券、特にジャンク債と呼ばれるハイリスクハイリターン型の債券をかき集めて作る CBO = collateralized bond obligations というものもあるのですが、それとの違いは、CDO の方は、債券に加えて、資産担保証券 (ABS = asset backed securities) など、純然たる債券も組み込まれる点です。資産担保証券というのは、クレジットカードローンや自動車ローンをかき集めて、そこからのキャッシュフローを配当/償還原資にするタイプの証券で、これも危ない証券です。
のみならず、CDOはダボハゼよろしく、何でも取り込みますので、今問題になっているサブプライムローン、さらには別の CDO までも組み込んだりしています。ちなみに、こういうCDOのCDOは、CDO squared (CDOの二乗)と呼ばれています。
ついでにもう一つ加えると、債券ではなくローンを対象にしているものは、collateralized loan obligations (CLO) と呼ばれています。ここでのローンはやや信用度 (credit standing) の落ちる企業を対象とする銀行融資のことですが、優先弁済権のあるローンであるのが普通であり、したがって万一債務者が破綻しても、株主や債券保有者に先んじて弁済を受けられる点が売りです。(なおこの種の債権は leveraged bank loans とも呼ばれますが、普通の用法とことなり、投資効率を増幅させるから leveraged なのではなく、優先弁済権があり、「強い」という意味で leveraged が使われています)
本題に戻って、CDO は、仕組みとしては上の CMO にそっくりです。つまり、担保となっている資産からのキャッシュフローが見込みと違ってしまうリスクを再配分するための「仕掛け」である点、まるで同じです。ですから、投資家のリスク選好度に応じて上で説明した「松竹梅」の別に分けてあるトランシュが販売される点も同じです。違うのは、配当原資(そして償還原資)となる資産の種類と再配分されるリスクの種類、この二点です。すなわち第一に、担保権が設定され、そこからのキャッシュフローが配当原資となる資産が、CMOの場合、MBSであるのに対して、CDO の場合は上で触れたとおり幅広く、MBSやCMO に加えて、ABS や 他のCDO、あるいは普通の社債という具合に多種多様です。第二に、投資家のリスク選好度に応じて再配分されるリスクが CMO では期限前返済リスク (prepayment risk) なのに、CDO では、貸倒リスク (credit risk) です。
何であれ、CDOは、既に一度証券化を経ている資産につき、それをリパッケージして新たな証券化商品として構成したものであり、非常にわかりにくく、したがって、価値を見定めるのがむずかしい上、何と言っても、もともとハイリスクの証券化商品を組み込んでいるわけですから、ますますハイリスクです。
CDOは、既存の証券化商品を何十本も組み込んだ上、そのキャッシュフローを組み替えることで、トランシュと言う名前の証券に小分けして売るわけですが、一番危ない「梅」クラスのハイリスク・ハイリターン型のトランシュだと年 15-20パーセントといった高リターンを期待できるので、このところの低金利環境で運用難に陥っている年金基金などが一斉に飛びついたと言います。特に2000年3月のハイテクバブル崩壊でやけどを負った連中には渡りに舟と映ったようです。しかし、危ないものであることに変わりはなく、批判的な立場の人は、危ない「梅」クラスのトランシュ(英語では equity tranche)を指して、toxic waste つまり毒性廃棄物と呼んでいるぐらいです。
ところで、CDOという商品は急に現れたものではなく、だいぶ前からあります。自分自身、まだ証券翻訳に携わっていた当時(2002年頃でしょうか)、何本か目論見書(発行条件、販売条件が書いてある資料)を訳したおぼえがあるがぐらいです。それが、2003年から2006年にかけて発行額が3倍になりました。6月23日付のウォールストリート・ジャーナルは、投資銀行が昨年手がけた CDOの発行額は5,000億ドルとしていますが、ヘッジファンドなどが仕込んだCDOを担保に提供して新たな投資資金を借りるので、そうやってふくらんだ資金の額として考えると、1.5兆ドルぐらいがCDOがらみとも言われています。世界のデリバティブ市場全体の規模が12兆ドルと言われていますから、すごい数字です。(ちなみに世界の株式市場の規模は50兆ドル前後と言われています。)
この商品の危うさは別に金融の専門家でなくても、常識的にわかります。第一に、上で見たように、単体として見た場合でも、評価のむずかしい CMO, ABS といった証券化商品 (structured products) が数多く組み込まれているますから、それを総合した全体としての価値評価はもっとむずかしいに決まっています。
これはCDOと同じように既存の金融商品を組み合わせて作るミューチュアルファンド(投資信託)と比べると容易にわかります。ファンドの場合、組み入れられる株式は市場で取引されており、容易に公正な市場価値(株価)がわかるものです。したがって、運用資産全体としての価値つまりはファンドの純資産価値も簡単に計算できます。これに対して、CDO に組み入れられる証券化商品の場合は、マーケットがないか、あっても取引高が限られており、適正な市場価値がぱっとわかるものではありません。そこで売る方は独自の分析モデルを使って、きわめて
主観的ないし恣意的な価格をはじき出し、それをもとに売買が行われているありさまです。時価評価すなわち資産価値の評価を市場価格に連動させることを mark to market と形容しますが、CDO の世界はいわば mark to model でしかなく、その妥当性自体疑問だらけです。ところが、マーケットが上向いているときは、ともかく買い手はいますから、こういう根本的な大問題に直面せずに済んでしまうのです。
第二に、格付け会社の格付けがあるから大丈夫だとされますが、これも疑問です。実際、日本の大手銀行は、自分たちはサブプライム絡みの金融商品を持っているけれど、格付け会社のお墨付きを得ている安全な商品であり、損失も限定的だという発表をしています。なるほど格付け会社が機関投資家も手を出せる「投資適格」(トリプルB)以上の格付けを「安全な」トランシュに付与するものですから、同じ BBB なら普通の債券よりは CDOの方がリターンがいいということで年金基金などもかなり CDO を買っているようです。
しかし、格付け会社は別段、CDOをいくつも破綻させるといった実験を繰り返して BBBといった格付けを付与しているわけではなく、主として確率で判断しているわけですから、そんなもの当てになるものではありません。なるほどシングルAクラスの債券(社債)ばかりを集めたCDOの場合、一番安全な 「松」クラスに必ず配当原資の8割が行くように仕組んだとすれば、組み入れ債券の2割が駄目になっても耐えられる仕組みだとひとまず言えます。そこで経験則からシングルAクラスの全債券の2割が債務不履行に陥るといった事態は確率として低いという理屈で、この程度なら安心だ、じゃあ、トリプルBぐらいあげるかとなります。格付けを振り回す向きは、あたかも格付け会社が品質を保証しているかのような言い方もしますが、そういった話ではないのです。
事実、7月19日付けのウォールストリート・ジャーナルが報じているところでは、CDOでの運用に失敗し、破綻したファンドの親会社に当たるベアスターンズは、投資家向けの事情説明の中で、巨額の損失を招いた一因が 「ダブルA、トリプルAといった高い格付けの債券のいくつかにつきこれまで例のない規模で評価額が低下した」(unprecedented declines in the valuations of a number of highly-rated [double-A and triple-A] securities) ためであることを認めています。格付け会社が一定の評価を与えているからといって、評価額が一定水準を保つ保証にはならないことが如実に示されたと言えます。加えて、その格付け自体、いつ格付け会社によって引き下げられるかわかったものではありません。
★ 砂上楼閣上の砂上楼閣
こうやって見てくると、MBS, CMO, CDOといった金融商品がいかに危なっかしいものであるかがよくわかります。このことは商品の仕組みを考えれば当然です。ミネソタ州在住のXさんに対する5万ドルの融資を考えた場合、この貸付債権だけを単体として売り買いするなら、Xさんの満期返済までの期間や信用履歴などを加味していくらいくらなら売ります、買います、という数字をはじき出せます。適正と言うのか、ちゃんと相場を反映した数字になるのが普通です。しかし、MBSにすべくこの種の貸付債権を大量に集めてプール化する段階で、個別債権の価値評価ではなく、統計技術がものを言うプールとしての価値評価の問題になります。さらにこうしたMBSに加えて、より評価のむずかしいサブプライムローンなどを組み込んだ CDO ともなると、Xさんへの貸付債権から何層もの隔たりがあるわけで、配当原資を提供してくれる金融商品の評価はますます浮世離れしてきます。もっともらしい名前をしていても、用は砂上楼閣の上にまた砂上楼閣を組み付けてあるような話でしかないというのが私の理解です。
金融関係の人々は、売りたいのに買ってくれる人がいない状態のことを流動性 (liquidity) が低いと形容しますが、略語だらけの危ない金融商品に共通しているのは、(市場ではなく、個別取引で売買される)店頭デリバティブに共通する問題ですが、その商品が活発に売買される市場がないか、あってもあまり取引が活発ではなく、流動性が限られていることです。そして、なぜ買い手がつきにくいかと言えば、100でオファーされているものが本当に100前後の価値があり、自分がそれを売る方に回ったときに、100前後で売れる保証が何もないからです。つまり、分析モデルを使って、これいくらです、とされていたものが修羅場になると、ゼロになるということです。
そのいい例が今年の6月に破綻した、米大手証券ベアスターンズが運用していたヘッジファンドです。サブプライムローンを仕込んでは CDO を組成して、投資家に売っていたわけですが、当初、富裕層を中心に6億ドルの資金でスタートしたものが、一時は200億ドルの運用資産を誇るところまで行っていました。しかもいくつもの大手銀行がトータルで90億ドルにもなる融資枠に合意していたと言いますから、プロが見ても将来有望だったのです。しかし、200億ドルと言っても、200億ドル相当の株式とか金というのでなく、たいした根拠もないABSやらCDOだったわけで、パフォーマンスの悪さを見た投資家による取り付け騒ぎが起きるや、その資産価値の無内容さ加減が白日の下にさらされる結果となりました。発足後1年も経たないうちにです。それが記事の冒頭で取り上げた、High-Grade Structured Credit Strategies Fund と High-Grade Structured Credit Strategies Enhanced Leverage Fund の正体です。
今回のサブプライム問題の引き金を引いたBNP(フランスの大手銀行)のファンドでも同じことでした。8月15日付のウォールストリート・ジャーナル紙は、住宅ローンを担保にしているアメリカの債券をBNPが6,000万ドルほど売却しようとしたところ、ブローカーの中には電話に出てくれなかったところが何社もあったと報じています。こうなったら、長期的には6,000万ドルの価値がある債券と言えども、事実上、無価値です。そうこうしているうちに、市場自体が恒久的になくなってしまえば、本物の紙くずです。
みみっちい金のやりとりでなく、大手金融機関が関わるような規模の大きい金融取引の世界を英語では "high finance" と称しますが、その意味では、RMBS、CDOなどは間違いなく high finance の世界です。しかし、言葉の響きとは裏腹に、買い手がいないといった単純な事実で一気に瓦解する危ない世界でもあります。
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Comments
今回の暴落で肝を冷やした1人ですがどうやら複雑すぎるもの、自分の理解の範疇を超えたものはたとえ有名な大手の商品でも避けるようにしないとろくなことにはならなそうですね。正直ここまで売ってしまえば勝ち、というような商売をしているとは思いませんでした。ハンドルネームは”ぼらてぃりてぃ”ですが私に理解できるデリバティブはせいぜいバニラオプションまででオーダーメイドのエキゾチックオプションの類になってくるともういけません。今回書いてくださった内容も大変丁寧ながら、なかなか高度で残念ながら未だ全て理解できたとは言い難いのですが、バフェットの言う「わからないものには投資しない」という決意は新たにしました。とても勉強になります。ありがとうございました。
[返信]
バフェットさんの言う通りで、わからないものに予測可能性などありませんものね。加えてエキゾチッックオプションのようなものは大体が流動性がないか、乏しいに決まっていますから、やめたくてもやめられない、こわい商品だと思います。
- ぼらてぃりてぃ
- 2007年8月19日 09:49

「わからないものには投資しない」とは言えても、「わからない仕事は請けない」とは言えないのが派遣翻訳者のつらいところで、仕組み商品にはいつも泣かされています。先生のブログはそんな自分の心強い見方です。
[返信]
たしかにプロとなると断れないし、それでいて勉強の時間がなかなか取れないし、大変だと思います。ただ仕組み商品の場合は、英文の方がわかりやすく書かれたものが多いのではないでしょうか。特にネット上探せば、証券会社や銀行などが見込み客向けにやさしく説明している資料がたくさん出てきます。あとNY連銀を筆頭に各地域のFRBが実にいいレポートを出していますので、サイトに行き、検索する価値があります。